火山は災害の原因になりますが、一方で人間に恩恵をもたらします。
火山は地球内部の熱エネルギーを地表にもたらすため、地下水が温められて高温の水蒸気や温泉水が得られます。
このため、高温の水蒸気や温泉水を熱源として地熱発電が行われています。
また、マグマの熱で温められた温泉水は地下深くでミネラルなどを溶かし込んでいるため、温泉自体が観光資源となる上に、温泉水からミョウバンなどの鉱物資源を採取することもできます。
このページでは、、火山活動が人間にもたらす恩恵として、地熱発電と温泉について解説します。
地熱発電
火山の近くでは地中が高温になるため、地熱を利用して発電を行うことができます(地熱発電)。
火山を熱源として地下水が温められ、高温になった温水(温泉)や水蒸気を使ってタービンを回すことで熱エネルギーを電気エネルギーに変換します。
高温の温泉を冷ます過程で、余剰な熱を使って発電することもあります(温泉発電)。
地熱発電が盛んな国は火山が多い国です。
環太平洋造山帯に位置するアメリカ合衆国、インドネシア、フィリピン、ニュージーランドやアフリカ大地溝帯に位置するケニアや大西洋中央海嶺上に位置するアイスランドで地熱発電が盛んです。
日本では火山が多い九州地方(大分、鹿児島など)を中心に地熱発電所が設置されています。
日本も環太平洋造山帯に位置していますが、地熱発電に適した場所は国立公園や温泉地が多いため、環境への影響に配慮するために開発があまり進んでいません。
温泉
火山の地下には、地球内部から上がってきた高温のマグマがたまっています(マグマ溜り)。
このため、火山周辺では地下水がマグマによって温められ、一部が熱水や水蒸気として地表に噴出します(火山性温泉)。
元々地表に噴出している場合(自噴井)もあれば、人為的に掘削することもあります(深井戸)。
火山性温泉には地中のミネラルだけではなく火山ガスなども溶けこんでおり、場所によって泉質が変わり、様々な効能があります。
温泉は、環太平洋造山帯(日本や米国西部、ニュージーランドなど)や広がる境界(アイスランドなど)など火山が多い場所に多く分布しています。
日本では、草津白根山(2,160m)の火山活動に起因する草津温泉(群馬県北西部・草津町)、鶴見岳・伽藍岳の火山活動に起因する別府温泉郷(大分県中部・別府市)などが代表的です。
日本以外では、ホットスポットであるイエローストーン国立公園(米国北西部・ワイオミング州など)で火山活動由来の温泉水を吹き出す自噴井が多数見られます。
参考
非火山性温泉
火山が無い場所であっても地熱で地下水が温められて温泉が出る場所もあります。
たとえば、現在は火山が見られないバーデン=バーデン(ドイツ南西部)やカルルスバード(カルロヴィ・ヴァリ、チェコ西部)などヨーロッパ中央部にも温泉は存在します。
日本でも活火山が存在しない近畿地方や四国地方にも温泉が存在します。
このような火山活動と無関係な温泉を非火山性温泉といいます。
非火山性温泉の例としては、有馬温泉(ありま、兵庫県神戸市)、南紀白浜温泉(和歌山県南西部・白浜町)、道後温泉(どうご、愛媛県松山市)などがあります。
参考
草津温泉の湯もみ
火山性温泉である草津温泉の源泉は比較的高温(50℃以上)であるため、そのままでは入浴できません。
とはいえ、水を足してしまうと温泉の成分が薄まってしまい、温泉の効能が低下してしまいます。
そこで、180cmの細長い板を湯に入れてかき混ぜ、入浴できる温度まで下げる「湯もみ」が行われるようになりました。
湯もみは現在でも草津温泉の文化として残っており、地元の民謡などの「湯もみ唄」を唄いながら湯もみを行う実演が観光名物となっています。
湯治
火山性・非火山性に関わらず、日本では古くから温泉が利用されてきました。
温泉には様々な成分が含まれるため、長期間滞在して湯治(とうじ、温泉療法)を行い病気やケガの治療のために利用されてきました。
湯治では現代の温泉旅行とは異なり最低でも1週間以上の長期滞在が前提であり、湯治場となった温泉では湯治客向けの自炊設備なども完備していました。
現代では病気・ケガは病院や医薬品で治すのが当たり前ですが、近代的な医学知識や化学合成された医薬品が存在しない時代には、温泉による湯治は重要な治療法でした。
