気候 系統地理

亜寒帯の気候(亜寒帯湿潤気候・亜寒帯冬季少雨気候など)

ケッペンの気候区分における亜寒帯(冷帯)は、北半球の高緯度地域に広がる寒暖の差が大きい気候帯です。

亜寒帯も温帯と同様に夏に乾燥するか、冬に乾燥するか、年中雨が降るかの3つの気候に分けることができます。
しかし、同じ亜寒帯でも気温の差が大きいため、気温に着目した分類もあります。

ここでは、亜寒帯の各気候の定義や分布について1つずつ整理していきます。

他の気候区については、以下のリンク先をご覧ください。
ケッペンの気候区分熱帯乾燥帯温帯亜寒帯(冷帯)寒帯高山植生土壌

亜寒帯(冷帯、D)

亜寒帯(冷帯、E)の気候区ごとの分布。ケッペンの気候区分における亜寒帯(冷帯)気候に含まれる亜寒帯湿潤気候(Df)と亜寒帯冬季少雨気候(Dw)、高地地中海性気候(Ds)の分布である。図ではDf、Dw、Dsそれぞれについて、最暖月平均気温の高低によってa, b, c, dをつけてさらに分類している。出典:Wikimedia Commons, ©Peel, M. C., Finlayson, B. L., and McMahon, T. A.
(University of Melbourne), CC BY-SA 3.0, 2021/2/17閲覧

ケッペンの気候区分の気候区分における亜寒帯(冷帯、D)は、最寒月平均気温-3℃未満かつ最暖月平均気温が10℃以上樹木が生育できる降水量がある気候帯です。

最寒月平均気温-3℃未満」は、冬季の積雪が根雪(春まで溶けずに地表に残る雪)になる限界です。
寒帯(E)とは異なり最暖月平均気温が10℃以上であり、乾燥帯(B)とは異なり降水量が乾燥限界以上のため樹木が生育できます。

亜寒帯は、北半球の北緯40℃以北(おおむね北緯50-70°)の陸地の大部分を占める気候帯です。
大陸西岸の沿岸では、高緯度地域でも暖流と偏西風の影響で温暖なため温帯になります。

北半球の高緯度地域に広く分布するのに対し、南半球は高緯度地域に陸地が少なく、海に囲まれているため亜寒帯はほとんど存在しません。

亜寒帯になる理由としては緯度や海抜高度が高いという要因が大きく、内陸に位置したり寒流の影響をうけるため海洋からの熱供給が少ないことも影響します。

亜寒帯(冷帯)の気候区

亜寒帯の気候は、年中雨が多いか、あるいは冬・夏のどちらに乾燥するかによって亜寒帯湿潤気候(Df)亜寒帯冬季少雨気候(Dw)高地地中海性気候(Ds)に分けられます。
小文字はドイツ語の単語の頭文字であり、fは湿潤(feucht)、wは冬に乾燥(wintertrocken)、sは夏に乾燥(sommertrocken)を表します。

亜寒帯(冷帯)冬季少雨気候(Dw)は、①最多雨月が夏にあり、②10×最少雨月降水量≦最多雨月降水量の気候区です。
降水量の基準は、温暖冬季少雨気候(Cw)の場合と同じです。
冬(winter)に降水が少なく乾燥し、夏に雨が多い気候です。

冬にシベリア高気圧の影響をうける東アジア~シベリアのみに分布します。

高地地中海性気候(Ds)は、①最多雨月が冬にあり、②3×最少雨月降水量<最多雨月降水量かつ③最少雨月降水量が30mm未満の気候区です。
降水量の基準は地中海性気候(Dw)の場合と同じです。
夏(summar)に乾燥(①③)し、夏よりも冬の方が降水が多い(①②)気候です。

