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家畜の分布の違い

高校地理に登場する家畜はそれぞれ適した気候条件や分布が異なります。
分布が重なる場所では複数の種類の家畜が一緒に飼育されることもありますが、特定の家畜が集中して飼育される場所もあります。
このページでは、「羊とヤギ」や「牛と水牛」のように似たような家畜同士の分布の違いについて解説します。

家畜ごとの分布の違い

ここでは、以下の家畜の分布の違いについて解説します。
牛と羊
羊とヤギ
牛と水牛
牛とヤク

牛と羊の分布

牛と羊が一緒に放牧されている牧場(南アフリカ)。暑さに強い牛は温暖な地域で飼育され、乾燥に強い羊は乾燥した地域で飼育される傾向にある。一方で牛と羊の両方の飼育に適した地域では、この牧場のように牛と羊が同時に飼育される例もある。出典:Wikimedia Commons, ©Lollie-Pop from Cape Town, South Africa, CC BY 2.0, 2024/3/15閲覧

と比べると乾燥に強く暑さに弱いため、温暖湿潤な地域で肉牛が飼育され、乾燥した地域で羊が飼育される傾向があります。

たとえば、オーストラリア内陸部では低温な南東部では肉牛と羊を一緒に飼育しているのに対し、高温な北東部では肉牛単独で飼育しています。

ニュージーランドでは、降水量が少ない南島の南東部で羊の飼育が盛んです(南アルプス山脈があるため偏西風の雨陰になるため)。
一方で酪農は降水量が多い北島では伝統的に盛んでしたが、近年では灌漑設備の導入により南島でも乳牛の飼育が増えています。

アルゼンチン中部のパンパでは、海に近く降水量が多い東部の湿潤パンパ(ブエノスアイレス州周辺)では肉牛の飼育が盛んであるのに対し、アンデス山脈に近い西部の乾燥パンパではの飼育が盛んです。
乾燥冷涼なアルゼンチン南部のパタゴニアでも羊の飼育が盛んです。

参考

ニュージーランド南島の南東部やパンパの西部で降水量が少ないのは、雨陰砂漠ができる要因と同じです。
ニュージーランドやアルゼンチンの緯度では偏西風の影響を強く受けます。
この偏西風が山脈にぶつかると、山脈の手前側(西側)で雨が降って空気中の水分が失われます(地形性降雨)。
山脈を越えた後の空気は乾燥しており、山脈の風下側(東側)では降水量が少なくなり、砂漠ができやすいです(雨陰砂漠)。

実際にアルゼンチンでは、アンデス山脈の東側に雨陰砂漠であるパタゴニア砂漠が広がります。
ニュージーランド南島でも南アルプス山脈が南北に走り、南東部が偏西風の雨陰になります。
南島南東部は海に近いため砂漠ではありませんが、他の地域よりも降水量が少なくなり、羊の飼育に適した気候ができあがりました。

羊とヤギの分布

草原で飼育される羊とヤギ(米国)。羊とヤギは乾燥した草原で遊牧民に飼育される家畜である。また、羊は新大陸で企業的牧畜による大規模な飼育が行われているのに対し、ヤギは山岳地帯や離島、発展途上国などで小規模な飼育形態が見られる。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/3/15閲覧

ヤギはどちらも乾燥した地域に適応した家畜であり、ユーラシア大陸の遊牧民に飼育される家畜であるという共通点があります。
羊は新大陸(南北アメリカ大陸、オーストラリア)の乾燥した地域にて 企業的牧畜により大規模な飼育が行われています。

一方、ヤギは少ないエサで乳や肉が得られるためアジアやアフリカの小規模な農家にとって重要な家畜であり、アジアやアフリカの発展途上国の小規模農家に飼育されています。
また、ヤギは急傾斜地に適応した動物であり、エサとなる草を好き嫌いせずに食べるという特徴があります。
そのため、山岳地帯や離島でも飼育され、急傾斜地の除草などにも使われています。

表 羊とヤギの違い

ヒツジ(羊) ヤギ(山羊)
生態 集団で群れて行動し、先頭を動く動物の後についていく 羊よりも単独行動が多い
分布 乾燥した地域(草原) 温暖で乾燥した地域・山岳地帯
畜産物 主に毛、他に肉など 肉や乳、毛
牧畜形態 企業的牧畜遊牧、 地中海式農業 地中海式農業遊牧自給的農業

牛と水牛の分布

川で水浴びをする水牛(ラオス南部)。水牛はインド~東南アジア~中国南部で飼育されている家畜であり、牛とは異なり、湿地帯や沼地に適応している。出典:Wikimedia Commons, ©Basile Morin, CC BY-SA 4.0, 2023/9/16閲覧

水牛(スイギュウ)牛(ウシ)と同じウシ科の動物です。
よく似た名前ですが別の生物です。

水牛は高温多湿の環境に適応しており、水辺の湿地帯に適応しています。
水牛はインド~東南アジアの熱帯・亜熱帯の地域で飼育されているのに対し、牛はそれ以外の乾燥帯~温帯~亜寒帯(冷帯)の地域で飼育されています。

牛とヤクの分布

ヒマラヤ山脈周辺で飼育される家畜であるヤク(中国西部・チベット自治区)。ヤクは乳や肉、毛皮を得るために飼育されたり、荷物の運搬や渡河に使われる。出典:Wikimedia Commons, ©Dennis Jarvis, CC BY-SA 3.0, 2023/9/16閲覧

牛(ウシ)ヤクは同じウシ科ウシ属の動物でよく似た名前ですが別の生物です。
牛は温帯を中心に乾燥帯から亜寒帯(冷帯)にかけて世界中で飼育されているのに対し、ヤクはヒマラヤ山脈周辺~中国西部の標高が高い地域で飼育されています。

牛は元々の生息地(ユーラシア大陸の乾燥帯~温帯~亜寒帯地域)以外の世界中で家畜として飼育されていますが、ヤクはヒマラヤ山脈周辺でのみ飼育されています。
同様に山岳地帯である南米のアンデス山脈では、アンデス山脈固有の家畜であるリャマやアルパカが飼育されており、ヤクは飼育されていません。
平地で飼育される牛は元の生息地から世界中に家畜として広がったのに対し、標高が高い山岳地帯ではそれぞれの地域固有の家畜が分布しており、今も地域固有の家畜が残っています。

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参考文献

小林 信一「オーストラリアの肉牛産業」 2023/9/16閲覧
Sheep farming in New Zealand, Wikipedia 2023/10/1閲覧
【レポート】ニュージーランドの酪農事情 独立行政法人 農畜産業振興機構 2023/9/16閲覧
佐藤 宏樹、伊佐 雅裕「アルゼンチンの牛肉生産・輸出の現状とパタゴニア地域の潜在力」 月報「畜産の情報」(2018年7月) 2023/9/16閲覧
Patagonian sheep farming boom, Wikipedia 2023/10/1閲覧
ヤギ ウィキペディア 2023/10/9閲覧
ヤギ(哺乳綱)(やぎ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/10/9閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
熱帯地域における山羊の飼育マニュアル 平成20年度 畜産をめぐる国際問題等対応調査支援事業 畜産専門家の養成事業 公益財団法人 畜産技術協会 2023/10/9閲覧
スイギュウ ウィキペディア 2023/9/16閲覧
Water buffalo, Wikipedia 2023/9/16閲覧
ヤク ウィキペディア 2023/9/16閲覧
Yak, Wikipedia 2023/9/16閲覧

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