ケッペンの気候区分における温帯は、地中海性気候(Cs)と温暖冬季少雨気候(Cw)、温帯多雨気候(Cf)に分類されます。
このうち、温帯全体についてと、Cs、Cwについては、こちらの記事で解説しています。
ここでは、その続きとして温帯多雨気候をさらに2つに分けた温暖湿潤気候(Cfa)と西岸海洋性気候(Cfb)について詳しくみていきます。
他の気候区については、以下のリンク先をご覧ください。
【ケッペンの気候区分:熱帯・乾燥帯・温帯・亜寒帯(冷帯)・寒帯・高山・植生・土壌】
温帯多雨気候(Cf)
温帯(C)のうち、地中海性気候(Cs)と温暖冬季少雨気候(Cw)に該当しない年中降水が多い気候を温帯多雨気候(Cf)といいます。
温帯多雨気候はさらに2つに分けられ、最暖月平均気温22℃以上の温暖湿潤気候(Cfa)と22℃未満の西岸海洋性気候(Cfb)といいます。
温暖湿潤気候(Cfa)は大陸東岸にみられ、西岸海洋性気候(Cfb)は大陸西岸にみられます。
表 温帯の気候区
気候区 | 特徴 | 年降水量 | 最多雨月・最少雨月降水量 | 最寒月平均気温 | 最暖月平均気温 |
温帯気候(C)共通 | 四季がある | 乾燥限界以上 | --- | 18℃~-3℃ | 10℃以上 |
地中海性気候(Cs) | 夏に乾燥 大陸西岸の低緯度側に分布 | --- | 以下をすべて満たす ①最多雨月が冬 ②3×最少雨月降水量<最多雨月降水量 ③最少雨月降水量が30mm未満 | --- | --- |
温暖冬季少雨気候(Cw) | 冬に乾燥 大陸東岸の低緯度側に分布 | --- | 以下をどちらも満たす ①最多雨月が夏 ②10×最少雨月降水量≦最多雨月降水量 | --- | --- |
温暖湿潤気候(Cfa) | 年中湿潤でやや温暖 大陸東岸の高緯度側に分布 | --- | CsやCwではない | --- | 22℃以上 |
西岸海洋性気候(Cfb) | 年中湿潤でやや寒冷 大陸西岸の高緯度側に分布 | CsやCwではない | --- | 10℃~22℃未満 |
温暖湿潤気候(Cfa)
温帯(C)のうち、地中海性気候(Cs)と温暖冬季少雨気候(Cw)に該当せず、さらに最暖月平均気温が22℃以上になる気候区を温暖湿潤気候(Cfa)といいます。
温暖湿潤気候(Cfa)は夏季に高温高湿になるため四季が最も明瞭な気候です。
1年を通して雨が多い気候ですが、東アジアでは季節風(モンスーン)や梅雨前線の影響で夏に雨が多くなります。
東アジアでは夏季によく雨が降るため稲作に適しており、稲作が盛んに行われています。
アジアでは人口密度の高さから面積あたりの労働力が多い労働集約的な稲作を行っています。
アジアで労働集約的な農業が行われるのは、
①水を張った水田の中で稲を育てるため、連作障害にならないことと
②稲は小麦など他の作物よりも面積あたりの収穫効率が高いため狭い面積で多くの人口を養うことができるためです。
連作障害とは、同じ場所で繰り返し栽培すると土壌中の必要な栄養素を吸い尽くして生育が悪くなることです。
小麦など畑で育てる作物は連作障害がおきやすいのに対し、稲は水を張った水田の中で稲を育てるため、連作障害になりづらい作物です。
アジア以外では、連作障害を防ぐために同じ土地を順に複数の作物を栽培したり、牧草地として使う混合農業がおこなわれています。
温暖湿潤気候(Cfa)は、アメリカ合衆国東部~南部、南米南東部のパンパ(アルゼンチン~ブラジル)、イタリア北東部、黒海沿岸、カスピ海沿岸、南アフリカ東部、中国の華中~華南北部、韓国沿岸部、台湾北部~日本の本州、オーストラリア東部でみられます。
