気候 系統地理

気候と気候要素(気温・降水量など)

気候は複数の因子が複雑に絡み合って結成されるため、気候要素とよばれる観測可能な因子(気温、降水量など)に分解して表現・理解します。
ここでは、気候と気候要素について解説し、気候要素を可視化する手法(等温線図や雨温図、ハイサーグラフなど)について紹介します。

なお、気候の形成要因である気候因子については、次のページで解説しています。

参考気候と気候因子(緯度・標高・隔海度など)

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気候と気候要素

雲海に浮かぶ備中松山城(岡山県中西部・高梁市)。備中松山城は標高430mの臥牛山頂上に天守閣建つ山城であり、秋から春にかけての早朝には、低地の上空が雲で覆われ、雲より高い山頂部のみが島のように浮かぶ光景が見られる。ある瞬間にこのような雲海が見られることは「気象」現象であるが、毎年9月下旬~4月上旬の早朝から8時頃までに雲海が出現しやすいという周期的な現象はこの地域固有の「気候」である。出典:Wikimedia Commons, ©Jogungagon, CC BY-SA 4.0, 2025/11/9閲覧

それぞれの土地で長い年月にわたって現れる天気の総合的な状態のことを気候といいます。
よく似た言葉として気象(きしょう)がありますが、気象がある瞬間の天気の状態(例:雨が降っている)を表すのに対し、気候はより長い期間の周期的な天気の状態(例:乾季と雨季がくりかえされる)を表します。
世界各地ではその土地の地理的環境に応じた気候が1年を通して周期的にくりかえされます。

気候のスケール

気候の時間的・空間的スケール。気象現象や気候は時間的・空間的な広がりをもつ。このグラフでは、横軸に時間スケール(現象の継続時間)、縦軸に空間スケール(現象が見られる影響範囲)を示す。一般に、空間規模が小さい気象現象は継続時間も短く(例:局所的なゲリラ豪雨)、影響範囲が大きい気候は継続時間も長い傾向にある(例:地球全体の地球温暖化)。

気候には空間的・時間的なスケール(規模)の幅があります。
にわか雨や吹雪、北風、快晴、気温変化といった短時間の現象も気候の一種です(瞬間的なものは気象と呼ばれます)。
短時間の気象が積み重なることで、1日単位(例:高気圧や台風)、数か月単位(例:季節風)、1年単位(例:地中海性気候)で周期的・継続的に繰り返される気候が形作られます。

空間的なスケールが小さい(=狭い地域でしか見られない)気候は、時間的なスケールも小さい(=継続時間も短い)傾向があります。
一方、空間的なスケールが大きい(=広い地域で共通してみられる)気候は、時間的なスケールも大きい(=非常に長い時間継続する)です。
たとえば、ゲリラ豪雨のような局所的な気候(=気象)は、1時間にも満たない非常に短時間で終わってしまうのに対し、地球温暖化のような地球全体に影響する気候は、数十年以上にもおよぶ長期間継続します。

気候の気候要素への分解

複雑な要因が絡み合って形成される気候について理解するためには、気候をいくつかの要素や要因に分解して考える必要があります。
しかし、気候は天気の総合的な状態なので、一つの値で示すような方法はありません。
ある地点の気候を知るには、気候を構成する要素に分けて数量的に調べ、これらを組み合わせて気候を表現します。
このように、気候を表現するために気候のある側面を観測した指標を気候要素とよびます。
気候要素の例としては、気温、降水量、風などがあります。

一方、ある地点の気候を作り出す要因となる要素を気候因子とよびます。
気候要素が気候の構成要素(=気候そのものを部分的に表現したもの)であるにに対し、気候因子は気候が作り出された原因です。
多数の気候因子が影響しあった結果としてその場所の気候が作り出されます。
気候因子の例としては、緯度や標高、地形などがあります。

以下では、気候を構成する気候要素について詳しく見ていきます。

気候要素

2月の大陸西岸と大陸西岸の風景(左:フランス南東部・プロヴァンス地方マルセイユの海岸、右:北海道札幌市の大通公園)。マルセイユ(左)と札幌(右)はともに北緯43°に位置するが、ユーラシア大陸西岸のマルセイユは暖流のメキシコ湾流の影響で温暖な気候であるのに対し、ユーラシア大陸東岸に位置する札幌は北西からの季節風の影響も相まってマルセイユよりも気温が低く、積雪が見られる。出典を加工して作成。出典:(左)Wikimedia Commons, ©TouN, CC BY-SA 3.0, 2025/11/10閲覧 (右)Wikimedia Commons, ©Nkns, CC BY-SA 3.0, 2025/11/10閲覧

気候要素とは、気候を表現するために気候のある側面を観測した指標のことです。
ある地点の気候を表現するためには、複数の気候要素を数量的に観測し、これらを組み合わせて表現します。

