水産業 系統地理

世界の漁場

漁業自体は世界各地で行われていますが、その漁獲量は海域ごとに大きく異なります。
このページでは、世界の漁場の中でも好漁場の条件(光と栄養塩の存在)を満たし、伝統的に漁業が盛んな漁場(太平洋北西部漁場・大西洋北東部漁場・大西洋北西部漁場・太平洋南東部漁場)について解説します。

世界の主要な漁場

世界の主な漁場と漁獲量。世界の海洋を複数のブロックに分割し、各水域の漁獲量の比率を円グラフで表している。漁獲量の約半数を太平洋が占め、特に北西部、中西部、南東部の漁獲量が多い。出典:(1)我が国周辺の水産資源 令和5年度 水産白書 水産庁 2026/9/6閲覧

上図は世界の海洋をいくつかのブロックに分割し、海域ごとの漁獲量の割合を示したものです。
海域ごとに漁獲量や獲れる魚の種類に違いがあり、魚が多く集まる場所には人々が集まり漁を行う漁場ぎょじょうが形成されます。

漁場は漁業を行う水域であり、漁場ごとに漁獲量や魚の種類は大きく変わります。
漁獲量が多く水産資源が豊富な漁場では、水生生物のエサとなる植物プランクトンが多数生息し、植物プランクトンの増殖に必要な光と栄養塩類も豊富に存在します。
太陽光は水深が浅い場所にしか届かず、栄養塩は海底まで沈むため、好漁場を形成する条件となる光と栄養塩類が両立する場所は限られています。
このような条件を満たす場所としては、海底が浅い大陸棚や浅堆せんたい(バンク)、暖流と寒流がぶつかる潮境(潮目)、海底から湧昇流が上がる場所などがあります。

世界の漁場の中でも歴史が長く、現在でも漁獲量が多い海域を世界三大(四大)漁場と呼びます。
世界三大漁場は、北西太平洋(日本近海)、北東大西洋(北海のドッガーバンク周辺)、北西大西洋(カナダのニューファンドランド島沖のグランドバンク周辺)の3か所であり、これに南東太平洋(南米のペルー沖)を加えたものを世界四大漁場と呼びます。

以下では、これらの漁場について解説します。

太平洋北西部漁場

太平洋北西部漁場(北西太平洋漁場)の概要。日本近海には暖流(赤色)と寒流(白色)が交わる潮境(潮目)が存在し、海底からの栄養塩のおかげでエサが豊富な好漁場を形成している。また、黄海~東シナ海では水深が浅い大陸棚が広がり、栄養塩が沈み込む海底まで光が届くためエサが豊富になり好漁場である。ロシアのアムール川も、後背の亜寒帯林(冷帯林)のタイガから流れ出た豊富な栄養塩を海に運ぶため、好漁場となる。なお、この地図は海陸を標高別に色分けしており、赤色が濃いほど標高が高い陸地であり、緑色が平野部である。青色が濃いほど海底が深い水域であり、薄水色は浅い海底を表す。中国大陸と朝鮮半島に挟まれた黄海から東シナ海にかけては水深が浅い大陸棚が続く。一方で日本海には大陸棚は見られず、中央部に局所的に水深が浅い浅堆(せんたい、バンク)が見られ、大和堆(やまとたい)と命名されている。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2026/8/25閲覧

太平洋北西部漁場(北西太平洋漁場)は、日本近海を中心とした漁場で、世界三大漁場の一つです。
地理的には、日本の太平洋岸を中心にオホーツク海から日本海、黄海、東シナ海にかけて広がります。
この海域には太平洋と日本海に潮境(潮目)が存在し、黄海~東シナ海には大陸棚が広がるります。
ロシア極東地方のアムール川は、広大な亜寒帯林(冷帯林)のタイガの中を流れるため、タイガから流れ出た豊富な栄養塩を海に運びます。
このように日本近海には栄養塩が豊富な海域が多く、植物プランクトンが増殖するためエサが豊富で魚も数多く集まる好漁場を形成しています。

太平洋北西部漁場は漁獲量も世界一の漁場であり、魚の種類も豊富です。
北部ではサケ(鮭)、マス(鱒)、スケトウダラ、カニ(蟹)の漁獲量が多く、南部ではイワシ(鰯)、サバ(鯖)、カツオ(鰹)、マグロ(鮪)などが多いです。

大西洋北東部漁場

大西洋北東部漁場(北東大西洋漁場)の概要。この海域では、北西ヨーロッパ沿岸を暖流のノルウェー海流が北上し、グリーンランドの東海岸を寒流の東グリーンランド海流が南下するため、間の海域で潮境(潮目)が形成されて好漁場である。また、英国周辺からスカンジナビア半島にかけて水深が浅い大陸棚が続く。特に英国とスカンジナビア半島に挟まれた北海に位置するドッガーバンクやグレートフィッシャーバンクは代表的な好漁場である。なお、この地図は海陸を標高別に色分けしており、赤色が濃いほど標高が高い陸地であり、緑色が平野部である。青色が濃いほど海底が深い水域であり、薄水色は浅い海底を表す。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2026/8/25閲覧

