地形 系統地理

火山の恩恵と資源(地熱発電・火山性温泉・観光)

火山は災害の原因になりますが、一方で人間に恩恵をもたらします。
火山は地球内部の熱エネルギーを地表にもたらすため、地下水が温められて高温の水蒸気や温泉水が得られます。
このため、高温の水蒸気や温泉水を熱源として地熱発電が行われています。
また、マグマの熱で温められた温泉水は地下深くでミネラルなどを溶かし込んでいるため、温泉自体が観光資源となる上に、温泉水からミョウバンなどの鉱物資源を採取することもできます。

このページでは、、火山活動が人間にもたらす恩恵として、地熱発電と温泉について解説します。

地熱発電

ワイラケイ地熱発電所のパイプラインから吹き出す蒸気(ニュージーランド北島)。ニュージーランドは環太平洋造山帯上に位置する火山が多い国であり、地熱発電が盛んである。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2024/11/23閲覧

火山の近くでは地中が高温になるため、地熱を利用して発電を行うことができます(地熱発電)。
火山を熱源として地下水が温められ、高温になった温水(温泉)や水蒸気を使ってタービンを回すことで熱エネルギーを電気エネルギーに変換します。
高温の温泉を冷ます過程で、余剰な熱を使って発電することもあります(温泉発電)。

地熱発電が盛んな国は火山が多い国です。
環太平洋造山帯に位置するアメリカ合衆国、インドネシア、フィリピン、ニュージーランドアフリカ大地溝帯に位置するケニア大西洋中央海嶺上に位置するアイスランドで地熱発電が盛んです。
日本では火山が多い九州地方(大分、鹿児島など)を中心に地熱発電所が設置されています。
日本も環太平洋造山帯に位置していますが、地熱発電に適した場所は国立公園や温泉地が多いため、環境への影響に配慮するために開発があまり進んでいません。

温泉

高温の温泉水が吹き出すグランド・プリズマティック・スプリング(米国北西部ワイオミング州・イエローストーン国立公園)。中央部の濃青色が本来の色であり、外縁部はバクテリアの影響により鮮やかな青緑~黄~オレンジ色に変化している。イエローストーン国立公園は大陸上に位置するホットスポットであり、局所的に火山活動が活発である。地下にはマグマ溜まりが存在し、域内には過去の噴火によって形成されたカルデラや高温の温泉水が吹き出す自噴井が見られる。出典:Wikimedia Commons, ©Carsten Steger, CC BY-SA 4.0, 2024/11/24閲覧

火山の地下には、地球内部から上がってきた高温のマグマがたまっています(マグマ溜り)。
このため、火山周辺では地下水がマグマによって温められ、一部が熱水や水蒸気として地表に噴出します(火山性温泉)。
元々地表に噴出している場合(自噴井)もあれば、人為的に掘削することもあります(深井戸)。
火山性温泉には地中のミネラルだけではなく火山ガスなども溶けこんでおり、場所によって泉質が変わり、様々な効能があります。

温泉は、環太平洋造山帯(日本や米国西部、ニュージーランドなど)や広がる境界(アイスランドなど)など火山が多い場所に多く分布しています。
日本では、草津白根山(2,160m)の火山活動に起因する草津温泉(群馬県北西部・草津町)、鶴見岳・伽藍岳の火山活動に起因する別府温泉郷(大分県中部・別府市)などが代表的です。
日本以外では、ホットスポットであるイエローストーン国立公園(米国北西部・ワイオミング州など)で火山活動由来の温泉水を吹き出す自噴井が多数見られます。

参考

非火山性温泉
火山が無い場所であっても地熱で地下水が温められて温泉が出る場所もあります。
たとえば、現在は火山が見られないバーデン=バーデン(ドイツ南西部)やカルルスバード(カルロヴィ・ヴァリ、チェコ西部)などヨーロッパ中央部にも温泉は存在します。
日本でも活火山が存在しない近畿地方や四国地方にも温泉が存在します。
このような火山活動と無関係な温泉を非火山性温泉といいます。
非火山性温泉の例としては、有馬温泉(ありま、兵庫県神戸市)、南紀白浜温泉(和歌山県南西部・白浜町)、道後温泉(どうご、愛媛県松山市)などがあります。

