砂糖の原料として最も多く栽培されている作物はサトウキビです。
サトウキビの栽培は熱帯~亜熱帯に限られる一方で砂糖は世界中で需要があるため、国際的に広く取引される重要な商品作物です。
ここでは、砂糖の原料としてのサトウキビについて、栽培の歴史、栽培から製糖まで、生産国についてまとめます。
目次
サトウキビとは
砂糖の原料となる糖料(とうりょう)作物はいくつかありますが、その中でも最も広く栽培されているのがサトウキビです。
砂糖の生産量はサトウキビ由来が1億3500万トンで最も多く、次いでテンサイ由来が3500万トン(2020年)となっています。
サトウキビは熱帯~亜熱帯(熱帯隣接地域)の高温かつ十分な降水があり、日差しが強い地域で栽培されます。
収穫したサトウキビから汁を絞り出し、不純物を取り除いて工業的に結晶化することで砂糖を得ることができます(製糖)。
砂糖は世界中で需要があるのに対し生産できる地域が限られているため、商品作物として国際的に広く取引されています。
以下では、サトウキビの栽培の歴史についてふれた上で、サトウキビの栽培、製糖、利用用途や生産国についてまとめます。
サトウキビ栽培の歴史
サトウキビは熱帯や亜熱帯(温帯の熱帯隣接地域)でしか栽培できず、栽培にも多数の人手・手間が必要です。
そのため、サトウキビを原料として作られる砂糖は歴史の長い間貴重品でした。
栽培自体の歴史は古く、紀元前8000年頃には東南アジアで栽培されるようになりました。
この時点では、精製していないサトウキビの絞り汁(サトウキビジュース)の形で利用されていました。
サトウキビから砂糖を精製する技術が確立したのは2000年前のインドです。
その後、中東を経てヨーロッパに伝わりました。
ヨーロッパは気候が寒冷なので大部分の場所でサトウキビを栽培することはできません。
温暖なスペインやポルトガルでサトウキビの栽培が行われたものの、砂糖の需要に対して供給が非常に少なく、相変わらず砂糖は貴重品でした。
大航海時代の16世紀には、ブラジルやカリブ海の西インド諸島などの新大陸の植民地でサトウキビの栽培がはじまりました。
これら熱帯の植民地では、プランテーションとよばれる広大な農地でアフリカ西海岸(ギニア湾周辺)から連れてこられた多数の奴隷を使って栽培されました。
19世紀に入るとサトウキビだけではなく、ビートの砂糖生産用品種であるテンサイから砂糖が生産されるようになりました。
テンサイはヨーロッパや北海道のような寒冷地で砂糖を生産できる点で画期的でした。
しかし、テンサイはサトウキビを置き換えるまでには至らず、現代においても砂糖の原料としてはサトウキビが最も多く使われています(サトウキビ:テンサイ=7:3)。
その後も砂糖の生産方法の改良が続けられ、19世紀末になると砂糖の価格低下に伴い一般庶民が利用できるようになり、砂糖が広く普及していきました。
サトウキビの栽培と利用
ここからは、サトウキビの栽培~製糖~利用用途までを見ていきます。
サトウキビは熱帯のプランテーションで大規模栽培が行われ、収穫されたサトウキビを原料として製糖工場で砂糖が精製されます。
サトウキビの栽培条件
サトウキビは熱帯に位置するニューギニア島原産の作物であり、高温と十分な降水、強い日差しが必要な作物です。
生育に最適な温度は30-34℃程度であり、赤道周辺の熱帯~亜熱帯(熱帯隣接地域)で栽培されます。
サトウキビの特徴として、生長期に多量の雨が必要である一方で日照(強い日差し)も必要です。
このため、年中多雨の熱帯雨林気候(Af)よりも雨季と乾季があるサバナ気候(Aw)や熱帯モンスーン気候(Am)の方が栽培に適しています。
地域としては、赤道直下よりもやや離れた地域で栽培が盛んです。
緯度で言うとおおむね北回帰線(北緯23°26')から南回帰線(南緯23°26')までの地域に産地が集中しています。
これらの南北の回帰線周辺地域は、熱帯収束帯の影響を受ける雨季と亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響を受ける乾季があるため、サバナ気候や熱帯モンスーン気候になります(参考:ハドレー循環)。
これらの地域では、プランテーションとよばれる大規模農園でサトウキビの栽培が行われています。
サトウキビのプランテーション
サトウキビは熱帯のプランテーションで栽培される代表的な作物です。
プランテーションとは、熱帯地域の大規模農園で単一の作物を大規模栽培する農業形態です。
サトウキビのプランテーションは大航海時代の16世紀に中南米の熱帯地域の植民地ではじまり、安価な労働力を利用して砂糖の大量生産を行い、ヨーロッパに輸出しました。
