地形 系統地理

扇状地(扇頂・扇央・扇端、谷口の地形)

山間部を流れてきた川が平野に出る場所には、扇状地(せんじょうち)とよばれる扇状に広がった地形が見られます。
このページでは、谷口で見られる扇状地とその土地利用について解説します。

谷口の地形

ピレネー山脈の扇状地(フランス南西部・オクシタニー地方・エストベ圏谷)。扇状地は谷口に見られる典型的な地形である。山間部を流れてきた河川が開けた平野部に到達する場所である。山間部では傾斜が急で運搬作用が強いため多量の土砂が河川によって運搬されるが、平野部に到達すると傾斜がゆるやかになるため河川の運搬作用が弱まり、上流から運ばれてきた土砂が扇状に堆積することで扇状地が形成される。出典:Wikimedia Commons, ©en:user:Mikenorton, CC BY-SA 3.0, 2025/8/30閲覧

河川は上流部では細い谷をつくりながら流れますが、下流部では谷がひらけて平野を流れます。
この細い谷の部分から平野へ広がる谷口に形成される地形が扇状地です。

上流の山間部では傾斜が急で細長い谷を流れるため、河川の侵食・運搬作用が強いです。
しかし、河川が谷口に到達すると、地形が扇状に広がるため川幅が広がり、水深が浅くなるため河川の運搬作用が弱まり、上流から運ばれてきた土砂が堆積していきます。
このため、谷口では扇状で傾斜した扇状地が見られます。

扇状地の先には砂礫が堆積した平坦な沖積平野が広がり、氾濫原が見られます。

扇状地

扇状地の模式図(長野県北東部・坂城町)。山間部から流れてきた河川は、谷口で扇状に傾斜地が広がる扇状地と呼ばれる地形が広がる。地図上の「氾濫平野」は氾濫原と同義である。出典の図1-5を切り出して作成。出典:扇状地(1) 国土地理院 2025/8/11閲覧

扇状地は、河川によって上流から運ばれてきた砂礫が谷口に堆積して形成された扇状の地形です。
扇状地では、扇のかなめの部分(上流側の最も狭い部分)を扇頂(せんちょう)、扇の中央の広い場所を扇央(せんおう)、扇の端の部分(扇状地の端にあたる線状の部分)を扇端(せんたん)とよびます。

河川の上流側(山間部)では細長い谷を流れるため侵食・運搬作用が強く、谷口には大量の土砂が運ばれてきます。
河川が谷口に達すると、両側の山が離れていき、川が流れる場所が広がります。
川幅が広がることで水深が浅くなるため、河川の運搬作用が弱まります。
このため、谷口では上流から運ばれてきた砂礫が扇状に堆積した扇状地が形成されます。

扇状地では、扇状地の扇頂側ほど粒が大きくて重い礫が堆積し、扇端に向かって細かくて軽い砂が堆積していきます。
堆積物は重力と水の流れによって扇頂から円を描くように堆積していくので、扇頂から同じ距離にある場所は同じ標高になり、等高線は同心円状に広がり、扇頂(上流側)から扇端(下流側)に向かってゆるやかに標高を下げていきます。

木曽川扇状地の色別表構図(愛知県北部・江南市/岐阜県南部・各務原市など)。国土地理院の地理院地図「自分で作る色別標高図」サービスを用いて作成されたものである。木曽川扇状地は名鉄犬山駅付近を扇頂とし、南西側に向けて広がる扇状地である。右下の断面図は下流側の沖積平野(地点A)から扇頂(地点B)までを結んだものであり、扇端で傾斜が変わり、この場所が平坦な沖積平野と傾斜地である扇状地の境界であることがわかる。出典:扇状地と人々の暮らし 国土数値情報ダウンロードサービス 2025/9/5閲覧

扇状地には厚い砂礫の層が堆積しているため、水が地下に浸透して地下を流れる伏流水(ふくりゅうすい)が見られます。
このため、地上では水無川(みずなしがわ)末無川(すえなしがわ)が見られます。
水無川とは地上に川筋は見られるが水が流れていない川のことであり、末無川は川筋が途中で消えて失われてしまう川のことです。

那須野が原扇状地を流れる水無川である蛇尾川(栃木県北部・那須塩原市)。同一地点(国道4号線那須野橋上)から通常時(左)と増水時(右)に川を撮影したものである。蛇尾川は通常時は地表に川筋が見られるが水が流れていない水無川であるが、大雨による増水時には地上を水が流れる。出典:(左)Wikimedia Commons, Public domain, 2025/9/5閲覧 (右)Wikimedia Commons, Public domain, 2025/9/5閲覧

