系統地理 農業

様々な乳製品(牛乳・チーズ・バター・ヨーグルト)

動物からしぼったミルク(生乳)はそのままでは腐敗しやすいため、加工して保存性を高めた乳製品が作られています。
このページでは、代表的な乳製品として牛乳やチーズ、バター、ヨーグルトについて紹介します。

乳製品の生産のために行われる牧畜の形態である酪農については、次のページで詳しく解説しています。

参考酪農における乳牛の飼育と牛乳の生産(ホルスタイン種とジャージー種)

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乳製品

様々な乳製品。しぼりたてのミルクは腐敗しやすいため、保存性を高めるために様々な乳製品に加工される。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/1/13閲覧

などの動物のミルクを加工して生産された製品を乳製品といいます。
現代では乳製品の大半は牛の乳を原料とした製品ですが、など他の動物のミルクを利用した乳製品も存在します。

動物のメスが母乳を出すのは出産後に限られるため、人がミルクを得られる季節は限られます(動物の出産に季節性があるため)。
加えて、動物のミルクは栄養分が豊富ですが同時に腐敗しやすいので、乾燥させるなどして長期保存しやすい形に加工してから利用されます。
代表的な乳製品としてはチーズ、バター、ヨーグルトなどがあり、いずれも搾乳した動物の生のミルクを加工して保存性を高めた食品です。
これらの乳製品の多くはヨーロッパで発展した食文化であり、現在でも欧米諸国を中心にヨーロッパ系の人々が多く住む地域で生産量や消費量が多い傾向にあります。

次の項目では代表的な乳製品について個別にまとめていきます。

様々な乳製品

動物から搾乳した直後の殺菌前の状態の乳を生乳(せいにゅう)といいます。
生乳はあらゆる乳製品の原料であり、この生乳を加工することで様々な乳製品が生産されます。
牛乳などの消費期限の短い食品は消費地(大都市)から近い地域で生産され、チーズやバターのような保存性の高い食品は消費地(大都市)から離れた地域(ニュージーランドなど)で生産される傾向があります。

牛乳

グラスに注がれた牛乳。牛乳は動物のミルクの中で最も消費されており、温帯~亜寒帯(冷帯)の地域では主に酪農という農業形態で生産されている。出典:Wikimedia Commons, ©Stefan Kühn, CC BY-SA 3.0, 2024/1/2閲覧

牛乳は世界で最も消費されている動物のミルクです。
家畜のメス牛の乳をしぼって得られた生乳を加熱殺菌してから飲用します。
牛乳は栄養価が高い飲み物であり、ヨーロッパを中心に世界中で飲まれています。
一方で牛乳は腐敗しやすい食品なので、生産された牛乳の大半は生産地から近い地域で消費されています。

温帯~亜寒帯(冷帯)の農業に向かない涼しい土地では、乳牛を飼育して牛乳や乳製品を生産する酪農という農業形態が発達しています。
詳細については以下のページで解説しています。

参考:牛乳の生産

その他の動物のミルク

ラクダ乳(キャメルミルク)。ラクダから搾乳したばかりで泡立っている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/11/12閲覧

現代ではミルクの利用の多くは牛乳ですが、遊牧民を中心に人類はその他の動物のミルクも利用してきました。
動物によって乳の脂肪分の含有量や風味が異なるため、比較的脂肪分が少ないミルクが飲用に使われます(脂肪分が多くミルクはバターなどの加工用に使用)。
直接飲まれるミルクの例としては、ヤギ(ヤギ乳)やラクダ(ラクダ乳)、(馬乳)などがあります。
中でも、砂漠の遊牧民にとってラクダ乳は貴重な水分補給源であり、他の家畜の飼育が困難な砂漠では唯一無二の存在です。

チーズ

カマンベールチーズの一種であるカマンベール・ド・ノルマンディ(フランス西部・ノルマンディーで生産)。チーズはミルクの中に含まれるタンパク質を凝固させることで作られる保存性の高い食品である。生のミルクは腐敗しやすいため、チーズのような保存性の高い乳製品に加工して食品として利用される。出典:Wikimedia Commons, ©Coyau, CC BY-SA 3.0, 2024/1/3閲覧

チーズは動物(主に)のミルクを原料として作られる保存性の高い食品です。
加熱殺菌した生乳に乳酸菌や各種微生物(レンネット)を添加して置いておくと、ミルクの中のタンパク質が凝固して水分(ホエイ)と分離し、カード(凝乳(ぎょうにゅう))とよばれる固形物ができあがります。
このカードの部分を取り出した食品をフレッシュチーズをいいます。

多くチーズでは、取り出したカードをさらに数カ月間熟成させ、微生物による発酵を進めてチーズ特有の風味づけを行います。
使用する微生物の種類や加工方法によって様々な種類のチーズが存在します。