湯治場として知られている別府(大分県中部)では1931年に温泉治療学研究所(現九州大学病院別府病院)が設立され、温泉療法の研究が行われてきました。
他に湯治場として知られている温泉としては、草津温泉(群馬県北西部・草津町)や玉川温泉(秋田県北東部・仙北市)、三朝温泉(みささ、鳥取県中部・三朝町)などがあります。
日本の温泉と観光
明治時代以降には、関所による移動制限の撤廃や交通手段の整備により、湯治よりも保養・観光目的で温泉地に訪れるようになりました。
この結果、有名な温泉の周りには温泉旅館やホテルが集まる温泉街が形成され、観光地として発展しました。
大都市近郊では都市と温泉街を結ぶ鉄道が整備され、戦後の昭和時代には団体旅行を受け入れる大型ホテルが並ぶ温泉街・歓楽街が形成されていきました。
首都圏では熱海温泉(あたみ、静岡県東部・熱海市)や石和温泉(いさわ、山梨県中央部・笛吹市)、鬼怒川温泉(きぬがわ、栃木県北西部・日光市)、関西圏では城崎温泉(きのさき、兵庫県北部・豊岡市)や雄琴温泉(おごと、滋賀県南東部・大津市)、中京圏では下呂温泉(げろ、岐阜県中部・下呂市)などがあります。
また、火山地形や温泉自体が景勝地として観光地化されることもあります。
カルデラ湖である洞爺湖(とうやこ、北海道胆振地方)や成層火山である富士山(静岡県東部・山梨県南東部)、別府温泉郷の地獄めぐり(大分県中部・別府市、温泉池を「地獄」と呼称)などが景勝地として観光地化されています。
熱源としての温泉
温泉の利用方法は入浴だけに限りません。
温泉や地表から吹き出す水蒸気は熱源となるため、食材調理の熱源として活用されてきました(例:温泉卵)。
湯治場として発展した別府温泉郷の鉄輪温泉(かんなわ、大分県中部・別府市)では、高温の水蒸気を熱源とした地獄釜という加熱調理設備(キッチン)が使われてきました。
日本以外でも、火山が多いニュージーランドの先住民族マオリ族やハワイ島(米国ハワイ諸島)の先住民族が火山由来の高温の水蒸気や温泉を利用して調理する文化がありました。
湯の花
湯の花(湯の華)とは、温泉に含まれる不溶成分が析出・沈殿したものです。
温泉のお湯の中には、地球内部の高温高圧下で溶け込んだ大量のミネラルが含まれていますが、地表へ噴出して温度・圧力が低下したり、大気中の酸素と触れて酸化反応を起こしたりして固体成分(湯の花)が析出します。
このため、湯の花を集めることで地球内部の鉱物資源を地上で手に入れることができます。
湯の花を集めて生産される代表的な鉱物資源がミョウバン(明礬)です。
ミョウバンは水の中に溶けている大きな分子を吸着して沈殿させる効果があるため、泥水の浄化や衣服の染色など様々な用途に利用されてきました。
ミョウバンは温度により溶解度が大きく変わる性質があるため、高温の温泉を冷ますことで大量のミョウバンが析出します。
このため、各地の温泉地では温泉水を冷まして析出した湯の花からミョウバンを生産してきました。
草津温泉(群馬県北西部・草津町)の観光名所である湯畑(ゆばたけ)は、高温の源泉を入浴できるように冷ますと同時に湯の花を析出させて回収する目的で作られたものです。
ミョウバン以外の鉱物が得られる例としては、オンネトー湯の滝(北海道十勝地方・足寄町)では自噴した温泉水に含まれるマンガン(二酸化マンガン(IV)、MnO2)が析出し、立山連峰の温泉池である新湯(しんゆ、富山県南東部)ではオパール(玉滴石)が析出します。
参考文献
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沿革 九州大学病院別府病院 2024/11/25閲覧
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なぜ、泥水はミョウバンを加えて沈殿したのでしょうか 郡山ふれあい科学館スペースパーク 2024/11/24閲覧
オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地 文化遺産オンライン 2024/11/24閲覧
新湯の玉滴石産地 とやまの文化遺産 2024/11/24閲覧