綿花(めんか)は衣服の原料となる綿を採取できる重要な繊維作物です。
新大陸の熱帯~亜熱帯の地域で大規模栽培が行われるほか、アフリカなどの発展途上国でも重要な輸出品目になっています。
ここでは、綿花の栽培と用途、生産・貿易についてまとめます。
目次
綿と綿花
綿(綿繊維(めんせんい)、木綿(もめん))は衣服の原料となる肌触りがよく保温性の高い繊維であり、綿花(めんか)から作られる天然繊維です。
綿花はワタという植物の花が枯れた後に発達する綿毛(種子を包みこむ白い毛状の部位)のことを指します。
綿「花」という漢字に反して、開花した花自体ではなく、花が枯れた後に見られる白い綿毛のことを指して綿花とよびます。
しかし、高校地理で使われる「綿花」という言葉はあいまいな使われ方をされており、綿毛だけではなく植物自体や綿繊維の意味で使われることがあります。
そのため、このページでは綿花という言葉はできるだけ使わず、植物自体の名前を「ワタ」、ワタの開花後に種子を包みこむ毛状の部位を「綿毛」、綿毛を収穫して糸をつむいで生産した繊維を「綿繊維」とよびます。
綿花(ワタ)の特徴
ワタはアオイ科ワタ属の植物で、衣服に使われる綿繊維(木綿)の原料を得るために生産される繊維作物です。
綿繊維は人類が最も多く利用する天然繊維(動植物由来の繊維)であり、世界で生産される天然繊維の約80%を占めています。
ワタは花が枯れた後に種子を包みこむように白い毛状の部位(綿毛)が発達します。
この白い綿毛を収穫し、種子を取り除いて繊維原料として使います。
アメリカ合衆国南部などの機械化が進んだ地域では、コットンピッカーとよばれる機械によって収穫され、機械(繰綿機)によって綿毛(綿花)と不純物を分離します(プランテーションにおける企業的農業による合理化)。
一方でアフリカなどの発展途上国では、手摘みによる収穫が行われています。
綿花(ワタ)の起源と伝播
ワタの栽培種は4種あり、起源も複数あります。
紀元前のメキシコやペルー、インドでそれぞれワタの栽培が行われていました。
インドは紀元前からワタの生産国として知られています。
ワタはインドからヨーロッパに伝わり、大航海時代の15世紀以降、ヨーロッパ人がワタを世界各地に持ちこみ、ワタの栽培が伝わりました。
日本では江戸時代(16世紀末)に中国から伝わったのがきっかけで九州でワタの栽培がはじまり、明治20年(1887)頃には国内需要をほぼ満たす生産量になりました。
しかし、その後は安い外国産の綿を輸入するようになり、現在では日本のワタの生産量はほぼゼロです。
ワタの原産地と伝播の地図と詳細説明については、以下のリンク先をご覧ください。
「ワタの起源地と伝播経路」©Shogakukan
出典:ワタ(わた)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/7/30閲覧
綿花(ワタ)の栽培条件
ワタは熱帯~亜熱帯(熱帯隣接地域)の高温多雨な地域で栽培されます。
具体的には、年平均気温15℃以上、年降水量は1,000~1,200mm程度(最低でも600mm)が必要です。
豊富な降水が必要な一方で十分な日照も必要であり、栽培期間の40%以上、特に開花して実をつける時期に晴れる必要があります。
近年では中央アジアのように降水量が少ない乾燥帯の地域でも、外来河川から農地に水を引く灌漑(かんがい)設備を導入してワタの栽培を行っている例もあります。
ワタは収穫期の雨が天敵なので、十分な水さえ用意できれば乾燥帯はワタの栽培に適しています。
中央アジアではソ連時代の1950年代以降に大規模な開発が行われ、外来河川のアムダリア川やシルダリヤ川の水を利用したワタの栽培が行われています。
しかし、大規模な灌漑による過剰な水利用により、アムダリア川やシルダリヤ川の水流が激減して下流に位置するアラル海が消失したり、水が蒸発した後に塩類が土壌に残留する塩害などが問題になっています。
綿花(ワタ)の用途
作物としてのワタの用途は大きく分けて2つあります。
1つは繊維原料としての利用です。
ワタの花が枯れた後に発達する綿毛を収穫し、綿毛から糸をつむいで綿繊維(木綿(もめん))を生産し、衣服として使う用途です。
綿繊維の需要は高いため、ワタの最も重要な用途です。
収穫した綿毛には種子が混じっているため、不純物として種子が取り除かれます。
この取り除いた種子には油が多く含まれているため、種子を原料として油(綿実油(めんじつゆ))が生産されます。
これがワタの2つ目の用途です。
ワタはあくまで繊維作物であり、綿実油の生産はあくまで繊維生産に伴う副次的なものであることに注意して下さい。
綿繊維(めんせんい)
ワタの最も主要な用途は繊維原料としての用途です。
花が枯れた後に種子を包み込むように発達する綿毛(綿花)を収穫し、糸をつむいで繊維原料として使用します。
細長い糸状の綿毛の1本1本をねじりながら巻き付けて1本の繊維を作り出し、それらの繊維をさらに縦横に織り込んで綿織物(布地)を作り出します。
これらの布地を組み合わせて衣服やタオル、寝具などを生産します。
