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お茶の種類と栽培(チャノキ・緑茶と紅茶と烏龍茶の違い)

東アジアで古くから飲まれている飲料で、現在では世界中で飲まれています。
原料となるチャノキは栽培が温暖な地域に限られるため、国際的に取引される商品作物です。
ここでは、お茶とチャノキの栽培と利用についてまとめます。

茶とチャノキ

チャノキの葉。チャノキは照葉樹の一種であり、インド北東部~中国~日本の関東にかけて広がる照葉樹林帯に生育する。光沢がある葉は茶の原料となる。野生では高さ数mになるが、栽培する際には葉を収穫しやすいように枝を刈り込んで高さ1m程度に調整する。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/5/24閲覧

チャノキという樹木の葉(茶葉)を原料とした飲み物です。
チャノキの葉を収穫し、乾燥させた葉を水で煮出して(煎じて)飲みます。

チャノキは照葉樹の一種であり、インド北東部~中国~日本の関東にかけての照葉樹林帯に分布します。
チャノキを原料とした茶は中国や日本などの東アジアで古くから飲まれていましたが、歴史の長い間、茶を飲む習慣は東アジアに限られていました。
しかし、大航海時代の16世紀にヨーロッパに伝わり、17世紀にはイギリスを中心に紅茶を飲む習慣が広がりました。
ヨーロッパで茶の需要が高まりましたが、チャノキは寒さに弱くヨーロッパでは栽培に不向きです。
そのため、イギリスの植民地であったインドやスリランカ、ケニアなどでチャノキの栽培と茶の生産が行われるようになりました。
茶葉の収穫には多くの人手を必要とし、インドやスリランカなどでは多くの労働力を利用してプランテーションによる大規模栽培が行われるようになりました。
一方、古くから栽培されてきた日本や中国では、各農家で小規模に栽培されることが多いです。

茶は栽培・生産できる地域が限られるため、国際的に取引される商品作物の1つです。
また、茶は生存に必須ではない嗜好品であり、単価が高い嗜好作物です。
そのため、茶には生産地の名前を冠したブランドが多数存在します。
インド・ダージリン地方のダージリンティースリランカのセイロンティーが世界的に有名です。
日本国内では静岡の静岡茶や鹿児島の知覧茶、三重県の伊勢茶などがあります。

茶の種類

発酵の程度が異なる4種類の茶と茶葉。左から右の順で発酵が進んでいる。左から順に緑茶(日本茶)、黄茶(中国茶)、烏龍茶(中国茶)、紅茶(インドのアッサムティー)である。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/5/24閲覧

茶はチャノキの葉を原料として製造(製茶)しますが、製茶の方法の違いによっていくつか種類があります。

緑茶と紅茶、烏龍茶(ウーロン茶)の違いは収穫後に発酵をどの程度進めるかの違いにあります。
茶の葉には多くの酵素が含まれるため、そのまま放置すると葉の酸化が進み発酵がおきます。

緑茶を作る場合は収穫した葉をすぐに加熱して発酵がほとんど進まないようにしてから乾燥させます。
紅茶を作る場合は収穫した葉は加熱せずによくもみこんで発酵を十分に進めてから乾燥させます。
烏龍茶を作る場合は発酵の途中で加熱して途中で酵素反応を止めてしまいます。
以上のように、緑茶、烏龍茶、紅茶の順で発酵が進んでいます。
発酵が進んでいない緑茶は葉の緑色が残っているのに対し、発酵が進んでいる紅茶は葉が変色して赤褐色~黒色に近くなり、独特の香りがします。

このように、緑茶と紅茶、烏龍茶の違いはチャノキの種類ではなく製造方法の違いにあります。
しかし、チャノキの種類によって葉の酵素の含有量が異なるため、向き不向きがあります。
インドで栽培されるアッサム種(アッサムチャ)は酵素の働きが強く渋みの強い茶葉なので紅茶に向いています。
一方、日本で栽培されるチャノキはアッサムチャよりも酵素の含有量が少なく渋みが弱い茶葉であり緑茶に向いています。
そのため、アッサムチャが栽培されるインドやスリランカでは紅茶が多く生産され、日本では緑茶が多く生産されています。
世界的には生産量の7-8割が紅茶であり、緑茶は2-3割程度になります。

