農業を行うにあたって畑の面積を変えることは難しいため、同じ面積の畑からできるだけ多くの作物を継続的に収穫できることが理想です。
このページでは、作物の収穫量を増やすための耕作法の工夫について紹介します。
表 栽培作物の種類と時間的工夫の例
同じ場所に連続して栽培する作物の種類 | |||
同一(連作) | 複数をローテーション(輪作) | ||
同時に栽培する作物の種類 | 単一(単作) | 単作、二期作 | 二毛作、二圃式農業、三圃式農業 |
複数(混作) | 自給的農業 | --- |
耕作方法の工夫
農作物を栽培する際の耕作方法として最もシンプルなのは、同じ畑に毎年同じ作物を栽培することです。
しかし、毎年同じ作物を同じ場所で栽培(連作)すると、作物が特定の栄養素ばかりを土壌から吸収するため、しだいに栄養不足で作物が育ちづらくなり、収穫量が減少します。
また、その作物を好む害虫や雑草が畑に居ついてしまい、これも収穫量の減少につながります(連作障害)。
そこで、収穫量の減少を防ぐために、複数の作物を同時に栽培(混作)したり、複数の作物を同じ畑で順番に栽培(輪作)するなどの工夫が行われています。
ここからは、そのような工夫をした様々な耕作方法について紹介します。
シンプルな耕作方法

ジャガイモ畑とトラクター(米メイン州)。出典:Wikimedia Commons, © NightThree, CC BY 2.0, 2022/9/3閲覧
はじめに、同じ畑で同じ作物を繰り返し栽培するシンプルな耕作方法について紹介します。
単作
同じ畑に一度に1種類の作物だけを広範囲にわたって栽培することを単作(単一耕作、モノカルチャー)といいます。
単作の対義語は同じ畑で一度に複数の作物を栽培する「混作」です。
農作業や栽培管理の効率が高いため、現代農業では単作が広く行われています。
しかし、農家が収入が期待できる特定の作物ばかりを栽培することで、その年の気象や災害、作物の価格変動の影響を受けやすくなります。
モノカルチャーは単一を意味する接頭辞である「Mono-」と動詞で栽培するを意味する「culture」を組み合わせた英単語です。
モノカルチャーは元々農作物の単作を意味する言葉でしたが、農作物に限らず鉱物などの特定の商品の輸出・販売に依存した経済状態をさす言葉として使われています(モノカルチャー経済)。
連作
同じ畑で毎年同じ作物を繰り返し栽培することを連作といいます。
連作の対義語は直前に栽培した作物とは異なる作物を栽培する「輪作」です。
同じ作物を毎年繰り返して栽培すると、その作物の生育に必要な栄養分が土壌から失われたり、その作物を好む害虫や雑草が畑に居つき、しだいに作物の生育が悪くなります(連作障害)。
現代の農業では、化学肥料や農薬などの科学技術の発展により連作による栄養不足などの問題は軽減しています。
しかし、効率を優先して特定の作物の連作が一般化したため、土壌中の病原菌の問題や肥料の散布量の過不足などによる土壌中の栄養バランスの崩壊などの問題が発生しています。
水田では水が栄養分を運ぶため、連作障害の影響は比較的少なくなります。
そのため、連作はアジアの水田でよく行われています。
二期作
1年の間に同じ畑で同じ作物を2回栽培・収穫することを二期作といいます。
二期作は連作の一種です。
寒冷で季節による気温変化が大きい地域では、同じ作物を違う季節に栽培することはできません。
しかし、年中温暖で季節による気温の変化が小さい地域では、作物によっては二期作を行うことができます。
二期作で同じ作物を栽培する場合であっても、季節による気象条件の違いに対応するために時期によって別の品種を栽培することもあります。
東南アジアや華南(中国)や台湾では二期作による水稲栽培が一般的です。
日本でも、比較的温暖な九州でジャガイモの二期作(春と秋)が行われています。
生育期間が短い野菜類では、1年間に3回栽培する三期作が行われるものもあります。
輪作

