赤道から少し離れた大陸西岸の低緯度地域に広がる乾燥帯は、降水量が少なく乾燥した気候帯です。
ここでは、ケッペンの気候区分における乾燥帯について解説します。
他の気候区については、以下のリンク先をご覧ください。
【ケッペンの気候区分:熱帯・乾燥帯・温帯・亜寒帯(冷帯)・寒帯・高山・植生・土壌】
乾燥帯(B)
ケッペンの気候区分の気候区分における乾燥帯(B)は、降水量よりも蒸発散量(地表からの蒸発量+植物の蒸散量)が多いために乾燥し、樹木が生育できない気候帯です。
乾燥帯の定義は、年降水量が乾燥限界(後述)を下回ることです。
この乾燥限界は場所によって異なりますが、おおむね500 mmとされ、年降水量500 mm未満を乾燥帯とすることもあります。
乾燥帯の分布としては、アフリカのサハラ砂漠など緯度20-30°付近で亜熱帯高気圧(中緯度高圧帯)の影響を年中うける地域が多く、雨陰砂漠(アルゼンチン南部)や大陸西岸の海岸砂漠(チリのアタカマ砂漠やアフリカ南部のナミブ砂漠周辺他)、大陸内部(中国西部・オーストラリア内陸部)など砂漠ができる気象条件の場所に分布します。
年中亜熱帯高圧帯の影響下に入る場所でも、大陸東岸は雨季にはモンスーンによる降水があるため、亜熱帯高圧帯に起因する乾燥帯は存在しません。
乾燥帯の気候区
年降水量が乾燥限界の半分以下(おおむね250 mm未満)を砂漠気候(BW)、乾燥限界の半分以上~乾燥限界までをステップ気候(BS)といいます。
BWのWはドイツ語で砂漠(Wüste)、BSのSはステップ(Steppe)の意味です。
樹木気候(熱帯・温帯・亜寒帯)では2番目以降のアルファベットを小文字にするのに対し、無樹木気候(乾燥帯・寒帯)では2番目のアルファベットも大文字で表記します。
表 乾燥帯の気候区
気候区 | 特徴 | 年降水量 | 最暖月平均気温 |
乾燥気候(B)共通 | 乾燥のため樹木を欠く | 乾燥限界未満 | 10℃以上 |
砂漠気候(BW) | 乾燥のため植生に乏しい | 乾燥限界の半分以下 | --- |
ステップ気候(BS) | イネ科植物主体の短草草原 | 乾燥限界の半分~乾燥限界未満 | ---- |
乾燥限界
乾燥限界とは、降水量と蒸発散量が一致する年降水量で、降水量が乾燥限界を下回ると地表から失われる水分のほうが多くなり(水収支がマイナスになり)、地表が乾燥します。
乾燥限界には、降水量だけではなく、気温や夏や冬の雨の多さも影響します。
これは降水量だけではなく蒸発散量も考慮する必要があるためです。
蒸発散量は気温の影響をうけるため、年平均気温に加えて夏と冬どちらに降水が多いかも考慮します。
乾燥限界r(mm)は年平均気温をt(℃)とすると、r = 20 (t + x) で定義されます。
xはどの季節に雨が多いかによって次のように決まります。
x | 記号(降水量の季節変化) | 定義 |
14 | w(冬季乾燥・夏雨) | 最多雨月が夏にあり、10×最少雨月降水量<最多雨月降水量 |
7 | s(冬雨・夏季乾燥) | 最多雨月が冬にあり、3×最少雨月降水量<最多雨月降水量かつ最少雨月降水量が30mm未満 |
0 | f(年中平均的に降水) | w, s以外 |
砂漠気候(BW)
砂漠気候(BW)は、年降水量が乾燥限界(おおむね250 mm未満)の半分以下の気候区です。
BWのWはドイツ語で砂漠(Wüste)の意味で、砂漠の中に涸れ川であるワジ(Wadi)が点在します。
砂漠気候は主に緯度20°-40°の大陸西岸に広がります。
大陸東岸では、季節風(モンスーン)の影響をうけて雨季があるため砂漠気候ではなくサバナ気候(Aw)になります。
砂漠気候の地域では、年中亜熱帯高気圧(中緯度高圧帯)の影響をうけるため、降水量が乾燥限界の半分以下となり、植物がほとんど生育しないため砂漠が広がります。
わずかに生育する砂漠の生物は、水の蒸発を防ぐ機能が発達しています。
サボテンなどの多肉植物は蒸発を防ぎ体内に多くの水を保持する能力をもっています。
ただし、外来河川や湧水等がある場所(オアシス)では植物が生育できます。
オアシスでは灌漑農業が行われ、ナツメヤシや穀物(小麦など)などが栽培されています(オアシス農業)。
中国から中央アジアを経て地中海東岸に至るシルクロードなどの交易路は砂漠の中を通るため、点在するオアシスが発展しています。
大規模なオアシスは多くの人口を養うことができるためオアシス都市へと発展しています。
オアシス都市の例としては、敦煌(中国北西部)、タシケント(タジキスタン)、サマルカンド(ウズベキスタン)、ダマスカス(シリア)などがあります。
また、外来河川を利用できるオアシスの例としては、カイロ(エジプト)などのナイル川流域やバグダッド(イラク)などのティグリス川・ユーフラテス川流域があり、いずれも古代文明が発展した場所になります(それぞれエジプト文明とメソポタミア文明)。
参考
オアシス周辺では水が豊富であり、地表からの水の蒸発や植物の蒸散が盛んに行われ、気化熱を奪われることで気温が低下します。