参考

草津温泉の湯もみ(群馬県北西部・草津町)。草津温泉は西側の草津白根山の火山活動に起因する火山性温泉であるため、その源泉は高温(50℃以上)である。しかし、水を入れると温泉の成分が薄まってしまう。そこで、180cmの細長い板を入れて湯をかき混ぜ、入浴できる温度まで湯温を下げる「湯もみ」が行われきた。湯もみは草津温泉の文化として残っており、地元の民謡などの「湯もみ唄」を唄いながら湯もみを行う実演が観光名物となっている。出典:Wikimedia Commons, ©, CC BY 2.5, 2024/11/24閲覧

草津温泉の湯もみ
火山性温泉である草津温泉の源泉は比較的高温(50℃以上)であるため、そのままでは入浴できません。
とはいえ、水を足してしまうと温泉の成分が薄まってしまい、温泉の効能が低下してしまいます。
そこで、180cmの細長い板を湯に入れてかき混ぜ、入浴できる温度まで下げる「湯もみ」が行われるようになりました。
湯もみは現在でも草津温泉の文化として残っており、地元の民謡などの「湯もみ唄」を唄いながら湯もみを行う実演が観光名物となっています。

湯治

鉄輪温泉(かんなわおんせん)の湯けむり(大分県中部・別府市)。別府温泉郷の1つである鉄輪温泉は、西側の鶴見岳(1375m)や伽藍岳(1,045m)の火山活動に起因する火山性温泉である。鉄輪温泉は鎌倉時代から知られており、現在でも湯治(とうじ、温泉療法)を行う長期滞在客用の宿が立ち並ぶ。出典:Wikimedia Commons, ©松岡明芳, CC BY-SA 4.0, 2024/11/23閲覧

火山性・非火山性に関わらず、日本では古くから温泉が利用されてきました。
温泉には様々な成分が含まれるため、長期間滞在して湯治(とうじ、温泉療法)を行い病気やケガの治療のために利用されてきました。
湯治では現代の温泉旅行とは異なり最低でも1週間以上の長期滞在が前提であり、湯治場となった温泉では湯治客向けの自炊設備なども完備していました。
現代では病気・ケガは病院や医薬品で治すのが当たり前ですが、近代的な医学知識や化学合成された医薬品が存在しない時代には、温泉による湯治は重要な治療法でした。

湯治場として知られている別府(大分県中部)では1931年に温泉治療学研究所(現九州大学病院別府病院)が設立され、温泉療法の研究が行われてきました。
他に湯治場として知られている温泉としては、草津温泉(群馬県北西部・草津町)や玉川温泉(秋田県北東部・仙北市)、三朝温泉(みささ、鳥取県中部・三朝町)などがあります。

日本の温泉と観光

雪深い銀山温泉の夕暮れ(山形県村山地方・尾花沢市)。明治時代以前の銀山温泉は湯治場として栄えていたが、1913年(大正2年)の洪水の後に現在のように銀山川を挟んで温泉旅館が立ち並ぶ温泉街として再建された。大正ロマン漂う光景は重要な観光資源であり、町並みを保存する条例が定められている。出典:Wikimedia Commons, ©さかおり, CC BY-SA 4.0, 2024/11/24閲覧

