ジャガイモはイモ類の中でも特に広く栽培・食用されている作物です。
南米アンデス山脈原産のジャガイモは大航海時代にヨーロッパへ渡り、アイルランドをはじめヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。
ここでは、ジャガイモの作物としての特徴に加えて歴史的な影響についてもふれていきます。
イモ類全体や他のイモ類については次のページでまとめています。
【イモ類:ジャガイモ・キャッサバ/タロイモ/ヤムイモ】
目次
ジャガイモとは
ジャガイモはイモ類の中でも世界で最も多く栽培され、食べられている作物です。
別名を馬鈴薯(ばれいしょ)といいます。
ジャガイモの可食部は地面に伸びた茎である地下茎(ちかけい)の先端がふくらんだ部分(塊茎、かいけい)です。
デンプンを多く含むため主食として食べられてきた歴史があります。
米などの穀物と比較すると貯蔵できる期間が短いですが(穀物よりも水分が多いため)、野菜の中では長く保存できます(根菜のため他の野菜よりは水分が少ない)。
ジャガイモの起源と普及
ジャガイモは南米アンデス山脈原産の作物ですが大航海時代の16世紀にヨーロッパに渡り、世界中に広まりました。
この項目ではジャガイモの起源とジャガイモがヨーロッパ(特にアイルランド)の歴史に与えた影響について見ていきます。
ジャガイモの起源
ジャガイモは南米アンデス山脈のチチカカ湖周辺(ボリビア・ペルー)が原産の作物です。
チチカカ湖周辺は南緯15度に位置しますが標高が高いため、赤道から近いにも関わらず寒冷な高山気候です。
たとえば、チチカカ湖の湖岸に位置する標高3,850mのプーノ(ペルー南東部)では年間通して最高気温20度前後、最低気温は0度前後です。
ジャガイモはこのように標高3000m以上の涼しい地域で栽培され、15-16世紀にペルーで栄えたインカ帝国でも主食でした。
そして、大航海時代の1570年にヨーロッパに渡り、寒冷でやせた土地でも栽培できることから世界中に広まりました。
ジャガイモの原産地と各地への伝播の地図と詳細説明については以下のリンク先をご覧ください。
「ジャガイモの起源地と伝播経路」©Shogakukan
出典:ジャガイモ(じゃがいも)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/3/25閲覧
ヨーロッパでのジャガイモの普及
ジャガイモはヨーロッパの人々にとっても非常に重要な作物になりました。
原産地の標高が高く寒冷であるため暑さに弱く、栽培条件としては15~20℃程度となりヨーロッパでの栽培に適しています。
さらに、戦争で畑が踏み荒らされると収穫量が落ちてしまう小麦などと比べて地中に埋まっているジャガイモは戦争での踏み荒らしの影響を受けづらいという特徴があります。
ジャガイモは炭水化物が豊富で食べると腹がふくれるほか、他の食べ物よりも腐敗しづらく長持ちするというメリットもあります。
このような特徴からヨーロッパ各地の国王・領主が飢饉対策として栽培を奨励して主要な作物として定着していきました。
参考
ジャガイモの普及
ジャガイモはヨーロッパの人々にとって重要な食料源になりましたが、最初から受け入れられたわけではありません。
人々は見たことがないゴツゴツした見た目の作物を気味悪がり、迷信が生まれました。
当時は品種改良が進んでおらず、苦味があり現在のジャガイモほど味が良くないという問題もありました。
調理法の無理解からジャガイモの芽を除去せずに料理してしまい、ソラニン中毒を起こしたこともあります。
そのため最初は家畜のエサとして使われ、その後各地の領主が栽培と食用を奨励した結果、「貧者のパン」とよばれ、貧しい人々の食料として定着しました。
ジャガイモに関してフランスの逸話を紹介します。
フランスでは1773年にパルマンティエ(Antoine-Augustin Parmentier, 1737-1813)がエッセイコンテストでジャガイモの栽培を提案して採用され、国王ルイ16世(Louis XVI, 1754-1793)の元でジャガイモの普及が推し進められました。
パルマンティエは国王のジャガイモ畑を昼間だけ衛兵に厳重に警備させ、夜はわざと見張りをつけませんでした。
民衆は王が厳重に警備させるからにはジャガイモはさぞおいしいのだろうと考え、夜に盗みに入るものが表れ、パルマンティエの目論見通りジャガイモが広まっていきました。
また、ルイ16世は宮廷でジャガイモを宣伝し、王妃マリー・アントワネット(Marie Antoinette, 1755-1793)はジャガイモの花で帽子を飾り、上流階級にジャガイモの花を流行させるなどしてジャガイモの悪いイメージの改善しようとしました。
ルイ16世とマリー・アントワネットはフランス革命(1789-1795)で処刑されましたが、その後もジャガイモの普及は進み、広く栽培されるようになりました。
このようにジャガイモは当初民衆が嫌がる中で国王が積極的に普及させた結果、食料としてを食べられるようになりました。
アイルランドのジャガイモ飢饉
