一口に火山と言っても様々な形の火山があります。
火山の形は噴出するマグマの粘性(粘り気の強さ)によって決まります。
このページではマグマの粘性の違いに基づく火山の形について解説します。
マグマの粘性と火山の形
火山の形はマグマの粘性(粘り気の強さ)によって変わります。
二酸化ケイ素(SiO2)の含有率が低い玄武岩質のマグマだと、高温で粘性が低い(=粘り気が弱い)ため、マグマが遠くまで流れていき平べったい形の火山(楯状火山)になります。
一方、二酸化ケイ素の含有量が高い流紋岩質のマグマだと、低温で粘性が高い(=粘り気が強い)ため、マグマが火口の近くで積み重なり、かさ高い溶岩円頂丘(溶岩ドーム)とよばれるドーム状の火山になります。
二酸化ケイ素の含有量が中程度の安山岩質のマグマだと、粘性も中程度になるのでマグマが流れる範囲も溶岩円頂丘以上楯状火山未満となり、富士山のような円錐形にマグマが堆積します(成層火山)。
表 火山の種類とマグマの性質の違い
火山の種類 | 楯状火山 | 成層火山 | 溶岩円頂丘 (溶岩ドーム) |
溶岩の組成 | 流紋岩質 | 安山岩質 | 玄武岩質 |
SiO2含有率 | 高 | 中 | 低 |
粘性 | 高 | 中 | 低 |
マグマが 流れる範囲 | 広 | 中 | 狭 |
火山活動 | 大規模・間欠的に噴火 | 小規模・頻繁に噴火 | |
火山の例 | 有珠山、昭和新山、雲仙岳 | 富士山、羊蹄山、岩木山 | キラウエア、マウナ・ケア(ハワイ) |
また、火口が山の上の1か所ではなく地面に長さ数百m~数十kmにもおよぶ亀裂が入りそこから噴火する場合は、山ができずに溶岩があたりを埋め尽くし、溶岩台地とよばれる広大な台地状の地形を作ります。
溶岩円頂丘はマグマの粘性が高く火口付近に噴出物が堆積するため1回の噴火で地形ができ上がります。
同じ火山でも火口の位置が変わることもあり、別々の場所に溶岩円頂丘が形成されます。
一方、マグマの粘性が低いと、火口から離れた場所まで溶岩(マグマ)が流れていくため、噴火を繰り返すたびに広い範囲に厚い堆積物が層を作るように溜まっていきます。
マグマの粘性が非常に低い場合は平べったい楯状火山になりますが、中間的な粘性の場合はマグマが流れる範囲が狭くなり、富士山のような円錐形にマグマが堆積します(成層火山)。
以上のように、噴出するマグマの粘性の違いによって火山の形が大きく変わります。
火山の形
ここからは、火山の形に関する地形を順に見ていきます。
以下では、楯状火山、溶岩台地、溶岩円頂丘(溶岩ドーム)、成層火山について順に説明します。
楯状火山
楯状火山は、高温で粘性が低い玄武岩質のマグマが繰り返し噴出・堆積してできた火山です。
マグマの粘性の低い(=粘り気が弱い)とマグマが火口の遠くまで流れていくため、平べったい形になります。
楯状火山が見られる場所としては、広がる境界やホットスポットで見られます。
広がる境界で楯状火山が見られる場所としては、大西洋中央海嶺に位置するアイスランド島やアフリカ大地溝帯周辺があります。
楯状火山が見られるホットスポットとしては、ハワイ諸島(米国)があります。
代表的な楯状火山としては、ハワイ島のマウナ・ロア(4,169m)や、マウナ・ケア(4,205m)、キラウエア(1,247m)などがあります。
溶岩台地
溶岩台地は、大量の溶岩流があたりを埋め尽くしてできた台地状の火山地形です。
楯状火山と同様に粘性の低い(=粘り気の少ない)玄武岩質の溶岩からできているため、山ではなく台地状の地形になります。
溶岩台地はマグマが噴出してできた地形ですが、山の上の1か所の火口ではなく、地面に長さ数百m~数十kmにもおよぶ亀裂が入りそこから大量の溶岩が噴出します。
溶岩流はあたりの低地を埋め尽くし、広大な台地状の地形が形成されます。
溶岩台地の例としては、インド内陸部のデカン高原やアメリカ北西部のコロンビア川台地(ワシントン州ほか)などがあります。
デカン高原では溶岩台地を構成する玄武岩が風化してできたレグールという土壌が広がります。
