ヤギ(山羊)は羊とよく似た動物で、やせた土地や山岳地帯(急斜面)にも適応できる家畜です。
このページでは、家畜としてのヤギの概要についてまとめます。
【家畜:牛(乳用種・肉用種)・水牛/ヤク・羊・ヤギ・アルパカ/リャマ・ラクダ・トナカイ・馬・豚・ニワトリ】
目次
ヤギの特徴
ヤギ(山羊)はウシ科ヤギ属の動物で、ヒツジ(羊)とよく似た動物です。
ヒツジ同様乾燥に強いため、中東や中央アジア、モンゴルなどの乾燥した地域で飼育されます。
ヒツジとの違いとしては、山岳地帯にも適応しており、動きは身軽で急斜面を軽々と上り下りできる上に木登りも得意です。
ヒツジと同じ草食動物ですが、ヒツジが地面に生えた草を好むのに対し、ヤギは樹木の葉や新芽を好んで食べるという違いがあります。
ヤギはエサが限られる環境でもウシやヒツジが食べられない樹木の葉を食べて生き延びることができます。
反芻動物
ウシ科の動物であるヤギはウシやヒツジと同じ反芻(はんすう)動物です。
反芻とは、一度胃で消化した草を口の中に戻し、よく噛んだ後に再び飲みこむことで草を消化しやすくする行為です。
反芻動物の胃の中には草(セルロース)を分解してエネルギーを取り出すことができる微生物がいるため、人間がエネルギーとして利用できない草を食べて生きることができます。
草を食べるヤギは人間と食べ物が競合しないため、家畜として好都合な動物です。
ただし、現代の牧畜では飼育目的に応じて穀物が与えられることがあります。
参考:ウシの反芻(模式図あり)
ヤギの起源
家畜化されたヤギの祖先は、上の地図で黄土色に塗られているトルコ南東部~イランにかけての地域に分布していました。
おおよそ1万年前からこの地域でヤギの家畜化がはじまりました。
最初期には肉と乳が利用され、長い時間をかけた品種改良により用途ごとに最適化された品種が生まれました。
ヤギは山岳地帯や乾燥に適応しているため、地中海沿岸~中東~インド・中央アジア~中国の乾燥した山岳地帯では重要な家畜として重宝されています。
ヤギの牧畜と畜産物
家畜のヤギを飼育することで羊と同様、肉や乳、毛を生産できます。
飼育頭数としては、食肉用に品種改良された肉用種が最も多く、次いで乳用種、毛用種です。
羊は毛をとるために品種改良された毛用種が最も多く飼育されているのとは対照的に、ヤギは主に食肉生産用に飼育されています。
反芻動物であるヤギは草を食べるため人間と食料が競合しないという利点があります。
同じ反芻動物である羊や牛と比較すると、羊よりも粗食(エサを選ばない)であり、牛よりも小型なので必要なエサの量は少ないです。
少ないエサで乳や肉が得られるためアジアやアフリカの小規模な農家にとって重要な家畜であり、ヤギは「貧農の乳牛」とよばれます。
生育環境としては、羊と同様に乾燥に強いほか、羊とは異なり急斜面の山岳地帯でも生育できます。
そのため、乾燥帯のステップなどで羊や馬などと一緒に遊牧民に飼育されたり、農業と牧畜を組み合わせた地中海式農業で飼育されています。
一方でヤギは寒さに弱いため、北米やヨーロッパではあまり飼育されていません(地中海沿岸を除く)。
ヤギの畜産物
ヤギの畜産物としては、羊と同様に肉(ラムやマトン)、乳(ヤギ乳)、毛などがあります。
マトンやラム(ヤギの肉)
ヤギは羊と区別せずにまとめられることが多く、ヤギの肉も羊肉と区別されずラム(生後1年未満)やマトン(生後1年以上)とよばれることも多いです。
ヤギ肉は寒冷地を除く幅広い地域で食べられており、日本では南西諸島(沖縄~奄美群島~トカラ列島)で郷土料理として食べられています。
ヤギ乳(山羊乳)
ヤギの乳をしぼって得られた乳をヤギ乳(山羊乳、やぎにゅう)とよびます。
ヤギは牛より小型であるため1頭あたりの乳の量が少なく、現代の日本ではあまり生産されていません。
しかし、牛よりも小型で飼育しやすいため、発展途上国の小規模な農家などで牛乳の代わりにヤギ乳が利用されています。
