平坦な地形である平野は、侵食平野と堆積平野に分けられます。
ここでは、侵食平野と堆積平野の違いをまとめてから堆積平野の地形について解説します。
目次
侵食平野と堆積平野の違い
侵食平野と堆積平野の違いは、平野が形成された要因の違いです。
侵食平野は先カンブリア時代に造山運動をうけた大陸地殻が元となっているのに対し、堆積平野は別の場所から運搬された土砂が堆積してできた平野です。
侵食平野
侵食平野は地質に起因する平野で、安定陸塊にできる広大な平野です。
侵食平野は大きく準平原と構造平野に分けられます。
準平原は先カンブリア時代に造山運動をうけた古い大陸地殻が直接露出しているのに対し、構造平野は古い大陸地殻の上に堆積層が水平に堆積している平野です。
侵食平野の地形である準平原と構造平野については、以下の記事で解説しています。
参考楯状地と卓状地の違い(地質構造と地形の対応)
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堆積平野
一方、堆積平野は外的営力(主に河川)によって運ばれた土砂が堆積して形成された平野です。
傾斜が急な川の上流は侵食や運搬の作用が強いのに対し、傾斜がゆるやかな下流では堆積の作用が強くなります。
そのため、堆積平野は主に川の下流の傾斜が緩やかな場所にできます。
まとめ
侵食平野と堆積平野の違いを以下の表にまとめます。
侵食平野 | 堆積平野 | |
地形の成因 | 安定した地殻の長期にわたる侵食 | 土砂の堆積 |
形成される場所 | 安定陸塊 | 造山帯など起伏がある場所 |
地形の規模 | 大規模(大地形を形成) | 一般に小規模(小地形を形成) |
形成される地形 | 準平原、構造平野 | 沖積平野、洪積台地、扇状地、谷底平野 |
例 | 東ヨーロッパ平原(ロシア卓状地、ロシア~東ヨーロッパ) | 濃尾平野(愛知・岐阜)、牧之原台地(静岡) |
堆積平野の分類(沖積平野・洪積台地・海岸平野)
堆積平野は、堆積する土砂が何によって運搬されるかによって分類されます。
河川のはたらきによるものを沖積平野、海によるものを海岸平野、氷河によるものを氷堆石平野、風によるものを風成平野といいます。
ここでは、主要なものとして沖積平野と洪積台地(沖積平野の一種)、海岸平野について取り上げます。
沖積平野
沖積平野は下流の主に河口付近にできる地形で、河川の堆積作用によって形成された平野です。
傾斜が急で河川の侵食・運搬作用が強い上流から運ばれてきた土砂は、川の流れが最もゆるやかになる河口付近で堆積します。
川から水があふれて氾濫する際には、川の周囲の広範囲に水が広がり、地面が平らにならされて、上流から運ばれた土砂が堆積します。
そのため、川を中心として周囲に土砂が堆積して形成された沖積平野が広がります。
沖積平野は河川がつくりだす地形の中では大規模なものですが、内的営力の影響を受けて形成された侵食平野などと比較すると非常に小規模な地形です。
また、山間部にできる谷底平野や谷口にできる扇状地も沖積平野の一種です。
造山帯に位置する日本には侵食平野がないため、日本の平野の多くが沖積平野です。
山がちな日本では、平坦で比較的水を利用しやすい沖積平野には古くから多くの人が住んでいて農業が盛んでした。
沖積平野は人間の居住に適しているので、現代の日本の都市の多くは沖積平野に広がっています。
たとえば、名古屋が立地する濃尾平野(愛知・岐阜)は木曽三川(きそさんせん)とよばれる木曽川、長良川、揖斐川(いびがわ)がつくりだした沖積平野です。
沖積平野の中の地形である氾濫原や三角州については、以下の記事で取り上げています。
参考川の下流の地形1(沖積平野の氾濫原に広がる微地形)
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参考川の下流の地形2(三角州とその分類)
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洪積台地
三角州や扇状地などの起伏の少ないなだらかな地形が隆起して台地状になった地形を洪積台地といいます。
単に台地とよぶこともあります。
河岸段丘や海岸段丘も洪積台地の一種です。
平坦地が隆起すると、一般に河川による侵食をうけます。
しかし、川と川の間には侵食をうけない部分が残ります。