たとえば、製造途中で加熱して微生物の酵素による発酵を止めて保存性を高めたチーズをプロセスチーズといいます。
プロセスチーズは工業的な大量生産に適しており、保存性も高いことから広く利用されています。
一方、殺菌せずにあえて微生物を残すことで発酵を進めたチーズをナチュラルチーズとよびます。

微生物の種類による分類の例としては、白かびを使用したチーズを白カビチーズ、青かびを使用したチーズをブルーチーズなどがあります。
白かびチーズの代表例としては、フランスのカマンベールチーズ、ブルーチーズの代表例としてはイタリアのゴルゴンゾーラチーズがあります。

チーズの生産量首位はアメリカ合衆国であり、ヨーロッパと合わせて世界の生産量の7割以上を占めます(2019年)。
消費が多い地域についてもチーズを使った食文化が普及しているヨーロッパと米国です。

バター

バターとバターナイフ。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/1/2閲覧

バターは動物(主に)のミルクから分離した脂肪分(クリーム)を固めた食品です。
バターは多くの場合牛乳から生産しますが、羊乳や水牛、ヤクなどほかの動物のミルクから作ることもできます。
生乳を高速で回転させて遠心分離を行うと、軽い水分と重い脂肪分(クリーム)に分離できます。
得られたクリームを加熱殺菌してから冷却すると脂肪分が結晶化して粒状の塊と水分に分かれます、
余分な水分を取り除きながらこの脂肪の塊をさらに撹拌(かくはん)して練り合わせることでバターがで作ることができます。

バターは調味料として利用されるほか、脂肪分の塊なので食用油や洋菓子の原料としても利用されます。
類似する調味料としてマーガリンがありますが、マーガリンの原料が植物油であるのに対し、バターの原料は動物(牛乳)由来という違いがあります。

バターの生産量や消費量が多い地域としては、インド、欧米諸国、ニュージーランドなどがあります。

インドでは牛肉を食べることが禁じられているヒンドゥー教徒が多く、さらに菜食主義者も多い地域です。
そのため、肉の代わりに牛乳やバターを食べることで不足する脂肪分を補っています。

欧米諸国は乳製品の食文化が普及している上、酪農に適した涼しい地域が広がるため、バターの生産と消費の両方が盛んな地域です。

ニュージーランドは酪農に適した気候ですが人口が集中する地域(消費地)から離れています。
そのため、生乳を原料として長期保存できる食品を生産して輸出するため、バターの生産量が多くなります。

ヨーグルト

ブルガリアのヨーグルト。ヨーグルトはミルクを発酵させて保存性を高めた食品である。バルカン半島東部~アナトリア半島周辺で古くから食べられてきた。出典:Wikimedia Commons, ©Ned Jelyazkov, CC BY-SA 3.0, 2024/1/3閲覧

ヨーグルトは乳酸菌などの微生物の作用でミルクを発酵させて保存性を高めた発酵食品です。
生乳はそのままでは腐敗しやすいですが、発酵によって乳酸を作り出すことでpHを酸性にして腐敗が進むのを抑えることができます。

牛のミルクだけではなく羊、ヤギ、馬、ラクダなど様々な動物のミルクからヨーグルトを作ることができます。

バルカン半島東部のブルガリア~アナトリア半島(トルコ)周辺では、古くからヨーグルトが食べられてきました。
20世紀初頭にロシアの生物学者メチニコフ(1845-1916)が当時のブルガリア農民の長寿の理由をヨーグルトを食べる習慣と結びつけた仮説を提唱したことがきっかけで、欧米諸国全体にヨーグルトを食べる習慣が広がりました。

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参考文献

乳製品 ウィキペディア 2024/1/2閲覧
 ウィキペディア 2024/1/2閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
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チーズとは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/1/2閲覧
チーズはどのように製造されていますか? | 乳と乳製品のQ&A 一般社団法人日本乳業協会 2024/1/2閲覧
チーズができるまで Cheese Fun!(チーズファン!) NPO法人 チーズプロフェッショナル協会 2024/1/2閲覧
Cheese, Wikipedia 2024/1/2閲覧
ブルーチーズ ウィキペディア 2024/1/2閲覧
バター ウィキペディア 2024/1/2閲覧
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バター(ばたー)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/1/2閲覧
バターはどのように製造されていますか? | 乳と乳製品のQ&A 一般社団法人日本乳業協会 2024/1/2閲覧
ヨーグルト ウィキペディア 2024/1/3閲覧
ヨーグルトとは?  コトバンク 食の医学館、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/1/3閲覧
佐々木 泰子「#2 乳酸菌を使うと美味しくなるのは、なぜ?」 Meiji.net 明治大学 2024/1/3閲覧
ヨーグルトはどのように作るのですか? | 乳と乳製品のQ&A 一般社団法人日本乳業協会 2024/1/3閲覧
Yogurt, Wikipedia 2024/1/3閲覧
ヨーグルトの起源 ?紀元前数千年前から食べられていた? 株式会社明治 2024/1/3閲覧

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