地殻変動などの地形をつくる動きが活発に行われる変動帯では、大規模な山脈をつくる造山運動がおきます。
ここではプレートテクトニクス論のアプローチで変動帯と造山運動について解説していきます。
目次
変動帯と造山運動とは
次の図は、世界の主要なプレートの分布を示したものです。
プレートの境界部分は、地殻変動などの地形をつくる動きが活発に行われるので変動帯といいます。
2つのプレートが互いに押しあう狭まる境界では大規模な山脈や弧状列島を形成する力が働きます。
そのため、このような変動帯のことを造山帯ともいいます。
造山帯において、大規模な山脈や弧状列島を形成する動きを造山運動といいます。
山ではなく島(弧状列島)をつくる場合も造山運動というのは、弧状列島も海面を無視して海底から見ると大規模な山脈ができているように見えるからです。
プレートテクトニクス説に従うと、造山運動は大きく二つのタイプ(衝突帯型造山運動と沈み込み帯型造山運動)に分けられます。
いずれも狭まる境界にみられるものです。
衝突帯型造山運動
一つ目は、二つの大陸プレートが衝突したときに地球内部に沈み込むことができず、大陸の間にあった海洋を含む広い地域が横方向から強い圧縮をうけて表面の地層がねじまがり(褶曲)、大規模な褶曲(しゅうきょく)山脈ができるケースです。
このパターンに当てはまるのヒマラヤ山脈です。
インドプレートとユーラシアプレートが衝突して造山運動がおきた結果、ヒマラヤ山脈の形成やチベット高原(中国)の隆起がおきました。
沈み込み帯型造山運動
二つ目は、海洋プレートが大陸プレートの下に沈みこみ、火山活動がおきるケースです。
火山活動がおきるのは大陸から少し離れた場所で、大陸の海岸線と並行して火山が並び、それらの噴火による堆積物が蓄積して弧状列島ができます。
めずらしい例として、火山が大陸上に形成されて噴火による堆積物が堆積した場合には標高の高い山脈になります。
その一例がアンデス山脈です。
アンデス山脈は海洋プレートのナスカプレートと大陸プレートの南アメリカプレートの狭まる境界にそってできた変動帯で、火山の噴出物により標高が高くなった山脈です。
造山帯の分類と分布
次の地図は世界の造山帯の分布を示したものです。
造山帯は現在または過去にプレート境界(変動帯)であった場所です。
そのため、同じ造山帯であっても造山運動をうけた(プレート境界であった)時期によって分類できます。
比較的新しい時代(中生代~新生代、2億5000万年前以降)に造山運動をうけた(プレート境界があった)場所を新期造山帯といいます。
新期造山帯は現在もプレートの境界となっているため、線状に分布しています。
新期造山帯はアルプス=ヒマラヤ造山帯と環太平洋造山帯の2つがあります。
一方、古生代(5億4000万~2億5000万年前)に造山運動をうけ、現在は変動帯ではない場所にある造山帯を古期造山帯といいます。
古期造山帯は現在のプレート境界とは異なる場所に分散して分布しています。
新期造山帯は造山運動をうけてから日が浅いので険しい山脈が多いのに対し、古期造山帯は造山運動をうけてから時間がたっているので雨水の侵食で削られてなだらかな山地である場合が多いです。
だだし、古期造山帯であっても標高が高く険しい山脈もあります。
断層運動で再隆起した天山(テンシャン)山脈(中国北西部~カザフスタン・キルギス)やアルタイ山脈(中国北西部・ロシア・モンゴル)が一例です。
更に古い先カンブリア時代(5億4000万年前以前)に造山運動をうけ、その後は造山運動をうけていない場所を安定陸塊といいます。
安定陸塊は古期造山帯よりさらに古い時代に造山運動をうけたため、山は侵食されて消滅し、比較的平坦な平原が広がります。
アルプス=ヒマラヤ造山帯
アルプス=ヒマラヤ造山帯は、ヨーロッパのアルプス山脈周辺からアナトリア半島(トルコ)、イラン高原、ヒマラヤ山脈をとおり、インドネシアまで続く新期造山帯です。
西はピレネー山脈(フランス・スペイン)やアフリカ北部のアトラス山脈(モロッコ・アルジェリア・チュニジア)、イタリア半島を縦貫するアペニン山脈(イタリア)も含みます。
アルプス=ヒマラヤ造山帯は火山が少なく褶曲(しゅうきょく)が多くみられるのが特徴です(例外:イタリア周辺やトルコ東部、インドネシア)。