このため、大きな河川の近くにある洪積台地は、川に並行に細長く広がっています。
次の地図は、天竜川の両側に残る洪積台地です。
平坦地隆起した後に、天竜川周囲は川によって侵食されて低地になりましたが、両岸には天竜川の侵食を免れた洪積台地が残っています。
洪積台地は沖積平野の一種で、大きな平野の中に沖積平野の部分と洪積台地の部分が存在することもあります。
たとえば、関東平野の一部である武蔵野台地(東京23区西部~多摩地域)や大宮台地(埼玉)などが洪積台地であるのに対し、東京23区の東部は荒川や江戸川がつくる沖積平野です。
洪積台地の土地利用
洪積台地の上は水はけがよく、水を得にくいため、古くからの集落は台地の崖下につくられ、台地の上は畑作や果樹園、茶畑などに利用されます。
洪積台地のである牧之原台地(静岡)には茶畑が広がります。
都市部近郊の洪積台地は地盤のよく災害リスクが低いことから、近年では宅地開発が進んでいます。
東京近郊の下総台地(千葉県北西部)では、東京へ通う人々のために計画的に開発された大規模な住宅街であるニュータウン(千葉ニュータウン)がつくられました。
台地と類似した地形に丘陵があります。
台地は数メートルから数十メートルの崖に小高い平坦地であるのに対し、台地より起伏が大きいが山地よりは起伏が小さい地形を丘陵といいます。
台地が平野の一種であるのに対し、丘陵は山地の一種という違いはありますが、その土地利用は類似しています。
丘陵の頂上部こそ山林ですが、中腹や麓は畑として利用されます。
また、大都市近郊の丘陵は台地よりも遅れて宅地開発され、多摩丘陵の多摩ニュータウン(東京・神奈川)や千里丘陵の千里ニュータウン(大阪)などが大規模です。
参考
「沖積」平野と「洪積」台地の名前の由来について解説します。
沖積平野の「沖積」は、完新世(1万年前~現代)の旧称である沖積世に由来します。
洪積台地の「洪積」は、更新世(おおよそ200万年前~1万年前)の旧称である洪積世に由来します。
どちらも旧約聖書のノアの洪水に由来して名づけられた言葉です。
19世紀の西欧ではキリスト教的価値観の元、ノアの洪水の堆積物を洪積、現在の河川による堆積物を沖積とよんで区別していました。
そのため、これらの単語が地質時代につけられたり、沖積平野や洪積台地として地形の名前に使われています。
しかし、現代では旧約聖書の逸話に基づく区別は不適切なので、沖積世は完新世、洪積世は更新世とよばれるようになりました。
この流れで、ノアの洪水に由来する「洪積」台地の名前も不適切だと考えられるようになり、洪積台地を単に台地とよぶことも増えてきました。
ただし、日本でいう台地は洪積台地と同じ意味で使われることが多いのに対し、台地の英訳とされるplateauは高原も含める広い意味の用語です。
日本が「台地」という用語に独特の定義をしているため、どちらにしても混乱があるところです。
海岸平野
海岸平野は、元々は遠浅の海だった場所が海面低下や浅瀬の隆起により陸地になった平野です。
沖積平野の地層は河川の作用によって堆積したのに対し、海岸平野の地層は海の作用によって堆積しています。
海岸平野については、以下の記事で解説しています。
参考離水海岸の地形(海岸平野と海岸段丘)
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参考文献
平野(へいや)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/13閲覧
堆積平野とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/13閲覧
沖積平野とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2021/1/13閲覧
木曾三川の水がはぐくむ濃尾平野の紹介 農林水産省 2021/1/13閲覧
洪積台地とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/16閲覧
洪積台地 ウィキペディア 2021/1/16閲覧
丘陵とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/1/2閲覧
だいよんき Q&A 日本第四紀学会 2021/1/16閲覧