現代では人工衛星を利用して地球上の現在位置を特定するGPSが広く利用されています。
GPSはアメリカが運用するシステムの固有名詞であり、一般名詞としては全球測位衛星システム(GNSS)といいます。
このページでは、測位衛星とGNSS、GPS、電子基準点について解説します。
全球測位衛星システム(GNSS)
第二次世界大戦終了後にアメリカとソ連は互いに対立する冷戦状態に陥り、軍事利用や国内外へのアピールを目的として宇宙開発競争が行われました。
1946年には米国がロケット(V-2)で宇宙から地球を撮影することに成功し、1957年にはソ連が地球を周回する人工衛星(スプートニク1号)の打ち上げに成功しました。
人工衛星は様々な用途に利用され、その用途の1つに位置情報の測定があります。
現代では、複数の人工衛星と現在地の距離を測定し、地球上の現在位置を簡単に特定することができます。
このように空間上の物体の位置を測定して決めることを測位といい、測位を行うための人工衛星を測位衛星(GNSS衛星)といいます。
測位衛星を活用して対象物の地球上の位置を把握するしくみを全球測位衛星システム(GNSS, Global Navigation Satellite System)といいます。
GNSSは地球全体をカバーし、地球上のどこにいても現在位置を特定できます。
GNSSは測位衛星(GNSS衛星)を活用して現在位置を特定するしくみ全般のことであり、各国が固有のGNSSを構築して固有の名前をつけています。
GNSSの例として、アメリカのGPSやロシア(旧ソ連)のGLONASS(グロナス)、EUのガリレオ(Galileo)、中国の北斗などがあります。
GPS(グローバル・ポジショニング・システム)
GPS(Global Positioning System)はアメリカ政府が運用する全球測位衛星システム(GNSS)です。
冷戦期(20世紀後半)の米ソ間の宇宙開発競争の中で開発されたGNSSであり、当初は軍事利用目的で運用されていました。
しかし、1983年に天測航法(天体観測により現在位置を特定)で運航していた大韓航空の旅客機が誤ってソ連領内(樺太)に侵入して撃墜される事件が発生しました(大韓航空機撃墜事件)。
この旅客機はアメリカのニューヨーク発アンカレッジ(アラスカ州)経由ソウル(韓国)行きであり、アメリカ人62名を含む乗員・乗客269名全員が亡くなりました。
この事件を契機に、アメリカ政府は民間航空機の安全のためにGPSの民間開放を進めました。
1996年にはGPSの無料開放を行い、誰でも無料でGPSを利用できるようになりました。
これはGNSSの中でも最も早い無料開放であり、その結果様々なサービスにGPSが活用されています。
現在ではGPSは生活に深く根ざしており、スマホの地図アプリの現在位置表示やカーナビゲーションシステム(カーナビ)の道案内などに使われています。
近年実用化が試みられている自動運転の走行ルート制御やドローン(無人航空機)による無人配送はGPSによる位置情報なしには成立しません。
準天頂衛星「みちびき」
準天頂衛星「みちびき」は、日本が運用する日本向けの測位衛星システムです。
準天頂衛星はGNSSではありません。
GNSSが地球全体をカバーするのに対し、準天頂衛星は特定地域の測位に特化しています(みちびきの場合は日本)。
みちびきは日本上空に長く留まることができる周回軌道をとり、GPS衛星と組み合わせて日本での現在位置特定の精度を高めることを目的に運用されています。
GPSは地球全体をカバーするため、ある瞬間に日本で利用できるGPS衛星の数は限られます。
山間部や高層ビルの谷間など障害物が多い場所では、利用できるGPS衛星の数はさらに減少し、位置特定の精度が悪化します。
GPSはあくまでアメリカが運用するシステムであるため、日本のためだけに周回軌道を変えたり測位衛星の数を増やすことはできません。
そこで、新たに日本周辺に長く留まる周回軌道の測位衛星を打ち上げ、既存のGPSと組み合わせて利用することで、日本周辺での現在位置特定の精度を高める運用がなされています。
電子基準点
電子基準点は、国土地理院が運用するGNSSを使った測量の基準点です。
24時間体制でGNSSと通信して測位を行うとともに、地震などに伴う地殻変動の観測も行われています。
電子基準点はおよそ20km間隔で全国1,300箇所が設置されており、学校や公園などの公共施設の敷地内に設置されていることが多いです。
また、南鳥島や沖ノ鳥島などの離島、富士山(静岡・山梨)や乗鞍岳(長野・岐阜)といった山の山頂付近の開けた場所にも数多く設置されています。
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参考文献
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電子基準点 国土地理院 2024/4/22閲覧
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電子基準点(デンシキジュンテン)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/4/22閲覧
電子基準点とその利用の現状(平成15年10月2日)国土地理院 2024/4/22閲覧