気候 系統地理

ボラと冷たい局地風(おろしなど)

山脈の上から平地に向かって滑り降りるように吹く滑降風(かっこうふう)の中には、低地に冷たい空気を運び気温を下げるものがあります。
このページでは、冷たく乾燥した局地風(地方風)であるボラ(ボーラ)やおろし(颪)、まつぼり風、南極のブリザードについて解説します。

ボラ型の滑降風

山脈の上から平地に向かって滑り降りるように吹く風を滑降風(かっこうふう)といいます。
滑降風はその成因を大別してフェーン型とボラ型の2種類があります。
フェーン型が吹き下ろす場所の気温を上げる高温乾燥した風であるのに対し、ボラ型は気温を下げる冷たく乾燥した風であるという違いがあります。

ボラ型の滑降風(カタバティック風)の模式図。山脈など標高が高い場所に空気が滞留すると、放射冷却により冷やされて温度が低下する。低温の空気は重いため、重力に従って斜面を下降していく。このため、ボラ型の滑降風は重力風とも呼ばれる。季節的には寒冷な冬に見られやすく、時間帯としては放射冷却が進む夜間から明け方にかけてが顕著である。

ボラ型の滑降風(カタバティック風)は冷たく乾燥した滑降風です。
山岳地帯の標高が高い場所で冷やされて圧縮した重い空気があふれだし、山の斜面を重力に従って斜面を下降します。
ボラ型の滑降風でも山から低地に向かって吹き下ろす際にはフェーンと同様に温度上昇を伴いますが、元々の温度が低いため温度上昇しても依然として低温であり、平地では気温を下げる冷風として観測されます。

ボラ型の例としては、ディナル・アルプス山脈を越えてアドリア海東岸に吹き下ろすボラや日本の太平洋側で見られるおろし赤城おろし、伊吹おろし、広戸風等)、阿蘇山から吹く冷風であるまつぼり風などがあります。
南極大陸のブリザードもボラ型の滑降風であり、高地で冷やされた空気が斜面を下降して低地で雪を巻き上げて発生します。

表 主なボラ型の滑降風

局地風地域・季節特徴
ボラアドリア海東岸(クロアチアなど)・冬季ディナルアルプス山脈を越えて吹き下ろす冷たい強風
おろし(颪)日本の太平洋側・冬季北西側の山域から吹き下ろす冷たい強風
まつぼり風阿蘇山の外輪山の切れ目(立野火口瀬)・4-5月と9-10月阿蘇山の外輪山の切れ目から西に吹く冷たい強風
南極のブリザード南極大陸高地で放射冷却された冷気が斜面を下り、暴風雪が発生

以下では、世界各地で見られるボラ型の局地風(地方風)について紹介します。

ボラ

ボラ(ボーラ)の模式図。ボラは北東側のハンガリー平原の冷たい空気がディナルアルプス山脈を越えて南西側のアドリア海沿岸(クロアチアなど)に吹き下ろす滑降風(かっこうふう)である。山脈を越えてアドリア海へ吹き下ろす過程で風が加速する。ウインドシアとは風速や風向が急激に変化していることを表す用語である。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©(Original) Rothwild / (This version ) Pierre cb, CC BY-SA 4.0, 2026/2/22閲覧

ボラ(ボーラ)は、ハンガリー平原からディナルアルプス山脈を越えてアドリア海沿岸に吹き下ろす低温・乾燥した局地風(地方風)です。
主に冬季に吹く冷たい北東風であり、アドリア海北東岸のトリエステ(イタリア北東部)やクロアチアの沿岸部で観測されます。
フェーンと同様に山の斜面を吹き下ろす滑降風(かっこうふう)ですが、高温乾燥したフェーンに対してボラは低温乾燥した風です。
ボラは気圧配置に起因する風であり、冬季にハンガリー平原(バルカン半島)側に高気圧、地中海(アドリア海)側に低気圧がある際に発生します。
高気圧から低気圧に向かって風が吹き、ディナルアルプス山脈を越えて山を下る過程で加速され、アドリア海沿岸に強風として吹き荒れます。

アドリア海の海岸で吹き荒れるボラ(ボーラ)の強風(クロアチア南西部)。ボラはハンガリー平原からディナルアルプス山脈を越えてアドリア海東海岸に吹き下ろす冷たく乾燥した局地風である。主に冬季にバルカン半島側に高気圧、地中海側に低気圧が位置する時に、高気圧から低気圧に向かって吹く風が、ディナルアルプス山脈を越えて山を下る際に加速する。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2026/2/22閲覧

おろし(颪)

比良おろしによる大阪と北陸地方を結ぶJR特急列車の迂回運行(滋賀)。大阪と北陸地方を結ぶ特急サンダーバードは、琵琶湖の西岸を結ぶ湖西線を通る。しかし、琵琶湖の西岸では冬になると、日本海側から吹く北西風が比良山地(ひら-、滋賀県北西部)を越えて琵琶湖の西岸に吹き下ろす比良おろしが発生し、強風により湖西線は運転見合わせになる。このため、特急サンダーバードは遠回りな琵琶湖東岸の線路へ迂回運行し、列車の運転時刻に大幅な遅延が発生する。

おろし(颪、おろし風)は、冬季に山から太平洋側の低地に吹き下ろしてくる冷たい北西風です。
北西から吹く冬の季節風が地形の影響を受けて形成された局地風(地方風)であり、地形的要因により強風になることがあります。
おろしは日本各地で見られ、それぞれ固有の名前がつけられています。
主に冷風が吹き下ろしてくる山域の名前から命名され、赤城おろしや伊吹おろしなどがあります。

