ここでは、小麦以外に広く主食や家畜飼料として利用されている穀物(ライ麦、燕麦、大麦)についてまとめます。
ライ麦(ライムギ)、燕麦(エンバク)、大麦(オオムギ)はいずれも小麦よりも条件の悪い(寒冷・乾燥など)土地で栽培できる作物です。
そのため、小麦が栽培できない地域で主食として食べられてきた歴史があります。
ライムギやエンバクは元々小麦畑に入りこんでいた雑草でしたが、外見がコムギと似ているため人間に取り除かれずに生き残り、よりコムギに似た姿へ進化したといわれています。
環境が悪い畑ではコムギが枯死してライムギやエンバクが生き残るため、条件の悪い土地ではコムギよりもむしろライムギやエンバクが栽培されるようになりました。
以下では、それぞれの穀物について順番に解説していきます。
穀物全体や他の作物の詳細については、以下のリンク先をご覧ください。
【穀物・米・小麦・トウモロコシ・ライ麦/エンバク/大麦・雑穀】
ライ麦(ライムギ)
ライ麦は小麦と同様に主食用として食べられている穀物です。
名前の由来は英語名(Rye)の音訳「ライ」の後ろに「麦」をつけたものです。
小麦よりも条件の悪い土地で栽培できる作物であり、寒冷のため小麦の収穫量が少なくなる地域で代わりに栽培されてきました。
そのため、ヨーロッパの中でも寒冷な東ヨーロッパ(ドイツ、ポーランド、ロシアなど)で歴史的に栽培され、現在でも生産・消費されています。
ライ麦は小麦と同様に製粉してパンの形で食べられます。
小麦よりも黒っぽい色味のため黒パンとよばれます。
他にも、麦芽(発芽させた種子)はウィスキーやウォッカなどの蒸留酒の原料としても使われます。
ライムギの生産量は東ヨーロッパ(国別で見るとドイツ、ポーランド、ロシア)が多く、次いで中国が生産量上位になります。
東ヨーロッパを中心に北半球の寒冷な気候の国が生産量上位に並びます。
参考
小麦とライ麦の消費量の逆転
小麦と比べるとライ麦はあまり一般的でない作物ですが、19世紀以前の東ヨーロッパでは立場が逆でライ麦の方が盛んに消費されていました。
ドイツ北部やポーランドなどの東ヨーロッパでは、寒冷な気候のため小麦の生育が悪く、寒さに強いライ麦の方が盛んに栽培されていました。
しかし、18世紀に入るとイギリスでノーフォーク農法などの新しい農業手法が導入されて小麦の生産量が増加し、その結果小麦の輸出量が急増しました。
それに伴い、次第に小麦から作られたパンが流通するようになりました。
当時は黒パン(ライ麦パン)よりも小麦から作られたパンの方が高級とされていました。
そのため、小麦から作られたパンが広く流通するに従って、味に劣るとされた黒パン(ライ麦パン)の消費量は低下していきました。
そして、1950年にはドイツでライ麦よりも小麦の方が消費量が大きくなり、その後も生産量・消費量ともに減少を続けて現在に至ります。
現在では、ライ麦は小麦よりもビタミンB群や食物繊維が多いため健康的な食物として注目されています。
ライ麦の生産量が少ないため不作により価格が急騰(急上昇)することがあり、昔とは逆に黒パン(ライ麦パン)の方が小麦のパンよりも高値で取引されることもあります。
燕麦(エンバク)
燕麦(エンバク)は主に馬の飼料用として使われている穀物です。
燕麦は英語名(Oat)からオート麦(オーツ麦)ともよばれます。
寒冷で小麦の栽培が難しいスコットランドでは、人間の食用としても伝統的に利用されてきました。
食用としては、種子を粗挽きしたり、つぶしてフレーク状に成形したオートミールの形で食されます。
スコットランドでは主食としてオートミールを水で炊いた粥の形で食べられていました。
オートミールはミネラルやタンパク質、食物繊維を多く含むため、現在ではシリアル食品(グラノーラ)などの健康食品として利用されています。
燕麦の生産・消費量は馬の需要の減少に従って減少しています。
燕麦は人間の食用よりも馬の飼料用としての需要が多いですが、輸送機関が馬から自動車や鉄道に変化するに従って馬を飼う需要が減少し、それに従って燕麦の需要も減少しました。
燕麦の生産量はロシアやカナダ、オーストラリア、中国など面積の大きな国が多く、次いでポーランドやフィンランドなど寒冷な国が生産量上位に並びます。
大麦(オオムギ)
大麦(オオムギ)は世界で最も古くから栽培されてきた穀物の一つで、現在では主に牛や羊などの飼料用として使われている穀物です。
低温や乾燥に強く、小麦が栽培できない地域でも栽培されます。
そのため三大穀物(米、小麦、トウモロコシ)に次いで世界で4番目に多く栽培されている作物です。
大麦は紀元前8500頃から栽培され、古代エジプトでは主食のパンやビールの原料として利用されてきた穀物です。
大麦はグルテンを含まないため単独では弾力のない重い食感のパンになってしまうため、現在ではパン用としてはあまり使われていません。
パンや麺の原料として使用する際にはグルテンを添加したり、小麦(グルテンを含有)と混合します。
食物繊維が多く栄養価も高いため現在ではシリアル食品(グラノーラ)などにも利用されます。
大麦の麦芽(発芽した種子)はビール用に広く使われています。
大麦の麦芽はアミラーゼという酵素の働きでデンプンを分解して麦芽糖(マルトース)が生成します。
この麦芽糖は水飴やシロップの原料として使われるほか、糖からアルコールを生成できるのでビールやウイスキーの原料になります。
大麦の用途として最も大きいのは家畜飼料としての用途です。
大麦は特に牛や羊などの反芻動物に好まれるため、世界中のほとんどの地域で需要の大部分が飼料用としての需要です。
飼料用と比較してビール用としての需要は小さく、それ以外の需要はわずかになります。
大麦の生産量はロシアやオーストラリアなど面積が広い国が多く、次いでドイツやフランス、ウクライナなどのヨーロッパ諸国が生産量上位に並びます。
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参考文献
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
ライムギ ウィキペディア 2023/1/22閲覧
ライムギ(らいむぎ)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/1/22閲覧
データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 二宮書店
エンバク ウィキペディア 2023/1/22閲覧
エンバク(えんばく)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/1/22閲覧
オオムギ ウィキペディア 2023/1/22閲覧
大麦(おおむぎ)とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/1/22閲覧