世界各地で見られる様々な農業形態を分類する指標として生産性という概念があります。
このページでは、土地生産性と労働生産性という生産性の指標を使いながら粗放的農業と集約的農業を解説します。
農業形態による生産性の違い
農業を行うための土地や農作業を行う労働力は有限の資源です。
そのため、限りある資源をどれだけ有効活用して農産物を生産できるかという「生産性」が重要です。
代表的な生産性の指標として土地生産性と労働生産性があります。
この2つの生産性の指標の大小で基準に分類することで世界の農業は粗放的農業と集約的農業の2種類に分類できます。
以下では生産性について説明した上で粗放的/集約的農業の分類について解説します。
はじめに結論として、生産性と代表的な農業形態について表にまとめます。
土地生産性 | 労働生産性 | 特徴 | 代表的な農業形態 | 地域 |
低い | 低い | 粗放的・小規模 | 焼畑農業 | アフリカやアジアの発展途上国 |
低い | 高い | 粗放的・資本集約的 | 企業的農業 | アメリカなどの新大陸 |
やや高い | 低い | 労働集約的 | 集約的稲作農業、オアシス農業 | 東アジア、乾燥帯のオアシス |
高い | 高い | 労働/資本集約的 | 園芸農業、混合農業 | 西ヨーロッパ、日本 |
土地生産性と労働生産性
どれだけ効率よく製品を生産できるかという観点で比較するために作られた指標として「生産性」という概念があります。
農業形態ごとの生産性の違いを比べる際には、土地生産性や労働生産性という指標が使われます。
土地生産性は単位面積あたりの収穫量の多さの指標であり、労働生産性は単位時間あたりの労働によって得られる収穫量の多さの指標です。
土地生産性
表 土地生産性の比較(イメージ)。農場Aよりも農場Bの方が単位面積あたりの収穫量が多いため農場Bの方が土地生産性が高いと言える。ここでは土地の面積以外の要因(人件費等)は考慮しない。
農場A | 農場B | |
収穫量 | 200 | 500 |
面積 | 100 | 100 |
土地生産性(=収穫量/面積) | 2 | 5 |
生産性の評価 | 低い | 高い |
土地生産性は単位面積あたりの収穫量の多さのことです。
収穫量ではなく(面積あたりの)農産物の合計金額で生産性を測定することもあります。
狭い農地に多くの労働力を投下したり肥料や農薬を手間をかけて散布することで、同じ面積の農地でも収穫量が増えて土地生産性が高くなります。
土地生産性は、農地という限られた資源(不動産)をどれだけ有効活用できたかを比較する指標です。
東アジアや西ヨーロッパなどの人口密度が比較的高い地域では人口に対して農地面積が狭いです。
そのため、狭い田畑を有効活用するために多くの人手をかけて収穫量が増えるように努力してきた結果、土地生産性が高いという特徴があります。
一方で、人手をあまりかけない原始的な農業形態(焼畑農業など)や少人数で広大な農地を管理する新大陸の企業的農業では土地生産性が低くなります。
労働生産性
表 労働生産性の比較(イメージ)。農場Aよりも農場Bの方が労働時間あたりの収穫量が多いため農場Bの方が労働生産性が高いと言える。ここでは人間の労働時間の面積以外の要因(農地面積等)は考慮しない。
農場A | 農場B | |
収穫量 | 100 | 100 |
労働時間(人数×一人あたり労働時間) | 20 | 10 |
労働生産性(=収穫量/労働時間) | 5 | 10 |
生産性の評価 | 低い | 高い |
労働生産性は単位時間あたりの労働によって得られる収穫量の多さのことです。
収穫量ではなく(面積あたりの)農産物の合計金額で生産性を測定することもあります。
より少ない労働時間・人数で同じ量の農産物を生産できる(=人手をあまりかけない)と労働生産性が高くなります。
農業では多くの手間をかけることで収穫量を増やすことができますが、その分多くの人件費などのお金(コスト)がかかって生産効率が悪くなります。
そこで、人間の労働力をどれだけ効率よく使うことができたかを比べる指標として労働生産性があります。
