混合農業は作物栽培と家畜の飼育を組み合わせた特徴的な農業形態です。
このページでは混合農業自体の解説に加えて、その成立の経緯も合わせて解説します(二圃式農業・三圃式農業・ノーフォーク農法・自給的混合農業・商業的混合農業)。
【ホイットルセーの農業地域区分・自給的農業・商業的農業(自給的/商業的混合農業)・企業的農業】
目次
混合農業とは(自給的混合農業と商業的混合農業)
混合農業は輪作で栽培した飼料作物を使って家畜を育てる農業形態です。
ヨーロッパで発展した農業形態であり、今日ではアジアを除く中緯度地域にみられます。
混合農業の中でも栽培目的が自家消費目的の農業形態を自給的混合農業といい、販売目的の農業形態を商業的混合農業とよびます。
混合農業では作物栽培と家畜の飼育の両方を行います。
商品としての付加価値(販売価格)は作物よりも家畜の方が高いため、商業的混合農業では家畜を育てることに力を入れ、それに伴い栽培する作物も人間用よりも家畜用の飼料作物を重視して栽培します。
一方、自家消費目的の自給的混合農業では人間が食べる小麦などの作物の栽培が重視されます。
分布する地域にも違いがあります。
自給的混合農業はロシアなどの東ヨーロッパやトルコ内陸部、メキシコ高原に分布します。
それに対し、商業的混合農業は西ヨーロッパやアメリカなどの先進国を中心に分布します。
商業的混合農業は、作物や家畜を売って手に入れたお金で化学肥料や農業機械などを購入し、それらを活用する合理化によって生産量を増やすことができます。
それに対して自給的混合農業では、自家消費中心のため収入が少なくなります。
そのため化学肥料や機械などに使える金額が少なくなり、その結果生産量は伸び悩みます。
作物と家畜
混合農業では家畜とその飼料作物を同じ地域で栽培します。
たとえば、豚の牧畜が盛んな地域は、ドイツではジャガイモの栽培地域に重なり、アメリカ合衆国ではトウモロコシの栽培地域(とうもろこし地帯(コーンベルト))と重複します。
これらの地域では混合農業が広く行われ、家畜の飼育と飼料作物の栽培が密接に結びついています。
栽培される作物を表に下の表にまとめます。
特に商業的混合農業ではニーズがあれば様々な作物や家畜を育てますが、ここでは主なものをまとめます。
栽培作物の種類や栽培目的(人間用か家畜用か)は次の通りです。
栽培条件 | 人間用の主食用作物 | 人間/家畜兼用の作物 | 家畜用飼料作物 | 家畜 |
栽培条件良好な土地 | 小麦 | トウモロコシ | エンバク | 牛、豚 |
条件の悪い土地(寒冷、湿地、やせた土地) | ライ麦、ジャガイモ | 大麦 | カブ、その他根菜類 |
ヨーロッパにおける混合農業の成立
ここからはヨーロッパにおいて混合農業が成立した経緯を説明します。
混合農業は作物栽培と牧畜を組み合わせた複雑な農業形態であり、突然このような複雑な農業形態が出現したわけではありません。
地中海沿岸における二圃式農業の解説から出発し、三圃式農業、ノーフォーク農法、自給的混合農業を経て商業的混合農業が生まれるまでの流れを順に説明していきます。
二圃式農業
表 二圃式農業における耕作地と休閑地
畑A | 畑B | |
1年目 | 耕作地 | 休閑地 |
2年目 | 休閑地 | 耕作地 |
畑を半分に分け、それぞれの畑を1年おきに耕作して間の1年間放置する農業形態を二圃式(にほしき)農業といいます。
同じ畑で毎年同じ作物を栽培すると土壌中の栄養分が不足して作物が育たない連作障害が発生します。
そのため、連作障害を避ける目的で、作物栽培を行わない休閑地(きゅうかんち)を設ける二圃式農業が行われてきました。
古代~中世のヨーロッパでは、地中海沿岸を中心に二圃式農業が行われていました(地中海性気候(Cs)における二圃式農業)。
地中海沿岸では、乾燥する夏を避けて降水のある冬に小麦などの穀物の栽培が行われてきました。
二圃式農業は畑の半分を休閑地にするため土地の利用効率が悪いです。
そのため、北西ヨーロッパ(フランス北部やドイツなど)では二圃式農業を改良した三圃式(さんぽしき)農業が行われるようになりました。
