複雑な要因が絡み合って生じる気候を理解するためには、気候が形作られる要因を分解して考える必要があります。
ここでは、ある土地の気候を決定する1つ1つの要因である気候因子について解説します。
ちなみに、気候をある側面から観測した指標である気候要素については、次のページで解説しています。
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参考気候と気候要素(気温・降水量など)
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目次
気候と気候因子

気候とは、それぞれの土地で長い年月にわたって現れる天気の総合的な状態のことです。
気象(きしょう)ががある瞬間の天気の状態(例:雨が降っている)を表すのに対し、気候はより長い期間の周期的な天気の状態(例:乾季と雨季がくりかえされる)を表します。
世界各地ではその土地の地理的環境に応じた気候が1年を通して周期的にくりかえされます。
地域ごとに気候が異なる原因は、気候を形作る要因(気候因子)の影響が地域ごとに異なるためです。
一例として、気候因子の1つである緯度に着目すると、東南アジアのような低緯度地域では年中気温が高く、日本のような中緯度地域では夏に暑く冬に寒くなります。
一方、気候という複雑な現象を部分的な要素(気温や降水量など)に分解し、気候のある側面を観測した指標を気候要素とよびます。
気候要素の例としては、気温、降水量、風などがあります。
気候因子は気候が作り出された要因(気候の原因)であるのに対し、気候要素はその土地の気候の構成要素(=気候そのものを部分的に表現したもの)であるという違いがあります。
このため、気候因子である緯度が高いと気候要素である気温が低くなるといった関係性になります。
以上のように、気候因子は気候を形作る要因であり、気温や降水量といった気候要素を決定する要因です。
気候因子から気候の形成要因を考える
気候は複数の要因が複雑に関係しあって形作られるため、ある土地の気候を理解するためには、気候の形成要因をいくつかの要因(気候因子)に分解して考える必要があります。
気候因子は、各地の気候の違いを形作る原因の1つ1つの要素であり、複数の気候因子が作用することでその土地の気候が形成されます。
たとえば、日本の本州は中緯度に位置するため温帯(C)ですが、大陸東岸に位置するという地理的要因により季節風(モンスーン)の影響を受ける温暖湿潤気候(Cfa)を呈します。
さらに、日本アルプスや富士山のような高山では、標高が高いため気温が低くなり、遮るものが無いため風が強くなります。
また、インド洋の島国であるマダガスカルでは、南半球の低緯度に位置するためベースとなる気候は熱帯(A)です。
東海岸の低地は南東貿易風の影響をうけて雨が多いため、熱帯雨林気候(Af)となります。
島の中央部は標高が高いため、高山気候(H)を呈し、ケッペンの気候区分では温帯(C)に分類されます。
一方、山脈の影響で年間通して貿易風の雨陰となる南西部は乾燥帯(B)に分類されます。
このように、気候因子という単位で気候の原因を考えることで、各地の気候の違いを理解しやすくなります。

気候のスケールと気候因子
気候をスケール(規模)という観点で考えると、同じ気候が見られる範囲にも違いがあります。
たとえば、温帯(C)という気候は規模が大きく、日本の大部分で共通してみられます。
一方、夏よりも冬に降水量が多い日本海側気候は、東北地方から中国地方にかけての日本海沿岸でしか見られません。
日本海側気候は、北西側で日本海に面していることと、南東側に山脈があるという地理的要因によって形成される気候です。
日本海側気候の地域の多くは同時に温帯でもありますが、気候帯(温帯)というスケールで考えた際には、日本海や山脈との位置関係にはほとんど意味がありません(太平洋側も同様に温帯です)。
温帯を形成する要因はもっとスケールが大きいものであり、日本列島が大陸東岸に位置することや中緯度地域であるというより広域的な要因で気候が決まります。
このように、気候はどのスケールで見るかによって気候を形作る要因(気候因子)は変わります。
気候を分析する際には、気候のスケールに応じた気候因子に着目する必要があります。
様々な気候因子
ここからは、日本列島や中国大陸といった広範な地域の気候を形作る気候因子について見ていきます。
気候因子には、緯度や標高(海抜高度)、海からの距離(隔海度)、海流や地形の影響、大気の循環(卓越風)などがあります。
これらの気候因子は、ある地域の気候を決定づける主要な要因です。
緯度

緯度はその土地の気温に大きな影響を与える重要な気候因子です。
赤道に近い低緯度地域ほど太陽光を正面から受けるため、地表に届く太陽光のエネルギーが大きくなります。
そのため、一般に赤道に近い低緯度地域ほど気温が高く、北極や南極に近い高緯度地域ほど気温が低くなります。
また、常に日射量が多い低緯度地域では気温の年較差が小さいのに対し、季節変動による日射量の変化が大きい高緯度地域ほど気温の年較差は大きくなります。
以上のように、緯度はその土地の気温を決定する重要な気候因子です。
標高(海抜高度)

標高(海抜高度)が高いほど気温は低くなります。
標高が高くなるにしたがって気温が低下する割合を気温逓減率(きおんていげんりつ、気温減率)といいます。地球上では標高が100 m上がると、気温はおよそ0.6℃低下します。
たとえば、標高1,000 mの地点は、標高0 mの海岸と比べ6℃程度気温が低くなります。
このため、低緯度に位置し、標高が低い麓では熱帯(A)や乾燥帯(B)となる場所でも、標高数千mの場所では温帯(C)や寒帯(E)の気候を呈します。
このように、標高が高いために麓とは異なる気候(高山気候(H))になります。
南米大陸中西部に位置するペルー(南緯0°~18°付近)では、国土の中央部をアンデス山脈が貫くため、標高に応じた様々な気候が見られます。
西端の海岸部の低地(コスタ)では、沖合を流れるペルー海流(フンボルト海流)の影響で、空気が冷やされて上昇気流が発生しません。
雨が降らないためこの地域には海岸砂漠(西岸砂漠)が広がり、気候区分としては砂漠気候(BW)です。
一方、ペルー東部は南米大陸東海岸まで続くアマゾンの低地であり、高温多雨の熱帯雨林気候(Af)です。
国土の中央部を南北にアンデス山脈が貫くため、ペルー中央部の標高が高い場所では高山気候を呈し、温帯や寒帯の気候が見られます。

