ここでは、人間が食用として栽培する果物について紹介します。
果物はそのまま食べるだけではなく、酒(ワインなど)の原料としても利用されています。
このページでは、果物の中でも柑橘類(かんきつるい)、ブドウ、リンゴ、バナナ、パイナップル、イチジクについて紹介します。
果物とは
植物の中には、自分の種子を遠くへ散布するために種子の外側を皮で覆った構造(果実)を作り出すものがあります。
果実は植物本体から切り離され、動物に食べてもらいます。
種子は動物の体内でも消化されず、動物の移動先で排泄物として放出されてその場所で発芽・成長します。
果実のうち人間が食べるものを果物といいます。
果物は水菓子ともよばれ、水分や糖、ビタミンを多く含む甘い食べ物です。
そのまま調理せずに食べられますが、保存できるように乾燥させてドライフルーツにしたり砂糖を加えてジャムに加工することもあります。
果物の中にはブドウのように酵素を多く含むものがあり、つぶして放置するだけで発酵して酒になります(果実酒)。
果物を得るために栽培する作物を果樹作物といいます。
「樹」の字が使われるのは、果物の多くは樹木に実が成ったものだからです(例外は多年草のバナナやパイナップル)。
そのため、果物の多くは樹木を育てる樹木作物です。
樹木作物は苗木を植えてから収穫するまでに最低でも数年単位で時間が必要です。
一年で収穫できる穀物や野菜類とは対象的です。
果樹作物の多くは樹木であるため、根が腐らないように水はけのよい場所を好みます。
そのため、甲府盆地(山梨県)は扇状地でブドウやモモが栽培され、愛媛県では日当たりのよい斜面を段々畑にしてミカンなどの柑橘類を栽培されています。
参考
果物と野菜の違い
果物:多年草や樹木(同じ個体から複数年に渡って収穫)、そのまま食べる
野菜:一年草(毎年種をまき、その年のうちに収穫)、食べるためには調理する必要
果物と野菜の違いは分野によって違います。
園芸学の分野では、果物(果樹)と野菜の違いは、植物が生育する年数です。
果物の多くは、同じ個体が何年も生育する多年生植物です。
たとえば、ミカンやブドウは樹木作物であり、苗木を植えてから収穫できるようになるまで何年もかかります。
一方、キャベツやカボチャなど多くの野菜は、種子が発芽してから1年以内に開花・結実して枯れる一年生植物(一年草)です。
一方、青果市場や栄養学の分野では、一部の野菜・果物の分類が変わります。
多年草の中にも一年草の野菜と同じように調理して食べられているものがあります(例:アスパラガス)。
このような作物は、多年草であっても利用実態に合わせて野菜とされています。
逆に一年草であってもメロンやスイカのようにそのまま食べることができる甘い作物は果物に分類されます(園芸学の分野では野菜に分類)。
以上のように、単に「一年草」か「多年草または樹木」かの分類方法では利用実態に合わない場合もあり、分野によっては違う分け方をする作物もあります。
様々な果物
果物は水分や糖、ビタミンを多く含む甘い食べ物です。
多くの果物が樹木作物であり、その土地の気候に応じて様々な果物が栽培されます。
以下では、果物の中でも柑橘類、ブドウ、リンゴ、イチジク、バナナ、パイナップルについて順に取り上げます。
柑橘類
柑橘類(かんきつるい)はミカン科ミカン亜科ミカン連の植物の総称で、オレンジやレモンなどの酸味が強い果物が多いです。
ビタミンCやクエン酸が豊富で食べると甘酸っぱいため、生食やジュース用として利用されています。
温暖で日当たりと水はけのよい場所を好むため、熱帯から亜熱帯(熱帯隣接地域)で広く栽培されています。
以下の記事では、柑橘類の中でもオレンジ、ミカン、レモン、グレープフルーツについて解説しています。
参考柑橘類(オレンジ・ミカン・レモン・グレープフルーツ)
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ブドウ
ブドウは温帯で広く栽培されている果樹作物です。
そのままでも食べられますが、世界的には発酵させてワインとして消費される方が多いです。
乾燥させて保存性の高いレーズン(干しぶどう)に加工することもあります。
平均気温10~20℃が栽培に適しており、主要な産地は北半球では北緯30-50°、南半球では南緯20-40°に位置しています。
高温乾燥に適応した品種もあるので、地中海性気候(Cs)のスペインやイタリア、アメリカ合衆国西部・カリフォルニア州でも広く栽培されています。
生産量上位は、中国、イタリア、米国、フランス、スペインです。
温帯に位置し人口が多い中国に加え、地中海性気候(Cs)の国が並びます。
日本では、甲府盆地(山梨)や長野盆地(長野)が主要な産地です。
なお、栽培できる作物が少ない地中海性気候の地域にとってブドウは重要な作物ですが、ブドウはその他の温帯地域でも栽培できることに注意して下さい。
たとえば、ブドウの有名な産地であるシャンパーニュ地方(フランス北東部)は西岸海洋性気候(Cfb)であり、日本で生産量が多い山梨や長野は温暖湿潤気候(Cfa)です。
ブドウは他の果樹同様、日当たりと水はけのよい場所を好みます。
そのため、パリ盆地東部(シャンパーニュ地方など)ではケスタ地形の急斜面を利用して栽培され、甲府盆地(山梨)では扇状地の斜面中腹(扇央)を利用して栽培されています。