アルプス=ヒマラヤ造山帯に属する地域をまとめます。
アトラス山脈(モロッコ・アルジェリア・チュニジア)
ピレネー山脈(フランス・スペイン)
アルプス山脈(フランス・イタリア・スイス・オーストリア)
アペニン山脈(イタリア)
カルパチア山脈(ポーランド、ウクライナ、ルーマニア他)
バルカン半島(ギリシャ・ルーマニア他)
アナトリア半島(トルコ)
カフカス山脈(コーカサス山脈、ロシア、ジョージア、アゼルバイジャン)
イラン高原(イラン)
パミール高原(中国・タジキスタン・アフガニスタン他)
ヒマラヤ山脈(中国・インド・ネパール・ブータン)
チベット高原(中国)
マレー半島(タイ・マレーシア)
インドネシア西部
環太平洋造山帯
環太平洋造山帯は、太平洋を取り囲むように存在する新期造山帯です。
ニュージーランドから時計回りにニューギニア島(インドネシア・パプアニューギニア)、インドネシア、フィリピン諸島、日本列島、アラスカのアリューシャン列島、北アメリカのロッキー山脈を経由して南アメリカのアンデス山脈までのびています。
環太平洋造山帯は、多くの場所で太平洋の沿岸を沿うように広がっているため、海洋プレートが大陸プレートの下に沈みこむ形になり、アルプス=ヒマラヤ造山帯よりも火山が多い造山帯です。
そのため、英語では火の輪(Ring of Fire)とよばれます。
環太平洋造山帯に属する地域をまとめます。
ニュージーランド列島(ニュージーランド)
ニューギニア島(インドネシア・パプアニューギニア)
インドネシア
フィリピン諸島(フィリピン)
日本列島
カムチャッカ半島(ロシア)
アリューシャン列島(米アラスカ州)
アラスカ半島(米アラスカ州・カナダ)
ロッキー山脈(アメリカ・カナダ)
シエラネバダ山脈(米カリフォルニア州)
バハ・カリフォルニア半島(メキシコ)
中央アメリカ諸国(パナマ・ニカラグア他)
アンデス山脈(エクアドル・ペルー・チリ他)
それ以外の造山帯(古期造山帯)
線状に分布する新期造山帯に対し、古期造山帯は現在はプレートの境界(変動)ではない場所に分散して分布します。
ウラル山脈(ロシア)、アパラチア山脈(アメリカ東部)、グレートディバイディング山脈(オーストラリア東部)などが古期造山帯です。
これらは古生代(5億4000万~2億5000万年前)に造山運動をうけた造山帯です。
これらの山脈は現在ではプレートの境界ではありませんが、造山運動をうけた時代には変動帯でした。
古期造山帯に分類される山脈を以下にまとめます。
アパラチア山脈(アメリカ東部)
スカンジナビア山脈(ノルウェー・スウェーデン)
ウラル山脈(ロシア中部、アジアとヨーロッパの境界)
グレートディバイディング山脈(大分水嶺山脈、オーストラリア東部)
ドラケンスバーグ山脈(南アフリカ東部)
天山山脈(中国西部・カザフスタン・キルギス)
参考
新期造山帯と古期造山帯という区別は、プレートテクトニクス論登場以前の古い時代の分類方法で、現在では高校地理以外に使われていません。
2013年には、高校地理の教科書における造山帯の説明について批判する論文が学会誌に投稿されています(岩田修二「高校地理教科書の「造山帯」を改訂するための提案」)。
そのため、当サイトでたびたび参考文献に挙げているインターネット百科事典の「コトバンク」でも「造山帯」や「環太平洋造山帯」、「褶曲山脈」という単語はあっても「新期造山帯」や「古期造山帯」という単語はありません。
ウィキペディアでは、日本語版のページには「新期造山帯」と「古期造山帯」のページがありますが、日本語以外の言語では対応するページが一切ありません。
一方、「造山運動」のページは英語を含む複数の言語で対応するページが存在し、英語版ページでは日本語版以上に詳細に説明されています。
造山帯と安定陸塊
プレートの境界付近が変動帯とよばれるのに対し、変動帯から離れたプレートの内側(大陸内部)はプレート間のひずみの影響も少なく、地震や火山活動もほとんどないため安定陸塊(クラトン)とよばれています。
安定陸塊は、5-6億年前までの先カンブリア時代に造山運動をうけ、その後は造山運動をうけていない場所です。
造山運動をうけてから非常に長い年月が経っているので、かつての山脈は侵食されて平坦な地形が広範囲に広がっています。
