農業から得られる作物は、人間や家畜が食べる食料だけではありません。
衣服に使われる植物繊維や天然ゴムも農業から得られた製品です。
ここでは、食品工業を含む工業原料として利用される作物(工芸作物)についてまとめます。
工芸作物
工芸作物は、工業原料として利用する目的で栽培される商品作物です。
最終的には食べられるものであっても、工場で加工・製造過程を経て利用されるものは工芸作物に分類されます。
たとえば、サトウキビ(糖料作物)や茶(嗜好作物)は、最終的に人が食べますが食品工業用の工芸作物です。
一方、通常は食用作物に分類されるトウモロコシや大豆も、油をとるために栽培する場合は工芸作物(油料作物)です。
工芸作物の例として、次のようなものがあります。
分類 | 作物の例 | 商品の例 |
糖料作物 | サトウキビ、テンサイ | 砂糖 |
嗜好作物 | チャノキ、コーヒーノキ、カカオ、コショウ、タバコ | 茶、コーヒー、チョコレート、香辛料、たばこ |
油料作物 | アブラヤシ、ナタネ | 植物油(パーム油、ナタネ油など) |
繊維作物 | ワタ(綿花)、アサ(大麻) | 衣服、タオル |
その他 | パラゴムノキ | ゴムタイヤ、長靴 |
以下では、これらの分類について1つずつ説明していきます。
糖料作物
砂糖を生産するために栽培される作物を糖料(とうりょう)作物といいます。
糖料作物であるサトウキビやテンサイは糖分を多く含みます。
これらの作物を原料として、しぼり汁から不純物を取り除いて結晶化すること(製糖)で砂糖を生産できます。
製糖は工業的なプロセスなので、製糖工場で機械を使って行われます。
砂糖は世界中で需要があるのに対し、糖料作物は栽培できる地域が限られているため、商品作物として国際的に広く取引されています。
砂糖と糖料作物の詳細については、次のページで解説しています。
参考砂糖の原料となる糖料作物(サトウキビ・テンサイ他)
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嗜好作物
農産物の中には、単に生命維持のために必要な栄養を取るためではなく、嗜好品(しこうひん)として味や香りを楽しむ目的で消費するものもあります。
このような嗜好品の原料を得る目的で栽培される作物を嗜好作物といいます。
嗜好作物には、茶の原料となるチャノキやチョコレートの原料となるカカオ、香辛料やタバコなどがあります。
嗜好作物については、次のページで解説しています。
参考様々な嗜好作物(茶・コーヒー・カカオ・香辛料他)
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油料作物
油を入手するために栽培する作物を油料作物(油脂作物、油糧作物)といいます。
植物の種子の中には油を多く含むものがあり、種子を絞ったりつぶすと油(植物油)を取り出すことができます。
植物油は原料となる作物によって成分・比率が異なるため、特性に応じて用途が使い分けられています。
油料作物の例としては、ナタネ、ヒワマリ、ゴマなどがあります。
トウモロコシや大豆のように食料として食べられている作物(食用作物)であっても、油を生産する目的で栽培する場合は油料作物になります。
油料作物については、次のページでまとめています。
参考油料作物(ナタネ・ヒマワリ・ゴマ他)
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繊維作物
防寒のための衣服や物を運ぶための布袋を作るためには繊維原料が必要です。
繊維原料には、植物由来の植物繊維、動物由来の動物繊維、化学的に合成された合成繊維(化学繊維)の3種類があります。
このうち植物繊維を得るために栽培する作物を繊維作物といいます。
繊維作物の例としては、ワタ(綿花)やアサ(大麻)、黄麻(ジュート)、クワ(桑)などがあります。
繊維作物については、次のページでまとめています。
参考繊維作物(麻・黄麻・ジュート・桑)
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天然ゴム
ゴムは伸び縮みする独特の性質をもつため、自動車のゴムタイヤをはじめ、様々な用途に使われています。
植物から採取・生産できるゴムを天然ゴムといい、現在ではパラゴムノキという樹木の乳液から生産しています。
天然ゴムについては、次のページでまとめています。
参考天然ゴム(パラゴムノキの栽培とゴムの利用)
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参考食用作物(穀物・イモ類・豆類・果樹)
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参考文献
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
工芸作物(こうげいさくもつ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/4/29閲覧
農作物には工芸作物というものがあると聞きました。工芸作物とはどのようなものを言うのですか? 農林水産省 2023/4/29閲覧
工芸作物 ウィキペディア 2023/4/29閲覧
工芸作物 農業技術事典 ルーラル電子図書館 2023/4/29閲覧
繊維 ウィキペディア 2023/8/19閲覧