砂漠などの乾燥した地域では、安定的に水を確保できるオアシスで農業が営まれてきました(オアシス農業)。
オアシス農業ではナツメヤシなどの乾燥に強い作物が栽培されてきました。
ここでは、乾燥帯の農業の形態であるオアシス農業について解説します。
乾燥帯における農業とオアシス
雨水のみに頼った農業を行うには最低でも年400mmの降水量が必要です。
そのため、砂漠気候をはじめとする乾燥帯の大部分で農業を行うためには、外部から水を供給する灌漑(かんがい)が必要になります。
砂漠などが広がる乾燥帯において例外的に水源を安定的に確保できる場所をオアシスとよびます。
水資源が限られる乾燥帯においてオアシスは飲み水や農業用水を確保するために貴重な場所であり、オアシスでは灌漑農業が営まれてきました。
オアシスで行われる灌漑農業のことをオアシス農業とよびます。
雨水に頼った天水農業を行うことができない乾燥した地域の農業は必然的にオアシス農業の形態をとります。
このため、一言に「オアシス農業」といっても自給的農業や企業的農業など様々な形態が存在します。
水源とオアシス農業
オアシス農業は乾燥帯において水を安定的に確保できる場所(=オアシス)で営まれています。
水源に基づいてオアシスを分類すると、外来河川オアシス、山麓オアシス、泉性(せんせい)オアシス、人工オアシスなどがあります。
オアシスでは歴史的に自給的農業が営まれてきましたが、近年では降水が極端に少ない気候を活かして商品作物(綿花など)の栽培が行われている場所もあります。
現代では、電力やポンプを使って地下水をくみ上げたりダムの水を利用して大規模な灌漑農業を行う地域もあります。
次の項目では、特に大規模なオアシス農業が行われている外来河川オアシスと人工オアシスのオアシス農業について説明します。
オアシスの分類自体については、次のページで解説しています。
参考オアシスとその分類(泉性・山麓・外来河川・人工オアシス)
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外来河川オアシス
外来河川オアシスでは域外から流入する河川の水を利用しています。
外来河川オアシスの例としては古代文明があります。
エジプトのナイル川流域やメソポタミア(イラク)のティグリス川・ユーフラテス川流域では古代からオアシス農業が営まれ、それぞれエジプト文明とメソポタミア文明(シュメール文明)として発展しました。
これらの古代文明では、河川の水を利用した灌漑農業を行って大麦や小麦、豆類などが栽培されてきました。
近年開発された例としては中央アジアのアムダリア川とシルダリヤ川流域があります。
アムダリア川とシルダリヤ川流域は乾燥帯に位置するため雨水に頼る農業は困難ですが、ソ連時代の20世紀後半に大規模な開発が行われて両河川の水を利用した綿花栽培が行われています。
人工オアシス
近代以降の科学技術の発展により、電力とポンプを使って地下水を大量にくみ上げたり、大規模なダムを建設して水源を確保することができるようになりました。
このようなオアシスを人工オアシスといいます。
米国中西部のグレートプレーンズでは、地下水(オガララ帯水層の化石水)を利用した企業的農業が行われています。
グレートプレーンズや中東の産油国では資本を投下して(お金を使って)センターピボット(方式)の農業が行われています。
円の中心から外周に向かってアームが伸びた機械を使用し、円の中心を支点として円周上に360°回転しながら散水します。
このような農業形態は地下水を大量に使用するため、地下水の枯渇により農業の継続が難しくなる場合があります。
オアシス農業の作物
オアシス農業では元々は自家消費目的の自給的農業が行われ、小麦や大麦などの穀物や乾燥に適応したナツメヤシなどが栽培されてきました。
現在でもアジアやアフリカを中心に自給的農業も行われています。
一方で、アメリカ合衆国や中央アジアでは地下水や河川水を利用して大規模な綿花栽培が行われています。
綿花(ワタ)は収穫期に水に濡れないようにする必要があるため、水さえ確保できれば降水量が少ない乾燥帯と非常に相性が良い作物です。
他にはブドウやスイカ、メロンなどの果物も栽培されます。
ブドウは乾燥に強いため、乾燥帯のオアシス農業や地中海性気候(Cs)の地中海式農業のように乾燥した気候に適した作物です。
また、アメリカ合衆国中西部のグレートプレーンズでは、地下水(オガララ帯水層)を利用した大規模な灌漑農業を行っており、小麦や飼料作物(トウモロコシなど)を栽培しています(企業的農業)。
塩害(土壌の塩性化)
オアシス農業では、塩害がしばしば問題になります。
塩害とは、農地の土壌に塩分が集積して収穫量が減少することです。
土壌中の塩分濃度が高くなる土壌の塩性化が進むと、植物の体内の水が土壌に吸われて植物は枯れてしまいます。
このように塩分濃度が高く商物の生育が難しい土壌を塩性土壌とよびます。
乾燥した地域では農地にまいた水は蒸発してしまうため、灌漑に用いた水に含まれていた微量の塩分は土壌中に残ります。
また、土壌中にまいた水が土壌中に浸透して塩分を溶かしこみ、その後に地表まで上がってきて蒸発した結果、地表に塩分を集めてしまいます(毛細管現象)。
降水が十分にある地域では塩分が残っても雨水により洗い流されるため、海岸部を除いて塩害は大きな問題にはなりにくいです。
しかし、砂漠やステップなどの降水量が少ない場所で人工的に散水する灌漑農業を何年も続けていると塩害が発生します。
塩害が深刻化すると作物を栽培が困難になり、植物は枯れて砂漠化が進行します。
塩害の対策には十分な水量の水で土壌を洗い流すことが有効だと言われています。
古代にティグリス川・ユーフラテス川沿岸(イラク)で栄えたメソポタミア文明では、塩害により農地が放棄されました。
現代でも塩害により農地が放棄されることがあります。
一方でナイル川沿岸(エジプト)では、周期的に河川から水が氾濫して農地を洗い流したため塩害の問題が発生しづらい条件が整っていました。
しかし、1970年にアスワン・ハイ・ダムが建設されて河川の氾濫が発生しなくなったため、近年では塩害が問題になっています。
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参考文献
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中尾正義「オアシスと水資源の思わぬ悪循環」 総合地球環境学研究所 2024/2/13閲覧
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