東日本を中心とした冷温帯(温帯のうち比較的涼しい地域)では、ブナ(橅)やナラ(楢)、ケヤキ(欅)などの落葉広葉樹樹からなる落葉広葉樹林が広がる気候です。
このページでは、落葉広葉樹林とその分布、利用、樹種(橅、楢、欅、白樺、楓、柏)について紹介します。
目次
落葉広葉樹林とは

落葉広葉樹林は、冬に葉を落とす落葉広葉樹を主体とする森林です。
温帯の高緯度地域~亜寒帯(冷帯)で発達します。
冬には葉を落として枝が見えるのに対し、夏には葉が生い茂るため夏緑林ともよばれます。
日本では、中部地方の山岳地帯~東北・北海道の冷温帯(温帯の中でも比較的涼しい地域)から亜寒帯(冷帯)が落葉広葉樹林が分布する気候です。
しかし、関東以西の暖温帯(温帯の中でも特に暖かい地域)であっても、伐採などの人間の撹乱が入るとクヌギやコナラなどの落葉広葉樹林に遷移します。
冷温帯ではナラ(楢)、ブナ(橅)、クリ(栗)の落葉広葉樹林が広がります。
一方、亜寒帯(冷帯)では針葉樹との混交林となり、針葉樹に混じってシラカバ(白樺)、カエデ(楓)、カシワ(柏)などが生育します。

落葉広葉樹林の分布

落葉広葉樹林は、冷温帯(温帯の高緯度地域)から亜寒帯(冷帯)にかけて分布します。
温帯では、大陸西岸緯度地域に広がる地中海性気候(Cs)以外の地域(温暖湿潤気候(Cfa, 大陸東岸)、西岸海洋性気候(Cfb, 大陸西岸高緯度)、温暖冬季少雨気候(Cw, 大陸東岸))に相当します。
亜寒帯(冷帯)では、比較的温暖な大陸性混合林気候の地域で、落葉広葉樹と針葉樹の混交林が見られます。
中国南部や日本の南西諸島(沖縄など)の一部も温帯(亜熱帯)ですが、熱帯に隣接するため熱帯林(熱帯雨林)に近い植生になります(上の世界地図では温帯林から除外)。
落葉広葉樹林の利用

日本をはじめとする温帯地域では、農業に適していることから古くから開発されており、天然林はほとんど残っていません。
日本では、中部地方の山岳地帯~東北~北海道で落葉広葉樹林が広がる気候であり、針葉樹との混交林を作ります。
西日本を中心に関東以西では照葉樹林の気候ですが、伐採などの人為的な撹乱が入るとクヌギやコナラを主体する落葉広葉樹林に遷移することもあります。
これらの落葉広葉樹林は、昔から村で林産資源として共同管理する里山林として利用されてきました。
里山林では、人間の手で林を維持・管理をしながら樹木を伐採し、薪炭材(燃料用)や建築材、家具・道具類の材料(用材)などとして利用してきました。
しかし戦後の日本では、既存のブナ林などを伐採し、成長が早く木材として加工しやすいスギ(杉)やヒノキ(檜)などの針葉樹を大量に植林して林産資源として活用するようになりました。
かつては村の共同管理だった里山林も現在では個人が分割して所有する形態に変わり、さらには産業構造の変化や安価な輸入材の台頭による林業の衰退も相まって、次第に管理されない場所も増えてきました。
輸入材との価格競争に負けて国内産木材の需要が低下したこともあり、近年では保水機能があるブナ林などを保護する動きが見られます。
また、落葉広葉樹は街路樹や公園の植木としても利用されます。
秋の紅葉した落葉広葉樹を鑑賞する紅葉狩りは、秋の風物詩となっています。

落葉広葉樹林の樹種と木材
冷温帯の温帯林ではブナ(橅)、ナラ(楢)、ケヤキ(欅)などの落葉広葉樹林が広がります。
一方、亜寒帯(冷帯)では針葉樹との混交林となり、針葉樹に混じってシラカバ(白樺)、カエデ(楓)、カシワ(柏)などが生育します。
ブナ(橅)

ブナ(橅)は、日本では冷温帯(温帯の中でも寒冷な地域)を中心に見られるブナ科の落葉広葉樹であり、温帯の落葉広葉樹林の代表的な樹種です。
分布としては、北海道の渡島半島(道南地方、厳密には後志地方・黒松内町)の低地を北限とし、標高が高い場所では九州地方でも見られます。
南に行くほど標高が高い場所でしか見られなり、本州中部では標高1,000-1,500mの場所にブナ帯とよばれるブナ主体の落葉広葉樹林が広がります。
ブナはやわらかく手触りが良く、木材を曲げる加工をしやすいことから、道具類や家具類の材料として使われてきました。
一方で、乾燥するとゆがみが生じやすく、腐りやすい性質もあるため建築材としては利用が難しい木材です。
明治時代以降は木材の乾燥・加工技術が発達したことから用途が拡大し、現在ではフローリング材や家具材として広く利用されます。
ブナの木材は国内では生産量が少ないため、主にヨーロッパから輸入されています(ビーチと呼ぶ)。
ヨーロッパの高緯度地域に広がる西岸海洋性気候(Cfb)の地域ではヨーロッパブナのブナ林が広がるため、西岸海洋性気候は別名でブナ気候とも言われています。

