中緯度に広がる温帯は、四季のみられる気候帯です。
ここでは、ケッペンの気候区分における温帯について解説し、温帯の気候区のうち地中海性気候と温暖冬季少雨気候について詳しく解説します。
他の気候区については、以下のリンク先をご覧ください。
【ケッペンの気候区分:熱帯・乾燥帯・温帯・亜寒帯(冷帯)・寒帯・高山・植生・土壌】
温帯(C)
温帯は最寒月平均気温18℃未満~-3℃以上で、最暖月平均気温が10℃以上の気候帯です。
熱帯と亜寒帯の間に存在する中間的な気候帯で、ヤシが自生する熱帯(最寒月平均気温18℃以上)ほど温暖ではありませんが、冬期の積雪が根雪になる亜寒帯(冷帯、最寒月平均気温-3℃未満)ほど寒冷でもありません。
寒帯と異なり、最暖月平均気温が10℃以上のため樹木が生育できます。
温帯の気候は、夏と冬どちらに乾燥するか、あるいは年中降水があるかよって地中海性気候(Cs、地中海式気候、温暖夏季少雨気候)、温暖冬季少雨気候(Cw、温帯夏雨気候)、温帯多雨気候(Cf)に大きく分けられます。
小文字はドイツ語の単語の頭文字であり、sは夏に乾燥(sommertrocken)、wは冬に乾燥(wintertrocken)、fは湿潤(feucht)を表します。
地中海性気候(Cs)は、最多雨月が冬にあり、①3×最少雨月降水量<最多雨月降水量かつ②最少雨月降水量が30mm未満の気候区です。
夏(summar)に降水が少なく乾燥し、冬に降水が多い気候です。
①の条件は、「夏に降水が少なく乾燥し、冬に降水が多い」を数式で定義したものです。
②の条件が加わるのは、①だけでは日本の日本海側気候の豪雪地帯(例:新潟県上越市高田)など、冬に降水(降雪)が極めて多い地域が地中海性気候に分類されてしまうためです。
地中海性気候はあくまで夏に乾燥する気候なので、このような豪雪地帯は除外します。
温暖冬季少雨気候(Cw)は、最多雨月が夏にあり、10×最少雨月降水量≦最多雨月降水量の気候区です。
冬(winter)に降水が少なく乾燥し、夏に雨が多い気候です。
最少雨月と最多雨月の降水量の条件は、地中海性気候同様に「冬に降水が少なく乾燥し、夏に雨が多い」を数式で定義したものです。
温帯多雨気候との境界となる最多雨月の降水量が冬(地中海性気候)よりも夏(温暖冬季少雨気候)の方が多いのは、夏のほうが気温が高いため蒸発散量が多いため、より多くの雨が降らないと乾燥してしまうためです。
温帯の条件(最寒月平均気温18℃未満から-3℃以上で、最暖月平均気温が10℃以上)をみたす場所のうち、地中海性気候(Cs)でも温暖冬季少雨気候(Cw)でもない場所は、温帯多雨気候(Cf)になります。
地中海性気候(Cs)、温暖冬季少雨気候(Cw)、温帯多雨気候(Cf)はさらに気温によって分類され、 温暖な順にa, b, cと分けられます。
aは最暖月平均気温22℃以上、bとcは最暖月平均気温22℃未満です。
bとcの違いは、月平均気温が10℃以上の月がbが4ヶ月以上であるのに対し、cは3ヶ月以下です。
Cfのうち、最暖月平均気温22℃以上(a)の気候を温暖湿潤気候(Cfa)といい、最暖月平均気温22℃未満(b, c)を西岸海洋性気候(Cfb, Cfc)といいます。
西岸海洋性気候の記号はCfcを省略して(Cfbにまとめて)Cfbと表記することもあります。
気候区の分類を表にまとめます。
表 温帯の気候区
気候区 | 特徴 | 年降水量 | 最多雨月・最少雨月降水量 | 最寒月平均気温 | 最暖月平均気温 |
温帯気候(C)共通 | 四季がある | 乾燥限界以上 | --- | 18℃~-3℃ | 10℃以上 |
地中海性気候(Cs) | 夏に乾燥 大陸西岸の低緯度側に分布 | --- | 以下をすべて満たす ①最多雨月が冬 ②3×最少雨月降水量<最多雨月降水量 ③最少雨月降水量が30mm未満 | --- | --- |
温暖冬季少雨気候(Cw) | 冬に乾燥 大陸東岸の低緯度側に分布 | --- | 以下の両方を満たす ①最多雨月が夏 ②10×最少雨月降水量≦最多雨月降水量 | --- | --- |
温暖湿潤気候(Cfa) | 年中湿潤でやや温暖 大陸東岸の高緯度側に分布 | --- | CsやCwではない | --- | 22℃以上 |
