地中海沿岸などの地中海性気候(Cs)の地域では、夏の高温・乾燥に適応した作物を栽培する地中海式農業が発展しています。
ここでは、地中海性気候(Cs)の成因と分布を確認した上で、地中海式農業の特徴についてまとめます。
具体的な作物については次のページでまとめています。
参考地中海式農業の作物(オリーブ・コルクガシ他)
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【ホイットルセーの農業地域区分・自給的農業・商業的農業(地中海式農業)・企業的農業】
地中海性気候(Cs)と地中海式農業
地中海性気候(Cs)の地域では、その特殊な気候に合わせた農業形態(地中海式農業)が発展しました。
地中海性気候の分布と地中海式農業が行われる地域はよく一致しており、気候区分と農業形態が1:1で対応しているのが特徴です。
上の地図は地中海沿岸で栽培されるオリーブの生産地の分布です。
オリーブは地中海式農業の代表的な作物であり、地中海沿岸の地中海性気候(Cs)の地域の分布とよく一致しています。
地中海性気候(Cs)や地中海式農業は、大陸西岸中緯度地域にあたる地中海沿岸やアメリカ合衆国西海岸、チリ中部などでみられます。
地中海性気候では作物が一番成長できるはずの夏に雨が少ない気候です。
そのため、温帯の他の気候で栽培されている作物でも地中海性気候では栽培が難しい作物がたくさんあります。
そこで、地中海性気候に合わせた作物の栽培が行われています。
小麦などの穀物は降水のある冬に栽培し、乾燥する夏にはオリーブや果樹作物が栽培されます。
以下では、地中海性気候の成因・分布と地中海式農業の特徴について順に紹介します。
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地中海性気候の成因とその分布
地中海性気候(Cs、地中海式気候、温帯冬雨気候)は、最多雨月が冬にあり、①3×最少雨月降水量<最多雨月降水量かつ②最少雨月降水量が30mm未満の気候区です。
端的に言うと、夏(summar)に乾燥(②)して冬に雨が多い(①)気候です。
このような気候になるのは、地球の公転が原因です。
地球は地軸が23.4° 傾いたまま太陽の周りを公転するため、夏には高緯度側の地域が太陽に近くなり暖かくなります。
そのため、下降気流が発生する亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)が高緯度側に移動してその影響下に入り、晴天が多く高温・乾燥した気候になります。
一方、冬には太陽が遠ざかるため亜熱帯高圧帯は低緯度側に後退し、上昇気流が発生する亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)の影響下に入り降水が増えます。
以上のようなしくみのため、地中海性気候は夏にのみ亜熱帯高圧帯の影響を受ける大陸西岸の中緯度地域(緯度30-40°付近)に出現します。
大陸東岸は季節風(モンスーン)の影響をうけるため夏でも雨が多く、地中海性気候にはなりません(例:アメリカ合衆国の東海岸は温暖湿潤気候(Cfa))。
名前の通りヨーロッパ地中海沿岸に広く分布するほか、大陸西岸中緯度地域にあたるアメリカ合衆国西海岸、南米のチリ中部、アフリカ大陸南端部(南アフリカ・ケープタウン周辺)、オーストラリア南西端(西オーストラリア州パース周辺)などに分布します。
地中海式農業の特徴
次に、地中海式農業の特徴について解説します。
地中海式農業では、夏の乾燥を乗り切るために様々な工夫をして農業を営みます。
ポイント
伝統的な二圃式農業
地中海沿岸では伝統的に二圃式農業(にほしきのうぎょう)が行われてきました。
二圃式農業では、主食となる小麦を栽培したあとに畑を1年間放置する(休閑地、きゅうかんち)ことで栄養分を回復させます。
小麦を栽培する時期は雨が降る冬になります。
地中海性気候では夏は高温・乾燥する一方で冬は比較的温暖で降水もあるため、気候に合わせて冬に作物を栽培します。
地中海沿岸と同様に二圃式農業が行われいた北西ヨーロッパ(ドイツやフランス北部)では、中世になると夏作・冬作・休閑をローテーションする三圃式(さんぽしき)農業へ移行しました。
しかし、地中海沿岸では夏の乾燥のため三圃式農業を行うことができず、二圃式農業がつづけられました。
