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カカオの栽培(チョコレート・ココア・カカオベルト)

世界中で消費されるチョコレートやココアは、カカオという樹木の種子(カカオ豆)を原料として生産されます。
カカオは赤道周辺の限られた地域でしか栽培できないため、商品作物として国際的に広く取引されています。
このページでは、カカオの栽培や加工、貿易、カカオ栽培の課題とフェアトレードについて取り上げます。

カカオとは

果実を実らせたカカオの木(コートジボワール南東部・ラミー州)。写真に映る果実(カカオポッド)は緑色だが、やがて黄色味を帯び、成熟すると赤褐色になる。カカオの種子をカカオ豆とよび、カカオ豆を原料としてチョコレートが作られる。出典:Wikimedia Commons, ©Hanay, CC BY-SA 4.0, 2023/5/25閲覧

カカオ中南米原産の樹木作物で、赤道近辺の熱帯地域で栽培されます。

中南米では歴史的に利用されてきた作物です。
マヤ文明(中米)やアステカ(メキシコ)では、カカオの種子(カカオ豆)を飲料にして飲まれたり、カカオ豆が通貨として利用されました。
大航海時代(16世紀以降)にヨーロッパに渡って上流階級に人気が出たため、中米でヨーロッパへの輸出用の栽培地が作られるようになりました。
19世紀中頃に中米で病害により生産量が激減すると、代わりにアフリカのギニア湾周辺で栽培されるようになりました。
現在でも、ギニア湾周辺のコートジボワールやガーナ、ナイジェリアなどの生産量が多いです。

カカオ豆から作られるチョコレートは世界中で食べられるお菓子です。
単価が高い嗜好作物なので、個人の好みに応えるために製造方法に様々な工夫がされたり、産地名が商品ブランドとして使われています。

たとえば、カカオの苦味を抑えるために乳製品(粉乳など)を加えたチョコレートをミルクチョコレートといいます。
他にも、カカオ豆から脂肪分のみを抽出したココアバターを原料としたホワイトチョコレートのように様々な製品があります。

産地名を使った商品ブランドには、ロッテの「ガーナ」があります。
ガーナチョコレートはアフリカのガーナ産のカカオ豆を原料として使用しています。

ロッテのチョコレート菓子「ガーナ」。チョコレートの原料であるカカオは単価が高い嗜好作物であるため、原料の産地名が商品ブランドとして使用されている。出典:Wikimedia Commons, ©アニメイト2442, CC BY-SA 4.0, 2023/5/28閲覧

カカオの栽培と利用

カカオは熱帯の限られた地域で栽培・収穫され、工場に運ばれてチョコレートなどの製品へ加工されます。
ここからは、カカオの栽培から利用までについてまとめます。

カカオの栽培条件

カカオは年平均気温27℃以上(最低気温18℃以上)の熱帯で栽培されます。
18℃以下になるとカカオの種子に含まれるココアバターが固まってしまい、栄養が行き渡らなくなるため生育が難しくなります。

降水量は年1,000-2,500m程度の高温多湿な環境で生育します。
カカオは乾燥に弱いため、サバナ気候(Aw)コートジボワールでは乾季が3ヶ月以下の地域で栽培されます。
一方で樹木作物であるため水はけのよい場所を好み、標高30-300m程度のやや標高の高い地域で栽培されます。

カカオはコーヒーよりも栽培可能な範囲が狭く、北緯20度~南緯20度で栽培されます(カカオベルト)。

カカオは強い日差しにも弱く、特に若木のときは他の植物がつくる日陰の中で生育する必要があります。
そのため、プランテーションのような単作による大規模栽培を行うことが難しいです。
バナナキャッサバなど他の作物を育て、その陰でカカオを育てるといった栽培方法が行われています。

カカオの収穫~加工

カカオの収穫風景(カメルーン)。棒を使ってカカオの果実(カカオポッド)を落として集めている。足元には黄色に色づいたカカオの果実がたまっている。出典:Wikimedia Commons, ©CHRISTONALDO, CC BY-SA 4.0, 2023/5/25閲覧

収穫したカカオの果実(カカオポッド)の断面。断面からは5個の種子(カカオ豆)が見える。このカカオ豆を乾燥させてチョコレートなどの原料として使用する。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/5/27閲覧

