林業 系統地理

温帯林と林業

温帯林は古くから開発されてきたため、人工林が主体の林業が営まれてきました。
このページでは、温帯林の分類や分布、林業、木材(樹種)についてまとめます。

温帯林とは

アパラチア山脈山中の温帯林(米国南部・ノースカロライナ州西部・ジョイス・キルマー記念の森)。北米原産の落葉広葉樹であるユリノキやオーク(アメリカナラ)などの原生林が見られる。米国東部はかつて広大な森林が広がっていたが、17世紀から20世紀にかけて急速に開発が進み、大部分が失われている。この森は現在では希少な原生林である。出典:Wikimedia Commons, ©John K Clark, CC BY-SA 3.0, 2025/3/8閲覧

温帯気候に広がる森林を総称して温帯林とよびます。
温帯は温暖で十分な降水量があるため、森林の発達に適した気候です。
温帯の森林には、硬葉樹林照葉樹林、落葉広葉樹林などがあります。
温帯のうち大陸西岸の低緯度地域では、夏に非常に乾燥する地中海性気候(Cs)に適応した常緑広葉樹林の一種である硬葉樹林が広がります。
同じ(温帯の)低緯度地域でも大陸東岸では季節風(モンスーン)により十分な降水があるため、硬葉樹よりも葉が大きい常緑広葉樹が密集して生い茂る照葉樹林が広がります。
温帯の中でも亜寒帯(冷帯)に近い高緯度地域では、冬に落葉する落葉広葉樹林(夏緑林)が広がります。

温帯林の中でも降水量が多いため密に樹木が生い茂る照葉樹林や落葉広葉樹林は森林資源が豊富です。
しかし、これらの森林が広がる地域は農業にも適しており、古くから人間によって森林が伐採されてきた場所でもあります。
日本で林業が行われている場所は山間部が中心であり、さらに熱帯林亜寒帯林(冷帯林)がある地域から木材を輸入しているのが現状です。

硬葉樹林

チリ中部の地中海性気候の地域に広がる低木林(チリ中部・首都州)。チリ中部(南緯30-40°)では、地中海性気候に適応した硬葉樹林が広がる。硬葉樹は夏の乾燥に耐えるために小さくて硬い葉をもち、水分の蒸発量を減らす構造になっている。出典:Wikimedia Commons, ©Nelson Pérez, CC BY-SA 3.0, 2025/2/11閲覧

硬葉樹林は、常緑広葉樹の一種である硬葉樹が主体の森林で、主に地中海性気候(Cs)の地域に広がります。
硬葉樹は硬く小さな葉をもち、水分の蒸発量を減らせるため乾燥に強く、夏に乾燥する地中海性気候に適応しています。
硬葉樹林は地中海性気候の分布と同様に、大陸西岸の(温帯の中では)低緯度地域に分布します。
硬葉樹林の代表的な樹種としては、地中海沿岸のオリーブコルクガシ、ゲッケイジュ(月桂樹)などがあります(参考:地中海式農業の作物)。

照葉樹林

やんばる国立公園の照葉樹林(沖縄本島北部)。照葉樹林は暖温帯(温帯のうち低緯度の暖かい地域)に広がる森林であり、樹木が密に生い茂るため林床が薄暗い森林である。日本では西日本を中心に関東以西で照葉樹林が広がる気候であるが、人為的な伐採・撹乱を受けて失われている場所も多い(場合によっては落葉広葉樹が侵入して混交林へ遷移)。出典:フォトアルバム やんばる国立公園 環境省 2025/2/19閲覧

照葉樹林は、常緑広葉樹を主体とする森林で、夏に雨が多い大陸東岸の(温帯の中では)低緯度地域に分布します。
気候帯としては温暖冬季少雨気候(Cw)温暖湿潤気候(Cfa)にあたり、大陸東岸の熱帯雨林(熱帯多雨林)と温帯の落葉広葉樹林の間に存在します。
具体的な地域としては、東アジアの関東平野以西(山間部は西日本中心)~台湾~中国の華中~雲南省(中国西南部)~東南アジア・ヒマラ山脈東部の山岳地帯に分布します。