主な都市としては、ニューヨーク(米ニューヨーク州)、アトランタ(米ジョージア州)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、ヴェネツィア(イタリア)、ブカレスト(ルーマニア)、ソチ(ロシア黒海沿岸)、上海(中国)、シドニー(オーストラリア)などがあります。
日本では沖縄から本州(北東北や中央高地を除く)が温暖湿潤気候ですが、沖縄は熱帯雨林気候(Af)との境界領域に当たり、気温の年較差が小さく四季の変化が少なくなります。
台北(台湾)やサンパウロ(ブラジル)、アスンシオン(パラグアイ)も同様に熱帯との境界のため四季の変化が小さくなります。
西岸海洋性気候(Cfb)
温帯(C)のうち、地中海性気候(Cs)と温暖冬季少雨気候(Cw)に該当せず、さらに最暖月平均気温が10℃~22℃未満になる気候区を西岸海洋性気候(Cfb)といいます。
温暖湿潤気候(Cfa)との違いは、最暖月平均気温が22℃未満になることです。
最暖月平均気温が10℃未満になると樹木が生育しない寒帯(E)になります。
西岸海洋性気候はさらに、月平均気温10℃以上の月が4か月以上ならCfb、3ヶ月以下ならCfcと分けることもあります。
その名の通り、ユーラシア大陸西端のヨーロッパに広くみられる気候で、一年を通して海洋からの偏西風の影響下にあるため、緯度のわりに温暖で気温や降水量の年較差が小さくなります。
大陸西岸の緯度40-60°に分布しますが、オーストラリア南東部やニュージーランドなど、大陸西岸ではないが地形の関係で偏西風が海風を運ぶ地域にもみられます。
西岸海洋性気候の地域では、混合農業により小麦などが栽培され、酪農も盛んです。
西岸海洋性気候(Cfb)は、米アラスカ州南海岸、南米南部、ユーラシア大陸西端部(ピレネー山脈~アルプス山脈以北)、グレートブリテン島(イギリス)、スカンジナビア半島西岸~南岸、オーストラリア南東部、ニュージーランドなどでみられます。
主な都市としては、ジュノー(米アラスカ州)、ロンドン(イギリス)、ワルシャワ(ポーランド)、ストックホルム(スウェーデン)、サラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)、メルボルン(オーストラリア)などがあります。
温帯多雨気候(温暖湿潤気候・西岸海洋性気候)の植生
ここでは、温暖湿潤気候(Cfa)と西岸海洋性気候(Cfb)の植生についてまとめてみていきます。
いずれの気候も四季のある温暖で降水が十分な地域なので、照葉樹林、落葉広葉樹林、針葉樹林などの混交林(混合林)が広がります。
温暖湿潤気候(Cfa)の比較的温暖な地域では照葉樹林が発達します。
亜寒帯(冷帯)に近い比較的涼しい地域では、冬に落葉する落葉広葉樹林が広がります。
さらに亜寒帯に近づくと、亜寒帯に特徴的な針葉樹林と落葉広葉樹林が入り混じった温帯混交林がみられます。
西岸海洋性気候(Cfb)は、ブナやニレ、オークなどの落葉広葉樹林が広がる特徴からブナ気候という呼び名もあります。
参考文献
気候区分とは コトバンク 世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/2/13閲覧
ケッペンの気候区分 ウィキペディア 2021/2/13閲覧
地理用語研究会編 「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社
温帯多雨気候とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/2/13閲覧
温暖湿潤気候 ウィキペディア 2021/2/13閲覧
西岸海洋性気候 ウィキペディア 2021/2/13閲覧
温帯広葉混交樹林 ウィキペディア 2021/7/10閲覧