ここからは、カカオの収穫と加工について見ていきます。
カカオの果実ははじめは緑色ですが、熟すると黄色~赤褐色に色づきます。
色づいた果実を収穫し、果実の中に入っている種子(カカオ豆)を取り出します。
チョコレートなどの原料になるのは、このカカオ豆です。

収穫したカカオ豆はバナナの皮にくるんで数日かけてすぐに発酵させ、保存性を高めるために天日干しなどで乾燥させます。
乾燥させたカカオ豆は麻袋に詰められて生産地から輸出されます。

天日干しで乾燥中のカカオ豆。収穫したカカオポッド(果実)からカカオ豆(種子)を取り出して乾燥させている。乾燥させるのは、船での輸送中にカビが発生するなどして劣化しないようにするためである。出典:Wikimedia Commons, ©Irene Scott/AusAID, CC BY 2.0, 2023/5/27閲覧

カカオの利用

カカオ豆はチョコレートやココアの原料になります。
生産地から運ばれたカカオ豆は工場で加熱乾燥(焙煎)され、すりつぶしてペースト状のカカオマスが作られます。
カカオマスは様々なカカオ製品の原料となります。

カカオマスを圧搾して白色の脂肪分だけを取り出したものをココアバターといい、しぼりかすをココアケーキ(ココア)といいます。
ココアケーキは粉末状にしてお湯に溶かして飲みます(ココア)。
一方、ココアバターはチョコレートの原料としてカカオマスにさらに脂肪分を追加する目的で使用されます。

カカオマスからチョコレートを作る際には、カカオマスに砂糖、ココアバター、粉乳などを加えて混合し、練り上げて成形して製造します。
チョコレートを作る際には、カカオマス自体だけではなくココアバターも添加して製造します。
ホワイトチョコレートは、カカオマスを使わずにココアバターを原料として製造するため白色のチョコレートになります。

チョコレート製造時に原材料を攪拌する装置(Chocolate melanger)。米国西部・カリフォルニア州サンフランシスコのチョコレート販売店(Ghirardelli Chocolate Shop)に設置されている機械である。出典:Wikimedia Commons, CC0, 2023/5/27閲覧

生産量と輸出入量

カカオの生産量(2012年)。生産量首位のコートジボワールの生産量165万トンを100として、各国の生産量を比率を示している。北緯20~南緯20度のカカオベルトを中心に生産されている。出典:Wikimedia Commons, ©Mapache 89, CC BY-SA 4.0, 2023/5/28閲覧

カカオ豆の生産量(2017年)。出典:データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 p61 二宮書店

カカオ豆の貿易(2016年)。出典:データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 p61 二宮書店

カカオは寒さに弱いため、北緯20度~南緯20度のカカオベルトとよばれる熱帯地域で栽培されます。
その中でも、西アフリカのギニア湾周辺(コートジボワール、ガーナ、ナイジェリアなど)は生産量・輸出量ともに多くなります。
輸入量はオランダ、ドイツ、アメリカ合衆国、ベルギーなど欧米先進国が上位に並んでいます。

このように、ギニア湾沿岸を中心とする赤道周辺の発展途上国で生産されたカカオ豆が欧米の先進国に輸出され、チョコレートなどの製品に加工されて消費される流れになっています。

カカオ豆生産における問題点

カカオ豆の生産・輸出が盛んなコートジボワールやガーナでは、カカオ豆の市場価格の変動に国の経済が大きな影響を受けます。
市場価格が低いと農家の取り分が非常に少なくなってしまいます。

カカオを栽培するのは小規模な農家なので、市場価格が低いと困窮してしまいます。
そこで、生産コストである人件費を減らすために子供を農場で働かせる児童労働が行われています。
児童労働は子供から教育の機会を奪い、健康や発育にも大きな影響があるため、欧米先進国から問題視されています。

加えて、環境破壊の問題もあります。
カカオの木は害虫に弱く病気にもかかりやすいため、害虫や病気が広がると農家は森林を切り開いて新しい場所で栽培しようとします。
そのため、コートジボワールやガーナでは森林破壊などの環境問題が発生しています。
しかしこのような農業形態は長期的に持続させることは難しく、生活のために森林伐採を行った結果として地域の環境破壊が進み、カカオ栽培ができなくなる地域が発生するという悪循環に陥ってしまいます。