扇状地の土地利用

扇状地の断面図。河川は左側から右側に向かって流れており、谷口(山間部側)にあたる扇のかなめの部分が扇頂であり、平野部側である扇の先端部が扇頂である。山間部から運ばれた砂礫が扇状地で堆積するため、扇頂で河川が地下に潜って伏流水となり、地上では水無川(末無川)が見られる。扇央では河川が地下を流れているため水はけがよい。傾斜地でもあるため日当たりもよく、果樹園として利用される。扇端では伏流水が再び地上に出るため湧水が見られ、集落や水田が広がる。出典の図1-6の一部を切り出して加工。出典:扇状地(2) 国土地理院 2025/8/30閲覧

扇状地の土地利用は、扇状地上の位置(扇頂・扇央・扇端)によって違います。
以下では、扇頂、扇央、扇端の土地利用を順に見ていきます。

扇頂

荒川の荒川扇状地付近の色別標高図(埼玉県北西部・寄居町/深谷市など)。荒川扇状地の扇頂にあたる寄居町は、北関東と山梨を秩父経由で結ぶ秩父往還の宿場町として栄えた町である。扇頂に位置する寄居駅は、秩父鉄道やJR八高線、東武東上線の3路線が集まり、現在でも交通の要衝である。出典を加工して作成。出典:地理院地図 ©国土地理院 2025/9/5閲覧

扇頂は谷口の傾斜が急で礫が堆積する場所であり、土地利用があまり進まない場所です。
一方で山間部へ抜ける通り道になるため、峠越えの交通の要所では谷口集落が見られ、宿場町として機能します。
扇頂に谷口集落が見られる例としては、多摩川武蔵野扇状地の扇頂にあたる青梅(おうめ、東京都西部・青梅市)や荒川荒川扇状地の扇頂にあたる寄居(よりい、埼玉県北西部・寄居町)などがあります。
青梅は新宿(東京)と甲府(山梨)を結ぶ青梅街道の宿場町であり、山間部と平野部の交通・物流の拠点として機能してきた町です。
寄居は北関東と山梨を秩父(埼玉県西部)経由で結ぶ秩父往還の宿場町として発展した町であり、現在でも寄居駅には3本の鉄道路線が乗り入れる交通の結節点となっています。

扇央

京戸川の扇状地周辺の地形図(山梨県中央部・笛吹市/甲州市)。南東側の山間部から流れる京戸川は、蜂城山の北東を扇頂とする扇状地を形成しており、扇央には果樹園が広がり、高速道路や国道が横切る。扇端は北西側範囲外に位置する。扇央では地上の水が伏流水となる水はけが良い場所なので果樹園に適している。出典:地理院地図 ©国土地理院 2025/9/3閲覧

扇央は厚い砂礫が堆積して河川が伏流水となるため、水はけが良い場所です。
また、ゆるやかにな斜面上に位置するため日当たりも良いです。
扇央では水を得るのが大変なので、雑木林として放置されていたり、乾燥に強く水はけがよい土地を好む果物(モモ、リンゴブドウなど)の果樹園桑畑として利用されます。
甲府盆地(山梨)では、扇状地を利用した果樹園が数多く見られます。
また、近年では用水路などの灌漑設備を整備して扇央でも水田が見られる場合もあります。

扇端

六郷扇状地周辺の地形図(秋田県南東部・美郷町)。六郷扇状地は東側から流れる丸子川が作る扇状地であり、扇端にあたる地図西側の青色のエリアには多数の湧水が見られる(六郷湧水群)。この湧水の周辺に六郷の集落が形成され、現在でも市街地となっている。扇頂には川から水を引いて分配するための「分水工」が設置されており、用水路を通して導水することで本来水を得にくい扇状地の扇央でも稲作を行っている(水田が広がる)。出典を加工して作成。出典:地理院地図 ©国土地理院 2025/9/3閲覧

扇端は扇状地の緩やかな傾斜地と平坦な平野の境界になる場所です。
扇端では伏流水が地上に湧き出る湧水が見られます。
扇端は扇状地の末端部(扇の端、最下流部)に線状(円弧状)に伸び、扇端に沿って帯状に水が湧き出る場所が並ぶため、湧水帯とよばれます。
湧水がある扇端は、古くから集落水田として利用されてきました。

参考文献

川の地形とは 国土地理院 2025/8/11閲覧
山から海へ川がつくる地形 国土地理院 2025/8/11閲覧
扇状地(センジョウチ)とは?  コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、改訂新版 世界大百科事典、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2025/9/5閲覧
帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)
地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
扇状地と人々の暮らし 国土数値情報ダウンロードサイト 2025/9/5閲覧
37.扇頂の集落 青梅と寄居 地理講義 2025/9/5閲覧
果樹園の水やりはどうしているの? 斎藤果樹園 2021/1/14閲覧
日本にあるワイナリー サントリー 2021/1/14閲覧
六郷扇状地 ウィキペディア 2025/9/3閲覧
六郷湧水群トップ 秋田県美郷町 2025/9/3閲覧

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