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森林とは(天然林と人工林・森林の形成と遷移・構造)

大量の樹木が集まる森林は、林業に欠かせない存在です。
このページでは、森林に関する前提知識として、天然林と人工林の違いや森林の形成・遷移、森林の構造について解説します。
高校生物と重なる内容でもありますが、地理の前提となる知識として紹介します。

森林とは

ガラホナイ国立公園の照葉樹林(スペイン・カナリア諸島のラ・ゴメラ島)。モロッコ沖に位置するカナリア諸島は緯度的に亜熱帯砂漠であり、さらに寒流であるカナリア海流の影響で地表が冷やされて上昇気流が発生せず、雨が降らない西岸砂漠でもある。しかし、カナリア海流に運ばれた水蒸気を含む空気が山にぶつかって霧となるため、標高が高い場所では霧から水分が得られて森林が形成される。このように水蒸気が霧となって常に湿度が高い場所で発達する森林を雲霧林(うんむりん)という。カナリア諸島では低地は砂漠であるのに対し、標高が高い場所では雲霧林である照葉樹林帯が形成されている。出典:Wikimedia Commons, ©PicsART05, CC BY-SA 4.0, 2025/2/8閲覧

森林とは、高さ4m以上の樹木が広範囲で密集し、木々の枝葉で空間が埋め尽くされているような場所です。
森林は世界の陸地面積の1/3を占める空間であり、人類にとっても食料採取(木の実)や燃料(薪炭材(しんたんざい))、建築・加工用の木材(用材)など様々な資源が得られる場所です。

森林が発達するためには、一定以上の気温と十分な降水量が必要です。
このため、気温が低すぎる寒帯(最暖月平均気温が10℃未満)と降水量が不足する乾燥帯(年降水量が乾燥限界以下、おおむね500mm未満)には森林が見られません。
また、森林が見られる場所でも乾季に雨が降らない熱帯サバナ気候(Aw)では、樹木がまばらな疎林(そりん)になります。
一方で、年間通して十分な降水量がある熱帯雨林気候(Af)では、樹木が密集した密林となります。
密林では樹木の枝葉が密集し、地表にあまり光が届かないため、森林の地面(林床(りんしょう))は薄暗く、新しい植物が成長しにくい場所になります。

天然林と人工林

人工林(左)と天然林(右)の境界(神奈川県西部・山北町)。人工林は同時期に同種の樹木を高密度で大量に植林するため、左側の人工林では幹の太さが同じ樹木が密集して生えている。一方、右側の天然林では、自然に発芽して太陽光や地中の栄養分を求める競争に勝ち抜いた樹木が生き残るため、様々な種類・樹齢の樹木がまばらに生えている。場所は丹沢山地の丹沢湖付近の森林である。出典:Wikimedia Commons, ©Σ64, CC BY 3.0, 2025/2/4閲覧

森林は、天然林人工林に分けられます。
天然林
は人間の手が加わらずに形成された森林であるのに対し、人工林は人間が管理して育成した森林です。

天然林の中でも、非常に長い間、人の手が加わっていない森林を原生林原始林とよびます。
天然林では自然の循環の中で樹木の種子が発芽し、自然に育っていきます。

人工林では、人の手で苗木を植える植林を行います。
あらかじめ高密度で苗木を植えておき、ある程度育ったら、状態が良い樹木のみを残して伐採する間伐を行うことで、効率的に樹木を育てます。
人工林では、効率化のために同じ種類の樹木を一度に大量に植林することが多いです。
このため、天然林では様々な種類・樹齢(樹木の年齢)の木々が入り交じるのに対し、人工林では同時期に植えられた一種類の樹木が一面に生えていることが多いです。

日本では、天然林は主に広葉樹林となっているのに対し、人工林は主に針葉樹林となっています。
これは、戦後に木材生産のために育ちが早いスギやヒノキなど成長が早く木材に適した針葉樹を大量に植樹したためです。
戦後に大量に植樹された樹木は成長して花粉を出すようになり、今日の花粉症の原因となっています。

森林の形成と遷移

植物の一次遷移の模式図。一次遷移とは、何も無い裸地に植物が定着し、やがて森林を形成して安定するまでの一連の植物の移り変わりのことである。出典:Wikimedia Commons, ©S.Tanaka, CC BY-SA 3.0, 2025/2/4閲覧

現在は森林が形成されている場所も、遠い昔には植物が生えていない裸地(らち)でした。
裸地は、火山噴火のよる溶岩流などであたり一面の植物が失われ、岩石がむき出しになっている地面のことです。
裸地は栄養分や保水力が乏しいため、はじめは苔類(こけるい)や地衣類(ちいるい)が侵入します(裸地から4-5年後)。
苔類や地衣類は大気中の水分と光合成で生存に必要な栄養をまかなえるため、土壌が無く植物が根を張れない裸地でも生育できます。
苔類や地衣類の遺骸が積み重なると薄い土壌になり、草本(そうほん、いわゆる草)が根を張って生育できるようになります(裸地から5年後以降)。
最初は、発芽して1年以内に種子を残して枯れる一年生植物(ヒメジョオンなど)が生育し、次第に数年以上生きる多年生植物(ススキなど)が根を張るようになります(20年後くらいまで)。
土壌が厚くなっていくと、木本(もくほん、いわゆる木)が根を張れるようになります。
はじめは、強い光を必要とする代わりに成長が早い陽樹(シラカバ、ハンノキなど)が侵入します。
はじめは低木林(ヤシャブシ、ヤマツツジなど)が形成され、次第に高木林(アカマツ、コナラなど)が形成されます(裸地から20年後~200年後)。
陽樹の高木林が生い茂るようになると、林床(地面)に届く光が減って同じ場所には陽樹の幼木が育たなくなってしまいます。
そこで、陽樹の代わりに弱い光でも生育できる陰樹(スダジイ、アラカシなど)が侵入し、生育するようになります(裸地から200年後以降)。
陽樹の林の中に陰樹が交じるようになり、林床が暗すぎてもう陽樹の幼木が育たないことから陰樹の割合がどんどん増えていき、最終的には陰樹中心の林になります。
陰樹中心の林では、もうこれ以上生育する植物の種類が変わらないため、極相(クライマックス)とよびます。
以上のような裸地からはじまる一連の植物の移り変わりを一次遷移とよびます。