このような諸問題の一因として、生産者の価格交渉力が弱いため、十分な収入が得られないことがあげられます。
カカオ豆の取引先は、輸出を担う穀物メジャー(ADMやカーギル等)やチョコレート製品を製造するネスレなどの世界的な巨大企業である一方、カカオ生産者は発展途上国の小規模零細農家です。

フェアトレードとその問題点

カカオ栽培における生産者の困窮や環境破壊を防ぐために、フェアトレード(公正取引)という概念が提唱されています。
フェアトレードとは、購入価格を市場価格や個別交渉で決めるのではなく、生産者が農業生産を持続可能な形で継続するために必要なコストに見合った金額を購入者側が支払うしくみのことです。

フェアトレードのしくみは次の通りです。
先進国を中心として組織された国際的な認証団体が、生産者グループに対してフェアトレード認証を与えます。
この際、生産者グループの労働環境(児童労働や強制労働はないか)などを審査し、審査基準をクリアした団体のみにフェアトレード認証を与えます。
商品を購入したい企業は、フェアトレード認証をもつ団体を通して認証団体のルールに沿った「公正な価格」で商品を購入します。
フェアトレードを通して購入した商品には認証マークをつけてフェアトレード適合商品として販売することができ、先進国の環境問題等に関心をもつ消費者に対して企業イメージアップや商品購入促進を図ることができます。

フェアトレードの問題点としては、最終消費者が高い金額を払っても必ずしも生産者に届かないという問題があります。
フェアトレードを実施している企業であっても、購入する原料のわずか数%がフェアトレードで、大部分が今までの購入方法で調達しているという例があります。
フェアトレードが対象としているのは発展途上国の零細農家であるため、企業が求める量と質を満たすことができない場合が多くあります。
フェアトレードの「公正な価格」が市場価格よりも低く、認証を受けるために余分なコストがかかるだけで実質的に生産者の利益が減る場合もあります。

また、個人ではフェアトレードの認証を受けることができず、協同組合などの組織を通して認証を受ける必要があります。
しかし、発展途上国側でフェアトレードを管理する組織・団体が非効率で腐敗しているケースがあります。
その結果、認証を受けるためにはその地域・作物のフェアトレードを独占している組織・団体に対して賄賂(わいろ)を渡すなど余分なコストが必要な場合があり、結果的に農家が得られる収入が少なくなる場合もあります。

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参考成帯土壌(ラトソル・黒色土・褐色森林土・ポドゾル・ツンドラ土)

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参考文献

カカオ ウィキペディア 2023/5/25閲覧
Theobroma cacao, Wikipedia 2023/5/25閲覧
カカオ(かかお)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/5/25閲覧
ガーナブラック|チョコレート 株式会社ロッテ 2023/5/28閲覧
カカオベルトはどこにある?カカオ豆が育つ条件とは Dandelion Chocolate Japan株式会社 2023/5/25閲覧
カカオは日本で育つのか? 栽培編 | よむココア 森永製菓株式会社 2023/5/25閲覧
コートジボワールにおけるカカオ産業の研究 バリューチェーンおよび商業化メカニズムについて 日本貿易振興機構(ジェトロ)貿易投資相談課 アビジャン事務所(2015)
Cocoa bean, Wikipedia 2023/5/27閲覧
チョコレート ウィキペディア 2023/5/27閲覧
カカオマス ウィキペディア 2023/5/27閲覧
ココア ウィキペディア 2023/5/27閲覧
チョコレートの作り方/カカオ豆からカカオニブ、カカオマスに変化する工程も紹介 Hello. Chocolate 株式会社 明治 2023/5/27閲覧
the Cocoa Industry in West Africa A history of exploitation, Anti-Slavery International 2004 (2004)
Child labour in cocoa production, Wikipedia 2023/5/28閲覧
Environmental impact of cocoa production, Wikipedia 2023/5/28閲覧
Fair trade, Wikipedia 2023/5/28閲覧
Fair trade debate, Wikipedia 2023/5/28閲覧
Fair trade certification, Wikipedia 2023/5/28閲覧
Fair trade coffee, Wikipedia 2023/6/8閲覧

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