一方、地中海沿岸では二圃式農業が引き続き行われ、現在の地中海式農業につながっています。
三圃式農業
表 三圃式農業における栽培作物のローテーション(冬作物:主食用作物(小麦)、夏作物:飼料作物(大麦)、休閑地:家畜の放牧地)
畑A | 畑B | 畑C | |
1年目 | 冬作物 | 休閑地 | 夏作物 |
2年目 | 夏作物 | 冬作物 | 休閑地 |
3年目 | 休閑地 | 夏作物 | 冬作物 |
三圃式(さんぽしき)農業は、畑を3つに分割してそれぞれの畑で栽培する作物をローテーションしていく農業形態です。
三圃式農業では、畑を夏の作物栽培用、冬の作物栽培用、休閑地に分けてローテーションします。
二圃式農業と同様に連作障害を回避しつつ、休閑地の割合を減らして土地の利用効率を高めています。
冬と夏の耕作地では、それぞれの時期に合った別の作物を栽培します。
冬の耕作地では小麦やライ麦などの人間が食べる作物を栽培し、夏の耕作地では大麦やエンバクなどの家畜が食べる飼料作物やジャガイモや豆類などを栽培します。
休閑地では家畜を放牧し、その排泄物が翌年以降の肥料になります。
中世の北西ヨーロッパ(フランス北部やドイツなど)では、休閑地が多く土地利用効率が悪い二圃式農業を改良した三圃式農業が行われるようになりました。
これらの地域では、年中降水量が豊富なで西岸海洋性気候(Cfb)あるため、夏と冬の両方に作物を栽培することができます。
一方で地中海沿岸では引き続き二圃式農業が行われました。
地中海沿岸で三圃式農業が行われなかったのは、地中海性気候(Cs)の影響で夏に雨が降らず乾燥して作物栽培が難しいためです。
ノーフォーク農法
表 ノーフォーク農法における栽培作物のローテーション(冬作物:小麦、根菜類:カブ、夏作物:大麦、マメ科作物:クローバー)
畑A | 畑B | 畑C | 畑D | |
1年目 | 冬作物 | マメ科作物 | 夏作物 | 根菜類 |
2年目 | 根菜類 | 冬作物 | マメ科作物 | 夏作物 |
3年目 | 夏作物 | 根菜類 | 冬作物 | マメ科作物 |
4年目 | マメ科作物 | 夏作物 | 根菜類 | 冬作物 |
ノーフォーク農法とは、4種類の作物の輪作を行うことで休閑地を作らずに連作障害を回避する農業形態のことです。
18世紀の英国イングランド東部のノーフォーク州で普及したことからノーフォーク農法とよばれまています。
ノーフォーク農法では次の順番で作物を栽培します。
①冬作物:小麦やライ麦
②根菜類:カブやテンサイ
③夏作物:大麦やエンバク
④マメ科作物:クローバーやライグラス
ノーフォーク農法では三圃式農業に加えて「②根菜類」と「④マメ科作物」が新たに加わっています。
マメ科作物は根粒菌と共生しているため空気中の窒素を取り込むことができます(窒素固定)。
そのため、輪作のローテーションにマメ科作物を入れることで、作物栽培により消費された窒素を土壌中に補給することができます。
また、クローバーやライグラスは牧草の一種であり、それ自体が家畜のエサにもなります。
カブ(蕪)は冬の間の牛や羊のエサになります。
それまでは冬に作物が不足するため家畜の多くを冬が来る前に屠殺していましたが、栽培したカブをエサにすることで冬の間も多数の家畜を飼育し続けることができるようになりました。
家畜の栄養状態も改善してより多くの家畜の糞尿が手に入り、それらを発酵させて作る堆肥の量も増加しました。
以上のように「マメ科作物による窒素固定」と「堆肥の増加」の2つの要因により、ノーフォーク農法では休閑地を作らずに連作障害を避けることができるようになりました。
休閑地を作らないノーフォーク農法は土地の利用効率が高いため、農業の土地生産性(面積あたりの収穫量)を大幅に上昇させました。
ノーフォーク農法は欧州各地に普及していき、それぞれの土地の気候・土壌などに合わせて改良されて今日の混合農業につながっています。
参考
ノーフォーク農法の普及による影響(商業的農業の端緒)