代表的な気候要素としては、気温と降水量があります。
ケッペンの気候区分では、気温と降水量の1年間の周期的な変化に基づいて世界各地の気候を分類しています。これに風を加えた、気温・降水量・風(風向・風速)気候の3要素とよび、気候の特性をつかむのに最も重要な気候要素です。
そのほかの気候要素としては、湿度、日照時間、日射量、気圧、雲量、蒸発散量などがあります。
ちなみに、蒸発散量は地上からの水分の蒸発量と植物が大気中に水分を放出した蒸散量の合計であり、地表から失われた水分量を表します。

気候要素の一つだけをとってもさまざまな表現方法があります。
たとえば、気温を表現する方法として日較差(にちこうさ、一日の最高気温と最低気温の差)や年較差(ねんこうさ、一年の最高気温と最低気温の差)、積算温度などがあります。

参考

積算温度
積算温度とは、ある期間の一日の平均気温が一定温度を超えた分だけを取り出して合計したものです。
農作物の栽培限界の目安や桜の開花予想に使われています。
たとえば、2月1日以降の日最高気温を足していき、600℃に達すると桜が開花するという経験則(600度の法則)があります。
同様に日平均気温の積算温度が400℃に達すると桜が開花する400度の法則もあります。
桜の開花には気温以外の要因も影響しますが、これらは積算温度を使った経験則として昔から知られています。

様々な気候要素

ここからは、気候要素の一例として、気温、降水、風(風速・風向)について順に見ていきます。

気温

地球上の年平均気温の分布(1961-1990)。気温は気候を表す重要な指標であり、気温高低は環境に大きな違いをもたらす(例:冬季に気温が低い場所では降水が雪となる)。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©(unknown), CC BY-SA 4.0, 2025/11/9閲覧

気温はその土地の気候を表現する重要な指標です。
ケッペンの気候区分における熱帯(A)温帯(C)亜寒帯(冷帯, D)は最寒月の月平均気温によって分類され、寒帯(E)は最暖月の平均気温で分類されます。
このように他の条件が同じ場所でも気温が変われば、気候区分の最も大きな区分である気候帯が変化し、その土地の環境は大きく変わります。

降水量

地球上の年間降水量の分布(単位:mm)。降水量は気候を表す重要な指標であり、降水量の大小でその土地の環境に大きな影響を及ぼす(例:降水量が極端に少ない場所には砂漠が広がる)。出典:Wikimedia Commons, Source: Deutscher Wetterdienst, 2025/11/9閲覧

降水量もその土地の気候を表す重要な指標です。
ケッペンの気候区分における乾燥帯(B)は降水量に基づき分類される気候帯であり、極端に降水が少ない場所では植生が乏しい砂漠が広がります。
ケッペンの気候区分では、気温と降水量の月変化に基づいては気候を決めており、気温と降水量が特に重要な気候要素であることが分かります。

風(風速・風向)

大陸を横断する偏西風の模式図。南アメリカ大陸南部の南緯40°付近では、偏西風が大陸西岸と大陸東岸の気候を形作っている。大陸西岸では海上で水蒸気を含んだ空気が山脈を上る際に地形性降雨により雨が降るため、大陸西岸では森林が広がる。一方、山を越えた後は乾いた空気となるため、大陸西岸では降水量が少なく、乾燥した草原や砂漠が広がる。

風も重要な気候要素の1つであり、風向と風速で表現できます。
離島や高山のような風の強い場所や偏西風季節風(モンスーン)のように長期間一定方向に風が吹く場所では、風の影響を受けた特徴的な気候を呈します。

偏西風のように一定方向に風が吹く場所では、山脈を挟んだ風上側で湿潤で風下側で乾燥した気候になります。
風上側の大陸西岸では、海上から運ばれてきた水蒸気を含むため降水量が多く森林が広がります。
偏西風が山脈を越える際に気温低下に伴い空気中の水分が結露し、地形性降雨により雨が降ります。
山脈の西側で水分を失った偏西風は乾いた風になり、大陸東岸では年間通して乾燥した気候になります。

また、高山の山頂部ように風が極端に強い場所では、樹木が真上ではなく斜め方向に成長した偏形樹が見られたり、一定以上の標高で樹木が見られなくなる森林限界となり、山頂部には岩場やハイマツ(地をはうように育つ低木)帯が広がります。

関東山地北部(秩父山地)・金峰山(2,599m)の森林限界(山梨県北部・長野県東信地方)。標高が高い山の山頂付近では、低温や強風などの影響で低地の植物は育たず、高山の環境に適応した植物が生育する。このため、森林が成立する限界線である森林限界が見られる場所もある。金峰山では、写真中央付近で亜高山帯林からハイマツ林に入れ替わっている。出典:Wikimedia Commons, ©Σ64, CC BY-SA 3.0, 2022/7/9閲覧