プランテーションではその土地の気候に合った単一の商品作物を大量生産するため、特定の商品(サトウキビの場合は砂糖)の市場価格の変動にその国(地域)の経済が大きく左右されます(モノカルチャー経済)。
たとえば、キューバ革命(1953-1959)以前のキューバでは、総輸出額の80%を砂糖が占めていました。
さらに、砂糖生産の60%以上が米国資本の会社であり、さらに輸出先の75%以上が米国であり、経済的に米国に支配されているような状況でした。
このように、熱帯のプランテーションは先進国が必要な商品作物を生産・輸出することに特化した農業形態です。
商品価格の変動に一国の経済が左右されるだけではなく、国の基幹産業であるプランテーションの経営は出資している欧米先進国の人々の意向に左右されます。
そこで近年では、地元民がプランテーションを経営して栽培する作物の多角化をするなどの動きが見られます。
キューバでも近年は砂糖に依存したモノカルチャー経済からの脱却を目指し、ニッケルなどの鉱物資源やB型肝炎ワクチンなどの医薬品が輸出額に占める割合が高くなっています。
収穫~製糖
収穫したサトウキビは製糖工場に運ばれて砂糖が生産されます。
サトウキビなどの糖料作物から砂糖を生産する工程を製糖とよびまます。
製糖は工業的なプロセスなので、機械化された製糖工場で行われます。
収穫したサトウキビは重くかさばるため、製糖のはじめの方の工程は生産地の近くの製糖工場で行われます。
サトウキビを押しつぶして糖分を含んだしぼり汁を集めます。
しぼり汁から不純物を取り除き、粗糖(原料糖)とよばれる中間生成物をつくります。
粗糖は様々な種類の砂糖の原料となります。
粗糖の段階で世界各地の工場へ輸出され、消費地近くの製糖工場でさらに精製されて砂糖が生産されます。
上の画像には、収穫したサトウキビの加工が行われる製糖工場が写っています。
サトウキビの生産地が限られる一方で砂糖は世界中で需要があります。
製糖工場で精製された砂糖は隣接する船着き場で船に積み込まれて遠隔の消費地に運ばれます。
用途
サトウキビの用途は主に砂糖の原料です。
サトウキビからしぼり汁を取り出した後に残ったしぼりかすの部分はバイオエタノールなどの燃料として使用されます。
粗糖から砂糖を精製する際には、副生成物として不純物を含んだ黒褐色の液体であるモラセス(廃糖蜜)が生じます。
モラセスは砂糖を生産する際にどうしても出てしまう食品廃材です。
しかし、サトウキビ由来のモラセスは糖分を多く含むため、甘味料や医薬品・健康食品の原料として利用されます。
生産量
サトウキビは生産できる地域が限られるため、生産量上位の国はいずれも熱帯~亜熱帯に位置しています。
サトウキビの栽培は生長期の雨季と収穫期の乾季を両立するサバナ気候(Aw)が最も向いているため、赤道直下よりも、やや離れた南北の回帰線(23°26')付近に産地が集まっています。
ブラジルでも赤道直下ではなく南回帰線あたりに位置する南部が主産地であり、他に中米のカリブ海周辺、インド、タイ、中国南部で栽培が盛んです。
国別の生産量は、植民地時代からプランテーションが開発されていたブラジルが圧倒的に多いです。
中米のカリブ海周辺も生産が盛んですが、島国など面積が小さい国が多く、国別で見ると生産量上位には来ません。
国別の生産量が多いブラジル、インド、タイはサトウキビから生産した砂糖(粗糖)の輸出も盛んです。
砂糖は生産地が限られる一方で世界中で需要があるため、国際的に広く取引される重要な商品作物です。
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参考熱帯の気候(熱帯雨林気候・熱帯モンスーン気候・サバナ気候)
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参考文献
お砂糖の原料は? 日本甜菜製糖株式会社 2023/5/6閲覧
砂糖 ウィキペディア 2023/5/6閲覧
サトウキビ ウィキペディア 2023/5/13閲覧
砂糖の歴史 ウィキペディア 2023/5/6閲覧
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南 直人「歴史における「甘み」の役割」 立命館言語文化研究 32(1), 55-63 (2020)
米浪信夫「サトウキビ栽培の適地」砂糖類・でん粉情報 2021.4 58-62 (2021)
Sugarcane, Wikipedia 2023/5/19閲覧
プランテーション ウィキペディア 2023/5/20閲覧
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農林水産省「特集 砂糖の魅力再発見」aff, 2021年11月号 (2021)
糖蜜 ウィキペディア 2023/5/20閲覧