労働生産性が高くなると少ない費用(コスト)で農産物を生産することができるのに対し、労働生産性が低いと農産物の生産に多くの費用(コスト)がかかります。
そのため、労働生産性が低い地域で生産した農産物は割高になり、労働生産性が高い地域で生産した農産物は割安な価格で売ることができます。
地域的としては、自給的農業が営まれるアジアやアフリカなどの発展途上国で労働生産性が低く、企業的農業が営まれる北米やオーストラリアなどの新大陸で労働生産性が高い農業形態が見られます。
粗放的農業と集約的農業
農業にどれだけ人手をかけるかという観点で農業形態を分類したものとして、粗放的農業と集約的農業という言葉があります。
人手をあまりかけない農業形態を粗放的農業とよび、反対に多くの人手をかける農業形態を集約的農業とよびます。
粗放的農業
粗放的農業とは単位面積あたりに費やす人手やお金(化学肥料や農薬などのコスト)が小さく、人手をあまりかけずに行う農業形態のことです。
粗放的農業では手作業での除草などの手間ひまをあまりかけずに作物栽培を行うため土地生産性が低いという特徴があります。
粗放的農業の例として、焼畑農業などの原始的な農業形態や新大陸の企業的農業などがあります。
どちらも粗放的農業に分類されますが、農業の形態としては大きく異なります。
焼畑農業などの原始的な農業形態は発展途上国で見られます。
化学肥料の活用や機械化・効率化が進んでいないために収穫量が少なく、自家栽培が主目的の農業形態です。
このため、焼畑農業では土地生産性が低い上に労働生産性も低くなります。
一方、アメリカなどの新大陸の企業的農業は高度に機械化・効率化した現代的な農業形態です。
広大な土地を活用して単位面積あたりの収穫量が少なくても人手を最小化させ、単一の作物を販売目的で大量生産します。
このため、企業的農業では土地生産性が低い代わりに労働生産性は高くなります。
集約的農業
集約的農業とは単位面積あたりに費やす人手やお金(化学肥料や農薬などのコスト)が大きく、手間ひまをかけて行う農業形態のことです。
人件費を多くかける労働集約的(=狭い土地で大人数で農業を行う)な農業形態と機械や肥料などを導入する資本集約的(=狭い土地に多額のお金を使う)な農業形態が存在します。
多くのコストをかけることで、限られた農地でも効率よく農産物を生産することができます。
集約的農業の例として、人口密度が高い東アジアの水田での稲作や西ヨーロッパの園芸農業などがあります。
東アジアでは人口密度が高く人口に対して土地が限られているので狭い土地に多くの労働力を投下します。
そのため、労働集約的で土地生産性の高い農業形態をとっています。
土地生産性は高くなりますが、多くの人手をかけるため労働生産性は低くなります。
園芸農業では、都市近郊で花卉(かき、花)や果物などの付加価値の高い商品作物を手間をかけて栽培します。
ビニールハウスや灌漑設備などをお金をかけて導入するため、資本集約的な農業形態です。
栽培する作物は商品の単価が高いので多くのコスト(人件費や物品の購入費)をかけても採算がとれます(赤字になりづらい)。
そのため、園芸農業は最も集約的な農業形態であり土地生産性も労働生産性も高くなります。
反対に小麦やトウモロコシなどの商品単価が低い作物は粗放的な農業形態が向いています。
これらの単価の低い作物は多くの手間をかけてしまうと赤字になるためです。
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参考文献
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
土地生産性 農業技術事典 2024/2/23閲覧
労働生産性 農業技術事典 2024/2/23閲覧
粗放農業とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/2/23閲覧
集約農業とは コトバンク 百科事典マイペディア、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/2/23閲覧