レグールは肥沃な土壌として知られ、綿花や小麦の栽培が盛んに行われています。
溶岩円頂丘
溶岩円頂丘(溶岩ドーム)は、低温で粘性が高いデイサイト質のマグマが火口付近に堆積した地形です。
マグマの粘性が高いと流動性が低くなり、火口からほとんど流れずにドーム状にうず高く堆積します。
溶岩円頂丘は上空からは円形の見え、地上からは円墳のように盛り上がった形に見えます。
楯状火山や成層火山(後述)は噴火のたびに噴出した溶岩や火山灰が積み重なって堆積した火山地形ですが、溶岩円頂丘は1回の噴火で形成された地形です。
同じ火山の噴火であっても、火口の位置が変わることがあります。
マグマの粘性が高いと溶岩が遠くまで流れないため、各火口付近に別々の溶岩円頂丘が形成されます。
溶岩円頂丘の例としては、有珠山の東隣にそびえる昭和新山(398m, 北海道・胆振地方)や雲仙普賢岳の頂上付近にできた平成新山(1,482m, 長崎県東部・島原半島)などがあります。
溶岩円頂丘は1回の噴火でできた地形であるため、比較的小規模です。
度重なる噴火で大きな火山が形成された後に、山頂部分で小規模な噴火が起きて小さな溶岩円頂丘が形成されることも多いです。(先述の平成新山も該当)
成層火山
成層火山は、ほぼ同一の火口からの度重なる噴火により、溶岩流と火山砕屑物(かざんさいせつぶつ)が交互に何重にも積み重なり、円錐状の形をした火山です。
成層火山は麓は傾斜がゆるやかで、頂上に向かうにしたがって傾斜が急になります。
成層火山は主に安山岩からなる火山です。
粘性が低い玄武岩質で平べったい形の楯状火山と粘性が高いデイサイト質の溶岩円頂丘(溶岩ドーム)の中間的な形です。
成層火山として有名なのが富士山(3,776m, 静岡東部・山梨南東部)です。
成層火山は数が多いので富士山と似たような形状の山が日本国内に多数あり、〇〇富士とよばれています。
たとえば、同じく成層火山の羊蹄山(1,898m, ようていざん、北海道後志地方)は蝦夷富士(えぞふじ)とも称されています。
成層火山は海外にも多数存在し、アフリカ最高峰のキリマンジャロ(5,895m, タンザニア北東部)、ヴェスビオ山(1,281m, イタリア南部)、タラナキ山(エグモント山、2,518m, ニュージーランド北島)、ピナトゥボ山(ピナツボ山、1,486m, フィリピン北部・ルソン島)、セント・ヘレンズ山(2,549m, 米国北西部・ワシントン州)、エルチチョン山(1,205m, メキシコ南部)などがあります。
参考
文化遺産として登録された富士山
富士山は世界遺産に登録されていますが、自然遺産ではなく文化遺産として登録されています。その理由は、富士山のような成層火山は世界中にたくさんあり、過去の噴火の影響で植生が乏しいこともあって自然遺産としての登録が難しいからです。
富士山は非常に人気がある観光地であり、多くの観光客が富士山に登るため、ごみなどの環境問題も影響したようです。
そのため、富士山は山岳信仰や芸術との関連を前面に推して文化遺産として登録することになりました(2013年登録「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」)。
参考文献
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割れ目噴火(ワレメフンカ)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア、岩石学辞典 2024/11/5閲覧
溶岩台地(ヨウガンダイチ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、改訂新版 世界大百科事典 2024/11/5閲覧
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富士山-信仰の対象と芸術の源泉 ウィキペディア 2024/11/6閲覧
凱風快晴 ウィキペディア 2024/11/6閲覧