この二圃式農業が発展したものが、今日の地中海式農業です。
現代では灌漑設備が普及して土地改良も進んだため、野菜や花卉類(かきるい、観賞用のお花)などの単価の高い商品作物の栽培が盛んになっています。
なお、二圃式農業は地中海沿岸の伝統的な農業形態であり、歴史が浅い新大陸(南北アメリカ大陸やオーストリア大陸)では二圃式農業は行われていません。
新大陸ではその土地に合った作物の大規模な単作(企業的農業)を行うため、小麦の栽培に向かない地中海性気候の地域ではあまり栽培されません。
移牧
移牧とは、定住地をもつ農民が季節に応じて放牧地を変える牧畜形態です。
地中海性気候では夏に乾燥するため低地では草が枯れてしまうため、雪解け水がある高山の中腹に家畜(羊やヤギ)を連れて移動します。
冬になると標高が高い地域では積雪があるため、十分な降水があり暖かい低地に移動して放牧します。
低地へ下りてくる冬には小麦などの主食の栽培も行います。
移牧自体は他の地域でも見られますが、地中海沿岸の移牧は気候と地形に合わせて発達した半農半牧の特徴的な農業形態です。
移牧は遊牧とは異なり、定住地で農業を行いつつ季節によっては山を下りたり上ったりして牧畜を行います。
現代では土地改良の進展に伴って牧畜から野菜や花卉類の栽培に移行しているため、移牧は衰退しつつあります。
移牧と類似した概念として牧畜や遊牧、放牧などの単語がありますが、これらの違いはこちらで解説しています。
地中海式農業に特徴的な作物
地中海式農業では高温で乾燥する夏に乾燥に強い果樹を栽培し、冬に小麦などの穀物を栽培します。
夏に栽培する作物としては、オリーブ、ブドウ、柑橘類(かんきつるい、オレンジなど)、コルクガシ、ゲッケイジュ(月桂樹、香辛料ローリエの原料)などが代表的な作物です。
これらはいずれも樹木作物であり、日当たりと水はけのよい傾斜地で栽培されます。
特にオリーブは地中海性気候の分布と栽培地域がよく一致します。
一方、ブドウは西岸海洋性気候(Cfb)のフランス北部などでも栽培されるため、ブドウが栽培されているからと言って地中海性気候とは限りません。
新大陸ではその土地の気候に合った作物の大規模栽培を行う企業的農業が発達しているため、地中海性気候(Cs)に合った果樹作物に特化して栽培されています。
たとえば、米国・カリフォルニア州やチリ南部では地中海性気候を活かしたブドウの栽培が盛んです。
地中海式農業で栽培される特徴的な作物の詳細については、次のページでまとめています。
参考地中海式農業の作物(オリーブ・コルクガシ他)
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参考柑橘類(オレンジ・ミカン・レモン・グレープフルーツ)
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参考文献
地中海性気候 ウィキペディア 2023/6/20閲覧
地中海性気候(ちちゅうかいせいきこう)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/6/20閲覧
Derwent Whittlesey, Major Agricultural Regions of the Earth, Ann. Assoc. Am. Geogr. 26 199-240 (1936)
地中海式農業(ちちゅうかいしきのうぎょう)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア 2023/6/20閲覧
移牧とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、百科事典マイペディア 2023/6/20閲覧
Transhumance Wikipedia 2023/6/20閲覧
地理用語研究会編 「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社
Agriculture in California, Wikipedia 2023/6/20閲覧
Chilean wine, Wikipedia 2023/6/27閲覧
チリ|これでバッチリ! ワインの基礎知識 キリンホールディングス株式会社 2023/6/20閲覧