内的営力によって隆起した地形を削り取ることで新しい地形をつくるような作用のことを外的営力といいます。
外的営力を理解することで、人間の目で見える地形がどのように形成されたかを理解することができます。
このページでは、外的営力の代表例である侵食と風化について解説します。
侵食
雨や川、海、氷河などが流れることで、地球表面の岩石や土壌を削ることを侵食といいます。
侵食には「浸食」という字をあてることもありますが、侵食の原因は水だけとは限らないので「侵食」を使うの方が適切です。
侵食は、何が土壌を侵食するかによって河食、海食、氷食など、〇食という名前がつけられています。
一般的に侵食は水が流れることによっておきますが、植生が少ない乾燥地形では風の力で地表の砂が運ばれて侵食がおきることがあります(風食)。
標高がより低い場所に水や氷河が流れることで侵食がおきるため、ある程度高い場所でないと侵食が発生しません(水が流れない)。
これ以上標高が低いと水や氷河が流れることができずに侵食がおきない標高のことを侵食基準面といいます。
水の流れによる侵食では多くの場合、侵食基準面は海面です。
しかし、内陸の場合には侵食基準面が湖の湖面のこともあります。
侵食輪廻
侵食によって地面が削られ、地形が変化していく過程を侵食輪廻(地形輪廻)といいます。
侵食輪廻は1899年にアメリカのデービス(William Morris Davis, 1850-1934)によって提唱された概念です。
ここでは川の流れによる侵食輪廻(河食輪廻)について取り上げます。
侵食輪廻の模式図は次のリンクをご覧ください。
「地形輪廻(河食輪廻)」ⓒ西川勝也
出典:地形輪廻とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/11閲覧
原地形
侵食をうける前の地形を原地形といいます。
原地形は何らかの隆起運動により侵食基準面(海面)より高い場所に位置しています。
幼年期地形
原地形が河川によって盛んに削られているものの、まだまだ原地形が広く残っている状態を(侵食輪廻における)幼年期地形といいます。
雨水は重力にしたがって低い所の集まるため、小さな溝に集まりながら標高が低い場所に流れていきます。
水は集まれば集まるほど土壌を押し流す力が強くなるため、小さな溝は削られてどんどん深くなります。
はじめは小さなへこみだった溝も深くなっていき、谷をつくるようになります。
このように川の流れによる侵食でできた谷をV字谷といいます。
幼年期はまだ侵食がはじまってから時間がたっていないので、川と川の間には原地形がまだまだ残っています。
そのため、河川による原地形の侵食が盛んに行われます。
幼年期地形の例としてはアメリカのグランドキャニオン(米アリゾナ州・イエローストーン国立公園)や木曽川中流域(長野・木曽谷)があります。
壮年期地形
原地形の面積よりも谷の面積の方が大きくなると、壮年期地形とよばれます。
幼年期地形から時間がたつと、河川がつくる谷は水の流れによってどんどん深くなっていく一方、川の間も雨水によって削られて、原地形が断片的にしか残らなくなります。
山は急峻になり、山の起伏は最大になります。
壮年期では、侵食により原地形を削る力よりも山の斜面を削る力の方が強くなります。
そのため、侵食が進む壮年期終盤には山は次第に丸みを帯び、谷の幅は少しずつ広くなり、堆積物がたまっていきます。
日本の山地の大部分は侵食輪廻における壮年期に相当します。
上の写真はアルプス山脈のマッターホルン(スイス・イタリア)です。
水ではなく氷河による侵食でできたホルン(ホーン、尖峰)で、急峻な壮年期地形です。
飛騨山脈(ひださんみゃく、北アルプス)の槍ヶ岳(長野・岐阜)もホルンとして知られています。
壮年期地形の例としては、ヒマラヤ山脈やアルプス山脈、飛騨山脈などがあります。
老年期地形
侵食により山が低くなだらかになり、谷底も拡大してゆるやかな地形になると老年期地形とよばれます。
老年期と壮年期に明確な境界はありません。
老年期では、山地は削られて丘陵になり、谷も平坦になり、川は蛇行します。
川の両岸は洪水の際には浸水する氾濫原が広がり、川の流れから取り残された河跡湖(三日月湖)ができます。
侵食基準面(海面)まで侵食が進むころには、平坦でゆるやかな起伏しか存在しない準平原とよばれる地形になります。
準平原は侵食輪廻の最終段階です。
準平原ではかたい部分が侵食から取り残されて孤立した丘がみられ、このような地形を残丘(モナドノック)といいます。
準平原が内的営力により隆起すると隆起準平原とよばれる台地になります。
隆起準平原は侵食基準面より高いので、次の侵食における原地形となります。
老年期地形の例としては、山東(シャントン)半島(中国東部)、北上山地(岩手)、阿武隈高地(福島・宮城)などがあります。
北上山地の早池峰山(はやちねさん、1917 m)は北上山地の中の残丘です。
風化(物理的風化と化学的風化)
地球表面の岩石が日光や雨風にさらされることで、岩石がもろくなり壊れていくことを風化といいます。
風化には主に物理的風化と化学的風化があります。
物理的風化
物理的風化は、気温変化によって岩石の内部が膨張と収縮を繰り返したり、水が凍結(水の体積が膨張)と融解(氷が溶けて水が流出)を繰り返すことで岩石の構造が壊れる風化のことをいいます。
一日の気温の変化(日較差)が大きい砂漠などの乾燥した気候でよく進みます。
一般的な砂漠のイメージである砂砂漠は、岩石が物理的風化により破壊されたために粒が小さくなったものです。
化学的風化
化学的風化は、岩石の中に含まれる水に溶けやすい物質が水に溶けて(加水分解して)流れ出ることで岩石の構造が壊れる風化のことをいいます。
水に溶かすことができる物質の量が多くなる高温多雨な気候でよく進みます。
特に水に溶けやすい石灰岩の土壌が広がる地域では、石灰岩が水に溶けて流されることでカルスト地形とよばれる独特な地形を形成します。
参考文献
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