極相に至った後でも、台風による倒木などで明るい場所が出現すると、新しい遷移がはじまります。
この場合には、樹木が無いだけで既に土壌が形成されており、一次遷移のスタートとなる裸地とは違う状態です。
このように、裸地以外の土壌がある状態からはじまる遷移を二次遷移といいます。
人間が目にする遷移の多くは二次遷移です。
二次遷移には、人為的に樹木を伐採した跡地や放棄された畑・宅地などからはじまるものもあります(いわゆる「自然に還る」プロセス)。

山火事発生後の遷移の様子(エストニア北部・ラヘマー国立公園)。左から順に山火事から1年後、2年後、3年後の様子である。はじめは地面が露出していた場所に草本が侵入し、次第に一面に生い茂っていく。さらに山火事7-10年後にはあたり一面に背が低い草木が一面に生い茂るようになっていく。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2025/2/4閲覧
山火事発生後の遷移の様子(エストニア北部・ラヘマー国立公園)。山火事から10年後の様子である。はじめは地面が露出していた場所に草本が侵入し、次第に一面に生い茂り、山火事7-10年後にはあたり一面に背が低い草木が一面に生い茂るようになっていく。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2025/2/8閲覧

森林の構造

森林の階層構造の模式図。森林の最上部(林冠)には、高さ8m以上の高木や亜高木が生い茂り、太陽光の多くを吸収するため、それより下に届く光は少なくなる。亜高木層の下には高さ1.5-5m程度の日陰に強い低木が生育する。さらに下には草本(いわゆる草)が生育し、その下が土壌となる。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2025/2/4閲覧

森林は単に樹木が密集して生えているだけではなく、階層構造をもっています。
森林の最上部である林冠(りんかん)は、高さ8mを超える樹木が生い茂る高木層亜高木層となっています。
空から降り注ぐ太陽光の多くはこの層で吸収されるため、その下に届く光は少なくなります。
亜高木層の下には、高さ1.5-5mほどの日陰に強い低木が生育する低木層となります。
さらに下の高さ1.5m未満には、草本(いわゆる草)が生い茂る草本層が広がります。

何層もの階層構造からなる熱帯雨林(熱帯多雨林)(マレーシア北西部・ペラ州)。非常に背が高い高木の下に、低木や草本が生い茂る。気温が高く十分な降水がある熱帯雨林では、高木が生い茂るため高さによって太陽光が届く量が大きく変わる。そのため、何層もの階層構造が形成され、それぞれの高さ(光量)に適応した植物が生育する。出典:Wikimedia Commons, ©Ksmuthukrishnan, CC BY-SA 4.0, 2025/2/4閲覧

森林の階層の数は温暖で降水量が多い熱帯雨林で最も多くなり、寒冷なツンドラや雨が少ない砂漠で最も単純になります(森林すら無い草本のみの1層)。
温暖で降水量が豊富な熱帯雨林(熱帯多雨林)では、何層もの階層構造ができあがります。
熱帯雨林では、林冠に樹木が密に生い茂るため、地表に近づくにしたがって届く光は急激に少なくなり、それぞれの階層に適応した植物が生育します。
一方、より寒冷な地域に広がる落葉広葉樹林針葉樹林で(タイガ)では、樹木の間隔が広く地表まで光が届きやすく、森林の階層構造も単純になります。

落葉広葉樹であるブナの林(ドイツ北西部・ニーダーザクセン州)。温帯から亜寒帯(冷帯)の比較的寒冷な地域に広がる落葉広葉樹林では、樹木の間隔が広く光が地表まで届き、森林の構造も単純である。出典:Wikimedia Commons, ©Tortuosa, CC BY-SA 3.0, 2025/2/4閲覧

参考文献

カナリア諸島(カナリアショトウ)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/2/8閲覧
Cloud forest, Wikipedia 2025/2/8閲覧
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森林(シンリン)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2025/2/2閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
人工林と天然林 森林・林業学習館 2025/2/2閲覧
森林・林業とスギ・ヒノキ花粉に関するQ&A 林野庁 2025/2/2閲覧
遷移 (生物学) ウィキペディア 2025/2/4閲覧
植生の遷移/裸地から森林ができるまで 森林・林業学習館 2025/2/4閲覧
Ecological succession, Wikipedia 2025/2/4閲覧
Stratification (vegetation), Wikipedia 2025/2/4閲覧
熱帯の木材 名古屋大学農学部 2025/2/9閲覧

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