ヨーロッパで広く普及したジャガイモですが、特にアイルランドでは貧しい人々の重要な食料源となりました。
アイルランドでは16世紀にジャガイモが持ち込まれて以来、19世紀前半にかけてジャガイモ栽培の普及によって人口が爆発的に増加しました。
しかし、1845年から1849年の4年間にわたってヨーロッパでジャガイモ疫病という病気が大流行しました。
ジャガイモは種芋を使って単為生殖(一個体単独で子を作る)で増えるため子は親と全く同じ遺伝子になります。
当時アイルランドではジャガイモは一種類の品種が栽培され、遺伝子の多様性が乏しい(=どのジャガイモも同じ遺伝子をもつ)ためどの個体も弱い病気が同じです。
そのため、ひとたび病気が流行ると壊滅的な被害が発生してしまいました。
当時アイルランドはイギリスの一部でしたが、イギリス人地主はアイルランドで餓死者が発生しているにも関わらず、アイルランドから農産物を輸出し続けました(飢餓輸出)。
イギリス政府は救済措置を講じましたが、予算の都合から対象を土地をもたない人に限定しました。
そのため、支援をうけるために農地と家を二束三文で売り払う人が続出して食料生産が難しくなり、飢餓を長引かせてしまいました。
そのためアイルランドでは800万人の人口に対して100万人が餓死・病死し、200万人が北米などへ移住したと言われています(1911年には410万人まで減少)。
このできごとをジャガイモ飢饉(ききん)といいます。
現在でもアイルランド島はジャガイモ飢饉以前の人口を回復できていません。
ジャガイモの栽培と利用
ここからはジャガイモの栽培と利用方法について紹介します。
ジャガイモは涼しい気候で栽培され、今日では食用や食品加工用として世界中で広く利用されています。
ジャガイモの栽培(栽培条件と栽培時期)
ジャガイモは原産地の南米・アンデス山脈のように冷涼な気候を好みます。
適温は気温15~20℃であり、水はけの良い土地が栽培に適しています。
日本での栽培には春作と秋作があります。
春作では種芋を春に植えて夏から秋にかけて収穫します。
暖かい地域ほど植えつけが早く、早い地域では2月上旬に植えて6月下旬~7月上旬には収穫してしまいます。
暖かい地域では秋作も行われ、猛暑のピークを超えた8月下旬から9月上旬にかけて種芋を植えて11~12月に収穫します。
寒さに強くやせた土地でも栽培できる一方で病害虫に弱く、連作障害にも弱いです。
連作障害はジャガイモだけではなく必要な栄養素が似通った同じナス科の作物(ナス、トマト)でも発生します。
そこで、同じ畑でジャガイモや小麦など異なる作物を順番に栽培していく輪作が行われています。
ジャガイモの用途
ジャガイモの用途としては日本では野菜として食べるための食用とデンプン採取用の二つがあります。
日本ではジャガイモの秋作の大部分と春作の約20%が野菜として消費されています。
デンプン採取用の品種は野菜用よりもデンプン含有量が多く、かまぼこなどの水産練り製品(練り物)に利用されています。
他には製紙用の糊(のり)や片栗粉、菓子用の原料、酒(焼酎、蒸留酒)の原料としても使われています。
生産量と輸出入量
ジャガイモは米や小麦などの穀物と比べると貯蔵できる期間が短いため、消費地である人口密集地(西ヨーロッパや中国・インド)で栽培される傾向にあります。
ジャガイモ自体が涼しい地域の作物であるためヨーロッパではオランダやドイツ北部などで栽培され、低緯度に位置するインドではヒマラヤ山脈周辺で栽培されています。
国別の生産量を見ると、人口が多い国(中国、インド)や肥沃な黒土地帯が広がる国(ロシア、ウクライナ、アメリカ)が上位に来ています。
ジャガイモは消費地に近い場所で生産されるため、人口が多く寒冷な気候の西ヨーロッパで生産量が多いという傾向が見られます。
輸出入量については欧州各国(特に西ヨーロッパ)間の輸出入量が多くなります。
寒冷でジャガイモの栽培に適した西ヨーロッパから温暖なスペインなどへの輸出が行われるほか、隣国間(フランスーベルギー間、ベルギーーオランダ間など)の貿易量が多くなります。
穀物よりも貯蔵できる期間が短いため、栽培地の近隣国との取引の割合が高くなります。
そのため、国際貿易の統計にはジャガイモの栽培が盛んで多数の国が存在する欧州各国が輸出入量の上位に来ます。
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参考文献
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ジャガイモ(じゃがいも)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/3/25閲覧
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Global Potato Exports – World’s Top Export Countries of Potato, Export Genius 2023/3/25閲覧
独立行政法人農畜産業振興機構 調査情報部「ベルギーのばれいしょの生産および輸出動向」 野菜情報 2019年2月 70-87