参考

茶は本来はチャノキの葉を原料とした飲料です。
しかし、チャノキ以外を原料として同じように作られた飲み物の中にも〇〇茶とよばれるものがあります(茶外茶、ちゃがいちゃ)。
茶外茶には、大麦を原料とする麦茶やコカの葉を原料とするコカ茶などがあります。

コカは現代では麻薬として規制されていますが、南米のアンデス山脈周辺では嗜好品として古くから利用されてきました。
医学的な根拠はありませんが、伝統的にコカは高山病の予防に効くとされています。
そのため、コカ茶は今でもペルーやボリビアを中心にアンデス山脈周辺で広く日常的に飲まれています。

ペルーで飲まれているコカ茶。医学的な根拠はないもののコカは伝統的に高山病の予防に効くとされ、南米のアンデス山脈周辺で嗜好品として伝統的に利用されてきた。コカは現代では麻薬として国際的に規制されているが、ペルーやボリビアではコカ茶や葉を噛むなどの伝統的な利用方法が認められている。出典:Wikimedia Commons, ©Anikó, CC BY 2.0, 2024/3/7閲覧

チャノキ(茶)の栽培と利用

高原地帯の傾斜地に広がる茶畑(マレーシア・マレー半島内陸部のキャメロンハイランド)。キャメロンハイランドはマレー半島内陸部の標高1,500mを超える高原に位置し、熱帯気候のマレーシアの中では冷涼な気候である。水はけのよい斜面を利用して昼夜の気温差が大きい気候に適した茶が栽培されている。出典:Wikimedia Commons, ©Will Ellis from Reading, England, CC BY-SA 2.0, 2023/5/24閲覧

ここからは、チャノキの栽培と利用についてまとめます。
チャノキの栽培条件やプランテーションでの栽培、製茶から利用までについて順番にふれていきます。

チャノキ(茶)の栽培条件

チャノキは寒さに弱いため、熱帯~温帯の比較的温暖な地域で栽培されます。

年平均気温14-16℃が栽培に最適であり、冬の最低気温は-5℃以上、夏の最高気温は40℃以下であることが求められます。
年平均気温20℃前後が最適なコーヒーよりは寒さに強いのが特徴です。
たとえば、静岡では茶の栽培・生産が盛んですがコーヒーを栽培・生産するには寒すぎます。

また、降水量は年1,500m程度が必要です。
一方で、樹木作物であることから水はけの良い場所を好みます。
加えて、昼夜の気温差が大きい場所の方が茶の品質が高くなる傾向があります。

以上の栽培条件から、熱帯~亜熱帯の高原地帯の斜面で盛んに栽培されています。
これら熱帯~亜熱帯の高原地帯では、高山気候のため年間の気温差(年較差)は少ないが朝晩の気温差(日較差)が大きいという特徴があります。
低地同様降水量が多い一方、高原地帯の傾斜地では水が低地に流出するため水はけがよい環境になっています。
具体的には、ヒマラヤ山脈の東部のダージリン(インド北東部、標高2,000m)やセイロン島内陸部のスリランカ中央高原(スリランカ、標高1,000m以上)などが一大産地です。

日本では温暖で水はけのよい土壌が広がる場所で栽培されます。
静岡では洪積台地である牧之原台地(静岡県中部)で栽培され、鹿児島では桜島などの火山灰が堆積したシラス台地が一大産地です。

茶のプランテーション

茶の収穫風景(タンザニア中南部・イリンガ州南部の高原地帯)。茶葉の収穫(茶摘み)には多数の労働力を必要とし、プランテーションによる大規模栽培が行われている。出典:Wikimedia Commons, ©Martin Benjamin, CC BY-SA 3.0, 2023/5/24閲覧

17世紀以降にイギリスを中心にヨーロッパで紅茶の需要が高まりましたが、ヨーロッパは寒冷で茶の生産には適しません。
そこで、熱帯に位置するイギリスの植民地で茶の生産が広がりました。

これら植民地では、チャノキの栽培に適した高原地帯にプランテーションとよばれる大規模農園が作られました。
たとえば、イギリスの植民地であったインドやスリランカ、ケニア、タンザニアでは現在でも茶の栽培・生産が盛んです。
茶のプランテーションでは多数の労働力を必要とするため、現地人を労働力として栽培・収穫が行われています。

