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繊維作物(麻・黄麻・ジュート・桑)

防寒のための衣服や物を運ぶための布袋を作るためには繊維原料が必要です。
繊維原料には、植物由来の植物繊維、動物由来の動物繊維、化学的に合成された合成繊維(化学繊維)の3種類があります。
このうち植物繊維を得るために栽培する作物を繊維作物といいます。

このページでは、繊維作物として綿花(ワタ)や麻、黄麻(ジュート)、クワ(桑)についてまとめます。

繊維作物とは

最も単純な織物である平織りの亜麻の織物。縦・横方向の繊維を交互に織り込んでいる。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/7/28閲覧

繊維作物とは衣服や紙、ロープなどを作るための繊維原料を得るために栽培する作物です。
作物から取り出した何本もの細長い糸をねじりながら巻き付けて1本の繊維を作り出し、それらの繊維をさらに縦横に織り込んで衣服やカーペット、麻袋などの織物を生産します。

繊維原料になる植物はたくさんありますが、経済的に重要な(安価に大量生産できる)繊維作物は限られています。
代表的な繊維作物として、綿花(ワタ)やジュート(黄麻)などがあり、どちらも熱帯~亜熱帯を中心に栽培される作物です。

様々な繊維作物

ここからは、代表的な繊維作物として綿花(ワタ)、麻、ジュート(黄麻)、クワ(桑)についてまとめます。

綿花(ワタ)

白い綿毛が発達したワタ(綿花)(米国南部・テキサス州)。ワタは開花した後に種子を覆うように白い綿毛(綿花)が発達する。この綿毛を収穫し、糸をつむいで繊維原料として利用する。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/8/7閲覧

綿花(ワタ)綿繊維(木綿(もめん))を得るために栽培される繊維作物です。
植物自体をワタ、ワタの繊維原料部分を綿花とよびますが、植物自体を綿花と呼ぶこともあります。

綿花は熱帯~亜熱帯の地域で栽培されており、栽培されている地域では重要な輸出品目になっています。

綿花の詳細については次のページでまとめています。

参考綿花の栽培(綿繊維・綿実油)

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アサ(大麻)の繊維(ヘンプ)(日本・東京都)。植物の茎の表面から剥ぎ取った繊維と残った芯の部分(麻幹(おがら))。この繊維をさらに裂いてつむいでいくと麻糸が得られる。出典:Wikimedia Commons, ©タバコはマーダー, CC BY-SA 4.0, 2023/8/18閲覧

麻(あさ)は植物の葉や茎から採取される繊維の総称です。
麻という言葉は、葉や茎からとれる繊維のことを指す場合と特定の植物(アサ)を指す場合があります。
麻には植物のアサ(狭い意味での麻、大麻)からとれる繊維であるヘンプ、植物のアマ(亜麻)からとれる繊維であるリネン、植物のチョマ(苧麻)からとれる繊維であるラミーなどがあります。
日本ではなじみがありませんが、海外では中国またはインド原産の黄麻(こうま、ジュート)やフィリピン原産のマニラ麻、メキシコ原産のサイザル麻などもあります。

麻は世界最古の繊維作物とされ、日本では縄文時代の遺跡からも発掘されています。
丈夫な麻の繊維は、麻縄や麻袋、ひも、カーペットなどに使われています。
日本でも古くから使われてきた繊維であるため、神道の注連縄(しめなわ)にも使われています。

麻の一種である亜麻から作られる繊維であるリネンは肌触りの良さや吸湿性の高さから、ベッドシーツやタオル、枕カバー、テーブルクロスなどに使われきました。
そのため、現代でも病院やホテルで使われるシーツ類などの布製品を総称してリネンとよびます(亜麻の使用の有無に関わらずリネンとよばれています)。

麻は繊維であることから、衣類にも使われています(麻織物)。
現在では綿繊維におされて存在感は小さいですが、たとえばリネンはシャツなどの肌着などに使われています。

アマ(亜麻)からとれる繊維であるリネンを原料としたハンカチ。リネンは肌触りの良さや吸湿性の高さからベッドシーツやタオルなどに使われる繊維である。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/8/18閲覧

ジュート(黄麻)

コウマ(黄麻)の畑(バングラデシュ南西部・クルナ管区)。コウマからはジュートとよばれる繊維が得られる。ジュートはインドとバングラデシュが主要な生産国であり、麻袋などに使われている。出典:Wikimedia Commons, ©Malcolm Manners from Lakeland FL, USA, CC BY 2.0, 2023/8/18閲覧