大西洋北東部漁場(北東大西洋漁場)は、北西ヨーロッパ近海を中心とした漁場で、世界三大漁場の一つです。
地理的には、アイルランド・イギリス周辺からスカンジナビア半島にかけて広がる大陸棚の海域と、アイスランド島周辺の潮境(潮目)が主な漁場です。
この海域では、北西ヨーロッパ沿岸には暖流であるノルウェー海流が北上し、グリーンランドの東側では寒流である東グリーンランド海流が南下します。
このため、間の海域(アイスランド島周辺)では、暖流と寒流から流れ込んだ海水が潮境(潮目)を形成し、一帯は好漁場となります。

北西ヨーロッパ沿岸の大陸棚の中でも、北海(イギリスとスカンジナビア半島の間)に位置するドッガーバンクやグレートフィッシャーバンクでは、浅堆が発達して好漁場として知られています。
この漁場は、近隣にヨーロッパという人口が多い大消費地を抱えるため古くから開発されてきた漁場です。

この漁場の主な出漁国は、近隣に位置するイギリスやアイスランド、ノルウェー、デンマーク、スペインなどです。
漁獲される主な魚としては、ニシン(鰊)やタラ(鱈)、カレイ(鰈)、サバ(鯖)などです。

参考

タラ戦争(1958-1976)における英国海軍とアイスランド沿岸警備隊の軍艦の衝突(1976年)。タラ戦争はイギリスとアイスランドの間の漁業権をめぐり発生した紛争である。1952年にアイスランドが領海の拡大を宣言し、それに反発するイギリスが軍艦で護衛しながら漁業を続けたため、双方が漁業の妨害や武力行使を伴う紛争へと発展した。最終的には、アイスランドが軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の脱退を示唆したためイギリスが軟化し、200海里(370km)以内の経済水域が認められることになった。出典:Wikimedia Commons, ©Issac Newton, CC BY-SA 2.5, 2026/9/8閲覧

タラ戦争
タラは大西洋北東部漁場の代表的な漁獲対象であり、1950年代から1970年代にかけて、イギリスとアイスランドの間で漁業権をめぐり武力衝突が複数回発生しました。
当時は東西冷戦中であり、冷戦(Cold War)とタラ(Cod)をもじってタラ戦争(Cod War)と呼ばれています。

イギリスとアイスランドは歴史的に漁業権をめぐる争いを繰り返してきましたが、特に蒸気船の実用化以降はイギリスの漁船の漁船がアイスランド周辺に来ることが多くなりました。
タラ戦争の発端はアイスランドの領海拡大です。
1952年にアイスランドが自国の領海を4海里(7.4km)への拡大を宣言し、続けて1958年には領海外の12海里(22km)の範囲内での外国船の操業を制限しました。
これに反発するイギリスは漁船を軍艦に護衛させて漁業を行う事態となり、双方が軍艦を派遣して衝突する事態となりました。
その後もアイスランドは漁業権の拡大を宣言し、そのたびに紛争になりましたが、最終的には1976年にアイスランドに対して沿岸から200海里(370km)の排他的経済水域が認められることとなりました。
現在では、排他的経済水域は国際的にも広く認められ、日本をはじめとする各国が沿岸から200海里以内の排他的経済水域を設定しています。

大西洋北西部漁場

大西洋北西部漁場(北西大西洋漁場)の概要。カナダ東部のニューファンドランド島沖では、北上する暖流のメキシコ湾流と南下する寒流のラブラドル海流がぶつかるため、潮境(潮目)が形成される好漁場である。加えて、北アメリカ大陸東海岸(米国北東部~カナダ東部)に沿って大陸棚が広がり、特にニューファンドランド島(カナダ東部)の南東沖には大西洋に突き出た広範囲が遠浅になっている。この海域には、グランドバンクと呼ばれる浅堆が存在し、好漁場の条件が重なっている。なお、この地図は海陸を標高別に色分けしており、赤色が濃いほど標高が高い陸地であり、緑色が平野部である。青色が濃いほど海底が深い水域であり、薄水色は浅い海底を表す。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2026/8/25閲覧

大西洋北西部漁場(北西大西洋漁場)は、北アメリカ大陸北東部沿岸に広がる漁場で、世界三大漁場の一つです。
特にカナダ東部のニューファンドランド島近海が好漁場として知られています。
この海域は、米国東海岸を北上する暖流のメキシコ湾流と北極海から南下してきた寒流のラブラドル海流がぶつかる潮境(潮目)です。
ニューファンドランド島の南東沖には大陸棚が広がり、潮境であることも相まって好漁場として知られています。
中でも、大陸棚中の浅堆であるグランドバンクが有名です。

