ヤシは熱帯や乾燥帯の温暖な地域で栽培されている重要な作物です。
ヤシが栽培されている地域は作物の栽培が難しい環境である場合が多く、栽培地域では重要な作物として利用されています。
はじめにヤシ全体について簡単に触れ、代表的なヤシであるココヤシ、アブラヤシ、ナツメヤシについて順に紹介します。
ヤシ(椰子)とは
ヤシ(椰子)はヤシ科の樹木の総称です。
アブラヤシやココヤシ、ナツメヤシなど様々な種類があります。
ヤシは熱帯に分布する樹木であり、熱帯の定義である「最寒月平均気温18℃以上」はヤシが自生できる限界(目安)です。
熱帯ではヤシは様々な用途に使われる作物です。
果実は食用にされますが、脂肪分を多く含むため油を得るための油脂原料としても利用されます(油料作物)。
また、オウギヤシ(サトウヤシ)やココヤシからは砂糖を作ることができます。
サトウヤシを原料とした砂糖はパームシュガー、ココヤシが原料の場合はココナッツシュガーとよびます。
大型のヤシは丈夫な幹や葉をもつため、建材などにも利用されます。
幹は建物や船(ダウ船)の建材として使われ、葉は家の屋根を覆うために使われます(屋根葺き材)。
葉は紐として使われたり、繊維を編んで敷物、カゴなどの工芸品が作られます。
ココヤシ
ココヤシはヤシ科の代表的な作物です。
原産地はインド洋~東南アジア~オセアニアのあたりだと考えられています。
ココヤシの果実をココナッツといい、ココナッツの内側の白い部分(胚乳)を削り取って乾燥させたものをコプラといいます。
ココヤシは様々な部位によって用途があります。
果実(ココナッツ)は食用にしたり、油(ヤシ油)やココナッツミルクを取ることができます。
ヤシ油やココナッツミルクは食用にされる他、化粧品や石鹸などの化学工業原料になります。
果肉から繊維を取り出してロープを作ったり、幹を建築資材、葉を屋根材して利用することもできます。
ココヤシは干ばつに弱いため、年中雨が多い熱帯の高温多湿な地域で栽培されます。
生産量上位の国は、インドネシア、インド、フィリピンです。
また、オセアニアの島国でも盛んに栽培されており、ココナッツの内側の白い部分(胚乳)を乾燥させて保存性を高めたコプラは、オセアニアの島国の重要な生産・輸出品になっています。
これらの島国は規模が小さいため国別の生産量上位には表れませんが、コプラはオセアニアの島国にとっては主要な輸出品になっています。
ココナッツ
ココヤシの果実をココナッツといいます。
果実(ココナッツ)の中は空洞になっているため海水に浮きます。
空洞の中にはココナッツウォーターとよばれる透明な液体(ココナッツウォーター)が含まれ、飲み物になります。
果実の内側には白い部分(胚乳=果肉部分)があり、果肉をすりおろして抽出した濁った乳白色の液体をココナッツミルクといいます。
ココナッツミルクはそのまま飲むことができる他、牛乳と同様に食品加工や料理に使います。
胚乳は脂肪分を多く含むため、胚乳から抽出・精製して油(ヤシ油)を作ることもできます。
ヤシ油は食用として使われる他、洗剤や化粧品のような化学工業の原料として使われます。
コプラ
ココヤシの果実(ココナッツ)の内側の白い部分(胚乳)を乾燥させて保存性を高めたものをコプラといいます。
ココナッツの果肉(胚乳部分)は水分を含み腐りやすいので、輸出用する際には乾燥させて保存性を高めます。
コプラは油を多く含むため、油(ヤシ油)をしぼり出して食用の油や洗剤、化粧品の原料として使用されます。
油を抽出した後に残った果肉(ココナッツケーキ)は繊維を多く含むため、ウシなどの反芻動物(はんすうどうぶつ)のエサとして使われます。
アブラヤシ
アブラヤシ(パームヤシ)は西アフリカ原産のヤシの1種です。
アブラヤシの果実はその名の通り油(パーム油)の原料となります。
パーム油については次の項目で説明します。
アブラヤシは年間降水量2,000mm以上の高温多雨の熱帯地域(赤道周辺)で栽培される作物です。
近年では油の質が良い新品種が育成されて需要が大きくなり、マレーシアでは天然ゴムの農園がアブラヤシに取って代わるようになりました。
生産量上位はインドネシア(世界シェア52%, 2014年)とマレーシア(同32%)であり、両国合わせて世界全体の約85%のパーム油を生産しています。
両国ではプランテーションによる大規模栽培が行われており、近年でも生産量が増加しています。
栽培自体は熱帯の地域で広く行われており、西アフリカ(ナイジェリアなど)やタイ南部などでも栽培されていますが、こちらは小規模農家が大半です。
インドネシアとマレーシアではアブラヤシの栽培面積は拡大を続けており、それに伴い新しい農園を作るために熱帯雨林が伐採され、大規模な森林破壊が問題になっています。
パーム油
アブラヤシの果実から得られる油をパーム油といいます。
パーム油は他の植物油と比べて単位面積あたりで生産できる油の量が多く(1haあたり平均2.8t)、大豆油の約10倍にもなります。
そのため、パーム油は世界の植物油の生産量の33%を占め、最も多く栽培されている油料作物です。
用途としては、食用の植物油の原料になる他、石鹸や化粧品などの化学工業原料、バイオ燃料としても使われています。
ナツメヤシ
ナツメヤシはパキスタン~中東~北アフリカにかけての乾燥した地域で栽培されているヤシの一種です。
中東やインダス川流域(パキスタン)では何千年も前から栽培されていました。
ナツメヤシの果実をデーツとよび、砂漠のオアシスの重要な食料となっています。
樹液からヤシ酒を作ったり、人間が食べない種子は家畜のエサとして利用されます。
幹は建材として使われ、葉は屋根材や家具の材料になります。
ナツメヤシは主に中東~北アフリカで栽培されています。
生産量上位の国(カッコ内は世界シェア, 2017年)は、エジプト(19.5%)、イラン(14.5%)、アルジェリア(13.0%)、サウジアラビア(9.2%)です。
デーツ
デーツはナツメヤシの果実です。
中東~北アフリカの砂漠地帯で古くから重要な作物として栽培されてきました。
イスラム諸国ではラマダンで日中に断食した後、日没後に最初に食べる食べ物として伝統的に親しまれてきました。
デーツはそのままの状態でも食べられますが、乾燥させてドライフルーツに加工してジャムやジュース、菓子などの原料に使われます。
人間が食べない種子はラクダなどの家畜のエサとして利用されたり、種子から油を取り出して石鹸や化粧品の原料として使用することもできます。
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参考文献
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第4章 タイの主要農産物別生産、流通、生産支援政策の概要 農林水産省 2023/7/3閲覧
アブラヤシ(あぶらやし)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/7/3閲覧
パーム油の利用と生産 パーム油調達ガイド 熱帯林行動ネットワーク(JATAN) 2023/7/3閲覧
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ナツメヤシ(なつめやし)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/7/8閲覧
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