西岸海洋性気候(Cfb) | 年中湿潤でやや寒冷 大陸西岸の高緯度側に分布 | CsやCwではない | --- | 10℃~22℃未満 |
各気候区の分布
温帯の気候区は、大陸の西岸と東岸に分布します。
大陸西岸の高緯度地域では、偏西風の影響により一年を通して暖かい海風が吹くため、年間通した温度差(年較差)が小さく一年を通して雨が多い西岸海洋性気候(Cfb)です。
大陸西岸の低緯度地域では、夏に亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響をうけて乾燥し、地中海性気候(Cs)になります。
一方大陸東岸では、季節風(モンスーン)の影響をうけます。
大陸東岸の高緯度地域では、モンスーンの影響で夏に高温多湿になるものの冬も降水がある温暖湿潤気候(Cfa)が広がります。
大陸東岸の低緯度地域では、年中亜熱帯高圧帯の影響をうける地域でも、モンスーンにより海風が吹く時期が雨季になるため乾燥帯が存在しません。
最寒月平均気温が18℃未満の場合は温帯の温暖冬季少雨気候(Cw)、18℃以上の場合は熱帯のサバナ気候(Aw)になります。
地中海性気候(Cs)
地中海性気候(Cs、地中海式気候、温帯冬雨気候)は、最多雨月が冬にあり、①3×最少雨月降水量<最多雨月降水量かつ②最少雨月降水量が30mm未満の気候区です。
夏(summar)に乾燥(②)し、夏よりも冬の方が降水が多い(①)気候です。
②の条件があるのは、①の条件だけだと「夏にも雨が降るが、冬に極端に雪が多い豪雪地帯」も条件を満たしてしまうからです。
地中海性気候はあくまで夏に乾燥する気候なので、夏にある程度雨が降る場所は除外します。
地中海性気候が夏に乾燥するのは、夏に亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響下に入り乾燥するためです。
一方、冬は亜熱帯高気圧の勢力が低緯度側に後退して亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)の影響下に入り降水が増えます。
地中海性気候は、乾燥気候(B)と年中降水がある西岸海洋性気候(Cfb)や亜寒帯湿潤気候(Df)の移行地域にあたります。
主に大陸西岸に分布し、温帯の中では低緯度側に分布します。
大陸西岸では亜熱帯高気圧の影響をうけて地中海性気候がつくられるのに対し、大陸東岸では季節風(モンスーン)の影響の方が大きく、夏に雨季があるため温暖冬季少雨気候(Cw)になります。
地中海性気候のスペインやギリシャでは、建物は石灰岩からなる白い外壁でつくられています。
白色は光を反射するため、強い日差しで家の中が高温になるのを守る効果があります。
地中海性気候(Cs)は、その名の通りヨーロッパ地中海沿岸に分布し、他にアメリカ西海岸(米カリフォルニア州他)、南米西岸の南緯30-40°付近(チリ中部)、アフリカ大陸南西端(南アフリカ)、オーストラリア南西端などでみられます。
主な都市としては、サンフランシスコ(米カリフォルニア州)、サンティアゴ(チリ)、カサブランカ(モロッコ)、リスボン(ポルトガル)、バルセロナ(スペイン)、ローマ(イタリア)、テルアビブ(イスラエル)、ケープタウン(南アフリカ)、パース(オーストラリア)などがあります。
地中海性気候の植生
地中海性気候の地域では、夏の強い日差しと乾燥に適応した硬葉樹林がみられます。
硬葉樹林は落葉しない常緑広葉樹林の一種で、乾燥に耐えるために硬く小さい葉をもつ樹木が生育します。
植生としては、オリーブやコルクガシ、月桂樹やユーカリなどが生育します。
地中海沿岸では、夏に乾燥する気候をいかしてオリーブやブドウ、柑橘類などの果樹栽培が盛んです。
温暖冬季少雨気候(Cw)
温暖冬季少雨気候(Cw、温帯夏雨気候)は、最多雨月が夏にあり、10×最少雨月降水量≦最多雨月降水量の気候区です。
冬(winter)に降水が少なく乾燥し、夏に雨が多い気候で、主に大陸東岸に分布し、温帯の中では低緯度側に分布します。
