木材の用途は、燃料用の薪炭材(しんたんざい)と加工材料用の用材の2つに大別できます。
ここでは、薪炭材と用材についてまとめ、用途や利用割合についても解説します。
木材の用途
樹木を伐採して得られた木材は、燃料として使われたり、建物や道具の材料など様々な用途で使われます。
木材のうち、燃料用に使われる木材を薪炭材(しんたんざい)とよびます。
一方、燃料以外の用途で物を作るために使われる木材を用材とよびます。
以下では、薪炭材と用材についてそれぞれ説明し、薪炭材と用材の国別比率を見ていきます
薪炭材

薪炭材(しんたんざい)は、燃料として使用される木材です。
燃料用に伐採された木材は、細かく切り分けてそのまま薪(まき)として燃料にされたり、蒸し焼きにして炭にして木炭として使われます。
森林が豊かな地域に住む人々は、古くから樹木を伐採して薪炭材を作り、燃やして暖を取ったり、調理用の熱源として使用したり、あるいは産業用に燃料として利用してきました。
たとえば、日本の伝統的な製鉄技法であるたたら製鉄では、砂鉄を木炭で燃やして鉄を得るために大量の薪炭材を消費します。
また、沿岸部では海水を煮詰めて食塩を得る製塩が行われ、薪炭材が大量に消費されてきました。
このように、人類は生活や産業のために樹木を伐採し、燃料として利用してきました。
しかし、現代では先進国を中心に、より効率が良い化石燃料を使うようになりました。
このため、日本ではアウトドア活動(バーベキューなど)など限られた場面でしか使われなくなりました。
一方、発展途上国では、現在でも高価な化石燃料ではなく、周辺の山林から得られる薪炭材を燃料として使う傾向にあります。
参考

なぜ薪ではなく木炭を使うのか
薪(まき)は伐採した樹木を適当なサイズに切ったものですが、木炭は薪を密閉して蒸し焼きにして真っ黒に炭化させて炭(木炭)にしたものです。
わざわざ手間をかけて木炭を作るのは、薪よりも木炭の方が燃料として使い勝手が良いからです。
薪は燃やしても火力が安定しない上に火が長持ちしません。
一方、蒸し焼きにした木炭は、燃やしてもあまり煙を出さず、火力も安定して長持ちします。
このため、家庭での調理用や工業用(たたら製鉄や製塩など)としては主に木炭が使用されてきました。
用材

用材は、燃料以外の用途で物を作るために使われる木材です。
先進国では燃料用には化石燃料を用いるため、木材は主に産業用の用材として消費されています。
具体的な用途としては、建物や船などの構造材(柱や板材)や木製製品(家具、食器、木箱、ベンチなど)、パルプ(製紙原料)、線路の枕木、木道などに利用されます。
用途別の割合としては、建築(住宅等)や土木(線路枕木や木道など)が4割、製紙用(紙パルプなど)が4割と多数を占めます。
その他に道具用としても利用されますが、家具や木箱などが合わせて10%程度です。

建築・土木

森林が広がる地域では古くから住宅の材料として木材が利用されてきました。
日本でも江戸時代以前の建築物の多くは木造であり、現存する世界最古の木造建築物である法隆寺(奈良県北西部・斑鳩町)や美しい白壁の天守から白鷺城の異名をもつ姫路城(兵庫県南西部・姫路市)などが有名です。
現代でも、戸建て住宅や低層建築物(アパートなど)を中心に木造建築物が数多く建設されています。
高層建築物には強度の問題から鉄筋コンクリートなどが使われますが、内装の壁材には木材が使われることが多いです。
建物だけではなく、土木工事にも木材が利用されます。
線路の枕木や橋梁、木道、階段などの構造物の材料として木材が使われるほか、鉱山で掘った穴(坑道)が崩れないように支える支柱(坑木)としても木材が利用されます。

