陸地に近い海域で営まれる沿岸漁業は、日本の漁師の8-9割が従事する代表的な漁業です。
このページでは、沿岸漁業について、代表的な漁法(定置網漁、採貝・採藻、地引き網漁)や取り巻く環境(高齢化や資源減少)について解説します。
沿岸漁業とは

沿岸漁業は海面漁業の一種であり、その名の通り陸地に近い沿岸部(陸地から12海里(22km)の範囲で設定された領海内)で行われる漁業です。
沿岸漁業は港から近い場所で行うため主に日帰りであり、家族単位で営まれる小規模な漁業形態が主流です。
漁船も10t未満の小型船であり、コンブ(昆布)の採捕(採取)など船を使用しない形態もあります。
漁獲対象は少量多品種であり、定置網漁が代表的な漁法です。
ただし、地域により海流や地形などの条件が異なるため、地域ごとに様々な魚種が獲られており、漁獲対象に合わせて様々な漁法が行われています(採貝・採藻、定置網漁、地引き網漁など)。
獲りすぎを防ぐため、地域ごとの漁業協同組合(漁協)単位で資源の自主管理が行われます。
沿岸で行われる漁業形態として、人間が魚介類を育てる養殖業があります。
沿岸漁業の中には、天然に育った魚介類を漁獲する「捕る漁業」に加えて、魚介類を「育てる漁業」である養殖業が含まれますが、統計データ上では両者は区別されることが多いです(捕る漁業を沿岸漁業、養殖業は独立して集計)。
様々な漁法
ここでは、沿岸漁業で見られる代表的な漁法(定置網漁、採貝・採藻、地引き網漁)について順に紹介します。
沿岸部では人が素手や簡単な道具で貝類や海藻類を収穫するほか、定置網漁のように複数の魚をまとめて獲る漁法が見られます。
定置網漁

定置網漁は、魚の通り道に虫かごのように網を張っておき、魚が自ら網の中に入って出られなくなった所を漁獲する漁法です。
魚は回遊中に障害物にぶつかると、より水深が深い沖のほうに向かって進行方向を変える習性があり、定置網はこれを利用して回遊魚が一番奥側の部屋へ向かうように設計されています。
定置網は常に海中に設置しておき、毎朝、一番奥の箱網を引き揚げて魚を捕まえます。
定置網漁は沿岸漁業の代表的な漁法であり、全国の沿岸漁業の漁獲量の約4割を占めます。
網に入った魚をまるごと獲ってしまう漁法なので、魚の種類は選べず、資源管理が難しい漁法です。
一方で、自分から網に入った魚だけを獲る漁法なので、特定の魚種を極端に獲り過ぎてしまう可能性も低い漁法です。
定置網漁ではあえて網の目を粗く(大きく)して、漁獲対象ではない魚や成長していない小さな魚を逃がすような工夫がされています。
船を使う他の漁法では、沖合へ出たり魚を追いかけるため燃料費の負担が重いのに対し、定置網漁では魚が入るのを待つ形の漁法なので、燃料費の負担が小さいという特徴があります。
採貝・採藻

陸地に近い場所で貝や海藻を獲る採貝・採藻漁業(採介藻漁業)は、海に潜ったり、船の上から人の手によって貝類や海藻類をとる漁業形態です。
干潟や海岸線に近い浅瀬で手づかみや簡単な道具を利用して貝類や海藻類を採捕(採取)します。
主な漁獲対象は、アワビ、サザエなどの貝類、ワカメ、コンブ(昆布)などの海藻類、ウニ、ナマコなどです。

採貝・採藻漁業(採介藻漁業)は世界中で古くから行われている漁業形態です。
日本では、素潜りでアワビやウニなどをとる女性である海女(男性の場合は海士)が歴史的に各地に存在し、特に志摩(三重県南東部)の海女が有名です。
他には、船の上からモリなどの道具を使って海底や岩場に隠れた貝類やナマコ、コンブ(昆布)、ワカメなどをとるスタイルもあります。
いずれの形態も海岸線に非常に近い場所で行われます。
天然の貝類や海藻類が採捕(採取)される例としては、アサリ(愛知県や北海道道東地方)、コンブ(昆布、北海道)、ホタテ(北海道オホーツク海沿岸の栽培漁業)、寒天原料のテングサ(愛媛、静岡県伊豆半島、東京都伊豆諸島)などがあります。
貝類や海藻類は養殖される場合も多く、沿岸部や海水が入り交じる汽水湖で行われます。
採貝・採藻は資源保護のために認められた漁業関係者にのみ採捕(採取)が許され、無許可で貝や海藻を獲ることは密漁になります。
場所によっては、一般人でも気軽に持ち帰れる場所にコンブ(昆布)が打ち上げられていたり、釣り人が自家消費目的でタコなどを釣ることもありますが、場所と種類によっては漁業権(その水域の漁業を独占する権利)の侵害となり、密漁として罰せられます。

