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家畜としてのラクダと砂漠のキャラバン(隊商)

ラクダ砂漠などの極端に乾燥した地域にも耐えられる家畜です。
主に荷物運搬用に使われる家畜ですが、貴重な食料資源として乳や肉なども利用されています
このページでは、家畜としてのラクダの概要についてまとめます。

ラクダの特徴

砂漠に生息するヒトコブラクダ(モロッコ南東部)。ラクダは高温や乾燥に強いため、砂漠などで荷物の運搬に使われている家畜である。体内に水分や脂肪分を蓄えているため、砂漠での貴重な食料資源(乳や肉)としても重宝されている。出典:Wikimedia Commons, ©Bjørn Christian Tørrissen, CC BY-SA 3.0, 2023/11/11閲覧

ラクダ(駱駝)は中東~中央アジア原産の動物で、砂漠のような高温・乾燥した気候にも耐えられる家畜です。
一度に80Lもの水を飲むことができ、その後は数日間水を全く飲まずに生きることができます。
砂漠の塩分の濃い水でも飲むことができ、尿を減らして貴重な水分を失わないようにするなど、乾燥した気候に適応した体の作りになっています。
家畜としてラクダを飼育することで貴重な栄養源(肉)や水源(乳)になるほか、砂漠のような環境でも重い荷物を運ぶことができるためラクダは「砂漠の舟」とよばれます。

参考

ラクダのコブ
ラクダのコブの中には脂肪が蓄えられており、砂漠のような高温でエサや水の少ない環境で生き抜くことに役立ちます。
脂肪は炭化水素(炭素と水素が結合した有機物)からなるため、脂肪を分解してエネルギーを取り出す際に副産物として水が発生します。
砂漠では水の入手が難しいため、このようなしくみは水分補給のために重要な役割を果たします。

また、ラクダのコブは背中に当たる強い日差しによって体温が上昇するのを防ぐ断熱材のような役割も果たします。
体の脂肪の大部分をコブに集めているため皮下脂肪が少なく皮膚が薄いため、背中以外から熱を放出しやすい構造になっています。
生まれたばかりの赤ちゃんラクダは脂肪を蓄える前なのでコブが無く、コブにあたる部分の皮膚がたるんでいるだけの状態になっています。

生まれたばかりのラクダの赤ちゃん(アラブ首長国連邦・ドバイ)。ラクダのコブは脂肪を蓄えたものなので、生まれたばかりのラクダにはコブが無く皮膚がたるんでいるだけの状態になっている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/11/12閲覧

ラクダの原産地と生息域

ヒトコブラクダの生息域。ヒトコブラクダはアフリカ北部から中東にかけて分布する砂漠の高温乾燥に適応した家畜である。オーストラリアの分布は、人為的に持ち込まれた個体が野生化したものである。ヒトコブラクダはラクダ全体の頭数の約90%を占める。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/11/12閲覧

ラクダにはコブが1つあるヒトコブラクダとコブが2つあるフタコブラクダの2種類おり、それぞれ原産地が異なります。

ヒトコブラクダの原産地は北アフリカ~アラビア半島であり、野生種はすでに絶滅しています。
ただし、一度家畜化されたヒトコブラクダが野生化した例はあります。

フタコブラクダの原産地はイラン~中央アジア~中国北部です。
野生種としては絶滅危惧種になっており、ゴビ砂漠(中国北部・内モンゴル自治区)に若干生息するのみになっています。
家畜も含めた全世界のラクダの頭数は1400万頭であり、そのうち約90%がヒトコブラクダです。

ラクダは乾燥に強い半面、日本のような湿潤な環境は苦手であり、家畜としての分布も砂漠やその周辺(ステップ気候)に限られます。
ヒトコブラクダの分布は、アフリカ北部のサハラ砂漠周辺~アラビア半島周辺~イランにかけてです。

オーストラリア内陸部の砂漠では、イギリスの植民地時代(19世紀後半~20世紀前半)に大量のラクダが連れてこられ、その後家畜として使われなくなって野生化しました。
砂漠に適応したラクダはオーストラリアでも頭数を増やし、近年では水を求めて人間の集落や放牧地に出現して問題になっており、大規模な駆除の対象になっています。

ラクダの畜産物

ここからはラクダから得られる畜産物について見ていきます。
砂漠では資源が限られているため、砂漠の遊牧民はラクダを荷物運び(使役)に使うだけではなく、乳、肉、毛など様々な畜産物をラクダから得て暮らしています。

ラクダ乳(キャメルミルク)

ラクダ乳(キャメルミルク)。ラクダから搾乳したばかりで泡立っている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/11/12閲覧