地中海性気候の地域の北隣や高山など、極めて限られた場所にのみ分布する気候です。

亜寒帯の条件(最寒月平均気温-3℃未満で、最暖月平均気温が10℃以上)をみたす場所のうち、亜寒帯冬季少雨気候(Dw)でも高地地中海性気候(Ds)でもない場所は、亜寒帯(冷帯)湿潤気候Df、亜寒帯多雨気候)になります。
亜寒帯のうち最も雨の多い気候区で、亜寒帯の面積の大部分を占めます。

気候区の分類を表にまとめます。

表 亜寒帯の気候区

気候区特徴年降水量最多雨月・最少雨月降水量最寒月平均気温最暖月平均気温
亜寒帯(冷帯、D)共通気温の年較差が大きい
北半球のみに分布
乾燥限界以上----3℃未満10℃以上
亜寒帯(冷帯)湿潤気候(Df)年中湿潤---DwやDsではない------
亜寒帯(冷帯)冬季少雨気候(Dw)冬に乾燥
東アジア~シベリアに分布
---以下の両方を満たす
①最多雨月が夏
②10×最少雨月降水量≦最多雨月降水量
------
高地地中海性気候(Ds)夏に乾燥
ごく限られた地域に分布
---以下をすべて満たす
①最多雨月が冬
②3×最少雨月降水量<最多雨月降水量
③最少雨月降水量が30mm未満
------

 

亜寒帯湿潤気候(Df)

亜寒帯湿潤気候(Df)の分布。ケッペンの気候区分における分布である。図では最暖月平均気温の高低によってa, b, c, dをつけてさらに分類している。出典:Wikimedia Commons, ©Maulucioni, based on a previous work by Beck, H.E. et al. 2018, CC BY-SA 4.0, 2021/2/17閲覧

亜寒帯湿潤気候(Df)は、亜寒帯の条件(最寒月平均気温-3℃未満で、最暖月平均気温が10℃以上)をみたす場所のうち、亜寒帯冬季少雨気候(Dw)と高地地中海性気候(Ds)のどちらにも該当しない年中雨の多い気候区です。

亜寒帯の面積の大部分を占める気候区で、大陸西岸の沿岸地域を除く北緯40°以北(おおむね北緯50-70°)の地域に広く分布します。
日本は亜寒帯湿潤気候が広がる南限に近く、北海道~東北地方内陸部~中央高地山間部に広がります。

一年を通して雨が降り、冬が長く積雪も多い気候区です。
気温が低い亜寒帯湿潤気候では、気温が高い温暖湿潤気候の地域よりも降水量が少なくなります。
これは、空気中に含むことができる水蒸気量(飽和水蒸気量)が気温に比例して少なくなるからです。

冬の札幌の大通公園(さっぽろ雪まつり大通会場、北海道札幌市)。亜寒帯湿潤気候(Dfa)に位置する札幌では、年中通して降水がみられ、冬季には積雪が豊富である。出典:Wikimedia Commons, ©Eckhard Pecher, CC BY 2.5, 2021/2/18閲覧

亜寒帯(冷帯)湿潤気候(Df)は亜寒帯の大部分であり、北米大陸北東部~西岸の内陸部東ヨーロッパ~シベリア~北海道・本州に分布します。

主な都市としては、アンカレッジ(米アラスカ州)、シカゴ(米イリノイ州)、トロント(カナダ)、ボストン(米マサチューセッツ州)、オスロ(ノルウェー)、モスクワ(ロシア)、札幌(北海道)などがあります。

亜寒帯冬季少雨気候(Dw)

亜寒帯(冷帯)冬季少雨気候(Dw)の分布。ケッペンの気候区分における分布である。図では最暖月平均気温の高低によってa, b, c, dをつけてさらに分類している。出典:Wikimedia Commons, ©Maulucioni, based on a previous work by Beck, H.E. et al. 2018, CC BY-SA 4.0, 2021/2/17閲覧

