系統地理 農業

トウモロコシの栽培(品種・用途)

三大穀物の一つであるトウモロコシは、中南米やアフリカで主食として利用される他、家畜飼料(エサ)や食品加工用(原料)として世界中で使われています。
このページでは、栽培方法や用途、生産量や輸出量など作物としてのトウモロコシに関する内容についてまとめています。

穀物全体や他の作物の詳細については以下のリンク先をご覧ください。
穀物小麦・トウモロコシ・ライ麦/エンバク/大麦雑穀

トウモロコシの特徴

成熟した受粉前のトウモロコシ。赤いひげ状の部分は雌花(穂)であり、茎の途中に数多く形成される。受粉すると雌花の付け根がふくらみ、種子(可食部)が形成される。出典:Wikimedia Commons, ©burgkirsch, CC BY-SA 2.5, 2023/1/15閲覧

トウモロコシは三大穀物の一つです。
小麦とは異なり、主食として利用されているのは中南米やアフリカ中心です。
トウモロコシを主食にしない地域でも家畜飼料や食品加工用などに広く利用されるのが特徴です。

用途としては同じ穀物である小麦よりもむしろ大豆の方が近いです。
大豆と同様に米国を中心に遺伝子組換え作物の栽培が盛んであり、世界中に遺伝子組換え作物が流通している作物でもあります。

この項目ではトウモロコシの原産地、栽培条件、用途について順番に見ていきます。

トウモロコシの起源

トウモロコシを煮るアステカ族の女性(フィレンツェ写本 I、fol 347 右、16 世紀後半)。トウモロコシが火を恐れないように、鍋に入れる前に息を吹きかけている様子を描いている。現在のメキシコ内陸部に14-15世紀に栄えたアステカでは、アステカでは他の中南米地域と同様にトウモロコシが主食である。トウモロコシはトルティーヤ(薄焼きパン)やタマル(蒸し団子)、粥などに加工されて食べられていた。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/2/29閲覧

トウモロコシは中南米の熱帯地域が原産の作物です。
メキシコのマヤ文明やアステカ文明、ペルーのインカ帝国でも広く栽培・利用されてきました。
大航海時代にヨーロッパ人が持ち帰り、それを契機に世界各地へ伝わりました。

トウモロコシの原産地と伝播の地図と詳細説明については以下のリンク先をご覧ください。
トウモロコシの起源地と伝播経路」©Shogakukan
出典:トウモロコシとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2022/1/9閲覧

トウモロコシの品種

トウモロコシは主食用、飼料用など様々な用途があるため、それに応じて様々な品種が栽培されています。
ここでは、甘味種(スイートコーン)、馬歯種(デントコーン)、硬粒種(フリントコーン)、爆裂種(ポップコーン)について紹介します。

甘味種(スウィートコーン)

トウモロコシの甘味種’(スイートコーン)。甘みが強く茹(ゆ)でたり焼いて食べる。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/1/19閲覧

甘味種(スイートコーン)は食用に用いられる品種です。
糖分が多く含まれて甘みが強いため茹でたり焼いたりして食べられます。
他にも缶詰にされたり、シリアル食品(コーンフレーク)やとうもろこし粉(コーンミール)にも加工されます。

馬歯種(デントコーン)

トウモロコシの馬歯種(デントコーン)。乾燥すると粒の中央がへこんで馬の歯状になる。主に家畜飼料やバイオエタノール用に使われる。出典:Wikimedia Commons, ©Jonathunder, CC BY-SA 3.0, 2023/1/19閲覧

馬歯種(デントコーン)は家畜飼料やバイオエタノール用に用いられる品種です。
乾燥すると粒の中央がへこんで馬の歯状に見えるため馬歯種とよばれています。

成長の過程で実に含まれる糖分がデンプンに変わるため甘みが無く、ふつう食用には使われません。
乾燥して家畜飼料として使われたり、デンプン(コーンスターチ)や食用油(コーン油)の原料として用いられています。
近年では燃料用(バイオエタノールの原料)としての需要が急増して価格が高騰し、需要が競合する家畜飼料も巻き添えを食らう形で価格が上昇しています。