地引き網漁

地引き網漁(地曳網漁)は、海岸(陸地)から100m規模の巨大な網の両端を引っ張り、海中の魚を陸へ引き揚げて獲る伝統的な漁法です。
古くは大人数が集まり人力で行われてきましたが、近年は揚網ウィンチとよばれる機械で網を引っ張ります。
海岸線の魚をまるごと獲るため、季節ごとに多種多様な魚が漁獲されます。
江戸時代には九十九里浜(千葉県東部)や天草(熊本県南西部)でイワシを獲るために地引き網漁が行われました。
地引き網漁が成立するには、海岸線近くまで回遊魚が来ることが重要です。
回遊魚は広範囲を規則的に動き回る魚であり、エサや産卵のために海岸近くまでやってきた魚を地引き網で引き揚げます。
近年では工場排水や生活排水による海洋汚染、乱獲や気候変動による回遊魚の減少などの影響により、地引き網漁はほとんど行われておらず、沖合に出て船で網を引っ張る漁法(沖合漁業の一種)に移行しています。
現在では、地引き網漁を体験できる観光地引き網漁が各地で行われており、三浦海岸や湘南海岸(神奈川県南部)、岡田浦(大阪府南部・泉南市)などで体験できます。
沿岸漁業の課題
日本の沿岸漁業の漁獲量は長期的に減少傾向であり、原因として沿岸部の開発による海洋環境の変化やサケ(鮭)・マス(鱒)が河川に戻って来る割合が減ったことなどが挙げられます。
加えて、日本の漁師の8-9割が受持している沿岸漁業では、漁師の高齢化が進み、後継者不足に悩まされています。
以下では、このような沿岸漁業を取り巻く課題について順に解説します。
海洋環境の変化と資源減少

沿岸漁業の漁獲量は、海洋環境の変化の影響を大きく受けます。
日本の沿岸漁業の漁獲量は長期的に減少傾向であり、原因として沿岸部の開発による海洋環境の変化やサケ(鮭)・マス(鱒)が河川に戻って来る割合(回帰率)の減少などが挙げられます。
また、乱獲による資源枯渇も深刻であり、1990年代以前の乱獲により資源が枯渇し、現在でも資源が回復していない例もあります(北海道のニシン(鰊)など)。
近年では、海水温上昇などの気候変動による魚の生息域の変化により、今まで獲れていた魚が獲れなくなったり、コンブ(昆布)などの海藻類が岩場から消す磯焼けが発生しています。
加えて、陸地で近接する場所で営まれる沿岸漁業は、河川を通して陸上環境の影響を大きく受けるという特徴があります。
河川流域での生活排水などの影響で過剰に栄養塩(窒素やリンなど)が供給されると、栄養塩をエサとして植物プランクトンが極端に増殖し、海水表面が鮮やかな赤褐色(色はプランクトンの種類により異なる)になる赤潮が発生します。
赤潮が発生すると、プランクトンの死骸が分解される過程で水中の酸素が大量に消費されるため、酸素が不足して魚が死滅します。
以上のように、沿岸漁業を取り巻く環境の変化が大きく、資源減少に悩まされています。
そこで、人間が手を加えるて魚を「育てる漁業」(養殖業や栽培漁業)が行われています。
また、網の目を大きくして育つ前の小さな魚が逃げられるようにしたり、禁漁期の設定、漁獲量の制限などの資源管理を重視した取り組みも行われています。
高齢化と後継者不足

日本の漁業全体では高齢化が進んでおり、同時に漁師の数は減少傾向で後継者が不足しています。
日本の漁師の8-9割は沿岸漁業に従事しており、漁師の高齢化・後継者不足はまさに沿岸漁業の問題です。
沿岸漁業は家族単位の小規模な形態が主流であり、高齢になっても操業を続ける漁師が多く、若い世代の漁師が少ないことから高齢化が進んでいます。
漁師の後継者不足の原因としては、以下のような要因が挙げられます。
・漁村の過疎化と少子高齢化が進み後継者となる若者が減っていること
・船舶や漁具の購入など初期投資額が大きく、加えて漁協(漁業協同組合)と呼ばれる組合に加盟して漁業権を獲得する必要があり、参入ハードルが高い
・収入が天候や漁獲量に左右されて不安定である
・重労働で荒天など危険も伴い、労働環境が過酷である
近年では、外国人材を活用したり、ICT(情報通信技術)を活用して漁業の効率化が行われています(スマート漁業、スマート農業(スマートアグリ)と同様)。
スマート漁業の例として、漁場環境(水温や塩分、潮流等)をAIで予測したり、定置網に入る魚種を陸上で把握し出漁を判断する取組みが行われています。
参考文献
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
沿岸漁業(エンガンギョギョウ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典 2026/10/3閲覧
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沿岸漁業と沖合漁業の違いとは?漁場・操業日数・船舶規模による漁業区分を徹底解説 Sanchi.JP AjiTokyo株式会社 2026/10/4閲覧
漁法・操業の基礎知識 — 沿岸から沖合まで漁業の現場を解説 Sanchi.JP AjiTokyo株式会社 2026/10/4閲覧
【無料】基礎から分かる水産用語<301> 採捕とは みなと新聞 note 2026/10/4閲覧
定置網漁業 とりネット 鳥取県 2026/10/4閲覧
代表的な漁具・漁法の解説 水産研究本部 北海道立総合研究機構 2026/10/8閲覧
定置網漁業の技術研究会 水産庁 2026/10/4閲覧
相模湾の定置網(ていちあみ)漁業 神奈川県 2026/10/4閲覧
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