コウマ(黄麻)ジュート繊維の原料となる繊維作物です。
栽培には三角州のような上流からの土砂が堆積した土壌(沖積土壌)が適しており、気候としては高温多湿で季節風(モンスーン)がある地域が向いています。
これらの栽培条件を満たしているインド東部の西ベンガル州とその東隣のバングラデシュで盛んに栽培されています。
インドとバングラデシュの二カ国で全世界の生産量の97%以上が占められています(2020年)。

ジュートは安価で様々な用途に使える繊維であり、農産物を入れる麻袋や敷物、カーテン、ひもなどに使われます。

麻袋。上の3つの麻袋はジュート(黄麻)製であり、一番下の麻袋はサイザル麻で作られている。材質が異なるため、上の3つの袋と一番下の袋の質感が異なるように見える。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/8/18閲覧

クワ(桑)

高さ数mに仕立てられたクワ(桑)の木(福岡県福岡市)。クワの葉は養蚕に必要なカイコガの幼虫(蚕)の唯一のエサであるため、養蚕のために各地で栽培されていた。近年では化学繊維の普及により養蚕の需要が低下し、クワの栽培も減少している。出典:Wikimedia Commons, ©そらみみ, CC BY-SA 4.0, 2023/8/7閲覧

クワ(桑)はクワ科クワ属の樹木作物です。
温帯に広く分布する樹木であり、日本では北海道から九州まで全国に分布します。
クワの木は落葉性の高木で高いものは10mにも達しますが、栽培する際には高さ2-3m程度に仕立てられます。

クワ自体は繊維原料にはなりませんが、クワは絹糸を生産する養蚕(ようさん)ために欠かせない作物です。
絹糸はカイコガ(蚕蛾)の幼虫(蚕)が作る繭の糸を原料として生産される繊維原料です。
このため絹糸を生産するためには蚕の飼育が必要であり、蚕の唯一のエサはクワの葉なので、クワは絹糸の生産と密接に関わっています。
「クワ」という名前自体、蚕が「食う葉」が由来という説があるくらいです。
以上のように絹糸の生産に不可欠であるため、クワは直接繊維原料にならないにも関わらず繊維作物に分類されます。

クワの栽培は絹糸を作る養蚕業の発展とともに普及し、養蚕の衰退とともに縮小しました。
日本では弥生時代から栽培されてきましたが養蚕が広がった江戸時代に栽培が広がりました。
そして、明治時代に養蚕産業が近代化・機械化して発展するに合わせて盛んに栽培されました。
昭和初期(1920~30年代)には全国の畑の25%(71万ha)が桑畑でした。
戦後は石油から合成された化学繊維が普及して次第に絹の需要が減少し、それに合わせてクワの栽培も減少していきました。
地図記号にも長らく桑畑の記号が存在していましたが、近年では桑畑はほとんど無いため、2013年に桑畑の地図記号は廃止されました。

なお、クワは主に蚕のエサに使うために栽培されますが、クワの果実(桑の実)は生で食べることができます。
そのため、クワ果実はパイなどの菓子やワイン、ハーブティーなどに利用されています。

クワ(桑)の果実(米国南部・オクラホマ州東部)。クワの果実は生食可能であり、パイなどの菓子やワイン、ハーブティーなどに利用される。出典:Wikimedia Commons, ©Geo Lightspeed7, CC BY-SA 4.0, 2023/8/7閲覧

 

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参考文献

繊維 ウィキペディア 2023/8/19閲覧
Fiber crop, Wikipedia 2023/7/28閲覧
繊維のいろは 滋賀県東北部工業技術センター 2023/7/28閲覧
川鍋 祐夫「繊維作物の種類および利用と植物分類上の区分との関係」熱帯農業 24(2) 45-53 (1980)
ワタ属 ウィキペディア 2023/7/28閲覧
麻 (繊維) ウィキペディア 2023/8/18閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
リネン ウィキペディア 2023/8/18閲覧
Jute, Wikipedia 2023/8/18閲覧
クワ ウィキペディア 2023/8/7閲覧
田中淳夫「世界遺産登録前に振り返る、生糸産業が変えた日本の植生と景観」 Yahoo! ニュース (2014/4/30) 2023/8/7閲覧
History of silk, Wikipedia 2023/8/7閲覧
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