リンゴ
リンゴは西アジア原産の果樹作物で、亜寒帯(冷帯)や温帯で栽培されています。
日本では95%が生食ですが、フランスでは60%、アメリカ合衆国では40%が加工用に使われます。
加工用としては、ジュースや果実酒(リンゴ酒)、ジャム、菓子(アップルパイなど)などに使われます。
リンゴの栽培は冷涼で降水量が少ない気候が適しており、年平均気温7~12℃、年降水量600mm程度が最適です。
生産量は中国が世界全体の約半数を占め、次いで米国、トルコ、ポーランドが続きます(2017年)。
米国では、北西部のワシントン州や北東部のニューヨーク州のように寒冷な高緯度地域で栽培されます。
日本では青森県西部の津軽平野が一大産地となっており、青森県だけで日本全体の生産量の60%を占めます。
その他の産地も長野、岩手、山形などの冷涼な地域が多いです。
バナナ
バナナは東南アジア原産の作物で、熱帯や亜熱帯で栽培される作物です。
成長すると高さ2-10mにも達しますが、バショウ科の多年草なので樹木作物ではありません。
生食用と料理用の用途があり、用途ごとに栽培種が異なります。
生食用にはキャベンディッシュという品種が栽培され、他の果物同様に食されます。
生産量自体は人口が多い中国やインドが多いですが、いずれも国内消費用が中心です。
輸出用としては、フィリピンや中南米諸国(ブラジル、エクアドルなど)につくられた大規模プランテーションで生産・輸出されています。
これらのプランテーションは20世紀にドール社 (Dole) やユナイテッド・フルーツ社(現チキータ・ブランド)などの米国巨大企業によって建設されました。
中米の小国には他にめぼしい産業が無いためプランテーションを運営する巨大企業の存在感は大きく、政治にも大きな影響を与えました。
そのため、プランテーションを運営する米国巨大企業の影響下にある国はバナナ共和国とよばれています。
一方、料理用品種のプランテン(クッキングバナナ)は生食用と比較してかたく糖分が少ないのが特徴です。
主食用として利用され、小規模農家による自給的農業による栽培が中心です。
中米やアフリカの熱帯で栽培され、生産量上位はウガンダなどのアフリカ諸国です。
パイナップル
パイナップルは南米原産の作物で、熱帯で広く栽培されています。
多年草なので樹木作物ではありません。
用途としては、生食やジュース用、ジャム用として利用されます。
缶詰が普及した19世紀末頃から盛んに栽培され、シロップ漬けにして缶詰に加工されるようになりました。
生産量上位はコスタリカ、フィリピン、ブラジル、タイなどの熱帯の国々です(2017年)。
プランテーションで栽培される作物のひとつであり、20世紀前半のハワイでは日本人移民により栽培が広がりました。
日本でも温暖な沖縄で栽培されます(7,000t程度)が、日本に流通しているものの大半はフィリピンなどからの輸入品です。
イチジク
イチジクは西アジア原産の果樹作物です。
生食されたりドライフルーツ(乾燥イチジク)やジャムに加工されます。
温暖で比較的乾燥した地域で栽培され、地中海性気候(Cs)の地中海沿岸やカリフォルニア州(アメリカ合衆国西部)で盛んに栽培されています。
生産量上位はトルコ、エジプト、モロッコ、アルジェリア、イランです。
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参考文献
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メロンは野菜?果物?その定義や分類について知ろう! イオン北海道 2023/4/19閲覧
野菜類の区分はどのようになっているのか教えてください。 農林水産省 2023/4/19閲覧
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バナナ(ばなな)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/4/23閲覧
輸入されたばかりのバナナは緑色だと聞きましたが、なぜ黄色いバナナを輸入しないのですか。また、植物検疫で害虫が見つかった場合に行われる消毒はどのようなものですか。 農林水産省 2023/4/23閲覧
バナナ共和国 ウィキペディア 2023/4/24閲覧
プランテン ウィキペディア 2023/4/23閲覧
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パイナップル(ぱいなっぷる)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/4/23閲覧
令和2年産パインアップルの収穫面積、収穫量及び出荷量(沖縄県) 農林水産省 2023/4/23閲覧
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イチジク(いちじく)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/4/24閲覧
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