明治時代以降には、関所による移動制限の撤廃や交通手段の整備により、湯治よりも保養・観光目的で温泉地に訪れるようになりました。
この結果、有名な温泉の周りには温泉旅館やホテルが集まる温泉街が形成され、観光地として発展しました。
大都市近郊では都市と温泉街を結ぶ鉄道が整備され、戦後の昭和時代には団体旅行を受け入れる大型ホテルが並ぶ温泉街・歓楽街が形成されていきました。
首都圏では熱海温泉(あたみ、静岡県東部・熱海市)や石和温泉(いさわ、山梨県中央部・笛吹市)、鬼怒川温泉(きぬがわ、栃木県北西部・日光市)、関西圏では城崎温泉(きのさき、兵庫県北部・豊岡市)や雄琴温泉(おごと、滋賀県南東部・大津市)、中京圏では下呂温泉(げろ、岐阜県中部・下呂市)などがあります。

また、火山地形や温泉自体が景勝地として観光地化されることもあります。
カルデラ湖である洞爺湖(とうやこ、北海道胆振地方)や成層火山である富士山(静岡県東部・山梨県南東部)、別府温泉郷の地獄めぐり(大分県中部・別府市、温泉池を「地獄」と呼称)などが景勝地として観光地化されています。

血の池地獄(大分県中部・別府市)。血の池地獄は鮮やかな赤色(朱色)の温泉の自噴井である。地下の高温高圧下環境下で化学反応が進み生成した酸化鉄や酸化マグネシウムを多く含むため、池全体が朱色に染まっている。周辺の他の温泉池を周遊する観光コースは「別府地獄めぐり」と呼ばれ、別府温泉郷の定番観光コースとなっている。出典:Wikimedia Commons, ©663highland, CC BY 2.5, 2024/11/24閲覧

熱源としての温泉

別府温泉郷の鉄輪温泉(かんなわ)の地獄蒸し(大分県中部・別府市)。温泉の高温の水蒸気を利用した加熱調理設備を地獄釜といい、地獄釜で加熱調理した料理を地獄蒸しという。鉄輪温泉は湯治場としての歴史があり、長期滞在の湯治客が地獄釜を利用して自炊していた。出典:Wikimedia Commons, ©極地狐, CC BY-SA 2.0, 2024/11/24閲覧

温泉の利用方法は入浴だけに限りません。
温泉や地表から吹き出す水蒸気は熱源となるため、食材調理の熱源として活用されてきました(例:温泉卵)。
湯治場として発展した別府温泉郷の鉄輪温泉(かんなわ、大分県中部・別府市)では、高温の水蒸気を熱源とした地獄釜という加熱調理設備(キッチン)が使われてきました。
日本以外でも、火山が多いニュージーランドの先住民族マオリ族ハワイ島(米国ハワイ諸島)の先住民族が火山由来の高温の水蒸気や温泉を利用して調理する文化がありました。

湯の花

那須温泉郷・殺生石付近で生産された湯の花(栃木県北東部・那須町)。黄色い部分は硫黄である。湯の花(湯の華)は温泉に含まれる不溶成分が析出したものである。温泉水から湯の花を生産することで地球内部で高温の温泉水に溶け込んだ鉱物を地上で得ることができる。出典:Wikimedia Commons, ©ja:User:NEON / User:NEON_ja, CC BY-SA 3.0, 2024/11/24閲覧

湯の花(湯の華)とは、温泉に含まれる不溶成分が析出・沈殿したものです。
温泉のお湯の中には、地球内部の高温高圧下で溶け込んだ大量のミネラルが含まれていますが、地表へ噴出して温度・圧力が低下したり、大気中の酸素と触れて酸化反応を起こしたりして固体成分(湯の花)が析出します。
このため、湯の花を集めることで地球内部の鉱物資源を地上で手に入れることができます。

湯の花を集めて生産される代表的な鉱物資源がミョウバン(明礬)です。
ミョウバンは水の中に溶けている大きな分子を吸着して沈殿させる効果があるため、泥水の浄化や衣服の染色など様々な用途に利用されてきました。
ミョウバンは温度により溶解度が大きく変わる性質があるため、高温の温泉を冷ますことで大量のミョウバンが析出します。
このため、各地の温泉地では温泉水を冷まして析出した湯の花からミョウバンを生産してきました。
草津温泉(群馬県北西部・草津町)の観光名所である湯畑(ゆばたけ)は、高温の源泉を入浴できるように冷ますと同時に湯の花を析出させて回収する目的で作られたものです。

