利根川などの大河川の長さは数百kmにもおよび、上流部は険しい山々となっています。
このページでは、河川の上流部で見られる地形(V字谷(ぶいじだに/ぶいじこく))について解説します。
上流部の地形

山に降った雨水は、より低い場所に向かって筋状に流れ、やがて川を形成します。
傾斜が急な河川上流部では、川底を侵食して土を押し流す作用が強いため、谷状に削られてV字谷(ぶいじだに/ぶいじこく)を形成します。
また、上流部は山の斜面が急なので、山崩れや地滑りをおこして木々や土砂が流出した崩壊地がみられることがあります。
以下では、川の上流部に見られる典型地形であるV字谷と土地利用について解説します。
V字谷

V字谷(ぶいじだに/ぶいじこく)とは、河川による侵食(河食)が進んで両脇が急な崖状の斜面になり、断面がVの字状になった地形です。
河川の上流部の急斜面では、川の水が川底の土砂を削りとる侵食作用が強いため、侵食により川が下へ降りて行った結果、断面がVの字状になりました。
侵食輪廻における幼年期地形に相当し、川の上流部で見られます。
水は液体なので重力にしたがって小さな溝など低い所へ集まりながら筋状に流れていきます。
水は集まれば集まるほど土壌を押し流す力が強くなるため、小さな溝は削られてどんどん深くなります。
はじめは小さなへこみだった溝も深くなっていき、細長くて深い谷(峡谷)をつくるようになります。
よく似た名前の地形にU字谷(ゆーじだに/ゆーじこく)があります。
V字谷は河川の浸食(河食)により形成されたのに対し、U字谷は氷河による侵食(氷食)の結果として形成されたという違いがあります。
液体の水が侵食したV字谷は谷底が狭くて底部に川が流れているのに対し、固体の氷河が侵食したU字谷はV字谷より谷底の幅が広くて両側に切り立った崖があり、断面アルファベットのU字のような形になっているという特徴があります。
典型的なV字谷はアルファベットのVの字をしていますが、河川の両側がほぼ垂直な断崖絶壁になっているV字谷もあります(例:黒部川上流部(富山県東部))。
それでも、河川による侵食(河食)により形成された峡谷はあくまでV字谷です。

土地利用
日本では、河川の上流部には森林が広がっています。
川の上流部は急斜面が広がる山奥となり、平らな場所が非常に少ないため、建物や田畑に活用できない急斜面には森林が残っています。
土地利用としては、山の斜面を活用して林業が営まれていたり、発電用や貯水用ダムとして開発された場所もありますが、人里離れた場所であることも相まって特に利用されずに放置されている場所も多いです。
他にも、水源涵養林(水源かん養林、水源林)として森林が保全されたり、自然公園(国立公園など)として景観が保護されているも場所あります。
参考

黒部川のV字谷に建設された黒部ダム
黒部川上流部(黒部峡谷、富山県南東部)のV字谷に建設された黒部ダムは、関西電力が運営する水力発電用のダムです。
関西の旺盛な電力需要を賄うため、遠方だが水力発電に適した黒部川上流部に建設されました。
黒部ダムはあくまで水力発電用のダムですが、周囲一帯は中部山岳国立公園として環境保護がされている地域でもあります。
さらに、西隣の立山地区と黒部ダムを超えて富山県と長野県を結ぶ立山黒部アルペンルートという山岳観光ルートが建設されており、黒部ダムの堤防(堤体)を歩いて通過できます。
アルペンルートの一部はダム建設の資材搬入路として建設されたトンネルを利用しており、ダム建設と密接に関わっています。
他にも黒部川下流部から黒部ダムまではダム建設資材運搬用に建設された鉄道が今でも残っています。
このうち下流側の宇奈月温泉から途中の欅平までの区間では、関西電力の子会社である黒部峡谷鉄道のトロッコ列車が運行されており、黒部峡谷のV字谷の美しい景観を楽しむことができます。
このように、黒部峡谷のV字谷は険しい山奥に位置するにもかかわらず、発電・自然保護・観光という多角的な目的で活用されています。
参考文献
川の地形とは 国土地理院 2025/8/11閲覧
山から海へ川がつくる地形 国土地理院 2025/8/11閲覧
上流部のようす 国土地理院 2025/8/11閲覧
V字谷(ブイジコク)とは? コトバンク 精選版 日本国語大辞典、日本大百科全書(ニッポニカ)、百科事典マイペディア 2025/8/18閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
U字谷(ユージコク)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、百科事典マイペディア 2025/8/18閲覧
日電歩道 ウィキペディア 2025/8/18閲覧
吉田 裕一「関西支部だより 黒部川第四発電所・黒部ダム」電気設備学会誌, 35(1)、電気設備学会、p58-59 (2015)
黒部ダム(クロベダム)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典 2025/8/18閲覧
黒部峡谷鉄道トロッコ電車 2025/8/18閲覧