穀物は動物のエネルギー源となる炭水化物を豊富に含むため、人間の主食や家畜のエサとして重要な作物・食べ物です。
ここでは、世界中で栽培される主要な穀物やその種類について解説します。
各作物の詳細については、以下のリンク先をご覧ください。
【穀物・米・小麦・トウモロコシ・ライ麦/エンバク/大麦・雑穀】
穀物
穀物は米や小麦などのイネ科植物から収穫できるデンプンなどの炭水化物を豊富に含む食べ物の総称です。
動物のエネルギー源となる炭水化物を多く含むため、人間の主食や家畜のエサとして世界中で多く生産されています。
人間の主食になる作物としては他にイモ類がありますが、先進国を中心に穀物を主食とする人口の方が多いです。
穀物の中で食用としての生産量が特に多い米、小麦、トウモロコシを三大穀物といいます。
三大穀物は世界中で広く栽培され、世界の穀物生産の89%を占めます。
地域としては米はアジア、小麦はヨーロッパと北米、トウモロコシは南米とアフリカで主食として利用されています。
ただし、米食の日本でもパンを食べるように世界中で小麦は消費されます。
トウモロコシも世界中で家畜飼料や食品工業の原料として使用されます。
米は生産国と消費地が一致し、輸出に回されるのは全体の数%に過ぎません。
一方、小麦は特定の地域(北米のプレーリー、ウクライナ~ロシアの黒土地帯、アルゼンチンのパンパ)での生産量が大きく、これらの穀倉地帯から世界中に輸出されています。
トウモロコシは食用だけではなく飼料用や工業原料としても重要で、世界で最も多く生産されている穀物です。
ここからは様々な穀物について順番に見ていきます。
米
米はモンスーンアジア(東アジア~東南アジア~南アジア)を中心に各地で主食として食べられている穀物です。
小麦やトウモロコシは一度粉にしてから成形して食されるのに対し、米は粒のまま水で煮炊きして食べることができます。
調味料(味噌や醤油)や蒸留酒(焼酎や泡盛)の原料としても使用されます。
穀物である米は、植物であるイネ(稲)から収穫されます。
稲は主に水田で栽培されます(水稲栽培)。
そのため、水を通して外部から栄養を供給するため連作障害もおきにくく、毎年同じ場所で耕作することができます。
さらに、同じ面積から収穫できる炭水化物の量(熱量、カロリー)が小麦など他の穀物よりも多いため、同じ面積の耕作地で小麦よりも多くの人数を養うことができます。
そのため、モンスーンアジアの稲作地帯は世界でも人口密度が高い地域になっています。
作物としての稲の詳細(品種、栽培方法など)は次のページをご覧ください。
参考イネと稲作(稲と米の違い・栽培条件・水稲と陸稲・浮稲)
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小麦
小麦はヨーロッパや北米を中心に世界中で広く主食として食べられている穀物です。
主食としては世界で最も広く食べられている穀物であり、米食の日本でもパンは広く食されています。
収穫した粒をそのまま食べる米に対し、小麦は一度粉(小麦粉)にしてから成形してパンやパスタの形で食されます。
ケーキやクッキーなどの洋菓子の原料としても利用されます。
作物としての小麦の詳細(栽培方法や栽培時期の違いなど)は、次のページをご覧ください。
参考コムギの栽培(冬小麦と春小麦・小麦カレンダー)
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トウモロコシ
トウモロコシは中南米やアフリカなどで主食として食べられている作物です。
トウモロコシも小麦と同様、一度粉(とうもろこし粉)にしてから成形し、トルティーヤ(タコスの生地の部分)などにしてから食されます。
イースト菌による発酵を利用して生地をふくらませてパンとして食べる小麦に対し、トウモロコシは薄皮のまま成形してトルティーヤを作り、具を挟んで食べる場合が多いです(例:メキシコ料理に使われるタコス)。
トウモロコシを主食とする地域は限られますが、家畜飼料や食品工業用、バイオエタノール用として世界中で使われます。
食品工業用としてはデンプン(コーンスターチ)や食用油(コーン油)などが生産されます。
特にコーンスターチは製紙用や食品用の糊として使える上に加水分解すると様々な糖が生成するため、甘味料(コーンシロップ)や医薬品の原料など様々な工業用原料として利用されます。
作物としてのトウモロコシの詳細(品種や栽培条件、生産量や輸出入量など)は次のページをご覧ください。
参考トウモロコシの栽培(品種・用途)
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ライ麦・燕麦(エンバク)・大麦
小麦以外に広く主食や家畜飼料として利用されている穀物として、ライ麦(ライムギ)、燕麦(エンバク)、大麦(オオムギ)があります。
いずれも小麦よりも条件の悪い(寒冷・乾燥など)土地で栽培できる作物です。
そのため、小麦が栽培できない地域で主食として食べられてきた歴史があります。
詳細については次のページをご覧ください。
参考ライ麦(ライムギ)・燕麦(エンバク)・大麦(オオムギ)
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雑穀(ミレット)
米や小麦のように主食として食べられている穀物を主穀(しゅこく)とよぶのに対し、主食以外として食べられる穀物を雑穀といいます。
雑穀は英語名(millet)を音訳してミレットともよばれます。
雑穀の例としてモロコシ(コーリャン)、キビ(黍)、アワ(粟)、ヒエ(稗)などがあります。
詳細については次のページをご覧ください。
参考様々な雑穀・ミレット(モロコシ・キビ・アワ・ヒエ)
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ソバ
ソバは中国南西部・雲南省原産の作物で、古くから食用として利用されてきました。
日本ではソバの種子を粉にして加工した麺類であるそば(蕎麦)として食べられています。
ソバは亜寒帯(冷帯)の乾燥したやせた土地でも栽培できる一方、高温湿潤な環境では収穫量が少なくなります。
生育期間が2~3ヵ月と短いこともあり、他の作物の不作時に食料を確保するために応急的に栽培する救荒(きゅうこう)作物として古くから利用されてきました。
ソバの生産量首位はロシアであり、他に中国やウクライナ、アメリカ合衆国が生産量上位です。
日本でも寒冷で降水量が少ない北海道で栽培が盛んです(全国シェア38.5%, 2019年)。
ソバは寒冷なロシアやウクライナでは伝統的な食料として利用されてきました。
ソバを使った伝統料理として、ロシアやウクライナのカーシャがあります。
カーシャは東欧で食べられているお粥であり、ロシアやウクライナではソバの実を入れたカーシャが広く食べられてきました。
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参考文献
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
穀物 ウィキペディア 2023/1/23閲覧
主食 ウィキペディア 2023/1/24閲覧
須田文明「第5章 フランスにおける小麦=パンのフードシステム」プロジェクト研究 [主要国農業戦略横断・総合] 研究資料 第6号 農林水産政策研究所
片平博文他「新詳地理B」帝国書院(2020)
"Grain Market Summary" International Grains Council 2022/11/6閲覧
下田吉人「主食としての米食」生活衛生 11(1) 1-4 (1967)
小麦粉 ウィキペディア 2022/11/19閲覧
トウモロコシとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/1/19閲覧
トウモロコシ ウィキペディア 2023/1/19閲覧
トウモロコシの種類、製品の特性と用途 独立行政法人 農畜産業振興機構 2023/1/19閲覧
とうもろこしの種類 トウモロコシノセカイ 2023/1/19閲覧
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エンバク ウィキペディア 2023/1/22閲覧
オオムギ ウィキペディア 2023/1/22閲覧
穀物(こくもつ)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/1/23閲覧
雑穀 ウィキペディア 2023/1/23閲覧
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