牧畜で飼育される家畜には様々な種類があり、それぞれの家畜の生態にあった気候の地域で飼育されています。
このページでは、気候ごとに飼育される家畜について見ていきます。
気候と家畜の分布
農業や牧畜はその土地の気候に応じて営まれています。
牧畜が行われるパターンには大きく分けて2つあります。
1つは人は住めるが農業が難しい気候(乾燥帯・亜寒帯(冷帯)北部・高山)において遊牧を行うケースです。
地域としては、サハラ砂漠~中央アジア、北極圏周辺、ヒマラヤ山脈周辺(チベット高原など)やアンデス山脈などで遊牧が行われてきました。
もう1つは農業が行われる温暖湿潤な気候(熱帯~温帯~亜寒帯)で農業と牧畜を組み合わせるパターンです。
一例として、家畜(豚など)のエサとなるジャガイモやトウモロコシの栽培適地で家畜を飼育する混合農業があります。
また、農機具を家畜(牛など)に引かせて農作業に使う使役にも使われます。
以下では、気候ごとに牧畜で飼育される代表的な家畜について見ていきます。
乾燥した地域の家畜(遊牧民の家畜)
ステップ気候などの乾燥のため草原が広がる地域では、乾燥に適応した羊やヤギ、馬などの家畜が主に飼育されます。
これらの地域では乾燥のため農耕が難しく、伝統的に遊牧が営まれてきました。
遊牧では、家畜を一種類ずつ別々に飼育されるのではなく、複数の家畜を組み合わせて飼育します。
家畜ごとに飼育目的も異なり、羊やヤギは主に畜産物(ミルクや肉、毛など)を得るために飼育するのに対し、馬は人間が乗馬する使役も重要な役割です。
たとえば、モンゴルでは放牧の際に人間は馬に乗馬して羊などの家畜を誘導します。
湿潤な地域の家畜(農耕民の家畜)
温暖湿潤で農業を行える気候では、牛や豚、水牛などが代表的な家畜です。
温帯や亜寒帯(冷帯)では牛や豚が飼育され、インド~東南アジアの熱帯(一部温帯)地域では、水牛が飼育されています。
これらの地域では、農業と牧畜を組み合わせた農業形態が営まれています。
たとえば、ヨーロッパやアメリカ合衆国では、家畜(豚など)のエサとなるジャガイモやトウモロコシの栽培適地で家畜も一緒に飼育する混合農業が営まれています。
また、人が手作業で作物の栽培を行っていた時代には、牛や水牛に農機具を引かせて田畑を耕す労働力として活用してきました。
このような使役による家畜の活用は、農業の機械化が進んでいない発展途上国では現在も残っています。
砂漠の家畜
砂漠のような極端に乾燥した場所では、極端な乾燥に適応したラクダが家畜として飼育されます。
砂漠は水に乏しいため水源のあるオアシスを除いて農耕が難しく、伝統的にラクダの遊牧が営まれてきました。
ステップ気候のように草原が広がる場所では乾燥の度合いが弱いため羊やヤギ、馬なども飼育できますが、砂漠ではラクダ以外の牧畜が困難です。
砂漠の遊牧民はラクダから肉や乳を得るためだけではなく、移動の際にはラクダの背中に荷物を載せて運んでいました。
地域としては、サハラ砂漠~中東~イラン~中央アジア~モンゴルの乾燥帯でラクダが飼育されています。
寒冷地の家畜
北極圏周辺は気温の低さのため農耕が難しく、寒さに適応したトナカイ(カリブー)を家畜とした牧畜が行われています。
地域としては、スカンジナビア半島北部~シベリア、米国アラスカ州~カナダ北部でトナカイが飼育されています。
これらの地域では寒さのため他の家畜を飼育することが困難です。
そのため、北極圏周辺の先住民はトナカイを飼育してその肉や乳、毛皮などを活用して暮らしてきました。
高山の家畜
標高が高い高山では農耕が難しいため、高山の気候に適応した家畜が飼育されています。
南米のアンデス山脈ではリャマ(ラマ)とアルパカが、ヒマラヤ山脈(チベット高原など)ではヤクが飼育されています。
高山気候の分布は隔絶しているため、それぞれの地域で特有の家畜が飼育されてきました。
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参考文献
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
小宮山 博「モンゴル国における馬からの産物」日本とモンゴル 54(1・2), p34-39 (2020)
混合農業とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/1/26閲覧
混合農業 ウィキペディア 2024/1/26閲覧