海面上昇によって、元々陸地だった場所が海に沈んでできた海岸を沈水海岸といいます。
ここでは、沈水海岸であるリアス式海岸、多島海、フィヨルド、エスチュアリー(三角江)について解説します。
目次
沈水海岸とは
気候の変化による海面上昇や地盤の沈降がおきると、海岸線が陸地側に前進して今まで陸地だった場所が海に沈みます。
このようにしてできた海岸を沈水海岸といいます。
陸上の地形は川の侵食などにより、海底よりも複雑な地形をしています。
沈水海岸は元々陸地だった場所が海に沈んだため、沈水海岸の海岸線は複雑に入り組んでいます。
陸地だったときの複雑な地形を反映して、海側の水深は深くなります。
同様に海面の変化によって生じた離水海岸との比較は、次の記事にまとめています。
参考離水海岸の地形(海岸平野と海岸段丘)
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リアス式海岸
丘陵や山地のような起伏が激しい地形の陸地が、海面上昇などによって谷の部分が海に沈んでできた沈水海岸をリアス式海岸といいます。
リアス式海岸は、壮年期地形にみられるV字谷が海の下に沈んだものです。
このように、谷が海に沈んだ地形を溺れ谷(おぼれだに)といいます。
リアス式海岸は、元々の山の尾根が岬や半島や島になり、V字谷の底は海に沈んでいるため、平地が少ない地形です。
平地が少ないため都市に発展することは少なく、細長い入り江沿いに漁村が点在します。
入り組んだ湾のため普段は波がおだやかであり、湾内での養殖がおこなわれたり、漁港として利用されます。
一例として、志摩半島の英虞湾(あごわん)では真珠の養殖が盛んです。
一方、リアス式海岸は水深が深く、湾の入口が広く奥が狭くなっているため、津波の力を増幅しやすい地形をしています。
そのため、リアス式海岸である三陸海岸中南部(岩手・宮城)では歴史上何度も津波による大きな被害を出してきました。
2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)での甚大な被害をふまえ、三陸海岸では土地の人工的なかさ上げや十数メートルもの防潮堤の設置がおこなわれています。
リアス式海岸がみられる地域として、ガリシア地方(スペイン北西部)、三陸海岸中南部(岩手・宮城)、若狭湾周辺(福井・京都)、志摩半島の英虞湾(三重)があります。
参考
リアス式海岸は正確には、海岸線に対して直角に溺れ谷が形成される地形をさします。
海岸線に並行して溺れ谷が形成される地形を、ダルマチア式海岸といいます。
ダルマチア式海岸は、ダルマチア地方(クロアチア)に見られる海岸で、他にマレー半島西岸(ミャンマー・タイ)にもみられます。
多島海
多数の島々が点在する海のことを多島海といいます。
多島海は、起伏のある丘陵や山地が海面上昇などによって海に沈み、かつての山や丘の頂上付近だけが海面上に出ている地形です。
老年期地形の丘陵地帯が海に沈んだ場合に形成されます。
リアス式海岸は谷底の部分だけが沈んでいるのに対し、多島海は谷底に加えて山や丘の中腹より上まで海に沈んでいるため、山と山の間の陸地がすべて沈み、島が点在する地形になっています。
リアス式海岸が広がる海が多島海になっている場合があります。
たとえば、九州北西部の九十九島(くじゅうくしま、長崎)や志摩半島の英虞湾(三重)はリアス式海岸と多島海が同時にみられます。
多島海がみられる海域としては、エーゲ海(ギリシャ・トルコ)や瀬戸内海があります。
フィヨルド
氷河によって削られてできたU字谷が海に沈んで溺れ谷を形成した地形をフィヨルドといいます。
入り江の水深はリアス式海岸よりも深く、細長い湾を形成します。
フィヨルドは第四紀(200万年前~現代)の氷期(寒冷化して氷河は発達する時期)につくられたU字谷が、その後の海面上昇で沈没したものです。
フィヨルドは、氷河地形が発達している高緯度地域にみられます。
ノルウェー、グリーンランド(デンマーク)、アラスカ南部、チリ、ニュージーランド南島などが典型です。
エスチュアリー(三角江)
川の河口が海に向かってラッパ状に広がっている地形をエスチュアリー(三角江(さんかくこう))といいます。
最終氷期の海面低下時に氷河や川の水の侵食でできた谷が、その後の海面上昇で海に沈んで溺れ谷が形成されます。
この溺れ谷は上流部では河川になりますが、河口では川と海の境目があいまいで、淡水と海水が入り混じった汽水域を形成します。
この汽水域がエスチュアリーに相当します。
エスチュアリーとリアス式海岸の違い
エスチュアリーとリアス式海岸の違いは、リアス式海岸が起伏の激しい壮年期地形が沈水したのに対し、エスチュアリーは起伏のゆるやかな台地が沈水していることです。
海に沈む前の地形の違いが、沈んだ後の地形に影響しています。
リアス式海岸は元の地形の影響で海沿いに平地が少ないのに対し、エスチュアリーは川の水深が深く周囲に平地が広がります。
これは土地利用にも影響し、リアス式海岸は漁村が点在するのに対し、エスチュアリーには大規模な港湾都市が発展します。
また、エスチュアリーは特定の河川の河口付近にできる汽水域の地形を指しているのに対し、リアス式海岸は複雑に入り組んだ海岸線がつづく、ある程度広い範囲の地形を指しているという違いもあります。
エスチュアリーと三角州の違い
エスチェアリーと三角州の違いは、河口に土砂が堆積しているかです。
上流の侵食作用が強いと、上流から運んできた大量の土砂が河口付近に堆積して三角州を形成します。
起伏のはげしい新期造山帯の山脈を源流とする日本の多くの河川やアルプス山脈を源流とするライン川の河口(オランダ)には三角州が広がります。
一方、上流での侵食作用が弱いと、運んでくる土砂の量が少ないので河口付近での堆積も少なくなり、元の地形がそのまま沈水したエスチュアリーとなります。
テムズ川(イギリス)、セーヌ川(フランス)、エルベ川(ドイツ)の河口など、ヨーロッパの多くの河川にあてはまります。
北アメリカでは、セントローレンス川の河口(カナダ)にエスチュアリーが広がります。
エスチュアリーの土地利用
エスチュアリーは川や氷河に削られた地形が沈水したため水深が深く、外洋を航行する大型船でも入れる港をつくることができます。
そのため、海上交通と内陸交通の結節点として重要な港湾施設が立地する場所も多いです。
テムズ川のロンドン(イギリス)、セーヌ川河口のル・アーヴル(フランス)、エルベ川のハンブルク(ドイツ)などが港湾都市です。
参考文献
沈水海岸とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/17閲覧
リアス式海岸とは コトバンク デジタル大辞泉の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/17閲覧
溺れ谷とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/17閲覧
ダルマチア式海岸とは コトバンク デジタル大辞泉の解説 2021/1/17閲覧
多島海とは コトバンク 世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/17閲覧
フィヨルドとは コトバンク 百科事典マイペディアの解説、世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/17閲覧
エスチュアリーとは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説、百科事典マイペディアの解説 2021/1/17閲覧
三角江とは コトバンク デジタル大辞泉の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/17閲覧