水の確保が難しい砂漠の中で例外的に安定した水源がある場所をオアシスとよびます。
このページでは乾燥帯のオアシスについて、水源を元に分類して解説します。
オアシスと水源による分類
降水量が少ない乾燥帯で例外的に安定した水源が得られる場所をオアシスといいます。
乾燥帯では飲み水や農業用水として使える水の確保が重要であり、オアシスを起点として集落が形成された歴史があります。
オアシスの集落では砂漠の中で例外的に農業が営まれ、小麦などの穀物やナツメヤシ、ブドウなどの乾燥に強い果樹が栽培されてきました(オアシス農業)。
オアシスは水源の違いなどによっていくつかの種類に分類されます。
ポイント
オアシスの種類と水源
泉性オアシス:地表や地下水を水源
山麓オアシス:近隣の高山から流れ出た伏流水を水源(谷口の扇状地から地下水路により導水)
外来河川オアシス:域外から流入する河川を水源
人工オアシス:近代以降の科学技術の発展により利用可能になった水源(ダム、深井戸など)
泉性オアシス
泉性(せんせい)オアシスとは、地表や地下の浅い所に存在する水を水源とするオアシスです。
井戸を掘って砂漠の地下にたまった地下水(自由地下水や被圧地下水)の帯水層の水を利用します。
自由地下水は自噴して地表に出てくることはありませんが、塩分濃度が低いので井戸を掘れば真水として利用できます。
被圧地下水は圧力がかかっているので崖などで上に乗っかっている不透水層に隙間があるとそこから自噴して地表に出てきます。
しかし、被圧地下水は地下で砂岩の隙間を移動する過程で塩類を溶かしこむため塩分濃度が高く、そのまま飲み水や農業用水として利用するのは難しい場合が多いです。
山麓オアシス
山麓オアシスとは、砂漠の周辺の高山の降水を利用したオアシスです。
砂漠の外縁部に標高が高い山脈が存在する場合、高山では地形性降雨による降水があります。
高山で降った水が麓の砂漠に流れていくと、谷口の扇状地で地下にもぐって伏流水となり、そのまま砂漠の地下に地下水として貯まります。
砂漠の外縁部(=山脈の麓)ではこのような地下水を利用したオアシスが発達しました。
タクラマカン砂漠が広がるタリム盆地(中国西部)は周囲を山脈に囲まれています(北:天山(テンシャン)山脈、南:崑崙(クンルン)山脈、南西:カラコルム山脈)。
そのため、タリム盆地の外縁部は山脈の麓を線で結んだようにオアシス都市が分布しています。
東西の交易路であるシルクロードを移動する商人のキャラバン(隊商)は、補給拠点であるこれらのオアシス都市を結ぶように東西を移動しました。
このようなタクラマカン砂漠外縁部を通って東西を結ぶ隊商路をオアシスの道とよびます。
山麓オアシスの例としては、タクラマカン砂漠西端部のカシュガルや東端部の敦煌(とんこう)、天山(テンシャン)山脈の山麓に位置するタラズ(カザフスタン南部)などがあります。
地下水路
山麓オアシスでは高山の降水を水資源として利用できますが、直接水が手に入るのは谷口の扇状地周辺に限られます。
乾燥した地域では地上に用水路を作って水を流してもすぐに蒸発してしまうため、水源から地下水路を掘って水を手に入れます。
このような地下水路の長さは数kmからものによっては数十kmにもおよびます。
地下水路には各地で固有の名前がつけられ、イランではカナート、アフガニスタンではカレーズ、北アフリカではフォガラ、中国ではカンアルチン(坎児井)とよばれています。
地下水路についてはこちらで詳しく解説しています。
外来河川オアシス
砂漠の外側から砂漠に流入する外来河川を水源としたオアシスを外来河川オアシスといいます。
外来河川の水は川の上流地域での降水や雪解け水に由来しています。
砂漠気候(BW)のエジプトではナイル川の水を利用したオアシス農業が盛んであり、衛星画像を見るとナイル川に沿うように緑色の農地が広がっています。
ナイル川は赤道直下のヴィクトリア湖(ビクトリア湖、タンザニア・ウガンダ・ケニア)を水源とする河川であり、熱帯のサバナ気候(As)の地域の降水がエジプトまで流れています。
乾燥帯が広がる中央アジアでは、東側に位置する大山脈を源流とした川が流れており、それらの河川の水を利用したオアシスが立地しています。
外来河川を利用したオアシス都市としては、ウズベキスタン東部のサマルカンドやタシケント、ブハラなどがあります。
ソ連時代(20世紀後半)には中央アジアのアムダリア川とシルダリヤ川周辺で大規模な開発が行われ、両河川の水を利用した灌漑農業による綿花栽培が行われています。
アムダリア川はアフガニスタン東部の山岳地帯に位置するヒンドゥークシ山脈(パミール高原西部)を源流とし、トルクメニスタンやウズベキスタンを流れてアラル海に流入しています。
シルダリヤ川はキルギス東部の天山(テンシャン)山脈を源流とし、カザフスタンを通ってアラル海に流れています。
アムダリヤ川やシルダリア川の下流域は乾燥帯ですが、上流のパミール高原や天山山脈周辺の豊富な積雪に支えられています。
人工オアシス
近代以降の科学技術の発展に伴い、従来水を得ることが難しかった場所でも水を安定的に利用できるようになりました。
このような場所を人工オアシスといいます。
人工オアシスでは、電力やポンプを利用して地下水を大量にくみ上げたり大規模なダムを建設して水を確保します。
地下水を利用した例としては、アメリカ合衆国中西部のグレートプレーンズ(ステップ気候)での灌漑農業があります。
グレートプレーンズの地下には大規模な化石水であるオガララ帯水層が広がっています。
そこで、電力やポンプを利用してオガララ帯水層から水を大量にくみ上げて企業的農業が行われています。
大規模なダムの建設により大都市へ発展した例としては、ラスベガス(米国西部ネバダ州南部)があります。
ラスベガスは西側のシエラネヴァダ山脈(カリフォルニア州)の影響で雨陰砂漠が広がっており(モハーヴェ砂漠)、水が確保が難しい地域でした。
1936年にラスベガスの東側の渓谷を流れるコロラド川で大規模なダムであるフーバーダムが建設されました。
このフーバーダムの水と水力発電による電力を利用してラスベガスはカジノを観光の目玉とした保養都市(リゾート都市)として発展しました。
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参考乾燥帯の気候(砂漠気候とステップ気候)
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参考文献
オアシスとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2024/2/7閲覧
相馬 秀廣「衛星画像・衛星写真からみた中央アジアのシルクロード」奈良女子大学学術情報リポジトリ 奈良女子大学 (2007)
地理用語研究会編 「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
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Mojave Desert, Wikipedia 2024/2/9閲覧