ミョウバン以外の鉱物が得られる例としては、オンネトー湯の滝(北海道十勝地方・足寄町)では自噴した温泉水に含まれるマンガン(二酸化マンガン(IV)、MnO2)が析出し、立山連峰の温泉池である新湯(しんゆ、富山県南東部)ではオパール(玉滴石)が析出します。

草津温泉の湯畑(ゆばたけ、群馬県北西部・草津町)。観光名所である湯畑は、高温の源泉を入浴できるように冷ますと同時に湯の花を析出させる目的で作らたものである。出典:Wikimedia Commons, ©くろふね, CC BY-SA 4.0, 2024/11/24閲覧

参考文献

地熱発電 ウィキペディア 2024/11/23閲覧
Gerald W. Huttrer "Geothermal Power Generation in the World 2015-2020 Update Report" Proc. WGC 2020+1
地熱発電とは?その仕組みからメリット・デメリットまで解説 エネルギー・金属鉱物資源機構 2024/11/23閲覧
鉄輪温泉 ウィキペディア 2024/11/23閲覧
鶴見岳(ツルミダケ)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典 2024/11/23閲覧
火山性温泉 別府温泉事典 別府温泉地球博物館 2024/11/23閲覧
I−2. 日本の温泉   地下水・温泉-温泉を知ろう 神奈川県温泉地学研究所 2024/11/23閲覧
温泉(オンセン)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/11/23閲覧
4:草津白根火山の地球化学 日本の活火山 地質調査総合センター 2024/11/23閲覧
非火山性温泉 別府温泉事典 別府温泉地球博物館 2024/11/24閲覧
茂野 博「プレートテクトニクスに基づく湯の峰・有馬温泉の生成環境のモデル化」地質ニュース 647 p25-38 (2008)
中村 久由 ほか「紀伊半島中南部地方の温泉群について」地質調査総合センター 2024/11/24閲覧
玉生 志郎「地下温度分布から見た高温地区を含む広域地域のタイプ分け-東北地方と中国・四国地方の例-」地質調査研究報告 59(1/2) (2008)
湯もみの歴史 草津温泉熱乃湯 草津温泉ポータルサイト 2024/11/24閲覧
第1章 湯治場としての温泉 第23回 本から広がる温泉の世界 本の万華鏡 国立国会図書館 2024/11/23閲覧
湯治場について 日本湯治協会 2024/11/25閲覧
沿革 九州大学病院別府病院 2024/11/25閲覧
九州大学病院別府病院 ウィキペディア 2024/11/25閲覧
温泉の歴史(近代)※明治時代~昭和初期 温泉名人 日本温泉協会 2024/11/24閲覧
銀山温泉 2024/11/24閲覧
銀山温泉 ウィキペディア 2024/11/24閲覧
別府地獄めぐり ウィキペディア 2024/11/24閲覧
血の池地獄 別府地獄めぐり公式サイト(別府地獄組合) 2024/11/24閲覧
温泉地熱料理 ウィキペディア 2024/11/24閲覧
地獄釜 ウィキペディア 2024/11/24閲覧
上野 禎一 ほか「湯の花の鉱物学的研究、その1」福岡教育大学紀要 57(3) p25-40 (2008)
湯の花(ユノハナ)とは? コトバンク 精選版 日本国語大辞典 2024/11/24閲覧
なぜ、泥水はミョウバンを加えて沈殿したのでしょうか 郡山ふれあい科学館スペースパーク 2024/11/24閲覧
オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地 文化遺産オンライン 2024/11/24閲覧
新湯の玉滴石産地 とやまの文化遺産 2024/11/24閲覧

-地形, 系統地理
-