ヤギの放牧と食害
ヤギは牛や羊と比べて好き嫌いが少なく固い葉や樹木の葉など様々なものを食べる上に、急傾斜地であっても問題なく移動できます。
そのため、斜面の多い場所での除草にヤギが使われていました。
特に、離島に移住する際にヤギを連れていき、放牧して除草させるだけではなく食料としても利用しました。
このような離島がのちに無人になった場合、人間の管理を離れたヤギが島中の草や樹木を食べ尽くして生態系を破壊する環境破壊が問題になっています。
ヤギは好き嫌いせずに何でも食べるため、地面を覆っている植物が消滅して雨が降るだけで土壌流出が引き起こされ、土砂が海に流れ出て海中でも環境破壊が起きています。
日本では尖閣諸島(せんかくしょとう、沖縄県石垣市)や聟島列島(むこじまれっとう、小笠原諸島)、八丈小島(伊豆諸島)などで問題になっています。
八丈小島や聟島列島では、かつて人間が入植していた時代に連れてこられた家畜のヤギが無人島となった後も放置され、狭い島の中で繁殖して問題となりました。
八丈小島や聟島列島のヤギは既に駆除されていますが、尖閣諸島の魚釣島(うおつりじま)では人為的に放たれたヤギが野生化して今でも残っているため、食害による環境破壊が問題になっています。
羊とヤギの飼育頭数
ここでは、羊とヤギの飼育頭数について比較しながら見ていきます。
羊とヤギに共通して飼育頭数が多いのは、中国やインドなどの人口が多い国です。
約2億人の人口をかかえるアフリカのナイジェリアも共通して上位に来ています。
羊に特徴的なのは、先進国であるオーストラリアで飼育頭数が多いことです。
オーストラリアでは羊毛生産用を中心に大規模な企業的牧畜が行われています。
一方でヤギの飼育頭数が多いのは、パキスタンやバングラデシュなどの人口が多い発展途上国です。
これは、ヤギがアジアやアフリカの小規模農家にとって大切な家畜であることを反映しています。
羊とヤギの違い(まとめ)
最後に羊とヤギの違いを表にまとめます。
分布の比較については、こちらのページでもまとめています。
ヒツジ(羊) | ヤギ(山羊) | |
生態 | 集団で群れて行動し、先頭を動く動物の後についていく | 羊よりも単独行動が多い |
分布 | 乾燥した地域(草原) | 温暖で乾燥した地域・山岳地帯 |
畜産物 | 主に毛、他に肉など | 肉や乳、毛 |
牧畜形態 | 企業的牧畜、遊牧、 地中海式農業 | 地中海式農業、遊牧、自給的農業 |
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参考文献
ヤギ ウィキペディア 2023/10/9閲覧
ヤギ(哺乳綱)(やぎ)とは? コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/10/9閲覧
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熱帯地域における山羊の飼育マニュアル 平成20年度 畜産をめぐる国際問題等対応調査支援事業 畜産専門家の養成事業 公益財団法人 畜産技術協会 2023/10/9閲覧
ヤギ乳 ウィキペディア 2023/10/12閲覧
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伊豆諸島自然史研究会 樋口 広芳他「伊豆諸島八丈小島におけるノヤギ駆除後の島嶼生態系回復状況と復元に向けた基礎調査」自然保護助成基金助成成果報告書 28 p69-75(2019)
八丈町ノヤギ終息宣言(令和2年3月31日) 八丈町 2024/3/13閲覧
東京都の取組 - 外来種対策 -ノヤギ排除 東京都小笠原支庁 2024/3/13閲覧
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