隔海度

隔海度(かくかいど)とは、陸上のある地点が海洋から隔てられている度合いのことです。
海水よりも空気の方が比熱(物質の温度を1℃上げるのに必要なエネルギー)が小さいため、海から離れた内陸部では沿岸部よりも気温変化が大きくなります。
このため、内陸に位置する盆地では、沿岸部よりも気温の変化が大きくなりやすいです(日較差や年較差が大きい)。
さらに、海から数千km離れた大陸中央部では、水蒸気の供給源である海から離れているため降水量が少なく、乾燥した気候になりやすいです。
以上のように、大陸内陸部で見られる寒暖差が大きく乾燥した特徴をもつ気候を大陸性気候とよびます。
大陸性気候は中央アジアや中国西部で顕著であり、これらの地域では日較差(にちかくさ、一日の気温差)が大きく乾燥した気候になります。
一方、海に近い沿岸部や島では、比熱が大きい海水に囲まれているため、寒暖差が小さく雨が多い気候になりやすいです。
このように、沿岸部で見られる寒暖差が小さく湿潤な特徴をもつ気候を海洋性気候とよびます。
海洋性気候は、オセアニアの島国のように周囲を大洋に囲まれた離島で特に顕著に見られます。
海洋から大陸に向かって卓越風(一定期間同じ方向に吹く風)が吹く地域では、大陸内陸部まで海洋性気候が現れます。
偏西風の影響を受ける西ヨーロッパ~中央ヨーロッパや、季節風の影響を受けるインド東海岸や中国沿岸部などが該当します。
以上のように、隔海度の違いにより気温や降水量といった気候要素に大きな影響を与えます。
海流

海流も気候因子の1つであり、沿岸部の気候は沖合を流れる海流の影響を受けます。
海流には、その地域よりも南から流れてくるため温かい水を運んでくる暖流と、北から流れてくるため冷たい水を運んでくる寒流があります。
沿岸地域の気候では海流の影響を大きく受け、沖合に暖流が流れる地域は気温が高くなり、寒流が流れる地域は気温が低くなります。
高緯度に位置する西ヨーロッパが緯度の割に気温が高いのは、北大西洋を流れる暖流である北大西洋海流の影響です。
暖流によって温められた海上の空気は、南西から北東に向かって吹く偏西風によって西ヨーロッパに流れ込みます。
気温が高いほど空気中の飽和水蒸気量(空気が水を含むことができる最大量)が大きくなるため、雨が多い湿潤な気候になります。
このため、北大西洋海流(暖流)由来の暖かくて湿った空気が偏西風によって運ばれる西ヨーロッパでは、緯度の割に温暖湿潤な西岸海洋性気候(Cfb)になります。
一方、寒流が流れる地域は、沖合を流れる冷たい海水が地表の空気を冷やします。
上空よりも地表の気温が低くなるため、上昇気流が生じず雨が降りません。
このため、冷涼で乾燥した気候になり、水蒸気の供給源であるはずの大洋に近いにもかかわらず砂漠が広がります。
このような砂漠は沿岸に見られることから海岸砂漠とよばれ、大陸西岸に見られることから西岸砂漠ともよばれます。
西岸砂漠の例として、ペルー海流の影響をうけたアタカマ砂漠(チリ)やベンゲラ海流によるナミブ砂漠(ナミビア)があります。
このように、海流は沿岸部の気候に影響する気候因子です。
地形
地形も重要な気候因子です。
たとえば、卓越風を遮るような形で山脈が広がる場所では、風上側と風下側の気候に大きな影響を与えます。
海洋から陸地に向かって卓越風(一定期間同じ方向に吹く風)が吹く場所では、山脈を挟んで風上側と風下側が固定されます。
海から山脈に向かって湿度が高い空気が流れると、山の斜面を登る過程で気温が低下し、飽和水蒸気量(空気中に含める水分の量)が低下します。
このため、空気中に抱えきれなくなった水分が結露して雨雲を形成し、山脈の風上側で雨を降らせます(地形性降雨)。
山脈を越えた空気は、水分を失って乾燥しており、山脈の風下側では雨が少ない乾燥した気候になります。
偏西風のように年間通して同じ方向に風が吹く地域では、風上側と風下側の地域が年中固定されます。
たとえば、アンデス山脈の風上側にあるチリ南部が多雨であるのに対し、風下側に当たるアルゼンチン南部のパタゴニアは雨陰砂漠(あまかげさばく)が広がります。
大気の循環
大気の循環は風をつくりだす気候因子です。
地球の大気は自転などの影響で一定方向に循環しており、長期間にわたって一定方向に吹く風を卓越風とよびます。
卓越風の例として、偏西風や貿易風があります。
陸地において、海洋側から卓越風が吹く場合は雨が多い湿潤な気候となるのに対し、大陸の内陸側から卓越風が吹く場合は雨が少ない乾燥した気候になります。
このように、大気の循環も降水量(という気候要素)に影響がある気候因子です。
参考文献
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地理用語研究会編「地理用語集」山川出版社(2024)
North Atlantic Current, Wikipedia 2025/11/19閲覧
帝国書院編集部「新詳地理資料 COMPLETE 2023」帝国書院(2023)