照葉樹林の木々の葉はクチクラ層が発達して光沢があるため、「照葉」樹林とよばれます。
照葉樹林は温暖で降水量が多い場所に広がるため、樹木の枝葉が密に生い茂り、林床(地表)は薄暗いという特徴があります。

照葉樹林が広がる気候は、温暖で降水量が豊富なので農業に適しており、古くから人間によって開発されてきた地域です。
このため、天然林はあまり残っておらず、人間の手によって伐採されて環境が変わったり、資源として有用や樹木が植林されて人工林になっている場所も多いです。
日本では、西日本を中心に関東平野以東で照葉樹林の気候ですが、現在でも照葉樹林として残っている場所はわずかです。

照葉樹林の樹種としては、シイ(椎)カシ(樫)などが多く、ほかにクスノキ(樟)やツバキ(椿)が見られます。

照葉樹林とその利用については、次のページで解説しています。

参考照葉樹林と林業(シイ・カシなど)

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落葉広葉樹林(夏緑林)

冬に葉を落としたオーク林(デンマーク西部・ユトランド半島)。オークは和名をヨーロッパナラといい、ヨーロッパ全域に分布する落葉広葉樹である。落葉広葉樹は温帯の中でも冬に低温になる冷温帯で生育するため、冬に葉を落として水分の損失を抑制する。逆に夏には葉が生い茂るため夏緑林ともよばれる。出典:Wikimedia Commons, ©Malene Thyssen, CC BY 2.5, 2025/2/19閲覧

落葉広葉樹林は、秋に紅葉して冬に葉を落とす落葉広葉樹を主体とする森林です。
冬は枝が露出するのに対し、夏は葉の緑が生い茂るため夏緑林ともよばれます。
温帯の中では高緯度地域の冷温帯(温帯の中でも比較的涼しい地域)に広く分布します。
低緯度地域とは異なり、大陸東岸と西岸の両方で分布します。

日本では、中部地方の山岳地帯~東北・北海道の冷温帯から亜寒帯(冷帯)が落葉広葉樹林が分布する気候です。
しかし、関東以西の暖温帯(温帯の中でも特に暖かい地域)であっても、伐採などの人間の撹乱が入るとクヌギやコナラなどの落葉広葉樹林に遷移します。

農業に適した温帯に広がるため、照葉樹林と同様に天然林はほとんど残っておらず、伐採されて木材として有用な針葉樹が植林されている場所も多いです。

温帯の落葉広葉樹林の樹種としては、ブナ(橅)ナラ(楢)ケヤキ(欅)などがあります。

落葉広葉樹林とその利用については、次のページで解説しています。

参考落葉広葉樹林と林業(ブナ・ナラ・ケヤキなど)

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針葉樹林

ヒマラヤ山脈中腹の標高2,500m付近に広がるヒマラヤスギ林(インド北西部のヒマーチャル・プラデーシュ州)。温帯の低地ではふつう広葉樹林が広がるが、高山という特殊な環境であるため、マツ科のヒマラヤスギが主体の針葉樹林が広がる(西ヒマラヤ亜高山帯針葉樹林)。出典:Wikimedia Commons, ©Paul Evans from London, United Kingdom, CC BY 2.0, 2025/2/24閲覧

針葉樹林は針葉樹が主体の森林です。
針葉樹は裸子植物の樹木の総称であり、葉が針のようにとがっているため針葉樹とよばれます。
針葉樹は広葉樹と比べて、低温・乾燥・やせた土地などでも生育できる樹木が多く、広葉樹が生育できない特殊な環境の場所で針葉樹林が形成されます。
広葉樹が十分に生育できる場所では、針葉樹は徐々に淘汰(とうた)されていき、最終的に広葉樹林になります(極相)。
このため、温暖な低緯度地域では広葉樹林が主体となるため針葉樹林は少なく、寒冷な高緯度地域では針葉樹の割合が増えてきます。
他には、ヒマラヤ山脈中腹や中部地方の山岳地帯などの標高が高い場所では、温帯であっても高山気候で環境が厳しいため針葉樹林が広がります。