亜寒帯(冷帯)冬季少雨気候(Dw)は、①最多雨月が夏にあり、②10×最少雨月降水量≦最多雨月降水量の気候区です。
冬(winter)に降水が少なく乾燥し、夏に雨が多い気候で、降水量の基準は温暖冬季少雨気候(Cw)の場合と同じです。

夏は雨が多く洪水もおきるのに対し、冬は晴天が多く積雪も少なく風も弱いので、気温の割にあまり寒さは厳しくない気候です。

亜寒帯(冷帯)冬季少雨気候(Dw)は、東アジア~シベリアにかけてみられ、広く分布しているのは地球上でこの地域に限ります。
これは、東アジアでは高緯度地域でも季節風(モンスーン)の影響がみられるためです。
中国北東部~シベリアでは、冬にシベリア高気圧が発達して雨が少なくなります。

主な都市としては、ハルビン(中国黒龍江省)、平壌(北朝鮮)、ハバロフスク(ロシア)、ウラジオストク(ロシア)です。

高地地中海性気候(Ds)

高地地中海性気候(Ds)の分布。ケッペンの気候区分における分布である。図では最暖月平均気温の高低によってa, b, c, dをつけてさらに分類している。出典:Wikimedia Commons, ©Maulucioni, based on a previous work by Beck, H.E. et al. 2018, CC BY-SA 4.0, 2021/2/17閲覧

高地地中海性気候(Ds)は、①最多雨月が冬にあり、②3×最少雨月降水量<最多雨月降水量かつ③最少雨月降水量が30mm未満の気候区です。
夏(summar)に乾燥(①③)し、夏よりも冬の方が降水が多い(①②)気候で、降水量の基準は地中海性気候(Dw)の場合と同じです。

地球上の極めて限られた場所にのみ分布する気候です。
高地地中海性気候(Ds)は、アメリカ~カナダのロッキー山脈周辺トルコ~イランアフガニスタンの高原地帯シベリア東部にみられます。

気温に着目した分類(亜寒帯の植生)

亜寒帯湿潤気候(Df)亜寒帯冬季少雨気候(Dw)高地地中海性気候(Ds)降水量に着目した分類です。
しかし、亜寒帯は地域によって気温差が大きく、植生や土地利用は、降水量よりも気温差に大きく影響されます。

Df, Dw, Dsはさらに気温によって分類することができ、 温暖な順にa, b, c, dと分けられます。

aは最暖月平均気温22℃以上b, c, dは最暖月平均気温22℃未満です。
bは月平均気温が10℃以上の月bが4ヶ月以上であるのに対し、c, dは3ヶ月以下です。
cとdの違いは、cは最寒月平均気温が-38℃~-3℃未満であるのに対し、dは-38℃未満になります。

トレワーサ(Glenn Thomas Trewartha, 1896-1984)は、ケッペンの気候区分をもとに亜寒帯を大陸性混合林気候(湿潤大陸性気候、Dfa, Dfb, Dwa, Dwb, Dsa, Dsb)と針葉樹林気候(亜寒帯気候、亜北極気候、タイガ気候、Dfc, Dfd, Dwc, Dwd, Dsc, Dsd)に分類しました。

月平均気温が10℃以上の月が4ヶ月以上ある気候(a, b)が大陸性混合林気候3ヶ月未満の気候(c, d)が針葉樹林気候です。

亜寒帯の地域の植生や土地利用を考える上では、降水量よりも気温差に着目したこのような分類の方がわかりやすくなります。

大陸性混合林気候

大陸性混合林気候(湿潤大陸性気候、Dfa, Dfb, Dwa, Dwb, Dsa, Dsb)の分布。出典:Wikimedia Commons, ©Peel, M. C., Finlayson, B. L., and McMahon, T. A.
(University of Melbourne), derivative work: Me ne frego, CC BY-SA 3.0, 2021/2/17閲覧

亜寒帯(冷帯、D)のうち、月平均気温が10℃以上の月が4ヶ月以上ある気候(a, b)を、大陸性混合林気候(湿潤大陸性気候、Dfa, Dfb, Dwa, Dwb, Dsa, Dsb)といいます。