おろしは冷たい風なので農作物の生育に悪影響を及ぼしたり、強風により鉄道などの交通にも影響を与えることがあります。
たとえば、日本海からの北西風が比良山地(ひら-、京都・滋賀)を越えて琵琶湖西岸(滋賀県北西部)に吹き下ろす比良おろしは、冬季に頻繁に強風となり、琵琶湖西岸を走る鉄道路線(JR湖西線)が運休になります。
この路線は大阪と北陸地方を結ぶ特急列車が通るため、この地域にとどまらず広域の交通に大きな影響を及ぼします。

表 日本の主なおろし(颪)

山域地域
赤城おろし赤城山(1,827m, 群馬県中北部)群馬県中央部~南東部
空っ風
(からっかぜ)
(地域により異なるが、北西側の山域から吹き下ろす)関東地方
伊吹おろし伊吹山(1,377m, 滋賀・岐阜)濃尾平野(岐阜・愛知)
比良おろし比良山地(京都・滋賀)琵琶湖西岸(滋賀県北西部)
六甲おろし六甲山地(兵庫県南東部)神戸市中心部~東部
広戸風那岐山(1,255m, 鳥取・岡山)津山盆地北東部(岡山県北東部)
やまじ
(やまじ風)
四国山地中央部(法皇山脈)愛媛県東端部(新居浜市・四国中央市)

まつぼり風

まつぼり風の模式図(熊本県東部)。まつぼり風は阿蘇山の外輪山の切れ目付近で吹く冷たい強風である。阿蘇山の火口原(外輪山の内側)で夜間の放射冷却により冷やされた空気が、西側にある外輪山の切れ目で収束して谷を下る強風となる。

まつぼり風は、阿蘇山(あそ-、熊本県東部)のカルデラから熊本平野に向かって吹き出す冷たい強風です。
4-5月と9-10月頃の早朝に吹く風であり、冷たい強風が吹くことで農作物にも被害を与える局地風です。

阿蘇山はカルデラ湖が無い大型のカルデラをもつ火山であり、カルデラ内部にも町が広がっています。
この阿蘇カルデラ外輪山(がいりんざん)に囲まれていますが、西側に切れ目があります。
阿蘇カルデラ内部では夜間に放射冷却により気温が低下しますが、この重い冷気が西側の切れ目から漏れ出して、熊本平野に向かって吹き出します。
外輪山の切れ目(立野火口瀬)にあたる南阿蘇村立野地区で特に強風になり、強風で小学校が休校になるなど大きな影響がある風です。

南極のブリザード

冷たい空気が斜面を吹き下ろす滑降風により発生したブリザード(暴風雪)が迫る様子(南極・アデリーランド)。南極大陸では高地で放射冷却により冷やされた重い空気が重力にしたがって斜面を滑り降りる滑降風が吹く。この滑降風が積雪を舞い上げてブリザードが発生する。出典:Wikimedia Commons, ©Pepys, CC BY 4.0, 2026/2/23閲覧

南極のブリザードは、斜面を吹き下ろす滑降風(かっこうふう)により雪が舞い上げられて暴風雪になる局地風です。
ブリザードは風が雪を舞い上げて視界が悪くなる暴風雪を伴う風です。
元々は北米の暴風雪を指す用語でしたが、現在では一般用語化して世界各地の暴風雪を指す用語になっています。
亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)の影響下にある北米のブリザード低気圧が引き起こす風が原因です。
それに対して極高圧帯の影響下にある南極大陸では、高地で夜間の放射冷却により冷やされた重い空気が重力にしたがって斜面を滑り降りる滑降風が発生し、吹き下ろす風に雪が舞い上げられて暴風雪が発生します。

参考文献

滑降風はフェーン型とボラ型 お天気雑学・知恵袋 お天気.com 株式会社ヘッジホッグ・メドテック 2026/2/11閲覧
Katabatic wind, Wikipedia 2026/2/11閲覧
カタバティック風(カタバティックかぜ)とは? コトバンク 百科事典マイペディア 2026/2/11閲覧
カタバチック風(カタバチックカゼ)とは? コトバンク デジタル大辞泉、日本大百科全書(ニッポニカ) 2026/2/11閲覧
katabatic wind, Britanica 2026/2/13閲覧
まつぼり風(まつぼりかぜ)とは? 日本大百科全書(ニッポニカ) 2026/2/23閲覧
ブリザードとは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2026/2/23閲覧
ブリザード | 用語解説 気象庁 2026/2/23閲覧
質疑応答(1975年1月) 日本気象学会 2026/2/11閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
ボラ(ぼら)とは? コトバンク デジタル大辞泉、日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典、百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2026/2/22閲覧
ウィンドシア(ウインドシア)とは? コトバンク デジタル大辞泉、日本大百科全書(ニッポニカ) 2026/2/24閲覧
比良おろし 琵琶湖ハンドブック四訂版p148-149 滋賀県 2026/2/22閲覧
比良山地(ひらさんち)とは? コトバンク 百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2026/2/22閲覧
2022年6月社長会見 JR西日本 2026/2/22閲覧
オロシ(おろし)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア 2026/2/23閲覧
 ウィキペディア 2026/2/23閲覧
からっ風(からっかぜ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2026/2/23閲覧
局地風「まつぼり風」の気象特性とその影響 農業・食品産業技術総合研究機構 2026/2/23閲覧
坂本 壮 他「「まつぼり風」の局地性と吹走メカニズムに関する実証的研究 : 現地観測とメソ気象モデルに基づいて」天気 61(12), p977-996 (2014)

-気候, 系統地理