硬粒種(フリントコーン)

トウモロコシの硬粒種(フリントコーン)。フリントコーンは害虫や低温に強い品種で、粒が堅く青や赤など様々な色をしている。用途としては、挽いて粉にした上で食用などに用いられる。出典:Wikimedia Commons, ©User:Asbestos, CC BY-SA 2.0, 2023/1/19閲覧

硬粒種(フリントコーン)は食用や家畜飼料などに用いられる品種です。
その名の通り外側が硬い粒であり、粒の外側が堅く火打ち石(フリント)のようだということで名づけられました。
硬粒種は青や赤など他の品種に見られない色とりどりの果実をもちます。

硬粒種は害虫や低温に強いという特徴があります。
1816年に北米を襲った極端な冷夏(夏のない年)では、米国北東部のバーモント州で唯一生き残った作物が硬粒種でした。

食用としてはとうもろこし粉(コーンフラワー)に加工して使われます。

爆裂種(ポップコーン)

トウモロコシの爆裂種(ポップコーン)。粒の皮が非常に硬く、加熱すると皮が破裂することから爆裂種とよばれる。菓子(ポップコーン)用として使われる。出典:Wikimedia Commons, ©Geo Lightspeed7, CC BY-SA 4.0, 2023/1/19閲覧

爆裂種(ポップコーン)は間食用に用いられる品種です。
粒の皮が非常に硬く、加熱すると皮が破裂することから爆裂種とよばれます。
品種名のとおり、加熱して破裂したものをスナック菓子(ポップコーン)として食べます。

トウモロコシの栽培条件

トウモロコシは温暖で適度な降水があり(年降水量1,000 mm程度)、日当たりの良い場所が栽培に適しています。

トウモロコシの豊作には雨が不可欠なのでマヤ文明(メキシコ)やインカ帝国(ペルー)では雨乞いの儀式が行われてきました。
一方で栽培には水はけのよい土地が最適であり、アンデス山脈の傾斜地が広がるインカ帝国では階段耕作による栽培も行われていました。

米国ではトウモロコシの栽培地域が同緯度に帯状に広がっていることからトウモロコシ地帯(コーンベルト)とよばれます(下図緑色の地域)。
これは、その土地の気候に合った作物を栽培する適地適作が行われているためです。
南北に移動すると気温が変化するため、トウモロコシの栽培に最適な気温になる緯度に帯状に栽培地域が広がっています。

米国のトウモロコシ生産量の分布。トウモロコシの栽培が盛んな地域は、中西部のアイオワ州やイリノイ州を中心に同緯度に帯状に広がるため、とうもろこし地帯(コーンベルト)とよばれる。凡例のブッシェルは穀物の計量に使われる体積の単位である。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/1/9閲覧

トウモロコシの用途

トウモロコシを原料とする製品のイラストを掲載したポスター(米国食品局・1918年)。コーンスターチ、コーン油、コーンシロップのイラストが掲載されている。下部には用途として、ケーキ、キャンディー、プリン、保存食、サラダ、ショートニング、揚げ物が挙げられている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2023/1/21閲覧

トウモロコシは主食用、家畜の飼料用、食品加工用、工業用など多様な用途に使われてます。

主食用としては原産地の中南米やアフリカなどの一部地域で利用されています。
小麦同様、一度粉(とうもろこし粉)にしてから成形して食されます。

主食として利用されるのは一部地域に限られるのに対し、家畜飼料や食品加工用としては世界中で利用されます。
特に飼料用としての用途が大きく、世界のトウモロコシの生産量全体の64%は家畜飼料として利用されます。
小麦よりも安価で大量生産されていることから、トウモロコシが家畜飼料として利用されています。

トウモロコシは食品工業の原料としても重要です。
トウモロコシを原料としてデンプン(コーンスターチ)や食用油(コーン油などが製造されます。

コーン油はコーンスターチを生成する際にできる胚芽由来の副生成物です。

コーンスターチはトウモロコシのからつくられるデンプンの粉です。
製紙用や食品用の糊として使える上に加水分解すると様々な糖が生成するため、次のように様々な工業用原料として利用されます。
・ブドウ糖やコーンシロップなどの甘味料
・プリンの凝固剤
・魚肉練り製品(かまぼこやちくわ)
・ビールなどの酒の副原料
・コピー用紙やダンボールを作る際の糊(のり)
・化粧品や医薬品の原料

