ゴムは伸び縮みする独特の性質をもつため、自動車のゴムタイヤなど様々な用途に使われています。
ゴムはパラゴムノキという樹木の乳液から生産することができます。
このページでは、パラゴムノキから作られる天然ゴムについて、パラゴムノキの栽培から加工・利用までについてまとめます。
目次
天然ゴムとは
力を加えて引っ張ると大きく伸び、手を離すと縮んで元に戻る性質(弾性)をもつ物質をゴムといいます。
ゴムには特定の植物から採取できる天然ゴムと石油などを原料として化学的に合成して製造された合成ゴムがあります。
天然ゴムはパラゴムノキという樹木の樹皮に傷をつけ、その傷口から漏れ出る乳白色の液体(ラテックス)を集めて固めたものです。
ゴムは伸び縮みする特有の性質をもつため、ラテックスを原料にしてゴムタイヤなどのゴム製品が作られます。
パラゴムノキ
パラゴムノキは南米のアマゾン川流域の熱帯雨林で生育する樹木作物です。
パラはブラジル北東部・アマゾン川の河口に位置するパラー州(パラ州)が由来になっています。
19世紀にはアマゾン内陸部で採取された天然ゴムをパラー州の港から盛んに輸出していました。
天然ゴムの栽培が広がるきっかけは加硫法(かりゅうほう)の発明です。
1839年にアメリカのグッドイヤー(Charles Goodyear, 1800-1839)が天然ゴムに硫黄を加えるとゴムの弾性(伸び縮みする性質)が高まることを発見しました。
この硫黄を加える加硫法の発明をきっかけに天然ゴムが様々な製品(例:ゴムタイヤ)に使われるようになり、天然ゴムの需要が急増しました。
そこでブラジル政府は重要な産業資源であるパラゴムノキの国外持ち出しを禁止しました。
しかし、1876年にイギリス人によって種子がひそかに持ち出され、当時イギリスの植民地であったシンガポールへ運ばれました。
20世紀に入ると東南アジアでも盛んに天然ゴムの生産が行われるようになり、代わりにブラジルでの天然ゴムの生産は衰退しました。
マレーシアにおける天然ゴム生産
20世紀前半に原産地のブラジルからシンガポールに持ち込まれて以来、東南アジアが天然ゴムの主産地です。
当時のシンガポールとマレーシア(マレー半島部分)はイギリスの一つの植民地(英領海峡植民地)でした。
そのため、イギリス主導でマレーシアに天然ゴムのプランテーションが建設され、1980年代まではマレーシアが世界最大の天然ゴムの生産国でした。
しかし、近年では天然ゴムの生産量は大きく減少しています。
生産量が減少した理由としては、合成ゴムの登場により需要を食われたことや、マレーシアの経済発展により人件費が上がって天然ゴム生産がコスト高になったことがあげられます。
一方、同時期に油の質が良い新品種が育成されてパーム油の需要が大きくなりました。
そのため1970年代以降、マレーシアではプランテーションの作物をパラゴムノキからアブラヤシへ植え替えて、パーム油の生産が急速に進みました。
パラゴムノキの栽培と利用
ここからは、天然ゴムを採取するために栽培されるパラゴムノキの栽培からゴムの利用について見ていきます。
パラゴムノキの栽培
パラゴムノキはアマゾン川が広がるアマゾン盆地の熱帯雨林で生育する樹木です。
年中高温の熱帯の環境で生育し、やせたラトソル土壌で生育します。
ただし、強風に弱いため風を避ける必要があります。
そのため、東南アジアのプランテーションではパラゴムノキは密集して植えられています。
天然ゴムを回収できるのは植えてから6年以上経過した樹木です。
毎朝樹木の幹に刃物で斜めに切りこみを入れ、その傷口からしたたり落ちる乳液(ラテックス)を回収します。
この乳液を固めて固体にしたものが天然ゴムであり、ゴム製品の原料として使います。
ゴムの加工と利用
パラゴムノキから回収したラテックス(乳白色の液体)は、薬剤を加えて凝固させます(生ゴム)。
凝固させた生ゴムは、様々な添加剤を加えながら練り合わせ、形を整えてから硫黄を添加します(加硫(かりゅう))。
天然ゴムは直線的な鎖状分子構造をもちますが、硫黄を加えて架橋反応を起こすことで複数の鎖状分子の間に橋が架かるようにつなぎ目ができて網目状の分子構造になります(加硫)。
加硫を行うことでゴムの伸び縮みする性質(弾性限界)が大きくなり、我々が普段使っているようなゴムの性質が得られます。
天然ゴムはそのままでは温度変化に弱く耐久性も低いため用途が限られていました(防水布や消しゴムなど)。
しかし、1839年に加硫法が発明されたことで応用範囲が広がり、ゴムタイヤなどが実用化されて今日のゴム産業につながっています。
現代のゴムの用途としては、自動車用のゴムタイヤ、使い捨て手袋や長靴などのラテックス製品などに使われます。
工業用には、電気を通さない性質を利用して絶縁体として使われたり、伸び縮みする性質を利用して建築物の免震ゴムなどに使われます。
合成ゴムの登場と普及
天然ゴムは様々なゴム製品の原料になるため需要が高い材料です。
そのため、19世紀の天然ゴムの実用化以降、同様の性質をもつ物質を化学合成により人工的に合成する研究が行われてきました。
特に第二次世界大戦以降は自動車の普及によりタイヤの需要が急増し、天然ゴムだけでは需要をまかないきれず、合成ゴムの生産量が増大しました。
合成ゴムは用途に応じて様々な特性をもつ物質が開発されており、現在では天然ゴムよりも合成ゴムの生産量が多くなっています。
しかし、天然ゴムと合成ゴムの物性には異なる部分もあるため、現在でも用途に応じて天然ゴムが使われたり合成ゴムと混ぜて使われたりします。
生産量
天然ゴムの生産は東南アジアに集中しています。
これは、原産地であるブラジルからイギリスによって東南アジアへ持ち出され、当時イギリスの植民地であったマレーシアに天然ゴムのプランテーションを導入して各国に広まったからです。
1980年代まではマレーシアが生産量1位でしたが、現在ではアブラヤシへの転作が進んで生産量が減っています。
一方、タイは天然ゴムの増産を政府が推進したため年々生産量が増加し、2018年現在では生産量が一位(世界全体の37%)になっています。
他にはインドネシアでも天然ゴムの生産が盛んに行われており、生産量二位(世界全体の25%)です。
その他の生産国としては、同じ東南アジアのベトナムや人口が多い中国とインドが生産量上位です。
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参考文献
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ゴム取引の基礎知識 (2020/2/25) 東京商品取引所 2023/8/20閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)