ナラ(楢)

ナラ(楢)は、北半球の温帯に広く分布する樹木するブナ科の落葉広葉樹です。
ナラはヨーロッパにも広く分布し(ヨーロッパナラ)、オークと呼ばれています。
日本では、亜寒帯(冷帯)の北海道を中心に分布するミズナラ、本州~九州の温帯に広く分布するコナラ、関東以西の暖温帯(温帯の中でも特に暖かい地域)に分布するクヌギなどがあります。
西日本を中心に暖温帯は、本来は照葉樹林が広がる気候ですが、伐採などの人為的な撹乱が入るとクヌギやコナラなどの落葉広葉樹が侵入して落葉広葉樹林を形成することもあります。
木材としてのナラは、家具材やウィスキーの酒樽として利用されます。
特に北海道のミズナラは銘木(優良な木材)とされ、木目調を活かして洋風家具材として利用されるほか、欧米にも輸出されていました。
しかし、現在では北海道のミズナラは木材資源枯渇により流通量が少なく、国内で流通するナラ材の多くは外国産となっています。
ケヤキ(欅)

ケヤキ(欅)は、東アジアに広く分布する落葉広葉樹です。
日本では本州~四国・九州の温帯に広く分布します。
ケヤキは材質が硬くて摩耗に強くい上に腐食しにくいため、強木(つよき)から転じて槻(つき)と呼ばれていました(各地の「槻」が使われる地名の由来)。
大きなケヤキは、古くから寺社や城の建築に利用されてきました(例:京都の清水寺を支える柱)。
現在では、美しい木目を利用して楽器や民芸品、食器類など装飾的な部材としても多く利用されています。
また、ケヤキは成長が早く根が強く広がる性質があるため、土砂崩れの危険がある斜面に植えて、地すべりや落石を抑制するためにも使われています。

シラカバ(白樺)

シラカバ(白樺、シラカンバ)はカバノキ科の落葉広葉樹で、東アジアの寒冷な地域に分布します。
日本では主に中部地方の山岳地帯と北海道に分布します。
シラカバは寿命が短いので大木まで成長せず、木材としての利用価値は低いです。
このため、木材としてよりも、見た目の美しさから公園や道路沿いの街路樹や防風林として植樹されます。
北海道では平野部を開拓した広大な田畑が広がるため、強風を防ぐために防風林として道路沿いに植樹された白樺並木が各地に見られます。
カエデ(楓)

カエデ(楓)は北半球の温帯林を中心に分布する落葉広葉樹です。
世界各地に様々な種類が存在し、東アジアに分布するイロハモミジ(イロハカエデ)や北米大陸北東部に分布するサトウカエデなどがあります。
紅葉が美しいことからイロハモミジには多数の園芸種が存在し、公園などに植えられています。
木材としては、主に北米のサトウカエデを伐採・加工したメープル材が使われています。
メープル材は衝撃や摩擦に強いため、床材や建築材のほかに、野球のバットにも使われます。
日本でも国内のイタヤカエデを木材にしたカエデ材がありますが生産量は少なく、流通量は北米からの輸入材(米材)であるメープル材の方が圧倒的に多いです。
また、サトウカエデは砂糖を採取できる糖料作物の一種でもあり、幹を傷つけて流れ出た樹液からメープルシロップが得られます。
メープルシロップを煮詰めることで、砂糖(メープルシュガー)が得られます。
サトウカエデはカナダを代表する樹木であり、カナダの国旗にもサトウカエデの葉が描かれています。

カシワ(柏)

カシワ(柏)は、東アジアに分布するブナ科の落葉広葉樹です。
日本では、北海道を中心に北日本の沿岸部で見られます。
落葉広葉樹であるにも関わらず、冬には枯れた葉を枝につけたまま越冬するという特徴があります。
木材としてのカシワはミズナラとよく似た性質で、家具材や酒樽として利用されたり、丈夫な木材なので建築材や線路の枕木などに使われてきました。
また、人里近くに生えて硬くて重く火持ちがよいため、良質な薪炭材(しんたんざい)として木炭などに利用されます。
カシワの葉は柏餅を包むために利用されています。
参考文献
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メープル材とカエデ材に違いはあるの?(2019/6/25) 家具屋で働く双子のブログ ソリウッド・クラフィス 2025/2/18閲覧
楓(かえで)・メープルの木が使われる家具や木材としての特徴は? フルタニランバー株式会社 2025/2/18閲覧
ハードメープル 木材加工.com 藤井ハウス産業株式会社 2025/2/18閲覧
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カシワ ウッドプラザ北海道 2025/2/18閲覧
カシワ ウッドショップ関口 2025/2/18閲覧
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