以上のように元々様々なで用途で使われていましたが、近年ではさらにバイオエタノールの原料用としても注目されています。
バイオエタノールとしての需要の増大と発展途上国での食肉消費量の増加に伴い、トウモロコシの生産量も増加しています。

生産量と輸出入量

トウモロコシの国別生産量(2019年)。人口が多い中国や大規模な農業が行われる米国やアルゼンチン、ブラジルで生産量が多い。出典:Wikimedia Commons, ©国連食糧農業機関(FAO), CC BY-SA 3.0, 2023/1/15閲覧

トウモロコシは家畜飼料や工業原料として世界中で利用されますが、その生産国は偏っています。
特に生産量が多いアメリカ合衆国では、家畜飼料としてトウモロコシを栽培して家畜のエサにするという混合農業が見られます。
さらに近年ではバイオエタノールの原料としての需要も非常に大きく、アメリカ合衆国では需要の半分弱がバイオエタノール用です。
このように生産国内の需要も大きく、輸出に回されるのは生産量全体の約1割に留まります。

次の表は国別のトウモロコシの生産量と輸出入量です。

トウモロコシの生産量(2017年)。出典:データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 p57 二宮書店

トウモロコシの貿易(2016年)。出典:データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 p57 二宮書店

トウモロコシの生産量上位は、中国やインド、インドネシア等の人口が多い国が集まります。
一方、アメリカ合衆国やアルゼンチン、ブラジルなどの企業的農業による大規模な畑作や牧畜が行われている国もあります。

輸出量をみても、これらのアメリカ合衆国、アルゼンチン、ブラジルといった大規模な畑作が行われる生産量上位の国の輸出量が多いです。
加えて、ウクライナやフランスなどの小麦の輸出国はトウモロコシの輸出力も多く、同じ畑作作物である小麦とトウモロコシは輸出国が似ています。

輸入量は日本や韓国が上位になり、主に家畜飼料や工業用(糊やコーンスターチ)などに利用されます。
メキシコではトルティーヤ(薄焼きパン、タコスの皮の部分)などに加工して食用としても利用されます。

関連記事

参考企業的農業(企業的穀物/畑作農業・企業的牧畜・プランテーション)

続きを見る

参考農産物の世界的な流通とアグリビジネス(フードシステム・穀物メジャー)

続きを見る

参考混合農業(二圃式/三圃式農業から自給的/商業的混合農業への発展)

続きを見る

参考油料作物(ナタネ・ヒマワリ・ゴマ他)

続きを見る

参考文献

地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
トウモロコシ ウィキペディア 2023/1/19閲覧
トウモロコシとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/1/19閲覧
アステカ料理 ウィキペディア 2024/2/29閲覧
トウモロコシの種類、製品の特性と用途 独立行政法人 農畜産業振興機構 2023/1/19閲覧
とうもろこしの種類 トウモロコシノセカイ 2023/1/19閲覧
コーンスターチ ウィキペディア 2023/1/19閲覧
フリントコーン ウィキペディア 2023/1/19閲覧
コーンフラワー ウィキペディア 2023/1/19閲覧
Popcorn, Wikipedia 2023/1/19閲覧
コーン油 ウィキペディア 2023/1/21閲覧
コーンベルトとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/1/15閲覧
世界の食料需給の動向と中長期的な見通し(令和4年3月) 農林水産政策研究所 2023/1/15閲覧
(1)世界の食料の需給動向と我が国の農産物貿易 イ 食料需給をめぐる今後の見通し 農林水産省 2023/1/15閲覧
データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 二宮書店
片平博文他「新詳地理B」帝国書院(2020)
三石誠司「実はトウモロコシで一杯・・・」 夢ナビ 株式会社フロムページ 2023/1/15閲覧

-系統地理, 農業