降水量の多い地域では落葉性広葉樹針葉樹混交林(混合林)が広がり、降水量の少ない地域では短草草原が広がります。

比較的肥沃な褐色森林土が分布し、夏は農業ができる程度に暖かくなるため農業(春小麦、ライ麦、豆類、イモ類、そばなど)も行われます。

秋の落葉広葉樹と針葉樹の混交林(米バーモント州)。秋には落葉広葉樹は紅葉するのに対し、常緑樹である針葉樹は緑色のままである。出典:Wikimedia Commons, © chensiyuan, CC BY-SA 4.0, 2021/2/18閲覧

大陸性混合林気候亜寒帯のうち低緯度地域にみられます。
分布としては、アメリカ本土北部~カナダ南部東ヨーロッパ~ロシア南部中国北東部~ロシア沿海地方北海道~東北地方内陸部~中央高地山間部にみられます。

亜寒帯の都市の大部分(針葉樹林気候の都市以外)は大陸性混合林気候です。

針葉樹林気候

針葉樹林気候(亜寒帯気候、亜北極気候、タイガ気候、Dfc, Dfd, Dwc, Dwd, Dsc, Dsd)の分布。出典:Wikimedia Commons, ©Peel, M. C., Finlayson, B. L., and McMahon, T. A.
(University of Melbourne), derivative work: Me ne frego, CC BY-SA 3.0, 2021/2/17閲覧

亜寒帯(冷帯、D)のうち、月平均気温が10℃以上の月が3ヶ月未満の気候(c, d)を針葉樹林気候(亜寒帯気候、亜北極気候、タイガ気候、Dfc, Dfd, Dwc, Dwd, Dsc, Dsd)といいます。

人間が定住している場所としては最も寒冷で、気温差が大きい気候区です。
冬の気温は非常に低く、夏は短く冷涼ですが盆地では高温になり30℃超える場所もあります。
このため、シベリア東部の盆地は地球上で年較差(年間の気温差)が最も大きくなる場所です。

シベリア内陸部のオイミャコン(Dfd, ロシア)で、-70℃を記録したことがあります。
北半球・南半球でそれぞれ最も気温が低い場所を寒極といい、北半球の寒極はオイミャコンです。

一方南半球の寒極は南極大陸のロシアの観測基地であるボストーク基地で、1983年7月21日に世界の観測史上最低気温である-89.2℃を記録しています。

アラスカのタイガ(針葉樹林)。出典:Wikimedia Commons, ©Beeblebrox, CC BY-SA 3.0, 2021/2/18閲覧

北米大陸北部やシベリアでは、タイガとよばれる針葉樹林が広がります。
寒すぎて農業はできず酪農や放牧が行われます。

針葉樹林気候亜寒帯のうち高緯度地域にみられます。
分布としては、アラスカ~カナダ北部スカンジナビア半島~ロシア北部~シベリアモンゴル北部中国の高山でみられます。

主な都市としては、アンカレッジ(米アラスカ州)、イエローナイフ(カナダ)、リレハンメル(ノルウェー)、ダボス(スイス)、サンモリッツ(スイス)、ヤクーツク(ロシア)があります。

参考文献

気候区分とは コトバンク 世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/2/17閲覧
ケッペンの気候区分 ウィキペディア 2021/2/17閲覧
亜寒帯多雨気候とは コトバンク 世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/2/17閲覧
亜寒帯湿潤気候 ウィキペディア 2021/2/17閲覧
亜寒帯夏雨気候とは コトバンク 世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/2/17閲覧
亜寒帯冬季少雨気候 ウィキペディア 2021/2/17閲覧
高地地中海性気候 ウィキペディア 2021/2/17閲覧
湿潤大陸性気候 ウィキペディア 2021/2/17閲覧
亜寒帯気候 ウィキペディア 2021/2/17閲覧

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