一方、成長が早く木材としての価値が高いスギ(杉)ヒノキ(檜)など、針葉樹は木材としての価値が高い樹木が多いため、既存の森林を伐採して針葉樹が植林された人工林が見られます。
日本では、第二次世界大戦後に針葉樹が大量に植樹されたため、現在では針葉樹林の人工林が多数見られます。

参考針葉樹林と林業(スギ・ヒノキ・エゾマツなど)

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温帯林の分布

温帯林(広葉樹林および混交林)の分布。大陸東岸の暖温帯(温帯の低緯度地域)では常緑の照葉樹林、冷温帯(温帯の高緯度地域)では落葉広葉樹林と針葉樹林の混交林が広がる。この世界地図では、地中海性気候(Cs)の硬葉樹林を除く温帯林の分布を示している。中国南部や南西諸島などの熱帯に隣接する地域は熱帯雨林に近い植生であるため、この地図では温帯林の分布から外されている。出典:Wikimedia Commons, ©Terpsichores, CC BY-SA 3.0, 2025/2/15閲覧

温帯林は主に温帯に分布し、照葉樹林や落葉広葉樹林などの広葉樹林からなります。
低緯度地域の暖温帯(温帯のうち比較的温暖な地域)では照葉樹林となり、高緯度地域の冷温帯(温帯のうち比較的寒冷な地域)では落葉広葉樹林が主体となります。
落葉広葉樹林は緯度が高くなるほど針葉樹の割合が高くなり、落葉広葉樹と針葉樹の混交林が見られます。

また、温帯林であっても高山気候などで環境が厳しい場所では広葉樹が生育できないため、針葉樹林が形成されます。
ヒマラヤ山脈中腹の温帯地域やアルプス山脈、日本の中部地方の山岳地帯針葉樹林が見られます。

温帯針葉樹林の分布。温帯林では最終的に広葉樹林に収束するため、針葉樹林が主体となるのは、広葉樹が生育できない場所に限られる。温帯林の中でも温暖な低緯度地域では針葉樹林は少なく、亜寒帯(冷帯)に隣接する高緯度地域で針葉樹の割合が高くなる。また、ヒマラ山脈中腹やアルプス山脈、日本の中央高地の山岳地帯などの高山気候で環境が厳しい場所では針葉樹林が形成される。出典:Wikimedia Commons, ©Terpsichores, CC BY-SA 3.0, 2025/2/22閲覧

温帯林の林業

ニュージーランドの造林地(ニュージーランド南島)。奥側は未伐採の森林であり、手前側は伐採後に若木を育成している造林地である。ニュージーランドではラジアータパインというマツ科の針葉樹(パインは「松」という意味)の人工林による林業が盛んであり、国外にも輸出されている。ちなみに、ラジアータパインは米国カリフォルニア州原産であり、ニュージーランドにとっては外来種である。出典:Wikimedia Commons, ©Martin Wegmann, CC BY-SA 3.0, 2025/3/7閲覧

温帯は温暖で雨が多く農業に適した気候なので、古くから人間によって開発されてきました。
日本では山林を村単位で共同で維持・管理する里山林が数多く見られました。
里山林は、天然林の樹木を管理しながら伐採してできた人工林であり、伐採した木材は燃料(薪炭材)や建築材や道具など(用材)に利用されました。