水が豊富なオアシスほど周辺は涼しくなり、地図上で見るとオアシスを中心に同心円状に等温線を描ける(中心ほど涼しい)ため、クールアイランドといいます。
クールアイランドの効果は大都市の緑地でもみられ、東京では新宿御苑などの都心の緑地でも同様の効果があることが知られています。
砂漠気候(BW)は、バハカリフォルニア半島(メキシコ西部)~ロッキー山脈南部(アメリカ)、南米大陸西岸の一部(ペルー沿岸部・チリ北部)、パタゴニア(アルゼンチン南部)、アフリカ南部西岸(ナミビア周辺)、北アフリカ(サハラ砂漠)~中東(アラビア砂漠)、中国西部、オーストラリア内陸部などがあります。
主な都市としては、リマ(ペルー)、フェニックス(米アリゾナ州)、ラスベガス(米ネバダ州)、カイロ(エジプト)、リヤド(サウジアラビア)、バグダード(イラク)、カラチ(パキスタン)などがあります。
砂漠の地形と分類については、以下の記事で解説しています。
参考地球上の水循環・水収支と砂漠の形成(雨陰砂漠・海岸砂漠等)
続きを見る
参考砂漠と乾燥地形(ワジ・オアシス・塩湖・メサとビュートなど)
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砂漠気候の植生
砂漠気候(BW)では、水が不足するため植生の乏しい砂漠が広がります。
そのため植生は乏しいですが、過酷な環境に適応したサボテンなどの多肉植物が点在します。
外来河川沿い(例:エジプトやスーダンのナイル川)や地下水を利用できるオアシスでは、水を引いて灌漑農業が行われます。
参考
砂漠に生育するサボテンなどの多肉植物は、水を集めたり、逆に体内の水分が蒸発しないような工夫がみられます。
サボテンの表面についているトゲには水を集める効果があります。
昼夜の気温差が激しい砂漠では結露や霧が発生することがあり、トゲがあることで水分が付着し、トゲから本体の方へ向かって水滴が流れることで水を手に入れることができます。
体内の水分が蒸発しない工夫としては、光合成の際に必要な二酸化炭素をあえて夜のうちに取り込んでおくというものがあります。
通常の植物は気孔を開けて二酸化炭素を取り込みながら光合成を行いますが、砂漠で昼に気孔を開けるとそこから体内の水分が蒸発して失われます。
そこでサボテンは夜のうちに気孔を開けて二酸化炭素を取り込み、昼は気孔を閉めて水分の蒸発を最小限にするという工夫がなされています。
このようなしくみをもつ植物をCAM植物といい、CAMはベンケイソウ型代謝(Crassulacean Acid Metabolism)の略称です。
ステップ気候(BS)
ステップ気候(BS)は、年降水量が乾燥限界の半分以上~乾燥限界(おおむね250~500 mm未満)の気候区です。
BSのSはドイツ語でステップ(Steppe)の意味です。
ステップ気候は砂漠気候(BW)の周辺地域に広がります。
ステップ気候(BS)は、プレーリー、グレートプレーンズ(以上アメリカ中西部)、アルゼンチンの一部、アフリカのサハラ砂漠周辺部、ナミブ砂漠周辺部(ナミビア周辺)、イラン~中央アジア~中国・モンゴル、オーストラリアなどでみられます。
主な都市としては、アルバカーキ(米ニューメキシコ州)、キングストン(ジャマイカ)、ダカール(セネガル)、マラケシュ(モロッコ)、ウランバートル(モンゴル)などがあります。
ステップ
ステップとは、雨が少ないため樹木が無く、イネ科植物主体の短草草原のことをいいます。
降水量が少ないほど草の背丈が小さくなり、サバナ気候では長草草原となるのとは対象的です。
ステップ気候でも降水量が比較的多い場所では草の背丈が高くなり、プレーリー(アメリカ)やパンパ(アルゼンチン)などの名前がつけられています。
ステップでは乾季には草が枯れるため枯死した腐食層が形成され、降水量が少ないため栄養分が流出しないため、肥沃な土壌になります。
しかし、ステップ気候の地域では降水量が少ないため、作物を栽培できないため一般に農業ではなく牧畜が行われます。
それでも、ロシア南部など作物の栽培限界に近い地域では、栄養分の多い肥沃な土壌を活用した穀倉地帯が広がります。
ウクライナからシベリア南部にかけて広がる肥沃な黒色土のことをチェルノーゼムといいます。
降水量が少ない地域でも、外部から人工的に水を供給する灌漑(かんがい)によって農業が行われている場所もあります。
プレーリー(アメリカ)では、プレーリー土とよばれる肥沃な土壌と地下水を利用した大規模な灌漑農業が行われています。
参考文献
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ステップとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2021/2/11閲覧
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