河川水位予測は通常、降水量などから予測しますが、河口付近では海の潮の満ち引きの影響を大きくうけます。
このように河川水位が潮の満ち引きの影響をうける河川を感潮河川(かんちょうかせん)といいます。
ここでは、感潮河川とその水位の影響因子や予測手法について簡単にまとめます。
感潮河川とは
河川が海に注ぐ河口付近では、海の潮の満ち引きに応じて河川水位が変化します(感潮区間、かんちょうくかん)。
この感潮区間は、勾配がゆるやかな河川では非常に長距離におよび、揚子江(中国)では、河口から約1,000 km上流の漢口まで潮汐の影響があります。
このように潮汐の影響で河口付近の河川水位が変動する河川を感潮河川といいます。
日本の河川は距離が短く傾斜が急なので、大陸の大河川と比較して感潮区間は短いです。
それでも、河口付近に平野が広がる場合は一定の感潮区間が存在します。
たとえば広島の太田川(河口に広島市街)の感潮区間は河口から12 kmにおよびます。
これは、瀬戸内海特有の大きな干潮差(最大差4 m)の影響をうけるためです。
他にも、北海道の石狩川では、河口付近の感潮区間に茨戸川(ばらとがわ)とよばれる川のように細長い三日月湖が存在し、両端は水門を通して石狩川本流と結ばれています。
茨戸川両端の水門は、河川水位に応じて洪水や逆流を防ぐために適切なタイミングで開閉する必要があります。
このため、河川水位を予測する必要性がありますが、茨戸川は感潮区間に存在するため潮の満ち引きの影響を大きくうけるため、潮位を考慮する必要があります。
河川水位は通常降水量などから予測しますが、以上のように河口付近の感潮区間においては潮位の影響も合わせて考慮する必要があります。
感潮区間の水位予測
感潮区間の水位を予測する際には、それ以外の非感潮区間には無い潮の満ち引きの影響を考慮する必要があります。
感潮区間では、河川流量が一定であっても潮位、気圧、風向、風速の条件によって河川水位が変動します。
このため、非感潮区間のように、流量モデルを使用して河川水量を算出しても、H-Q曲線を使用して河川水位を求めることができません。
河川流量が少ない場合を中心に、流量以外の因子の影響で誤差が大きくなってしまいます。
そこで、河川流量を介さずに水位を予測するNearest-Neighbor法(k近傍法)やニューラルネットワークが使われています。
この手法自体は、非感潮区間で雨量から直接河川水位を予測する場合と同じ手法です。
非感潮区間との違いは、河川水位に潮位が大きな影響をあたえる点です。
河川流量に大きな変化がない場合は、河口付近の水位の変動は潮位の変動とほぼ同じになります。
非感潮区間の河川水位の予測については、次のページで紹介しています。
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参考文献
感潮河川とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2022/12/24閲覧
太田川水系河川整備基本方針(平成19年3月) 第9回太田川河川整備懇談会 参考資料5 国土交通省 中国地方整備局 2022/12/24閲覧
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高崎忠勝 他「14. 中小河川感潮域の水位推定」平23.都土木技術支援・人材育成センター年報 147-152 (2011)