この漁場の主な出漁国は、沿岸国であるアメリカ合衆国やカナダです。
漁獲される主な魚としては、タラ(鱈)やニシン(鰊)、サケ(鮭)などです。

この海域では、20世紀後半に漁法や魚群探知の技術革新により漁獲量が増大し、タラの乱獲につながりました。
この結果、1992年にタラの漁獲量が激減し、その後は10年間にわたり禁漁期間を設けましたが、現在でもタラの資源量は以前の10%程度までしか回復していません。
現在では、カナダ政府が漁獲枠を設定・管理した上で、タラの漁業が再開されています。

太平洋南東部漁場

太平洋南東部漁場(南東太平洋漁場)の概要。南アメリカ大陸西海岸を北上する寒流であるペルー海流(フンボルト海流)は、ペルー沖で南東貿易風に押されて西に進み南赤道海流を形成する。南赤道海流は貿易風に押される吹送流なので、貿易風の風の強さに海流の流速が影響を受ける。貿易風が強いと西向きの海流が強くなり、空いた隙間を埋める深海からの湧昇流が強くなる。湧昇流が強いと、海底から栄養塩を運んでアンチョビ(カタクチイワシ)の漁獲量が増加する。反対に、エルニーニョ現象発生時には貿易風が弱まり、湧昇流も抑えられて漁獲量が減少する。なお、この地図は海陸を標高別に色分けしており、赤色が濃いほど標高が高い陸地であり、緑色が平野部である。青色が濃いほど海底が深い水域であり、薄水色は浅い海底を表す。出典を加工して作成。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2026/8/25閲覧

太平洋南東部漁場(南東大西洋漁場)は、南アメリカ大陸北西岸に広がる漁場です。
南アメリカ大陸西海岸を北上してきた寒流のペルー海流(フンボルト海流)は、チリ・ペルー沿岸で南東貿易風に押されて西に進んで南赤道海流となり、そのまま太平洋を横断します。
南東貿易風が強く吹くと、海水を西に動かす力も強くなり、空いた隙間に深海からの湧昇流が上がってきます。
湧昇流は海底に積み上がった栄養塩(窒素やリンなど)を運ぶため、貿易風が強いほど植物プランクトンが増殖し、魚も多く集まります。
このため、チリ・ペルー沿岸では好漁場が広がり、アンチョビ(カタクチイワシ)を中心とした漁業が盛んです。

この漁場の主な出漁国は、好漁場が広がるペルーやチリです。
漁獲される主な魚としては、アンチョビ(カタクチイワシ)などです。

この海域では、南赤道海流が海水を西に運び、栄養塩をもたらす湧昇流が発生することが好漁場の鍵となります。
このため、エルニーニョ現象が発生して貿易風が弱まると、南赤道海流が弱まり湧昇流も上がって来れなくなります。
この結果、栄養塩が供給されずに植物プランクトンが減少し、アンチョビの漁獲量も減少します。

平常時(上)とラニーニャ現象発生時(左下)、エルニーニョ現象発生時(右下)の太平洋赤道域の海面の断面図。南太平洋の低緯度に位置する南米のペルー沖では、北上してきた寒流のペルー海流(フンボルト海流)が貿易風(東風)に押されて進路を西に変えて南赤道海流となり、暖められながら太平洋を横断してインドネシア付近に達する。このような海流の影響で、ペルー沖では暖められた海水が西に流され、北上する寒流や深海から湧き上がる冷水が空いた場所を埋める。貿易風(東風)の強さによって、暖かい海水が集まる場所が変化する。暖かい海水面の上空では上昇気流により積乱雲が発達するため大雨になるのに対し、積乱雲から遠い場所は乾燥する。このため、ラニーニャ現象発生時には暖かい海水が西側に集まりインドネシアやオーストラリアで大雨、東側のペルーで干ばつを引き起こす。一方、エルニーニョ現象発生時には、暖かい海水が東側に広がり、ペルーで大雨、インドネシアやオーストラリアで干ばつを引き起こす。出典:エルニーニョ/ラニーニャ現象とは 気象庁 2026/7/23閲覧

参考文献

漁場(ギョジョウ)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典 2026/8/19閲覧
(1)我が国周辺の水産資源 令和5年度 水産白書 水産庁 2026/9/6閲覧
大陸棚(タイリクダナ)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ)、最新 地学事典、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2026/8/18閲覧
浅堆(せんたい)とは? コトバンク 精選版 日本国語大辞典 2026/8/18閲覧
潮境(シオザカイ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典 2026/8/29閲覧
潮目(シオメ)とは? コトバンク 百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、改訂新版 世界大百科事典、最新 地学事典、ダイビング用語集 2026/8/29閲覧
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
国境を越えた陸面・海洋統合管理の必要性 笹川平和財団 2026/9/8閲覧
Cod Wars, Wikipedia 2026/9/8閲覧
帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)
Collapse of the Atlantic northwest cod fishery, Wikipedia 2026/9/27閲覧
湧昇流(ユウショウリュウ)とは? コトバンク 百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2026/9/2閲覧
湧昇 環境用語集 EICネット 一般財団法人環境イノベーション情報機構 2026/9/2閲覧

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