系統地理 農業

【高校地理分野】農業

このページでは、高校地理の農業分野(農業地理学)について概観します。

農業は人間の生活に欠かせない食料を生産する重要な産業であり、原始時代から自家消費目的で農業が行われきました。
農業は地形気候の影響を大きく受けるため、各地の気候に合わせた農業形態が発展しました。

現代では科学技術の発展のおかげで人類の生存に十分な量の農産物を生産できるようになり、少なくとも先進国では食料が不足する機会(飢餓)はほとんど見られなくなりました。
さらに、物流手段の発展により世界各地で栽培された農産物を季節を問わず入手できるようになり、小売店に行けば大量の食品が並んでいます。

以下では、農業地理に関わる様々なトピックにふれた上で、最後に農産物と畜産物についてまとめます。

農業

水牛に農機具を引かせて田畑を耕している様子(インドネシア中南部・ジャワ島)。機械がない時代には牛や水牛などの家畜に農機具を引かせて畑を耕していた。現在では、先進国を中心に農業機械(トラクターなど)に置き換えられている。出典:Wikimedia Commons, ©Anton Leddin, CC BY-SA 3.0, 2024/3/5閲覧

人類は長い歴史の中で農業で作物の収穫量を増やすために様々な工夫を積み重ねてきました。
この項目では、農業における様々な工夫についてまとめます。

次のページでは、高校地理の観点から農業の歴史についてまとめています。

参考農業の歴史(農耕のはじまりから現代のスマート農業まで)

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自然条件による制約

農業は地形や気候などの制約を大きく受けます。
傾斜地においては階段耕作などの工夫が行われ、作物の生育に水が不足する場所では川などから水を農地に引く灌漑(かんがい)が行われます。
乾燥帯では降水量が少ないため灌漑が必須になり、常時水を入手できるオアシスを拠点としたオアシス農業が営まれてきました。

自然条件(傾斜地や降水など)による制約を克服するための工夫については、以下のページで解説しています。

参考農業と自然条件による制約(栽培限界・傾斜地農業・天水農業・灌漑)

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参考灌漑農業(ため池・センターピボット・農業用水路など)

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参考オアシス農業(乾燥帯の灌漑農業)

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耕作方法の工夫

農地は同じ作物が狭い場所で大量に生育する自然界には無い特殊な環境の場所です。
そのため、農業を行うと特定の環境を好む害虫が大量発生したり、土壌中の栄養分が枯渇するなどの弊害が発生します。
このような困難を克服するために、人類は耕作方法に工夫を積み重ねてきました。

たとえば、同じの畑で植える作物を毎年変える輪作を行ったり、害虫を寄せ付けないために農薬を散布したり、土壌中で不足する栄養素を補うために肥料を散布するといった工夫が行われてきました。
耕作方法の工夫については、以下のページで解説しています。

参考耕作方法の工夫(連作・輪作・二期作・二毛作など)

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参考肥料・農薬の役割と有機農業(化学肥料や農薬の歴史と問題点)

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品種改良

トウモロコシの原種テオシントとトウモロコシ。上から順にテオシント、テオシントとトウモロコシの雑種、トウモロコシである。現代のトウモロコシは品種改良が重ねられ、原種とは比較にならないほど可食部が増大している。出典:Wikimedia Commons, ©John Doebley, CC BY 3.0, 2022/11/23閲覧

現代の農業で栽培されている作物の多くは、食べられる場所が多い上に味がおいしくなるように品種改良がなされています。
元々自然界に存在した植物は、現代の人間にとって食べやすいものではありませんでした。
そこで、少しでも人間に都合が良い性質をもつ個体を選んで優先的に子孫を残すようにする「品種改良」が行われてきました。
人類が長い歴史の中で何代にも渡って品種改良を積み重ねることで、現代のような可食部が多く味に優れた農産物が生まれました。

近年では、品種改良を効率的に行うために分子生物学の知見を活用して人為的に植物の遺伝子を改変した遺伝子組換え作物が作られ、世界中に食品として普及しています。

品種改良と遺伝子組換え作物については、次のページで詳しく解説しています。

参考品種改良と遺伝子組換え作物(緑の革命と高収量品種)

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農産物の流通

近代以降の農業は、科学技術や輸送手段の発展に伴い、各地で生産された農産物が世界中に流通するようになりました。
その結果、地球規模で農業の分業が行われ、農産物の世界的な流通を支えるフードシステム(食料供給体系)が確立されています。
ある産地が不作であっても別の産地から輸入することができ、北半球が冬で作物を収穫できなくても南半球から輸入するといったことができます。
私達がコンビニやスーパーマーケットなどの小売店へ行けばいつでも食料を入手できるのは、このようなフードシステムとそれを支える農業関連企業(アグリビジネス)のおかげです。

参考農産物の世界的な流通とアグリビジネス(フードシステム・穀物メジャー)