長い歴史の中で開発されてきた影響で、温帯林では天然林が少なく、人間の手で植林・管理された人工林での林業が中心になります。
日本では、天然林では広葉樹林が主体ですが、第二次世界大戦後に木材として有用や針葉樹を大量に植林したため、針葉樹の人工林で林業が行われています。
一方で、亜寒帯林(冷帯林)は寒冷な気候のため近現代まで開発が進まなかったため、現在でも広大な針葉樹の原生林(タイガ)を活用した林業が盛んです(ロシアやカナダなど)。
このため、温帯林が広がる地域では、中国や先進国を中心に木材を外国から輸入する国が多いです。
温帯の中でもニュージーランドでは、針葉樹の人工林による林業が盛んであり、日本を含む海外に木材を輸出しています。

温帯林の木材

北山杉を育成している人工林と木造建築物(京都府京都市北区)。奥側には育成中のスギ(杉)の人工林であり、手前側の建築物は材木業者の倉庫兼作業場である。日本の本州ではスギ(杉)を主体として林業が営まれており、木材は建築材などに使用されている。出典:Wikimedia Commons, ©Indiana jo, CC BY-SA 4.0, 2025/3/8閲覧

温帯林亜寒帯林(冷帯林)と比べて樹木の種類が豊富であり、それぞれの地域に合わせた様々な樹木が林業が使われています。
気候的には本来広葉樹林が広がる場所が多いですが、木材として有用な針葉樹を植林して人工林を育成している場所が多いです。

日本の温帯林(本州~九州)では、戦後に大量に植林されたスギ(杉)の木材が生産されています。
関東以西の暖温帯(温帯の中でも温暖な地域)では、瀬戸内海沿岸や太平洋側を中心にヒノキ(檜)も生産されています。

木材の輸出が盛んな地域は亜寒帯(冷帯)が中心ですが、ニュージーランドは温帯に位置するにも関わらず、木材の輸出が盛んです。
ニュージーランドでは、ラジアータパインとよばれる針葉樹の人工林で林業が営まれており、日本を含む海外に木材を盛んに輸出しています。

また、ヨーロッパ北東部の温帯~亜寒帯の地域でも林業が盛んであり、ドイツやチェコ、スウェーデンでは木材の輸出が盛んです。
ドイツやスウェーデンでは、トウヒやマツなどの針葉樹の林業が主体です。
近年、ドイツでは酸性雨対策や倒木対策のために、針葉樹だけではなく広葉樹(ヨーロッパブナやヨーロッパナラ)などを交えた混交林(混合林)の林業へ転換が図られています。

ドイツトウヒ(オウシュウトウヒ)が生育する森林(ドイツ南部・バイエルン州)。トウヒ(唐檜)は北海道に生育するエゾマツの近縁種である。ドイツは林業が盛んな国であり、トウヒやマツなどの針葉樹林が主体の林業が営まれてきた。近年では、酸性雨対策や倒木対策のために針葉樹と広葉樹の混交林での林業に移行しつつあり、ヨーロッパブナやヨーロッパナラの林業も営まれている。出典:Wikimedia Commons, ©Nasenbär, CC BY-SA 3.0, 2025/3/8閲覧

参考文献

地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
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照葉樹林 環境用語集 一般財団法人環境イノベーション情報機構 2025/2/11閲覧
針葉樹林(シンヨウジュリン)とは? コトバンク デジタル大辞泉、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/2/22閲覧
針葉樹(シンヨウジュ)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/2/22閲覧
日本における木材利用の歴史~森林の荒廃と再生 森林・林業学習館 2025/2/11閲覧
日本の森林帯の様相 森林・林業学習館 2025/2/12閲覧
地球環境 Q2 森林研究・整備機構 2025/3/6閲覧
6 ニュージーランド 林野庁 2025/3/8閲覧
帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)
2019 年度海外農学実習(ドイツ)実施報告書 信州大学農学部 国際農学教育研究センター 2025/3/8閲覧
Forests of Germany, Wikipedia 2025/3/8閲覧
7 スウェーデン王国 林野庁 2025/3/8閲覧

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