収穫した直後の茶葉(インド北東部・ヒマラヤ山脈東部丘陵地帯に位置するダージリン)。同じ木から収穫した茶葉であっても、葉が小さい方が重量当たりの価値が高い。出典:Wikimedia Commons, ©Arne Hückelheim, CC BY-SA 3.0, 2023/5/24閲覧

製茶

製茶における乾燥工程の様子(タンザニア南部)。収穫した茶葉は乾燥させた上で不純物を取り除き、市販される状態に加工される。出典:Wikimedia Commons, ©Joachim Huber from Switzerland, CC BY-SA 2.0, 2024/3/7閲覧

収穫した茶葉を加工して茶を生産する過程を製茶といいます。
製茶の工程は製造したい茶の種類(緑茶や紅茶など)によって異なりますが、いずれも最終的には乾燥させて不純物を取り除くことで茶葉として市販される状態になります。
加工された茶葉は、水やお湯で煮出して(煎じて)飲用します。

紅茶の文化

ホテルのアフタヌーンティー(中国南部・香港・グランドハイアット香港)。紅茶に加えて軽食としてスコーン、ジャム、ケーキが並んでいる。出典:Wikimedia Commons, ©Peachyeung316, CC BY-SA 4.0, 2023/5/24閲覧

イギリスでは紅茶は貴族階級に流行し、苦味を抑えるために紅茶に砂糖ミルクを入れる東アジアにはない習慣が生まれました。
紅茶の価格下落に伴って中産階級や労働者階級も紅茶を飲むようになり、イギリスでは仕事中のお茶休憩の時間がとられるようになりました。
紅茶を飲む時間は社交の場となり、軽食を伴うアフタヌーンティーなどの文化が生まれました。

生産量と輸出入量

茶の国別生産量(2019年)。伝統的に茶が飲まれる中国と輸出用のプランテーションが広がる南アジアや東アフリカで生産量が多い。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, ©Caroline Léna Becker, updated by Furfur, CC BY-SA 4.0, 2023/5/24閲覧

茶の生産量(2017年)。出典:データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 p62 二宮書店

茶の貿易(2016年)。出典:データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 p62 二宮書店

茶は現在では欧米など世界各国で飲まれます。
それに対し生産国は温暖な地域に限られます。

生産量国別一位は、伝統的に茶が飲まれ人口も多い中国です。
次いで、欧米への輸出用にプランテーションで大規模栽培が行われているイギリスの旧植民地が生産量上位に並びます。
ケニア、スリランカ、イギリスはいずれもイギリスの植民地時代に茶の生産が盛んになりました。
これらの国はいずれも輸出量でも上位に来ます。

輸入国はいずれも気候的に茶の生産が難しい国です。パキスタンやアラブ首長国連邦は乾燥のため、ロシアやイギリスは寒冷すぎてチャノキの栽培が困難です。

気候の特性に加え、茶の収穫には多くの人手を要するため人件費が高い先進国や人口密度が低い国では生産されず、人口密度が高いモンスーンアジア(東~東南~南アジア)では盛んに生産される傾向にあります。
日本や韓国では、伝統的に茶が飲まれてきたため国内でチャノキの栽培が行われています。

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参考文献

 ウィキペディア 2023/5/23閲覧
History of tea, Wikipedia 2023/5/23閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
お茶の博物館 入間市博物館 2023/5/23閲覧
チャノキ ウィキペディア 2023/5/23閲覧
茶の主な産地はどこですか。 農林水産省 2024/3/30閲覧
お茶ができるまで お茶の製造工程 お茶百科 2023/5/23閲覧
アッサムチャ 山科植物資料館 2023/5/24閲覧
コカ ウィキペディア 2023/5/24閲覧
Coca tea, Wikipedia 2024/3/7閲覧
お茶の栽培条件(さいばいじょうけん)についておしえてください。 農林水産省 2023/5/24閲覧
お茶の産地・栽培・加工について 公益財団法人静岡茶業会議所 2023/5/24閲覧
コーヒーの木を知っていますか? コーヒーの生育条件 味の素AGF株式会社 2023/5/24閲覧
Darjeeling, Wikipedia 2023/5/24閲覧
Tea production in Sri Lanka, Wikipedia 2023/5/24閲覧
牧之原台地 ウィキペディア 2023/5/24閲覧
牧之原台地(まきのはらだいち)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典  2023/5/24閲覧
シラス台地 ウィキペディア 2023/5/24閲覧
Tea in the United Kingdom, Wikipedia 2023/5/24閲覧

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