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ホイットルセーの農業地域区分

ホイットルセーの農業地域区分図。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©Miyuki Meinaka, CC BY-SA 3.0, 2022/10/1閲覧

農業は気候などの自然条件の制約を大きく受けます。
そのため、世界各地にはそれぞれの気候に適応した農業が発展してきました。

米国の地理学者ホイットルセー(ホイットルセイ)は、世界各地の多様な農業を13種類に分類しました(ホイットルセーの農業地域区分)。
この13の農業形態は大きく3つのグループ(自給的農業・商業的農業・企業的農業)に分けられます。
分類は以下の通りです。

自給的農業遊牧焼畑農業粗放的定住農業集約的稲作農業集約的畑作農業

商業的農業自給的混合農業商業的混合農業酪農地中海式農業園芸農業

企業的農業企業的穀物・畑作農業企業的牧畜プランテーション農業

自給的農業は原始的な農業形態に近い自家消費目的の農業であるのに対し、商業的農業は主に販売目的で作物栽培を行うヨーロッパで発展した農業形態です。
新大陸(アメリカやオーストラリア)では商業的農業をより大規模化した企業的農業が発展しました。
商業的農業や企業的農業は、その地域・土地の制約に合わせて生産性を上げるために工夫された農業形態です。

それぞれの農業形態の詳細については、以下のページで詳しく解説しています。

参考【高校地理分野】気候

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参考【高校地理分野】地形

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参考ホイットルセーの農業地域区分(自給的・商業的・企業的農業)

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参考自給的農業(遊牧・焼畑農業・粗放的定住農業・集約的稲作/畑作農業)

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様々な農産物・畜産物

地中海周辺で食べられる様々な食材。食卓に並ぶ食べ物には、穀物や果物、野菜のような食用作物だけではなく、オリーブオイルや砂糖のような工芸作物を原料とする調味料もある。出典:Wikimedia Commons, ©G.steph.rocket, CC BY-SA 4.0, 2023/8/29閲覧

人類が生産する農産物や畜産物には様々な種類があり、作物ごとに栽培される場所や利用目的が大きく異なります。
この項目では、農畜産物を食用作物工芸作物畜産物の3つに分けてそれぞれについて簡単にまとめます。
詳細は各リンク先のページで確認して下さい。

参考農作物の分類(自給作物と商品作物・食用作物と飼料作物と工芸作物)

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食用作物(穀物・イモ・豆・果物)

食用作物とは、主に人間が直接食べるために栽培される作物です。
人間が生きるために必要な食べ物を供給する重要な存在です。
食用作物の中には、人間の主食となる穀物やイモ類、栄養分が豊富な豆類、乾燥に強い果物などがあります。

穀物小麦トウモロコシライ麦/エンバク/大麦雑穀ソバ

イモ類ジャガイモキャッサバ/タロイモ/ヤムイモ

豆類大豆落花生

果物柑橘類など

参考食用作物(穀物・イモ類・豆類・果樹)

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工芸作物

そのまま食料となる食用作物に対し、作物の一部が工業原料となるものを工芸作物とよびます。
工芸作物の中には、綿花のような衣服の原料となる繊維作物やゴム製品の原料となる天然ゴムなどがあります。

お茶やチョコレートの原料となる嗜好作物も工芸作物の一種です。
一見、食用作物と思われそうですが、工場での精製過程を経てはじめて食品となるため、食品「工業」の原料という位置づけで工芸作物に分類されます。

工芸作物の例として、次のようなものがあります。

分類 作物の例 商品の例
糖料作物 サトウキビテンサイ 砂糖
嗜好作物 チャノキコーヒーノキカカオコショウタバコ コーヒーチョコレート香辛料たばこ
油脂作物 アブラヤシナタネ 植物油(パーム油ナタネ油など)
繊維作物 ワタ(綿花)アサ(大麻) 衣服、タオル
その他 パラゴムノキ ゴムタイヤ、長靴
参考工芸作物(嗜好作物・油脂作物・繊維作物等)

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畜産物

人類は様々な動物を飼育して食料やその他の目的で利用してきました。
長い歴史の中で飼い慣らして人間に都合が性質をもつように品種改良された動物を家畜といいます。
家畜を飼育する牧畜はユーラシア大陸を中心に広く見られ、現在では世界中で行われています。
各地でその土地の気候に合った家畜が飼育され、家畜から得られる畜産物は原始時代から現代まで人類の生活を支えてきました。

家畜:乳用種肉用種)・水牛/ヤクヤギアルパカ/リャマラクダトナカイニワトリ

畜産物:乳製品)・毛/皮その他(はちみつなど)

参考家畜の畜産物の分類(肉・乳・毛皮・使役など)

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参考牧畜と気候(気候と飼育される家畜の違い)

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参考文献

地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)

-系統地理, 農業
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