また、物理的に糸を織り込むのではなく、熱や化学反応によりくっつけてしまうことがあります。
このようにしてできた布地を不織布(ふしょくふ)といい、化学ぞうきんや生理用品、マスクなど衛生用品に使われます。
収穫した綿毛をそのまま使う用途もあり、ぬいぐるみの中につめる中綿や綿棒などの衛生用品があります。
綿実油(めんじつゆ)
繊維原料として収穫した綿毛には種子が混じっており、収穫後の処理の過程で不純物として取り除かれます。
このワタの種子には油が多く含まれており、種子を原料として油(綿実油(めんじつゆ))を作ることができます。
綿実油についてはこちらのページにまとめています。
生産量と輸出入量
ワタ(綿花)は熱帯~亜熱帯で栽培できる作物ですが、生産量が多い地域は限られています。
豊富な水が必要である一方、開花・収穫期を中心に日照が必要であるため、雨季と乾季がある気候の地域で栽培されたり、乾燥帯で灌漑(かんがい)を行って栽培されます。
綿花(ワタ)の代表的な栽培地域
代表的な栽培地域は、中国西端部(新疆(しんきょう)ウイグル自治区)、インド南部内陸部のデカン高原、パキスタンのインダス川流域、アメリカ合衆国南部です。
中国では西端部の新疆ウイグル自治区で盛んに栽培されています(中国全体の生産量の87.3%(2020年、ビジネス短信|日本貿易振興機構))。
中国西端部は砂漠気候(BW)ですが、天山山脈などの高山があるため豊富な雪解け水を利用して灌漑(かんがい)により綿花栽培を行っています。
沿岸部では、黄河流域(華北)や淮河流域(華中)で栽培されています。
気候としては、雨季と乾季がある温暖冬季少雨気候(Cw)の地域(山東省など)が栽培の中心です。
インドでは、南部内陸部のデカン高原で栽培されています。
デカン高原には溶岩台地が広がり、溶岩台地の玄武岩が風化してできた粘土質で保湿性の高い肥沃な黒色の土壌(レグール)が広がります。
レグールはワタの栽培に適した土壌であるため黒色綿花土(黒綿土)ともよばれます。
気候としては、雨季と乾季があるサバナ気候(Aw)になります。
パキスタンの中部~南部は砂漠気候(BW)ですが、インダス川の豊富な水を利用して流域でワタが栽培されています。
アメリカ合衆国では気温が高い南部~西部で栽培されています。
米国南部では栽培地域が帯状に広がっているため、コットンベルト(綿花地帯)とよばれています。
コットンベルトでは、歴史的にアフリカから連れてきた奴隷を多数利用してワタの栽培が行われてきました。
現在ではワタの栽培・収穫は人手に頼るのではなくコットンピッカーなどの機械によって行われています。
統計
綿花(綿毛)の生産量はインドと中国が非常に多く、米国やパキスタンが続きます。
綿花はブルキナファソをはじめとするアフリカ中部~西部のサバナ気候(Aw)の地域でも栽培されています。
人手に頼った労働生産性の低い栽培方法のため生産量は限られていますが、重要な輸出品目になっています。
輸出量上位は、米国やブラジル、オーストラリアのようにプランテーションで大規模栽培が行われている地域が上位になります。
中国やインドは人口が多く国内消費量も多いため、生産量に対する輸出量の割合が少なくなります。
輸入量上位は、ベトナムや中国、トルコ、バングラデシュのように衣服を製造する縫製工場が集中する国が上位に来ています。
これらの国では、綿花を輸入してそれを原料として衣服を製造して輸出する繊維産業が成り立っています。
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参考文献
ワタ(わた)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/7/30閲覧
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木綿 ウィキペディア 2023/7/30閲覧
ウズベキスタンの地理 ウィキペディア 2023/7/30閲覧
石田進「中央アジアの農業問題」国際大学中東研究所紀要 8 1-17 (1994)
不織布 ウィキペディア 2023/8/2閲覧
綿花輸入を加速、上半期の輸入量は前年同期比7割増(2021年07月30日) ビジネス短信 日本貿易振興機構 2023/8/2閲覧
中国における綿生産 ウィキペディア 2023/8/2閲覧
レグール土(れぐーるど)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/8/2閲覧
デカン高原 ウィキペディア 2023/8/3閲覧
Cotton production in Pakistan, Wikipedia 2023/8/3閲覧
Cotton production in the United States, Wikipedia 2023/8/3閲覧
コットンベルト ウィキペディア 2023/8/3閲覧
正木響「綿花イニシアティブと西・中部アフリカ4カ国の綿花生産」平成18年度南米・アフリカ地域食料農業情報調査分析検討事業実施報告書 93-123 (2007)