地域としては、カナダ東部のカナダ楯状地やロシアのシベリア卓状地などが安定陸塊です。
安定陸塊に分類される場所を以下にまとめます。
カナダ楯状地(ローレンシア台地、カナダ東部)
バルト楯状地(スカンジナビア半島~フィンランド)
オーストラリア楯状地(オーストラリア西部)
ロシア卓状地(東ヨーロッパ平原、ロシア西部~東ヨーロッパ)
シベリア卓状地(ロシア)
安定陸塊は造山帯に対比する概念です。
しかし、現在の変動帯(プレートの境界)から離れているという観点では、安定陸塊と古期造山帯は類似しています。
また、造山帯も安定陸塊も地形ではなく地質構造のことなので注意してください。
最後に、新期造山帯と古期造山帯、安定陸塊の違いを表にまとめます。
地質区分 | 新期造山帯 | 古期造山帯 | 安定陸塊 |
造山運動をうけた時期 | 新生代(6,600万年前~現代) | 古生代~中生代(5.5億年前~6,600万年前) | 先カンブリア時代(5.5億年以上前) |
プレート上での位置 | 狭まる境界(変動帯) | プレート境界から離れた場所 | プレート(大陸)中央部 |
起伏 | 険しい | 比較的なだらか | 平坦 |
特徴的な地質構造(大地形) | 褶曲山脈、弧状列島 | 山地 | 楯状地、卓状地 |
地形の例 | ヒマラヤ山脈、日本列島 | アパラチア山脈(アメリカ東部)、ウラル山脈(ロシア) | カナダ楯状地(カナダ東部)、シベリア卓状地(ロシア) |
鉱物資源 | 鉄鉱石 | 石炭 | 銅、石油 |
参考文献
造山運動とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/9閲覧
変動帯とは コトバンク デジタル大辞泉の解説、岩石学辞典の解説 2021/1/9閲覧
造山帯とは コトバンク 百科事典マイペディアの解説、世界大百科事典 第2版の解説、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/9閲覧
Orogeny Wikipedia 2021/1/10閲覧
Bin Su et al., Origins of orogenic dunites: Petrology, geochemistry, and implications, Gondwana Res. 29, 41-59 (2016)
Pan-African orogeny Wikipedia 2022/7/18閲覧
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「変動帯」と「造山帯」の違いは何ですか。 帝国書院 2022/7/18閲覧
岩田修二「高校地理教科書の造山帯の説明は誤り」Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers 100053 (Spring 2013)
岩田修二「高校地理教科書の「造山帯」を改訂するための提案」E-journal GEO 地理教育解説記事 8(1) 153-164 (2013)
アンデス山脈とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/10閲覧
新生代とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/10閲覧
アルプス・ヒマラヤ造山帯 ウィキペディア 2021/1/10閲覧
アルプス・ヒマラヤ山系とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/10閲覧
テンシャン(天山)山脈 コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/10閲覧
アルタイ山地 コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/10閲覧
先カンブリア時代 コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/10閲覧
安定陸塊 コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 2021/1/10閲覧