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正距方位図法

中心地点からの距離と方角を正確に反映できる地図投影法を正距方位図法といい、中心からの最短距離が直線で表されるため航空路線を描く目的で使われます。
このページでは、正距方位図法について解説し、使用例も取り上げます。

正距方位図法とは

北極点を中心とした正距方位図法による世界地図。正距方位図法は中心点からの距離と方角を正確に描く地図投影法である。3次元の球体である地球を平面上に投影し、さらに方角が正確になるように引き伸ばしているため、遠方になるほど歪みが大きくなる。そのため、北極点の反対側にある南極大陸は引き伸ばされて世界全体を囲うように広がっている(一番外側の黒色の円が地図の端であり、その内側に360°広がる白色の陸地が引き伸ばされた南極大陸である)。出典:Wikimedia Commons, ©Strebe, CC BY-SA 3.0, 2024/7/10閲覧

正距方位図法は、地図上のどの地点においても中心点からの距離と方角が正確である地図投影法です。
地図上のどの地点においても中心点からの距離が正確であるため、正距図法に分類されます。
距離と方角が正確なのはあくまで中心点だけであり、中心点以外の地点間の距離や方位は不正確である点に注意して下さい。

正距方位図法では、特定の地点を地図の中心に置き、その地点からの距離と方角が正確になるように描きます。
そのため、正距方位図法では距離や方角を正確に知りたい地点ごとに別々に地図を作成する必要があります。

正距方位図法では、3次元の球体である地球を平面上に投影し、さらに方角が正確になるように引き伸ばすため、中心点から遠方になるほど大きく引き伸ばされて歪みが大きくなります。
そのため、正距方位図法で世界全体を描くと、中心点から見て地球の裏側に位置する場所が極端に引き伸ばされます。
たとえば、北極点を中心とした正距方位図法の世界地図(下の世界地図を参照)では、地球の裏側にあたる南極大陸は引き伸ばされて地球を囲うような形状になってしまっています。
このような特性があるため、通常は地球の半分(半球、中心点からの距離20,000km以内)以内の範囲を描きます。

北極点を中心とした正距方位図法による世界地図。(実際の地球上では)同じ大きさの円を地図上に描くことで地図投影法による歪みが視覚的にわかるようになっている(テイソーの指示楕円)。正距方位図法では中心点から離れるに従って歪みが大きくなるため、世界地図を描くには向かず、通常は半球(中心点から20,000km以内)を描くのに用いられる。中心点の裏側に位置する南極大陸は大きく引き伸ばされて、テイソーの指示楕円が輪状になってしまっている。出典:Wikimedia Commons, ©Justin Kunimune, CC BY-SA 4.0, 2024/7/10閲覧

正距方位図法の使用例

日本の東京を中心とした正距方位図法による世界地図。正距方位図法は中心点からの距離と方角を正確に描く地図投影法である。補助線として、東京から東西南北方向に伸びる線が引いており、東京からの距離4,000km, 8,000km, 16,000kmの各地点を結ぶ線は円周状になる。薄い線は経線と緯線であり、東京からの距離と方位を正確に描くために歪んでいる。そのため、メルカトル図法などの一般的な世界地図では日本の東側に描かれる北米大陸が北東側に位置し、日本の真東の方向には南米大陸が位置していることが視覚的に理解できる。出典:どこでも方位図法, ©株式会社オンターゲット, CC BY-SA 4.0, 2024/7/10閲覧

正距方位図法は主に正確な距離や方位が必要な場合に使われます。

たとえば、航空機の飛行経路を決めるためには、出発地から見て目的地がどちらの方角にあたるかを正確に知る必要があります。
航空機は地球上の二地点間を最短距離で飛行するため、正距方位図法地図上に航路を描くと二地点間を結ぶ直線になります(大圏航路)。
このため、特定の都市からの航空路線を描く際に正距方位図法が使われることがあります。

他には、遠距離で二点間通信を行う際にアンテナを向ける方向を知るにも役立ちます。

正確な距離が必要な例としては、軍事用ミサイルの射程範囲を知るために正距方位図法の地図が使われます。
次の地図は、北朝鮮のミサイルの射程範囲を示しています。
ミサイルは最短距離(大圏航路)で飛行するため、北朝鮮を中心とした正距方位図法の地図を使っています。

北朝鮮のミサイルの射程距離。北朝鮮からの距離が正確な正距方位図法を使用しているため、各ミサイルの射程範囲は円状になる。出典:Wikimedia Commons, ©Cmglee, CC BY-SA 3.0, 2024/7/11閲覧

参考

国際連合(国連)の紋章(エンブレム)。国連の紋章には北極点を中心とした正距方位図法の世界地図を図式化して描かれている(南極大陸は除外)。経線は45°ごとに直線が引かれ、中央の経線は日付変更線(北極点の上側)と本初子午線(北極点の下側)を表す。一方、緯線は北極点を中心に同心円状に30°ごとに線が描かれ、南緯60°まで描かれている(南緯60°以下に位置する南極大陸は除外)。円形の世界地図の外側には平和の象徴であるオリーブの枝が描かれている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/7/15閲覧

国際連合の紋章(エンブレム)
国際連合(国連)の紋章(エンブレム)には、北極を中心とした正距方位図法の世界地図が描かれています。
世界地図では、経線は45°ごとに直線が引かれ、中央の経線は日付変更線(北極点の上側)と本初子午線(北極点の下側)を表しています。
一方、緯線は北極点を中心に同心円状に30°ごとに線が描かれ、南緯60°が一番外側になっています(南緯60°以下に位置する南極大陸は除外)。

国連は国際的な組織であるため、特定の国を中心に置くなどの特別扱いをしないように北極点を中心として、人が居住していない南極を除く世界全体が描かれています。
国連の紋章に色の指定はありませんが、この紋章が描かれる国際連合の旗(国連旗)では水色を背景に白色で描かれています。

国際連合の旗(国連旗)。中央に国連の紋章が描かれている(北極点を中心とした正距方位図法の世界地図と平和の象徴であるオリーブの枝)。青地の色は戦争の色である赤色の反対の色として採用されたとされる。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/7/15閲覧

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参考文献

正距方位図法(セイキョホウイズホウ)とは? コトバンク デジタル大辞泉、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/7/10閲覧
どこでも方位図法 2024/7/10閲覧
Azimuthal equidistant projection, Wikipedia 2024/7/10閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
Flag of the United Nations, Wikipedia 2024/7/15閲覧
国際連合の旗 ウィキペディア 2024/7/15閲覧

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