気候要素の可視化

桜の開花予想の等期日線図(桜前線、2007/3/14気象庁発表)。桜前線は開花予想日が同日になる場所を線で結んだ等期日線図である。桜の開花には気温が大きな影響があり、おおむね2月以降の気温などの推移(積算温度)などから開花日を予想できる。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2025/11/10閲覧

気候要素を可視化する方法には、1つの気候要素を可視化する方法と複数の気候要素を組み合わせて可視化したものがあります。

単一の気候要素の可視化

単一の気候要素を可視化する方法として等温線図等降水量線図等期日線図桜前線の可視化用)などがあります。
これらは、気温や降水量が同じ地点を線で結んで地図上に表現したものです。

等温線図

地図上で気温が等しい地点を結んだ線を等温線といい、等温線を描いた地図を等温線図といいます。
等温線図は、各地の気温の特色をみるのに適しています。

たとえば、水は空気よりも比熱(物質を1℃上げるのに必要なエネルギー)が大きいため、沿岸部は夏と冬の温度変化(年較差)が小さく、大陸の内陸部は年較差が大きくなります。
このため、夏は沿岸部よりも大陸内陸部の方が暑くなり、冬は沿岸部よりも大陸内陸部の方が寒くなります。

等温線図をつかって等温線の分布を見ることで、各地の気温の違いを把握することができます。

等降水量線図

地図上で降水量が等しい点を結んだ線を等降水量線といい、等降水量線を描いた地図を等降水量線図といいます。
等降水量図は、各地の降水量の特色を見るのに適しています。

たとえば、次の画像はインドの年降水量1,000mの等降水量線図です。
この等降水量線はインドにおける稲作地域と畑作(小麦)地域の境界線になっています。

インドの年間降水量マップ。赤線は年間降水量1,000mmの境界線である。東部や南西部の海岸線、ヒマラヤ山脈の麓で年間降水量1,000mmを越える。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©w:user:Planemad, CC BY-SA 3.0, 2022/11/15閲覧

複数の気候要素の可視化

気候は様々な要因が複合的に影響しあって形成されるため、ある土地の気候を理解するためには、単一の気候要素だけではなく、複数の気候要素を組み合わせて見る必要があります。
そこで、複数の気候要素をわかりやすく可視化したグラフとして、雨温図ハイサーグラフがあります。

雨温図

東京(Cfa)の雨温図。データ取得元:出典:世界の天候データツール(ClimatView 月統計値) 気象庁 2024/3/9閲覧

ある地点の月別の気温と降水量を表示したグラフを雨温図といいます。
上図は東京の雨温図です。

雨温図では、横軸に月(1月から12月)をとり、縦軸に気温(上図の左側の軸)と降水量(同右側の軸)をとります。
月別平均降水量を棒グラフ(上図青色)、月別気温を折れ線グラフ(上図赤色)で表し、それらを重ねて表示します。

月別気温に関しては、平均気温を折れ線グラフで表示する場合や、上図(赤色部分)のよう日最低気温の平均と日最高気温の平均を組み合わせてバーで表示する場合があります。

ハイサーグラフ

東京(Cfa)のハイサーグラフ。データ取得元:出典:世界の天候データツール(ClimatView 月統計値) 気象庁 2024/3/9閲覧 気象庁 2024/3/9閲覧

1月から12月までの各月の平均気温と平均降水量をプロットして線で結んだグラフをハイサーグラフといいます。
ハイサーグラフは横軸に平均降水量、縦軸に平均気温をとり、各月のプロットを順に結んだ散布図です。
ハイサーグラフは気温や降水量の季節変動を見るために使います。

参考文献

雲海に浮かぶ備中松山城を望む展望台(雲海展望台) 高梁市 2025/11/9閲覧
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気候要素と気候因子 自然地理学概論 青木”Kent”賢人のホームページ 2025/11/5閲覧
積算温度(セキサンオンド)とは?  コトバンク デジタル大辞泉、改訂新版 世界大百科事典、改訂新版 世界大百科事典、百科事典マイペディア 2025/11/5閲覧
さくらの開花予想の簡易的な手法と精度比較 あおもりゆきだより2024 最終号 今号の話題① 気象庁 青森地方気象台
クライモグラフとは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/22閲覧
雨温図とは コトバンク 百科事典マイペディア 2021/1/22閲覧、百科事典マイペディア、世界大百科事典 第2版、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/22閲覧
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ハイサグラフとは コトバンク 世界大百科事典 第2版 2021/1/22閲覧
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気候因子とは コトバンク 百科事典マイペディア、世界大百科事典 第2版 2021/1/21閲覧

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