ノーフォーク農法が普及したことでそれまでの農業形態が変化し、ヨーロッパにおける商業的農業の発展の出発点にもなりました。
それまでの農村では農地や放牧地が共有地でしたが、ノーフォーク農法が普及するに従って現代のような個人が農地を不動産として所有する形態に移行していきました。
この理由としては、カブの栽培の面倒さと広大な土地の確保があります。
ノーフォーク農法で新たに導入されたカブは栽培に非常に手間がかかる作物です(手で除草する必要があるなど手間がかかる、土壌改良の実施など)。
そのため、自分で多くの手間をかけた農地を他人に使わせずに個人で囲い込む動きが進みました。
その結果、個人が所有する農地で作物に対して多くの投資(お金をかけて土壌改良をしたり手間ひまをかけて作物を育てる等)をして高値で売れる農産物を生産する商業的農業が発展しました。
自給的混合農業
作物栽培と家畜の飼育を組み合わせた混合農業の中でも栽培目的が自家消費目的の農業形態を自給的混合農業といいます。
現在でもロシアなどの東ヨーロッパやトルコ内陸部、メキシコ高原で行われています。
自家消費目的の自給的混合農業では人間が食べる小麦などの作物の栽培が重視されます。
後述する商業的混合農業と比べると、自家消費中心のため収入が少ないので化学肥料や機械などへの投資額も小さく、その結果生産量は伸び悩むという特徴があります。
初期の混合農業はあくまで自家消費中心の農業形態でした。
しかし、18世紀後半以降の西ヨーロッパ(イギリスやフランス)では産業革命により都市に工場労働者が集中し、農産物の大きな需要が生まれました。
そこで、都市住民に売る作物や畜産物の比率が次第に高くなっていきました。
作物や家畜を売って手に入れたお金で土壌改良や化学肥料の購入などの投資を行うことで、さらに生産量を増やすことができます。
このようにして、多くの資本(お金)を投資して生産性を高め、より高値で売れる商品作物を栽培する方向にシフトしていった混合農業を商業的混合農業とよびます。
商業的混合農業
混合農業の中でも栽培が販売目的の農業形態を商業的混合農業とよびます。
商業的混合農業は西ヨーロッパやアメリカなどの先進国を中心に分布します。
商品としての付加価値(販売価格)は作物よりも家畜の方が高いため、商業的混合農業では家畜を育てることに力を入れ、それに伴い栽培する作物も人間用よりも家畜用の飼料作物を重視して栽培します。
作物や家畜を売って手に入れたお金で化学肥料や農業機械などを購入し、それらを活用する合理化によって生産量を増やすことができます。
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参考地中海性気候(Cs)と地中海式農業
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参考文献
混合農業とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/2/20閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
二圃制(にほせい)とは? コトバンク 旺文社世界史事典 三訂版 2024/2/18閲覧
三圃制(さんぽせい)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典 2024/2/18閲覧
三圃式農業とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/2/18閲覧
ノーフォーク農法 ウィキペディア 2024/2/20閲覧
ノーフォーク農法(ノーフォークのうほう)とは? コトバンク 旺文社世界史事典 三訂版 2024/2/20閲覧
Norfolk four-course system, Britannica 2024/2/20閲覧
本田 幸雄「「ヨーロッパの穀物倉」イギリスにおける第一次農業革命」 ゴールドライフオンライン 2024/2/21閲覧