大陸東岸では季節風(モンスーン)の影響をうけるため、一年を通して亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響下に入る場所でも、モンスーンの時期には降水が多くなり雨季が存在します。
そのため、亜熱帯高圧帯に起因する乾燥気候は存在せず、最寒月平均気温が18℃未満の場合は温帯の温暖冬季少雨気候(Cw)、18℃以上の場合は熱帯のサバナ気候(Aw)になります。
温暖冬季少雨気候になる場所は次の3パターンがあります。
①低緯度側のサバナ気候と高緯度側の温暖湿潤気候(Cfa)の移行地域
②低地はサバナ気候だが海抜高度が高いため温帯になった地域
③温暖湿潤気候と亜寒帯少雨気候の移行地域があります。
①の地域は温帯の中でも比較的暖かく、夏は高温高湿であるのに対し、海抜高度が高い②や亜寒帯との境界に位置する③の夏は雨が多いものの冷涼です。
②は海抜高度の影響をうけた気候のため、高山気候に分類されることもあります。
このような3パターンがあるため、中国東部では温暖湿潤気候の地域を取り囲むように逆コの字型に分布し、南側は①、西側は②、北側は③のパターンに相当します。
温暖冬季少雨気候(Cw)がみられる地域としては、①ではアルゼンチン北部、アフリカ南部、インド北東部の平地、ベトナム北部~中国の華南南部沿岸~台湾中部、②ではメキシコ高原、アンデス山脈中南部周辺、アフリカ中部~南部の高原、エチオピア高原、中国の華中西部~チベット高原、③では中国の華北、韓国のごく一部、チベット高原があります。
主な都市としては、
①ではプレトリア(南アフリカ)、ハノイ(ベトナム)、香港(中国)、台中(台湾)、
②ではメキシコシティ(メキシコ)、クスコ(ペルー)、ラパス(ボリビア)、ハラレ(ジンバブエ)、ナイロビ(ケニア)、アンタナナリボ(マダガスカル)、アディスアベバ(エチオピア)、昆明(中国雲南省)、
③ではラサ(中国チベット自治区)、青島(中国山東省)、ソウル(韓国)があります。
温帯冬季少雨気候の植生
温帯冬季少雨気候の地域では、常緑広葉樹林の一種である照葉樹林が見られます。
木々は夏の多雨と冬の乾燥に耐える肉厚の葉をもちます。
照葉樹林が最も発達するのは、東南アジアの山地~中国南部~日本にかけてです。
気候区としては、温帯冬季少雨気候(Cw)から温暖湿潤気候(Cfa)にかけて広がります。
植生としては、シイ、カシ、クスノキ、ツバキなどが生育します。
温帯多雨気候(Cf)
温帯多雨気候である温暖湿潤気候(Cfa)と西岸海洋性気候(Cfb)については、次の記事で解説しています。
参考温帯の気候2(温暖湿潤気候と西岸海洋性気候)
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参考文献
気候区分とは コトバンク 世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/2/13閲覧
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硬葉樹林 日本光合成学会 光合成辞典 2022/7/10閲覧
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温帯多雨気候とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/2/13閲覧
温暖湿潤気候 ウィキペディア 2021/2/13閲覧
西岸海洋性気候 ウィキペディア 2021/2/13閲覧
西岸気候とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 2021/2/13閲覧
東岸気候とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 2021/2/13閲覧
ギリシャの家々が白い理由とは? ギリシャ・エクスプレス 2021/2/13閲覧
照葉樹林 ウィキペディア 2022/7/7閲覧
照葉樹林とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2022/7/7閲覧
綾の照葉樹林 林野庁九州森林管理局 2022/7/10閲覧