輪作と単作の影響を調べるための実験圃場(ヴロツワフ大学、ポーランド)。手前の圃場ではノーフォーク農法にのっとり、左から順にエンドウ、ジャガイモ、オーツ麦(エンバク)、ライ麦が植えられている(年によって同じ場所で栽培される作物が変わる)。奥の畑には58年間ライ麦の単作が行われている。出典:Wikimedia Commons, Public domain, 2022/9/3閲覧
次に、同じ畑で複数の作物を順番に栽培する輪作について紹介します。
輪作では、同じ農地に決まった順番で複数の作物を栽培することで、土壌中の栄養分が不足したり特定の病害虫・雑草がはびこるのを防ぎます。
ヨーロッパの農業でよくみられ、穀物・根菜類の栽培や放牧などを組み合わせることで土壌中の栄養分の使いすぎを防ぐ工夫がなされています。
二毛作
二毛作とは、同じ畑に1年のうちに2回、それぞれ異なる作物を栽培することです。
例えば、春にジャガイモを植えて夏に収穫し、同じ畑に秋にホウレンソウの種をまくといった土地利用のことです。
季節による寒暖の変化が大きく、単純に同じ作物を2回栽培する二期作ができない場所であっても、違う作物を組み合わせることで畑を有効活用できます。
二期作よりも寒冷な地域で行われ、華中(中国)で行われるほか、日本でも鎌倉時代から稲と麦を組み合わせた二毛作が行われています。
ヨーロッパの二圃式・三圃式農業と混合農業
ヨーロッパの地中海沿岸では、古くから二圃式(にほしき)農業が行われていました。
「圃」は田圃(たんぼ)の「ほ」で、畑などの農地を意味します。
二圃式農業では、畑を1年おきに耕作し、1年間放置する(休閑地、きゅうかんち)ことで栄養分を回復させます。
二圃式農業は畑の半分が休閑地になるため土地の利用効率が悪く、そのため中世ヨーロッパでは二圃式のうぎょうを発展させた三圃式(さんぽしき)農業が登場しました。
三圃式農業では、畑を冬の耕作地、夏の耕作地、休閑地に分けてローテーションします。
冬と夏の耕作地では、それぞれの時期に合った別の作物を栽培します。
冬の耕作地では小麦やライ麦などの人間が食べる作物を栽培し、夏の耕作地では大麦やエンバクなどの家畜が食べる飼料作物やジャガイモや豆類などを栽培します。
休閑地では家畜を放牧し、その排泄物が翌年以降の肥料になります。
フランスやドイツなどのヨーロッパ中緯度地域では降水量が豊富なため三圃式農業が成立しますが、地中海沿岸は降水量が少ないため引き続き二圃式農業が行われました。
三圃式農業はその後改良を重ねられ、畑を休ませる期間をなくすなどの工夫がなされて、混合農業という形態に発展しました。
混合農業はヨーロッパでよくみられ、輪作で栽培した家畜用の飼料作物を使って家畜を育てる農業形態です。
混作

ニンジンとネギの混作。ニンジンはネギの害虫を遠ざけ、ネギはニンジンの害虫を遠ざける効果がある。出典:Wikimedia Commons, ©manfred.sause@volloeko.de, CC BY-SA 3.0, 2022/9/3閲覧
1つの畑に複数の作物を同時に栽培することを混作といいます。
混作は面積あたりの収穫量を増やしたり、雑草や害虫の影響を緩和したり、土壌の栄養分を効率的に利用することが目的です。
雨風で倒れやすい作物と一緒にそれを支えてあげられる植物を一緒に栽培する場合もあります。
上の画像のニンジンとネギの混作の例では、お互いがもう片方の植物の害虫を遠ざける物質を放出する性質(アレロパシー)があるため、混作により害虫の影響が緩和されます。
このように、一緒に栽培することで互いに良い影響を与え合う植物の組み合わせをコンパニオンプランツといいます。
混作は栽培管理の作業が複雑になるため、合理化や機械化が進むアメリカなどの企業的農業・商業的農業よりも、アフリカなどの自給的農業でみられます。
参考文献
地理用語研究会編 「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
Monoculture Wikipedia 2022/9/3閲覧
環境用語集:「モノカルチャー」 EICネット 一般財団法人環境イノベーション情報機構 2022/9/3閲覧
連作 ウィキペディア 2022/9/3閲覧
連作障害の原因と対策、各野菜の輪作年限について やまむファーム 2022/9/3閲覧
二期作(にきさく)の意味をおしえてください。 農林水産省 2022/9/3閲覧
二期作(にきさく)や二毛作(にもうさく)は全国どこでもできるかおしえてください。 農林水産省 2022/9/3閲覧
二期作とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、世界大百科事典 第2版 2022/9/3閲覧
輪作 ウィキペディア 2022/9/3閲覧
二毛作とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2022/9/3閲覧
二毛作 ウィキペディア 2022/9/3閲覧
三圃式農業とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2022/10/26閲覧
混合農業とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2022/10/26閲覧
混合農業 ウィキペディア 2022/10/26閲覧
Crop rotation Wikipedia 2022/10/26閲覧
Polyculture Wikipedia 2022/9/3閲覧
Intercropping Wikipedia 2022/9/3閲覧
混作とは コトバンク 百科事典マイペディア、日本大百科全書(ニッポニカ) 2022/9/3閲覧
コンパニオンプランツ ウィキペディア 2022/11/23閲覧