ラクダ乳(キャメルミルク)はその名の通りラクダから得られる乳であり、脂肪分が高い乳です。
砂漠では貴重なラクダは水源であり、砂漠の遊牧民はラクダ乳を飲むことで水分と栄養分を補給します。
そのまま飲むだけではなく、お酒(乳酒)やヨーグルト、アイスクリームにも加工されます。
牛乳とは異なり、バターやチーズへの加工はあまり見られません。
これは、ラクダ乳を固めるのが難しいためです。
ラクダ乳からバターを作るためには添加剤を加える必要があり、チーズに至っては1990年代に製造方法が発明されました。

ソマリアの伝統的な米料理である"Bariis Iskukaris"(単に"Bariis"ともよばれる)。"Iskukaris"は「混ぜ合わせる」という意味であり、米にエンドウ豆や玉ねぎなどを加え、様々なスパイス(香辛料)を混ぜ合わせて作る。写真のものはラクダ肉を使用している。出典:Wikimedia Commons, ©Richard Faulder, CC BY 2.0, 2023/11/12閲覧

ラクダは一頭あたり300-400kgにもなるため、一頭から多くの肉を得ることができます。
ラクダの肉はラクダを家畜として飼育する広い地域で利用され、アフリカのサハラ砂漠周辺~中東~中央アジアで利用されています。
これらの地域では乾燥帯であり食料資源が希少であるため、ラクダの肉だけではなく血液も利用され、ラクダの乳と一緒に血を飲むことで鉄分やビタミン、塩分などを補給します。

毛・皮など

ラクダを飼育する砂漠ではあらゆる資源が限られているため、ラクダの毛や皮も利用されます。
ラクダの毛や皮は織物や縄などに使われており、特に寒冷な中央アジアでは防寒着の材料として重要です。
また、砂漠では木材も希少であるため、ラクダの糞が貴重な燃料として使用されていました(チベットのヤクやアンデス山脈のリャマなどと同様)。

輸送手段としてのラクダとキャラバン(隊商)

ラクダを引き連れた隊商(キャラバン)(エチオピア北東部・ダナキル砂漠)。道路が未整備な砂漠で荷物を輸送する際には、ラクダの背中に荷物をのせて運搬する。少人数で細い道を通るために何匹ものラクダをひもでつないで一列に並ばせて移動する。出典:Wikimedia Commons, ©Ji-Elle, CC BY-SA 3.0, 2023/11/12閲覧

ラクダは砂漠でも背中に人や荷物をのせて長距離を移動することができるため、商人が砂漠を超えて荷物を運ぶ際に利用されます。
他の家畜は砂漠のような高温で乾燥した過酷な環境で生きるのが難しいため、砂漠の過酷な環境に耐えられるラクダが重宝されています。

ラクダに荷物を運ばせて移動する際には、ラクダをひもでつないで一列に並ばせて移動します。
これは、少人数で多数のラクダを引き連れながら細い道を通るためです。
このように家畜に荷物を背負わせて交易のために移動する商人の集団を隊商(キャラバン)とよびます。
隊商が砂漠を越える際には、水や食料を確保するために砂漠に点在するオアシスをつなぐように決まったルートで移動します。
そのため、ルート沿いのオアシスには宿泊施設や市場をもつ集落が生まれ、オアシス都市に発展する場合もあります。
このような多くの隊商が通るルートを隊商路とよびます。
代表的な隊商路としては、中国の長安とローマ帝国領だった地中海沿岸を結ぶシルクロードがあります。
他にも、サハラ砂漠を南北に縦断する数多くの隊商路が設定され、塩や金などが運ばれました。

現在では、荷物運搬は鉄道や自動車などの輸送手段に取って代わられたため、ラクダを使う機会は減っています。
一方で、道路が未整備な砂漠地帯を自在に移動できるラクダの特性を利用して、あえてラクダが使われることがあります。

ラクダに乗った国連軍兵士(エチオピア=エリトリア国境)。国境地帯の砂漠を機動的に移動するためにラクダに乗っている。写真に映る国連軍兵士はエチオピア・エリトリア国境紛争(1998-2000)の停戦後に派遣された国連エチオピア・エリトリア派遣団(UNMEE)の一員である。出典:Wikimedia Commons, ©Dawit Rezene, CC BY-SA 1.0, 2023/11/12閲覧

 

参考文献

ラクダ ウィキペディア 2023/11/12閲覧
ラクダ(らくだ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/11/12閲覧
ラクダのこぶは「貯水タンク」 中国新聞デジタル (2023/2/10) 2023/11/12閲覧
野生化した100万頭を超えるラクダに苦慮するオーストラリアの知られざる歴史とは? Gigazine (2018/4/15) 2023/11/12閲覧
Camel, Wikipedia 2023/11/12閲覧
Camel milk, Wikipedia 2023/11/12閲覧
石井智美「世界の乳文化図鑑② ラクダ乳の利用」酪農ジャーナル電子版【酪農PLUS+】 (2019/12/17) 2023/11/12閲覧
Bariis iskukaris, Wikipedia 2023/11/12閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
隊商(キャラバン)(たいしょう)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/11/12閲覧

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