パルプ

パルプは、木材を機械的にすりつぶしたり、化学薬品に浸して分解して得られる植物繊維で、主に製紙用の原料として利用されます。
間伐材や端材など他の用途で使用するのが難しい木材がパルプ材として使われます。
このパルプを原料として、洋紙(ようし、いわゆる紙、コピー用紙など)や板紙(いたがみ、段ボールなど)が製造されます(製紙)。
パルプは主に木材や古紙から作られます。
木材を原料とする場合は、木材を砕いて細かいチップ状にし、化学薬品を加えて高温高圧で煮込むことで樹脂(リグニン)を溶かして植物繊維(セルロース)を取り出します。
さらに不純物を取り除き、薬品で漂白して紙の原料とします。
古紙原料の場合も同様に異物や不純物を取り除き、薬品で漂白します。
このようにしてできたパルプを成型・乾燥させることで紙が作られます。
パルプの生産量
パルプの原料は木材であるため、森林が豊富な国でパルプの生産量が多くなります。
米国や中国のように広大な国土に温帯林が広がる国で生産量が多いです。
また、カナダや北欧諸国、ロシアのように広大な亜寒帯林が広がり林業が盛んな国でも生産量が多いです。
1990年ごろには発展途上国では生産量が少ないですが、ブラジルやインドネシアのように広大な熱帯林が広がる地域でも、近年では森林伐採が進みパルプの生産量が増加しています。
パルプの生産量(万t)
出典:帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)(大元の出典:FAOSTAT)
国名 | 1990年 | 2020年 | 割合(2020年) |
世界 | 16,561 | 18,895 | 100% |
アメリカ合衆国 | 5,640 | 4,990 | 26.4% |
ブラジル | 436 | 2,102 | 11.1% |
中国 | 1,252 | 1,791 | 9.5% |
カナダ | 2,284 | 1,481 | 7.9% |
スウェーデン | 992 | 1,157 | 6.1% |
フィンランド | 877 | 1,012 | 5.4% |
ロシア | 1,008 | 887 | 4.7% |
インドネシア | 79 | 819 | 4.3% |
日本 | 1,115 | 707 | 3.7% |
インド | 175 | 613 | 3.2% |
薪炭材と用材の利用割合

薪炭材と用材のどちらが多く使われているかは、先進国と発展途上国で大きく異なります。
先進国では燃料として化石燃料が使われるため、薪炭材の消費量は少ないです。
一方、製紙業などの産業が発展しているため、用材としての消費量が多くなります。
このため、先進国では木材の用途として用材の比率が高く、薪炭材の比率が低くなります。
一方、発展途上国では高価な化石燃料ではなく身近に集められる薪炭材を燃料として使用しています。
また、先進国ほど産業が発展していないため、用材としての使用は先進国よりは少なくなります。
このため、発展途上国では木材の用途として薪炭材の比率が高く、用材の比率が低くなります。

参考文献
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
薪炭材とは何の樹種から採れる?用材と薪炭材について - 林業 株式会社ヨシカワ 2025/5/1閲覧
世界の木材生産量(丸太)と用途 森林・林業学習館 2025/5/1閲覧
「炭と薪では用途が違う?」炭と薪の違いと火のつけ方のコツ 東京ガス くらし情報メディア ウチコト 2025/5/1閲覧
たたら製鉄とは 奥出雲たたらブランド 2025/5/1閲覧
日本の塩づくりの歴史 | 塩のつくり方 | 塩百科 公益財団法人 塩事業センター 2025/5/1閲覧
木炭(モクタン)とは? コトバンク 精選版 日本国語大辞典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/5/1閲覧
木炭の種類 林野庁 2025/5/2閲覧
木材の用途 森林・林業学習館 2025/5/2閲覧
銀閣寺について 臨済宗相国寺派 2025/5/2閲覧
慈照寺銀閣 文化遺産オンライン 2025/5/2閲覧
世界最古の木造建築 法隆寺 NHKアーカイブス NHK 2025/5/2閲覧
姫路城 - 世界遺産 文化遺産オンライン 2025/5/2閲覧
パルプ(ぱるぷ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典 2025/5/1閲覧
紙の種類と分類|紙知識 平和紙業株式会社 2025/5/3閲覧
紙の基礎知識 | 紙のあれこれ | 紙の種類 日本製紙連合会 2025/5/3閲覧
紙ができるまで 大王製紙株式会社 2025/5/2閲覧
(参考資料)紙パルプ 内閣官房 2025/5/2閲覧
紙の原料 | 紙づくりの技術 特種東海製紙株式会社 2025/5/2閲覧